親が亡くなったらまず何をする?3つの軸
相続発生からの流れは、3つの期限軸で整理できます。
- 3か月: 相続放棄・限定承認の期限(民法915条、自己のために相続開始を知った時から)
- 4か月: 被相続人の準確定申告(所得税法125条、相続開始から)
- 10か月: 相続税の申告・納付期限(相続税法27条、相続開始から)
ここがポイント。相続発生から最初の3か月が最も重要ということ。借金が多い場合の相続放棄判断、財産調査、相続人確定——すべて最初の3か月で動きが決まります。
それから、期限を過ぎると取り返しがつかない手続が複数あるという事実。相続放棄の3か月を過ぎると単純承認とみなされ、借金まで相続することになります。
なぜそう言えるのか、10ステップで順番に見ていきます。
相続手続きはどんな順番?——10ステップ全体像
相続発生からの10ステップ
各ステップを詳しく見ていきます。
STEP 1〜3: 死亡直後の手続(〜1か月)
STEP 1: 死亡届と葬儀(〜7日)
死亡から 7日以内に死亡届 を市区町村に提出する義務があります(戸籍法86条)。
- 死亡届書(医師の死亡診断書付き)
- 火葬・埋葬許可証の発行を受ける
- 通常は葬儀社が代行してくれる
葬儀費用は 相続税の控除対象(相続税法13条1項)になるので、領収書は必ず保管します。
STEP 2: 健康保険・年金の手続(〜2週間)
- 健康保険証の返却: 国民健康保険は14日以内(健康保険は5日以内)
- 年金受給停止届: 年金事務所へ、未支給年金は遺族が請求可能
- 国民健康保険の喪失届: 14日以内
これらは故人が受給していた場合のみ。会社員の遺族年金請求は別手続です。
STEP 3: 公共料金・契約の名義変更(〜1か月)
- 電気・ガス・水道・電話・インターネット等の名義変更
- 賃貸の場合は大家への連絡(契約承継 or 解約)
- クレジットカード・サブスクリプションの解約
ここで覚えておきたいのは、「故人の口座は凍結される」 こと。家族が銀行に死亡を連絡した時点で、その口座は引き出せなくなります。葬儀費用等を引き出す前に連絡するか、後の遺産分割協議で精算するかの判断が必要です。
STEP 4: 遺言書の確認と相続人の確定(〜3か月)
遺言書の有無を確認
最初にやるべきは 遺言書の探索。遺言書があれば、それが優先されます(一部例外あり)。
| 遺言書の場所 | 確認方法 |
|---|---|
| 自宅(自筆証書遺言) | 引き出し・金庫等を探す |
| 公証役場(公正証書遺言) | 全国どこでも遺言検索システムで照会可 |
| 法務局保管制度 | 2020年7月〜、法務局で自筆証書遺言を保管・検索 |
自筆証書遺言を見つけたら、開封せず家庭裁判所で検認を受ける必要があります(民法1004条)。勝手に開封すると過料の対象になります(公正証書遺言は検認不要)。
相続人の確定
法定相続人を確定するには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を全部揃える必要があります。これが意外と大変な作業で、転籍や本籍地変更があると、複数の市区町村から取り寄せることになります。
法定相続人の順位(民法887〜890条):
| 順位 | 該当者 |
|---|---|
| 配偶者 | 常に相続人 |
| 第1順位 | 子(直系卑属) |
| 第2順位 | 親(直系尊属)※第1順位がいない場合 |
| 第3順位 | 兄弟姉妹 ※第1・第2順位がいない場合 |
STEP 5: 相続財産の調査(〜3か月)
プラス財産とマイナス財産
相続財産には プラス財産(積極財産)とマイナス財産(消極財産) があります。
- プラス財産: 不動産・預貯金・有価証券・現金・車・貴金属・著作権・損害賠償請求権 等
- マイナス財産: 借金・住宅ローン・未払い税金・未払い医療費・連帯保証債務 等
両方を漏れなく把握するのが調査の目的。
調査方法
- 不動産: 名寄帳(固定資産評価証明書)を市区町村で取得
- 預貯金: 各金融機関に残高証明書を請求
- 有価証券: 証券会社に取引履歴を請求
- 借金: 信用情報機関(CIC・JICC・KSC)で照会可能
私たちが取材した相続実務に詳しい司法書士の話では、「借金の見落としが最大の落とし穴。CIC等の信用情報機関への照会は必ず行うべき」とのこと。連帯保証債務は本人が知らないことも多く、後で発覚するリスクがあります。
STEP 6: 相続放棄・限定承認の判断(〜3か月)
3つの選択肢
- 単純承認: プラス・マイナスすべてを引き継ぐ(何もしないと自動的にこれ)
- 限定承認: プラス財産の範囲でマイナス財産も引き継ぐ(相続人全員で共同申述)
- 相続放棄: 一切の権利義務を引き継がない(個別に申述可)
期限は「自己のために相続開始を知った時から3か月以内」
期限の起算点が 相続開始(=死亡)から3か月 ではなく、自分が相続人になったことを知った時から3か月 という点に注意。後順位の相続人(兄弟姉妹等)が「先順位が放棄したと知った時」からカウントされる扱いです。
相続放棄の手続
家庭裁判所に 相続放棄申述書 を提出します(民法915条)。費用は800円+郵便切手で、弁護士・司法書士に依頼すると 3〜10万円程度。
期限内に判断できない場合、家庭裁判所に期間延長を申し立てる 制度もあります(民法915条1項但書)。
STEP 7〜9: 申告・分割協議(〜10か月)
STEP 7: 準確定申告(〜4か月)
被相続人の死亡年の所得について、相続人が代わりに確定申告するのが準確定申告(所得税法125条)。期限は相続開始から4か月以内。
該当する典型例:
- 被相続人が個人事業主だった
- 不動産所得・株式譲渡所得があった
- 高額の医療費控除・寄付金控除がある
該当しない場合(給与所得のみで年末調整済み等)は不要です。
STEP 8: 遺産分割協議(〜10か月目安)
法定相続人全員で 誰が何を相続するかを話し合うのが遺産分割協議。期限は法律上明文化されていませんが、相続税申告(10か月)に間に合わせるのが実務上の目安です。
