遺言書はどの方式を選ぶ?3つの書き方
遺言書3方式の比較を、3つの軸で整理できます。
- 自筆証書遺言: 全文自筆、費用ほぼゼロ、ただし無効リスクあり、家庭裁判所の検認必要
- 公正証書遺言: 公証人作成、手数料3〜10万円、無効リスク極小、検認不要、紛失リスクなし
- 秘密証書遺言: 内容秘匿可、利用例極少(年間100件未満)、検認必要
ここがポイント。実務的には公正証書遺言が圧倒的にお勧めということ。費用はかかりますが、無効リスク・紛失リスク・改ざんリスクすべてを回避できる、最も確実な方式です。
それから、自筆証書遺言は2018〜2020年の改正で大幅に使いやすくなったという事実。財産目録のパソコン作成OK、法務局保管制度の導入で、自筆証書遺言の弱点だった「無効リスク」「紛失リスク」がかなり改善されています。
なぜそう言えるのか、3方式を順番に見ていきます。
3方式は何が違う?——全体比較
3方式の比較表
実務上は 公正証書遺言が約7割、自筆証書遺言が約3割、秘密証書遺言は1%未満 という統計があります(日本公証人連合会データ)。秘密証書遺言は事実上稀少な選択肢のため、深掘りは省略します。
自分で書くと無効になりやすい?——自筆証書遺言の書き方と落とし穴(民法968条)
全文自筆が原則
民法968条1項により、遺言者が遺言の全文・日付・氏名を自書し、押印するのが基本要件です。
「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」
ここで覚えておきたいのは、1文字でもパソコンや代筆で書くと、原則として全体が無効になる厳格性。これが自筆証書遺言の最大のリスクです。
2019年改正——財産目録はPC作成OK
ただし、2019年1月13日施行の民法改正で、財産目録だけはパソコンで作成可能になりました(民法968条2項)。
トリビア:自筆証書遺言の財産目録は2019年からPC作成OK
長らく「全文自筆」が絶対だった自筆証書遺言ですが、財産目録の自筆は高齢者にとって特に負担が大きい作業でした(不動産・預貯金・有価証券を細かく記載する必要があるため)。2019年改正で 目録部分のみ別紙でPC作成可、ただし各ページに署名押印が必要、という形で柔軟化されました。
これは自筆証書遺言の利用ハードルを大きく下げた改正で、利用件数が増加傾向にあります。
法務局保管制度(2020年7月〜)
もう一つの大きな改善が、法務局による自筆証書遺言の保管制度(法務局における遺言書の保管等に関する法律、2020年7月10日施行)。
- 紛失・改ざんリスクゼロ: 法務局が原本を保管
- 形式チェック: 提出時に法務局職員が形式要件を確認(無効リスク低減)
- 検認不要: 家庭裁判所の検認手続が不要に
- 死亡通知制度: 遺言者死亡時、指定の相続人に法務局から通知される
- 手数料: 3,900円(保管申請)/ 1,400円(閲覧請求)
これにより、自筆証書遺言の弱点がほぼ解消された形です。費用を抑えたい方には有力な選択肢になっています。
自筆証書遺言の典型的な無効パターン
法務局保管を使わない場合、特に注意すべき無効パターン:
| 無効パターン | 原因 |
|---|---|
| 日付が「○月吉日」 | 日付特定不可(最高裁判例) |
| 印鑑がない・拇印のみ | 押印要件欠如 |
| 一部がワープロ作成 | 全文自筆要件違反(2019年改正前は財産目録も) |
| 加除訂正の方式違反 | 民法968条3項の方式違反 |
| 共同遺言(夫婦連名等) | 民法975条で禁止 |
最も確実な遺言は?——公正証書遺言(民法969条)
公証人が作成する遺言
公正証書遺言は、公証人が遺言者の意思を聞き取って作成する方式。原本は公証役場で保管され、正本・謄本が遺言者に交付されます。
公正証書遺言の作成手順
費用——目的財産の価額で変動
公正証書遺言の手数料は、遺産総額に応じて段階的に決まります(公証人手数料令)。
| 遺産総額 | 手数料目安 |
|---|---|
| 〜100万円 | 5,000円 |
| 〜200万円 | 7,000円 |
| 〜500万円 | 11,000円 |
| 〜1,000万円 | 17,000円 |
| 〜3,000万円 | 23,000円 |
| 〜5,000万円 | 29,000円 |
| 〜1億円 | 43,000円 |
※ さらに「遺言加算」として全体に+11,000円。出張作成は別料金。
実務上、多くのケースで3万〜10万円の範囲に収まる——これが公正証書遺言の費用感です。
メリット——確実性のすべて
- 無効リスクほぼゼロ: 公証人が形式要件を確実に満たす
- 検認不要: 民法1004条2項により、家庭裁判所の検認が不要
- 原本紛失リスクなし: 公証役場で永久保管(公証人法施行規則27条)
- 遺言検索システム: 全国どの公証役場でも遺言の有無を照会可能(1989年以降の遺言)
- 改ざんリスクなし: 公証人による作成・保管
私たちが取材した相続実務に詳しい公証人の話では、「自筆証書遺言の無効率は推定で5〜10%、公正証書遺言の無効率はほぼゼロ」とのこと。費用差を考慮しても、確実性で選ぶなら公正証書一択というのが実務の感覚です。
内容を秘密にできる遺言とは?——秘密証書遺言(民法970条)
秘密証書遺言は、内容を秘密にしたまま遺言の存在だけを公証人に証明してもらう方式。
手順
