合格点は「一つの数字」ではない
最初に、いちばん大事なところから。社労士試験の合否は、「合計で何点取れたか」という一つの数字だけでは決まりません。
判定は、選択式と択一式という二つの試験について、それぞれ二つの基準で行われます。一つは、その試験全体の合計点に対する基準(総得点基準点)。もう一つは、科目ごとに定められた最低点(科目別最低基準点)です。
つまり、合計点が基準を超えていても、どこか一科目がその科目の最低ラインに届いていなければ、合格にはなりません。逆に言えば、合格には「総合で足りている」ことと「全科目が最低ラインを越えている」ことの両方が要る、ということです。
ここを最初にはっきりさせておくと、勉強の設計がぶれにくくなります。「とにかく合計点を稼げばいい」と考えて得意科目だけ伸ばすと、この二段構えの後半——科目ごとの最低ライン——で足をすくわれることがあるからです。
個人的には、社労士で最初に理解しておくべきは、この「合格点は一つの数字ではない」という一点だと思っています。ここが頭に入っているかどうかで、その後の勉強の向き合い方がずいぶん変わってくるんですよね。
選択式・択一式、それぞれの二段関門
では、二つの試験それぞれの形を見ていきます。
選択式は、計8科目。各科目5点で、合計40点満点です。短い文章の空欄を埋めて、語句や定義の正確さを問う形式でした。択一式は、計7科目。各科目10点で、合計70点満点。複数の選択肢から選ぶ形式で、知識の広さと総合力を問います。
そして、選択式には選択式の、択一式には択一式の「総得点基準点」と「科目別最低基準点」があります。二つの試験それぞれに二段の関門がある、と考えてください。
合格判定の二段構え
| 試験 | 構成 | 越えるべき関門 |
|---|---|---|
| 選択式 | 8科目・各5点・計40点 | 総得点基準点 と 科目別最低基準点 |
| 択一式 | 7科目・各10点・計70点 | 総得点基準点 と 科目別最低基準点 |
科目別最低基準点の原則値も押さえておきましょう。選択式は各科目5点のうち3点以上、択一式は各科目10点のうち4点以上、というのが原則の考え方です。総得点基準点のほうは、その年の試験の状況に応じて定められます。
ここで誤解してほしくないのは、「原則3点・4点」という数字が毎年そのまま固定で適用されるわけではない、という点。あくまで出発点となる考え方であり、実際に適用される基準点は年度によって動きます。動く理由は、次の章で順にほどいていきます。
少し脱線すると、私たちが取材した範囲でも、ここを「合計だけ見ればいい」と思い込んだまま直前期に入ってしまい、苦手科目の手当てが後手に回った、という声は何度か聞きました。形を先に知っておくことの値打ちは、こういうところに出てきます。
社労士特有の「科目の関所」
二段関門のうち、社労士でとくに語られるのが、科目別最低基準点のほうです。
なぜここが重く語られるのか。理由はシンプルで、総合点がどれだけ高くても、一科目でも最低ラインを割れば、その時点で合格が遠のくからです。とくに選択式は一科目5点と幅が狭いため、ほんの数問の取りこぼしが、そのまま科目基準点割れに直結しやすい。
総合点が満たせても、1科目の最低ライン割れで届かなくなる。 とくに選択式は1科目5点と幅が狭く、わずかな取りこぼしが基準点割れに直結しやすい。だからこそ「全科目を最低ラインの上に乗せる」発想が、社労士では効いてきます。
ここで気持ちが楽になる事実も、合わせて知っておいてください。社労士の合格基準には、難易度に応じた調整の仕組みがあります。ある年に特定科目が極端に難しかった場合、その科目の最低基準点が引き下げられることがあるんです。いわゆる「救済補正」と呼ばれるものです。
「難しい問題が出たら全員そこで脱落」という単純な仕組みではない、ということ。これは運任せを正当化する話ではありませんが、一科目に過度に怯えすぎなくていい、という安心材料にはなります。
ただし、補正には限度の考え方もあります。たとえば選択式で引き下げた結果が0点になってしまうような場合は、原則として引き下げを行わない扱いが示されています。択一式でも、引き下げ後が極端に低くなる場合は同様です。救済はあくまで難易度の調整であって、勉強しなくても通る制度ではない、というのが正確な理解です。
実際の備え方としては、特定科目だけ手薄にしないことに尽きます。深くなくていいので、どの科目にも必ず手を入れて、最低ラインの上に全科目を乗せておく。これが科目基準点割れという事故を、いちばん減らす道だと取材では繰り返し語られていました。
毎年動く基準点と、調整の考え方
「結局、何点取れば合格なの?」——いちばん知りたいのは、たぶんここですよね。
正直にお伝えすると、合格基準点は固定の数字ではありません。毎年、その年の試験の状況に応じて定められます。動く理由は、試験問題の難易度が年度ごとに違うからです。
合格基準点(総得点・科目別とも)は固定ではなく、その年の難易度・平均点・得点分布などを踏まえて定められる。試験の水準を年度を越えて一定に保つための調整であり、「去年は何点だったから今年も同じ」とは限らない。
仕組みを少しだけ。ある年の問題が全体に難しければ、平均点も得点分布も下がります。それをそのまま固定基準で切ると、難しい年に当たった人だけが極端に不利になる。そこで、年度ごとの状況を踏まえて基準点を調整し、試験の水準をならしているわけです。科目別の救済補正も、この考え方の一部です。
だから、ネットで見かける「選択式◯点・択一式◯点」といった具体的な数字は、あくまで過去の一年の結果であって、来年に約束された合格点ではありません。「原則は選択式3点・択一式4点」という考え方を土台にしつつ、最終的な基準点はその年の発表を待つ、というのが正確なスタンスです。
