行政行為の取消しとは(全体像)
行政行為の取消しとは、最初(成立時)から瑕疵(違法・不当)があった行政行為について、その効力を成立時までさかのぼって失わせる行為のこと。
ポイントは、原因が「最初からあった間違い(原始的瑕疵)」であること。だから効果も、成立時にさかのぼって(遡及効)「はじめからなかったこと」にするのが原則だ。
取消しには2つのルートがある。①職権取消しは行政庁が自分の判断で行うもの、②争訟取消しは私人が審査請求や訴訟で求めるもの。どちらも、もとにある瑕疵を理由に効力を消す点は同じだ。
詳しく:撤回との違いと取消しの制限
ここが心臓部。よく似た「撤回」との違いと、取消しが制限される場面を押さえる。
取消しと撤回のちがい
| 原因 | 効果(いつから無効か) | |
|---|---|---|
| 取消し | 成立時の瑕疵(最初からの違法・不当) | 成立時にさかのぼる(遡及効) |
| 撤回 | 後から生じた事情(後発的な事由) | 将来に向かってのみ(将来効) |
名前は似ているが、取消しは「最初の間違い」を理由にさかのぼり、撤回は「あとからの事情」を理由に将来へ向かう。原因の時点と、効果の向きが逆、と押さえると混ざらない。
そして、もうひとつの山が取消しの制限。
授益的行政行為の取消し制限
| 行政行為の性質 | 職権取消し |
|---|---|
| 侵害的(不利益を与える) | 比較的自由に取り消せる |
| 授益的(利益を与える) | 信頼保護のため制限されることがある |
許可のように相手に利益を与える行政行為(授益的行政行為)を、あとから行政庁が職権で取り消すと、それを信じていた相手が不利益を受ける。そこで、相手の信頼を守るため、授益的行政行為の職権取消しは制限されることがある。逆に、不利益を与える侵害的行政行為の取消しは、相手にとってむしろ有利なので、比較的自由にできる。
わかりやすく言い換えると
つまり取消しは「最初の間違いを理由に、はじめからなかったことにする」しくみ。あとからの事情で将来だけ消す「撤回」とは、原因も効果の向きも違う。
要するに押さえどころは2つ。①取消しは原始的瑕疵・遡及効(撤回は後発事由・将来効)、②相手の利益になる行政行為は、信頼保護で取消しが制限されうる。
試験のツボ
🔴 一番出る:取消しの意味と遡及効
①成立時の瑕疵(違法・不当)を理由に、成立時までさかのぼって効力を失わせる
②種類は職権取消し(行政庁自ら)と争訟取消し(私人の審査請求・訴訟)
🔴 次に出る:撤回との区別
取消しは原始的瑕疵・遡及効。撤回は後発事由・将来効。原因も向きも逆。
🟡 押さえると安定:授益的行政行為の取消し制限
相手に利益を与える行政行為の職権取消しは、信頼保護のため制限されることがある。
よくある間違い
①「取消しと撤回は同じもの」→ ✗ 取消しは最初の瑕疵を理由にさかのぼる。撤回はあとからの事情で将来に向かう。
②「授益的行政行為は、いつも自由に職権取消しできる」→ ✗ 信頼保護のため、相手の利益を考えて取消しが制限されることがある。
③「取消しは将来に向かってのみ効力を失わせる」→ ✗ 取消しの効果は成立時にさかのぼる(遡及効)のが原則。将来効は撤回。
試験での出題パターン
実際の問題でたしかめてみよう。
オリジナル問題1(取消しの意味)
行政行為の取消しに関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 行政行為の取消しとは、後から生じた事情を理由に、将来に向かって効力を失わせる行為をいうとされる
- 行政行為の取消しとは、成立時の瑕疵を理由に、成立時にさかのぼって効力を失わせる行為をいう
- 行政行為の取消しとは、違法でも取り消されるまで一応有効に扱う効力を意味するものとされる
- 行政行為の取消しとは、行政庁が裁判所を通さず自ら義務を強制できる効力をいうものとされる
解答は 2 である。
行政行為の取消しとは、成立時の瑕疵を理由に、成立時にさかのぼって効力を失わせる行為なのである。最初からの間違いを理由に、はじめからなかったことにするしくみだ。
選択肢1は撤回、選択肢3は公定力、選択肢4は自力執行力の説明であって、いずれも誤りである。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ | それは撤回の説明 |
| 2 | ✓ | 成立時の瑕疵で遡及して失わせるで正しい |
| 3 | ✗ | それは公定力の説明 |
| 4 | ✗ | それは自力執行力の説明 |
オリジナル問題2(撤回との区別)
取消しと撤回に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 取消しも撤回も、ともに後から生じた事情を理由とし、将来に向かって効力を失わせるとされる
- 取消しは将来に向かって効力を失わせ、撤回は成立時にさかのぼって効力を失わせるとされる
- 取消しは成立時の瑕疵を理由にさかのぼり、撤回は後から生じた事情を理由に将来へ向かう
- 取消しと撤回はまったく同じ意味であり、原因にも効果にも違いはないものとされている
解答は 3 である。
取消しは成立時の瑕疵を理由にさかのぼり、撤回は後発の事情を理由に将来へ向かうのである。原因の時点も効果の向きも逆、と押さえるとよい。
選択肢1の「どちらも後発・将来効」、選択肢2の「向きが逆(取り違え)」、選択肢4の「同じ意味」は、いずれも誤りである。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ | 取消しは最初の瑕疵を理由に遡及する |
| 2 | ✗ | 原因と効果の向きを取り違えている |
| 3 | ✓ | 取消しは遡及・撤回は将来効で正しい |
| 4 | ✗ | 原因も効果も異なる |
オリジナル問題3(授益的行政行為の取消し制限)
行政行為の取消しの制限に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 相手の利益となる授益的行政行為の職権取消しは、信頼保護のため制限されることがある
- 授益的行政行為であっても、行政庁は常に自由に職権で取り消せるものとされている
- 侵害的行政行為の取消しは、相手方の信頼保護のため広く制限されるものとされている
- 授益的行政行為の取消しは、相手方の利益をまったく考慮せずに行えるものとされている
解答は 1 である。
相手の利益となる授益的行政行為の職権取消しは、信頼保護のため制限されることがあるのである。それを信じていた相手が不利益を受けないようにするためだ。
選択肢2の「常に自由に取り消せる」、選択肢3の「侵害的行為を制限」、選択肢4の「利益を考慮せず」は、いずれも誤りである。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✓ | 授益的行為は信頼保護で制限されうるで正しい |
| 2 | ✗ | 信頼保護のため制限されることがある |
| 3 | ✗ | 制限されるのは授益的行為のほう |
| 4 | ✗ | 相手の利益を衡量する必要がある |
まとめ
押さえどころ
- 🔴 取消しの意味 = 成立時の瑕疵を理由に、成立時にさかのぼって効力を失わせる(職権取消し・争訟取消しの2種類)。
- 🔴 撤回との区別 = 取消しは原始的瑕疵・遡及効、撤回は後発事由・将来効。
- 🟡 授益的行政行為の取消し制限 = 相手に利益を与える行政行為の職権取消しは、信頼保護のため制限されうる。
次に学ぶ
- 行政行為の効力 ── 取消しの対象となる行政行為がもつ効力の全体像。
- 行政行為(行政処分) ── 取消しの対象となる行政行為そのもののしくみ。
- 公定力 ── 取り消されるまで有効とされる効力。取消しと一緒に押さえる。
執筆: SikakuQuest編集部