拒否権とは(全体像)
高みから地方の統治を見渡そう。拒否権とは、長が議会の議決に納得できないとき、議会にもう一度審議させる「再議」を求める権限のことだ。長が議会をけん制する手段のひとつにあたる。
ここで一番取り違えやすい点を押さえよう。「拒否権」という言葉は強そうだが、議決をその場で消し去る絶対的な力ではない。長ができるのは「もう一度考え直して」と差し戻すところまで。議会が改めて同じ結論を出せば、議決は確定して効力を持つ。
- 長ができること … 議決に異議を述べ、議会へ再議を求める。
- 長ができないこと … 議会の意思そのものを単独で打ち消す。
「拒否権があれば長は何でも止められる」と思い込まないこと。あくまで再考を求める手段として全体像を捉えよう。
詳しく:一般的再議と特別的再議
ここが心臓部。再議には性質の違う2種類があり、ここを上から俯瞰できるかが勝負どころだ。
2つの再議の違い
| 一般的再議 | 特別的再議 | |
|---|---|---|
| きっかけ | 議決への政策的な異議 | 違法・権限を越えた議決など |
| 長の対応 | 再議に付すかは長の判断 | 長は必ず再議に付す(義務) |
| 再び同じ議決が出たら | その議決が確定する | 長は審査を申し立てられる |
一般的再議は、長が「この政策には賛成できない」という政策的な異議から行うもの。議決の通知を受けてから10日以内に再議に付す。議会が再び同じ議決をすれば確定する。
ここで大事な要件がひとつ。条例の制定改廃や予算に関する議決を、議会が再び可決して確定させるには、ふつうの過半数では足りず、出席議員の3分の2以上の同意が必要になる。重い決定だから、再可決のハードルも上がる、というわけだ。
特別的再議は、議会が違法な議決や権限を越えた議決をしたときのもの。この場合、長は再議に付すことが義務になる(放置できない)。議会がそれでも同じ議決を繰り返したときは、長は審査を申し立てて是正を図れる。違法を正すための仕組みなので、3分の2のような特別多数の要件はない。
わかりやすく言い換えると
要するに、拒否権は「もう一度考えて」と書類を突き返すハンコのようなもの。破り捨てる力ではない。
つまり、①政策が気に入らないとき(一般的再議)は「考え直して」と差し戻すだけで、議会が押し切れば通る。ただし条例や予算という大事な書類を押し通すには、賛成を3分の2以上まで集める必要がある。
②一方、議会がルール違反の書類を出してきたとき(特別的再議)は、長は突き返さないといけない(義務)。それでも議会が同じ違反を続けたら、長は上に審査を求めて正す、というイメージだ。
試験のツボ
🔴 一番出る:拒否権は「再議」を求めるだけ
①議決を完全に止める力ではない
②議会が再び同じ議決をすれば確定する
🔴 次に出る:一般的再議と特別的再議の区別
①一般的=政策的異議・10日以内(長の判断)
②特別的=違法な議決などへの義務的な再議
🟡 押さえると安定:条例・予算の再議決要件
①再可決には出席議員の3分の2以上が必要
②ふつうの過半数では確定しない
よくある間違い
①「拒否権で議決を完全に阻止できる」→ ✗ できるのは再議の要求まで。議会が再議決すれば議決は確定する。
②「特別的再議も3分の2以上の同意がいる」→ ✗ 3分の2が必要なのは条例・予算の再議決(一般的再議)。違法議決への特別的再議に3分の2要件はない。
③「一般的再議は条例と予算だけが対象」→ ✗ 対象は広がっており、議決全般に再議を求められる(受験年度の最新仕様で確認)。
試験での出題パターン
実際の問題でたしかめてみよう。
オリジナル問題1(拒否権の本質)
長の拒否権(再議)の性質に関する記述として、正しいものはどれか。
- 拒否権により、長は議会の議決をその場で確定的に消滅させることができるものとされている
- 拒否権を行使すると、議会は同じ内容の議決を二度と行うことができなくなるものとされる