その発表のタイミングも知っておきましょう。合格基準点や補正の有無は、合格発表のときに公表されます。事前に確定して告知されるものではなく、結果と一緒に明らかになる。だから受験の段階では、「何点で通るか」を気にしすぎるより、「どの科目も最低ラインの上に乗っているか」に意識を向けるほうが、現実的なんです。
ここまでをいったん整理しておきます。
- 合否は「総得点基準点」と「科目別最低基準点」の二段で判定される
- 選択式8科目40点/択一式7科目70点。原則は選択式各3点・択一式各4点
- 総合点が高くても、1科目の最低ライン割れで届かなくなりうる
- 基準点は固定ではなく、その年の難易度等で定まる(救済補正あり)
- 補正の有無や最終的な基準点は、合格発表のときに公表される
基準点と、どう付き合うか
仕組みが分かったところで、では受験者としてどう構えるか。考え方は、実はとてもシンプルです。
社労士の合格設計の中心は、「特定科目を薄くしないこと」。科目別の最低ラインがあるかぎり、得意科目で大量に上積みするより、どの科目もまず最低ラインを越える“底上げ”のほうが効きます。突き抜けた一点より、平らにならす丁寧さが報われる試験なんです。
この発想に立つと、勉強の優先順位もはっきりします。後回しになりがちな苦手科目こそ、早めに最低ラインの上へ乗せておく。完璧でなくていい、「最低ラインを割らない」状態を全科目で作る。これが、二段関門の後半を安定して越えるための、いちばん確実な道です。
点の積み方の向き
| 積み方 | 二段関門との相性 |
|---|---|
| 得意科目だけ伸ばす | 科目基準点割れのリスクが残る |
| 全科目を底上げする | 二段の関門を安定して越えやすい |
その底上げの土台になるのが、用語の定義を「自分の言葉で言える」状態まで持っていくことです。選択式の科目基準点は語句の正確さを直接問いますし、択一式の選択肢も、定義を正しく理解していれば切れるものが多い。土台が同じだから、定義を一語ずつ積む作業は、二つの試験の両方に同時に効いてきます。
そして、この土台づくりは、机に長く向かう時間がなくても進められます。用語を一つ取り上げて、本を閉じて説明してみる——これは数分あればできます。通勤の途中や休憩のあいだに一語ずつ。短い積み重ねが、苦手科目の最低ラインを少しずつ押し上げていきます。
焦って一気に仕上げようとせず、苦手科目から薄く均していく。その地道さが、総合点と科目基準点という二段の関門の両方で、最後に効いてくるのだと思います。基準点は怖い数字ではなく、「どの科目も置き去りにしない」ための道しるべだと捉え直すと、向き合い方がずいぶん楽になります。
理解度チェック
ここまでの内容、どれくらい身についたかチェックしてみよう。
社労士試験の合否判定について、正しい理解はどれか。
- 選択式と択一式の合計点だけで合否が決まる
- 科目ごとの最低点だけを満たせば合格となる仕組み
- 択一式の総得点さえあれば合否が決まるとされる
- 総得点と科目別の最低基準点の両方が要る
解答は 4 である。
合否は、試験全体の総得点基準点と、科目ごとの最低基準点の、両方を満たしてはじめて決まる。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ 誤り | 合計点だけでは決まらない |
| 2 | ✗ 誤り | 総得点の基準も必要である |
| 3 | ✗ 誤り | 択一式の総点のみではない |
| 4 | ✓ 正解 | 二段の関門を両方越える |
合計と科目、二段を越えて合格なのである。
選択式の科目別最低基準点の原則的な考え方として、正しいものはどれか。
- 各科目10点のうち4点以上が原則とされる
- 各科目5点のうち3点以上が原則とされる
- 科目別の最低点は設けられていない
- 合計が高ければ科目別の点は問われない
解答は 2 である。
選択式は各科目5点満点で、原則として各科目3点以上が科目別最低基準点の考え方とされる(4点以上は択一式の原則)。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ 誤り | 4点以上は択一式の原則 |
| 2 | ✓ 正解 | 選択式は各科目3点が原則 |
| 3 | ✗ 誤り | 科目別の最低点はある |
| 4 | ✗ 誤り | 科目別の点も問われる |
社労士の合格基準点について、正しい理解はどれか。
- 毎年同じ点数で固定されている基準
- 受験申込のときに点数が告知される
- 年度の難易度等で定まり発表時に公表
- 補正は事前に対象科目が確定している
解答は 3 である。
合格基準点は固定ではなく、その年の難易度・平均点・得点分布等を踏まえて定まり、補正の有無とともに合格発表のときに公表される。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ 誤り | 固定ではなく年度変動 |
| 2 | ✗ 誤り | 申込時の告知ではない |
| 3 | ✓ 正解 | 発表時に基準が公表 |
| 4 | ✗ 誤り | 補正は事前確定ではない |
二段の関門の形が見えてきたなら、編集部としてはとても嬉しいです。
どの科目も置き去りにしたくないと感じたなら、シカクエで苦手科目から薄く一問ずつ回す手があります。苦手な一科目だけを、移動中に数問つまむ使い方もできます。
もちろん、まずは手持ちのテキストで、苦手科目の用語を一語ずつ言葉にしてみるのも確かな一歩です。合格基準点は、点を取りにいくための関門というより、どの科目も置き去りにしないための道しるべ。総合点と科目の最低ライン、その二段を意識して全科目を平らに均していけば、関門は越えられる位置にあります。
次に読むなら、こんな記事もどうぞ。
→ 社会保険労務士試験 — 受験から合格までの全体像をつかむ試験制度の基本 → 雇用保険の被保険者 — 失業時の給付につながる「加入の入口」を整理 → 老齢基礎年金 — 国民年金から受け取る、老後の土台となる年金