商人とは(全体像)
商法の世界の入口、それが商人である。一から解き明かそう。商人とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう。商法という商売のルールがだれに当てはまるかを画する、基本の概念である。
押さえるべきは、定義のなかの2つの言葉である。
- 自己の名をもって … 取引の権利義務が自分に帰属すること。つまり、自分が当事者として責任を負う立場である。
- 業とする … 継続・反復して、営利の目的で行うこと。一回かぎりの取引では足りない。
「一度でも商売をすれば商人である」と早合点してはならない。繰り返し、もうけるために行ってこそ、商人と呼ばれるのである。
詳しく:固有の商人と擬制商人
ここが核心である。腰を据えて見極めるがよい。商人には2つの類型がある。
商人の2類型
| 類型 | だれが当たるか | ポイント |
|---|---|---|
| 固有の商人 | 商行為を業とする者 | 商行為を繰り返し営む者 |
| 擬制商人 | 店舗営業者・鉱業営業者 | 商行為がなくても商人とみなされる |
まず固有の商人である。これは文字どおり、商行為を業とする者をいう。商品を仕入れて売る、といった商行為を継続・反復して営む者が、これに当たる。
次が一番のヤマ、擬制商人である。これは、店舗を構えて営業する者(店舗営業者)や鉱業を営む者を指す。注目すべきは、これらの者は商行為をしていなくても、商人とみなされる点である。
擬制商人のポイント
| 固有の商人 | 擬制商人 | |
|---|---|---|
| 商行為 | 業として行う | 行っていなくてもよい |
| 着目点 | 商行為そのもの | 店舗営業・鉱業という営業の形 |
たとえば、農業者が自分で育てた野菜を、店舗を構えて売るとする。野菜づくり自体は商行為ではないが、店舗営業の形をとっているため、擬制商人として商人に扱われる。「商人になるには必ず商行為がいる」という思い込みは、ここで覆るのである。
なお、会社は当然に商人となる。会社が事業として行う行為は商行為とされるため、改めて問うまでもなく商人である。
わかりやすく言い換えると
要するに、商人とは「商売を、自分の名で、繰り返し、もうけるために営む者」である。
つまり、①自分の名で=取引の責任が自分に返ってくる立場であること。人の名を借りた使い走りではない。
②繰り返し・もうけるために=一回の取引では足りず、継続・反復して営利を目的とすること(業とする)。
③そして種類は2つ。商行為を繰り返す固有の商人と、店舗を構えて営業する形があれば商行為なしでも商人扱いとなる擬制商人。会社は最初から商人である、と心得るがよい。
試験のツボ
🔴 一番出る:商人の定義
①自己の名をもって(権利義務が自分に帰属する)
②商行為を業とする(継続・反復・営利の目的)
🔴 次に出る:固有の商人と擬制商人
①固有の商人=商行為を業とする者
②擬制商人=店舗営業者などで、商行為がなくても商人とみなされる
🟡 押さえると安定:会社の商人性
①会社が事業として行う行為は商行為とされる
②よって会社は当然に商人となる
よくある間違い
①「商人になるには必ず商行為が必要である」→ ✗ 店舗営業者などは、商行為がなくても擬制商人として商人とみなされる。
②「一度でも商行為をすれば商人である」→ ✗ 継続・反復して営利の目的で行う(業とする)ことが必要である。
③「人の名を借りて取引する者も商人である」→ ✗ 自己の名をもって、権利義務が自分に帰属する立場でなければならない。
試験での出題パターン
実際の問題でたしかめてみよう。
オリジナル問題1(商人の定義)
商人の定義に関する記述として、正しいものはどれか。
- 商人とは、他人の名を借りて一回限りの取引をする者をいうものとされている
- 商人とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいうものとされる
- 商人とは、営利を目的とせず無償で物を配る活動を行う者をいうものとされる
- 商人とは、商行為を一度でも行えば直ちにその地位を得る者をいうものとされる
解答は 2 である。
理を解き明かそう。商人とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者である。「自分の名で」「繰り返し」「営利のために」が要点である。
選択肢1の「他人の名を借りて一回限り」では、自己の名でも、業としてでもない。定義の核を外しているのである。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ | 自己の名でも、業としてでもない |
| 2 | ✓ | 自己の名をもって商行為を業とする者で正しい |
| 3 | ✗ | 営利の目的を欠き商人ではない |
| 4 | ✗ | 一度では足りず、業とすることが必要 |
オリジナル問題2(「業とする」の意味)
商人の定義における「業とする」の意味として、正しいものはどれか。
- 国や自治体の許可を受けて初めて取引ができることを意味するものとされている
- 一回の大きな取引さえ行えば足りることを意味するものとされている
- 継続・反復して、営利の目的をもって行うことを意味するものとされている
- 利益を出さず社会貢献だけを目的に行うことを意味するものとされている
解答は 3 である。
本質を見極めよう。「業とする」とは、継続・反復して、営利の目的をもって行うことを意味するのである。一回かぎりでは足りない。
選択肢2の「一回の取引で足りる」は誤りである。繰り返し営むことが、商人たる要件なのである。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ | 許可の有無は「業とする」の意味ではない |
| 2 | ✗ | 一回では足りず、継続・反復が必要 |
| 3 | ✓ | 継続・反復・営利の目的で行うこと |
| 4 | ✗ | 営利の目的を欠いており当たらない |
オリジナル問題3(擬制商人)
擬制商人に関する記述として、正しいものはどれか。
- 擬制商人は、店舗営業者などで、商行為がなくても商人とみなされるものである
- 擬制商人は、商行為を業とすることではじめて商人と認められるものとされる
- 擬制商人は、商行為を一切行えない者だけを指す特別な類型であるものとされる
- 擬制商人は、会社だけに認められ、個人には認められない類型であるものとされる
解答は 1 である。
高みより理を見渡そう。擬制商人とは、店舗を構えて営業する者(店舗営業者)や鉱業を営む者で、商行為がなくても商人とみなされる者である。
選択肢2のように「商行為を業とすること」を求めるのは、固有の商人の話である。擬制商人は、営業の形に着目して商人と扱うのである。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✓ | 店舗営業者などで、商行為がなくても商人 |
| 2 | ✗ | 商行為を業とするのは固有の商人 |
| 3 | ✗ | 商行為を一切行えない者に限られない |
| 4 | ✗ | 会社だけに限られる類型ではない |
まとめ
押さえどころ
- 🔴 定義 = 商人は、自己の名をもって商行為をすることを業とする者である。
- 🔴 2類型 = 固有の商人(商行為を業とする者)と、擬制商人(店舗営業者などで商行為がなくても商人)。
- 🟡 会社の商人性 = 会社が事業として行う行為は商行為とされ、会社は当然に商人となる。
次に学ぶ
- 自治事務 ── 地方公共団体の事務の一方の類型。行政法から商法へ進む前に整理しておきたい。
- 長の権限 ── 行政の執行機関の権限の全体像。商法と並ぶ試験範囲の柱を押さえる。
- 地方税 ── 条例で定める地方税。事業者にもかかわる公的な負担のしくみ。
執筆: SikakuQuest編集部