- 拒否権は議会に再議を求める権限にとどまり、議会が再議決すれば議決は確定するとされる
- 拒否権は議決を一時停止するだけで、長と議会の合意がなければ議決は永久に効力を生じない
解答は 3 だ。
上から見渡そう。拒否権は、議会に再議(もう一度の審議)を求める権限にとどまる。議会が再び同じ議決をすれば、その議決は確定するぞ。
選択肢1・2のように、議決を消したり封じたりする絶対的な力ではない。「拒否」の語感に引きずられないこと。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ | 議決を確定的に消す力ではない |
| 2 | ✗ | 議会は再び同じ議決をでき、確定できる |
| 3 | ✓ | 再議を求めるにとどまり、再議決で確定する |
| 4 | ✗ | 合意がなくても再議決で効力が生じる |
オリジナル問題2(一般的再議と特別的再議)
一般的再議と特別的再議の区別に関する記述として、正しいものはどれか。
- 一般的再議は違法な議決を対象とし、特別的再議は政策的な異議を対象とするものとされる
- 一般的再議も特別的再議も、長が再議に付すかどうかを自由に選べる点で違いはないとされる
- 特別的再議は議会の同意があったときに限り、長が任意で再議に付せるものとされている
- 特別的再議は違法な議決へ長が必ず付し、一般的再議は政策的異議から長が付すものとされる
解答は 4 だ。
全体像を俯瞰しよう。特別的再議は、違法な議決などに対して長が必ず付す義務的なもの。一般的再議は、長の政策的な異議から行うものだ。役割がはっきり違うぞ。
選択肢1は両者を逆にした誤り。対象を取り違えないこと。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ | 対象が逆。違法は特別的、政策は一般的 |
| 2 | ✗ | 特別的再議は義務で、任意ではない |
| 3 | ✗ | 議会の同意は不要で、長が必ず付す |
| 4 | ✓ | 特別的は義務、一般的は政策的異議で正しい |
オリジナル問題3(条例・予算の再議決要件)
条例の制定改廃や予算に関する議決を再議に付した場合の、再議決の要件として正しいものはどれか。
- 再び可決して確定させるには、出席議員の3分の2以上の同意が必要とされる
- 再び可決して確定させるには、出席議員の過半数の同意があれば足りるとされる
- 再び可決して確定させるには、議員全員の同意がなければならないとされる
- 再議に付された議決は、長が同意しなければ二度と可決できないとされる
解答は 1 だ。
高みから見渡そう。条例の制定改廃や予算に関する議決を再び可決して確定させるには、出席議員の3分の2以上の同意が必要だ。ふつうの過半数では足りないぞ。
重い決定だからこそ、再可決のハードルも上がる。選択肢2の「過半数」では確定しない。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✓ | 出席議員の3分の2以上が必要で正しい |
| 2 | ✗ | 過半数では足りない |
| 3 | ✗ | 全員の同意までは求められない |
| 4 | ✗ | 長の同意がなくても3分の2で再議決できる |
まとめ
押さえどころ
- 🔴 本質 = 拒否権は再議を求めるだけ。議会が再議決すれば議決は確定する(完全な阻止力ではない)。
- 🔴 2種類 = 一般的再議(政策的異議・10日以内)と特別的再議(違法議決などへの義務的再議)。
- 🟡 再議決要件 = 条例・予算の再可決には出席議員の3分の2以上が必要。
次に学ぶ
- 長の権限 ── 拒否権を持つ長そのものの権限の全体像。執行機関の中心としての役割がわかる。
- 議会と長の関係 ── 二元代表制で長と議会がどうけん制し合うか。拒否権の位置づけが見える。
- 不信任議決 ── 議会が長に向ける最終手段。拒否権とは逆向きの、議会側のけん制手段。
執筆: SikakuQuest編集部