協議が成立したら 遺産分割協議書 を作成し、全員が署名・実印押印します。これは後の不動産登記・預金解約等で必須になる重要書類です。
STEP 9: 相続税の申告・納付(〜10か月)
相続税の申告が必要なケースは、遺産総額が基礎控除を超える場合。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
法定相続人3人なら 3,000+1,800 = 4,800万円まで非課税。これを超える場合のみ、相続開始から10か月以内に申告・納付が必要です(相続税法27条)。
私たちが取材した税理士の話では、「相続税申告は10か月目ギリギリまで延ばさず、9か月目までに完了させるのが実務の鉄則」とのこと。書類不備等のリスク回避が理由です。
STEP 10: 不動産・預金等の名義変更(適時)
最後のステップは 名義変更(相続登記)。
相続登記義務化(2024年4月〜)
2024年4月1日から、不動産の相続登記が義務化 されました(不動産登記法76条の2)。
- 相続発生から 3年以内 に相続登記をしないと、10万円以下の過料 の対象
- 過去の未登記相続にも遡及適用(猶予期間あり)
これは所有者不明土地問題への対応として導入された改正です。
預金の名義変更
預金は遺産分割協議書をもって、各金融機関で個別に解約・移管手続を行います。手続には戸籍謄本・遺産分割協議書・実印・印鑑証明書が必要。
- 相続発生からの流れは 10ステップ、3つの主要期限(3か月・4か月・10か月)
- STEP 1〜3: 死亡直後の手続(〜1か月)
- STEP 4: 遺言書確認と相続人確定(戸籍を全部揃える)
- STEP 5: 財産調査(プラス・マイナス両方、信用情報機関照会も)
- STEP 6: 相続放棄・限定承認の判断(3か月以内、起算点に注意)
- STEP 7: 準確定申告(4か月以内、該当時のみ)
- STEP 8: 遺産分割協議(10か月目安)
- STEP 9: 相続税申告(基礎控除超過時のみ、10か月以内)
- STEP 10: 名義変更(相続登記は2024年〜義務化、3年以内)
理解度チェック
ここまでの内容、どれくらい身についたかチェックしてみよう。
相続放棄の申述期限について、正しい説明はどれか。
- 相続発生(被相続人の死亡)から3か月以内
- 期限はなく、いつでも放棄できる
- 自己のために相続開始を知った時から3か月以内
- 自己のために相続開始を知った日から1年以内
解答は 3 である。
民法915条により、相続放棄の期限は 自己のために相続開始を知った時から3か月以内。「死亡から3か月」ではなく、「自分が相続人になったと知った時から3か月」が正しい起算点。後順位の相続人(兄弟姉妹等)は、先順位が放棄したと知った時からカウントされる。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ 誤り | 起算点は「死亡日」ではなく「知った時」 |
| 2 | ✗ 誤り | 期限あり(民法915条) |
| 3 | ✓ 正解 | 法律の正しい構造 |
| 4 | ✗ 誤り | 起算点は正しいが期間は1年ではなく3か月 |
起算点の理解が決定的に重要——これが相続放棄の落とし穴なのである。
相続税の基礎控除額の計算式として、正しいのはどれか。
- 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数(現行)
- 旧法: 5,000万円 + 1,000万円 × 法定相続人
- 3,000万円 + 1,000万円 × 法定相続人の数
- 一律3,000万円(法定相続人の数を考慮しない)
解答は 1 である。
相続税法15条により、現行の基礎控除は 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数。2015年の税制改正で大幅に減額された(旧法は5,000万円+1,000万円×法定相続人)。これにより相続税の課税対象が広がった経緯がある。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✓ 正解 | 現行法の計算式 |
| 2 | ✗ 誤り | 2014年以前の旧法 |
| 3 | ✗ 誤り | 600万円が正しく1,000万円は誤り |
| 4 | ✗ 誤り | 法定相続人数で変動 |
遺産総額がこの基礎控除を超える場合のみ相続税申告が必要——これが課税の入口なのである。
2024年4月から義務化された相続登記について、正しい説明はどれか。
- 義務化は今後(2025年以降)検討予定
- 2024年4月施行されたが、罰則規定は設けられていない
- 相続登記は任意のままで、義務化はされていない
- 相続発生から3年以内に登記しないと10万円以下の過料
解答は 4 である。
不動産登記法76条の2により、2024年4月1日から 相続発生から3年以内に相続登記をしないと、10万円以下の過料 の対象となる。所有者不明土地問題への対応として導入され、過去の未登記相続にも遡及適用される(猶予期間あり)。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ 誤り | 既に2024年4月施行済み |
| 2 | ✗ 誤り | 過料の罰則あり |
| 3 | ✗ 誤り | 義務化済み |
| 4 | ✓ 正解 | 改正法の正しい構造 |
法改正は知っている者だけが恩恵を受ける——逆に知らないと過料リスクを抱えることになるのだ。
おわりに
相続の話は、知っているか知らないかで残された家族の負担が大きく変わる典型例です。今日見た10ステップ——死亡直後の手続から相続登記まで——を覚えておけば、いざという時に道筋が見えます。
自分の権利を知るというのは、誰かに任せきりにするのではなく、自分で判断できる材料を持つこと。法律はそのための道具です。
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