- 遺言者が遺言書を作成(全文自筆である必要はない、PCも可)
- 封筒に入れて封印
- 公証役場で公証人と証人2名の前で「自分の遺言である」と申述
- 公証人が日付等を封筒に記載
利用が少ない理由
- 無効リスクが残る: 内容を公証人がチェックしないため、形式不備で無効になり得る
- 費用は1.1万円固定+自筆作成負担: 公正証書より安いが、自筆作成の手間あり
- 検認必要: 家庭裁判所での検認が必要
実務上、秘密証書遺言が選ばれるのは「内容を絶対に他人に知られたくない、でも公的記録は残したい」という稀な場面のみ。一般的には選択肢に入らないと理解して問題ありません。
結局どれを選ぶ?——状況別のおすすめ
- 資産シンプル・費用抑えたい: 自筆証書遺言(法務局保管制度の活用推奨)
- 資産複雑・確実に残したい: 公正証書遺言(費用差より確実性で選ぶ)
- 争族リスクが見える: 公正証書遺言(無効リスクゼロで紛争の芽を摘める)
- 高齢・字を書くのが大変: 公正証書遺言(公証人が代筆)
- 秘密重視: 秘密証書遺言(ただし利用例極少)
私たちが取材した家族信託に詳しい司法書士の話では、「遺産総額3,000万円以上、または相続人が3人以上いるなら公正証書遺言を強く推奨」とのこと。費用は数万円ですが、無効や紛争リスクを考えると、その差は十分にペイする計算です。
遺言書の書き換え(撤回)
遺言書はいつでも書き換え可能(民法1022条)。新しい遺言書が古い遺言書に優先します。3方式どれで書いても、撤回・変更は自由。
ただし、自筆証書遺言で公正証書遺言を撤回することも法律上は可能ですが、後の争いリスクが大きいので、撤回も同じ方式で行うのが安全です。
- 遺言書には 自筆証書・公正証書・秘密証書 の3方式(民法967条)
- 自筆証書: 費用ほぼゼロだが無効リスク・紛失リスクあり、2019年改正と法務局保管制度で改善
- 公正証書: 費用3〜10万円、無効リスクほぼゼロ、検認不要、最も確実
- 秘密証書: 内容秘匿可、利用例極少(年間100件未満)
- 自筆の財産目録は2019年からPC作成OK(民法968条2項)
- 法務局保管制度(2020年7月〜)で自筆証書の弱点が大幅改善
- 実務統計は公正証書約7割・自筆証書約3割
- 遺言書はいつでも書き換え可能、新しいものが優先(民法1022条)
理解度チェック
ここまでの内容、どれくらい身についたかチェックしてみよう。
自筆証書遺言の有効要件として、正しい組合せはどれか。
- 全文をパソコンで作成し、署名と押印を加えるだけで成立
- 口述録音と証人2名の立ち会いで成立
- 全文・日付・氏名の自書と押印(目録のみPC可)
- 公証人の認証を受けて自書すれば成立
解答は 3 である。
民法968条により、自筆証書遺言は 全文・日付・氏名を自書し、押印 することが要件。ただし2019年1月13日施行の改正で、財産目録のみパソコン作成も可能となった(各ページに署名押印必要)。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ 誤り | 全文自筆が原則 |
| 2 | ✗ 誤り | 録音は遺言として無効 |
| 3 | ✓ 正解 | 法律の正しい要件 |
| 4 | ✗ 誤り | 公証人認証は別方式 |
1文字でもパソコンや代筆が混じると原則無効——財産目録の例外を除き、これが厳格性なのである。
公正証書遺言のメリットとして、正しい組合せはどれか。
- 費用ゼロで自宅作成可能 + 即日効力で発生する
- 改ざん可能性あり + 任意の形式で柔軟に作成できる
- 証人不要で公証役場が即日発行できる制度
- 無効リスクほぼゼロで検認不要 + 紛失リスクなし
解答は 4 である。
公正証書遺言は、公証人が作成し公証役場が原本を永久保管するため、無効リスクほぼゼロ・紛失リスクなし・改ざんリスクなし。さらに民法1004条2項により家庭裁判所の検認も不要。最も確実な方式である。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ 誤り | 費用3〜10万円かかる |
| 2 | ✗ 誤り | 改ざんは法律で防止 |
| 3 | ✗ 誤り | 公証人立会いと証人2名が必要 |
| 4 | ✓ 正解 | 公正証書遺言の核心メリット |
費用差を考慮しても、確実性で選ぶなら公正証書一択——これが実務の感覚なのである。
2020年7月から始まった自筆証書遺言の法務局保管制度について、正しい説明はどれか。
- 公正証書遺言を公証役場が一括保管する全国共通制度
- 自筆証書遺言を法務局が保管し、検認不要となる制度
- 遺産分割協議書を法務局が保管する新制度
- 遺言の内容を法務局が確認し変更する制度
解答は 2 である。
2020年7月10日施行の 法務局における遺言書の保管等に関する法律 により、自筆証書遺言を法務局が保管する制度が始まった。検認不要・紛失リスクなし・形式チェックあり——自筆証書遺言の弱点を大幅に改善した制度だ。手数料は保管申請3,900円。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ 誤り | 公正証書は本制度ではなく公証役場の独自保管 |
| 2 | ✓ 正解 | 制度の正しい内容 |
| 3 | ✗ 誤り | 別の書類で対象外 |
| 4 | ✗ 誤り | 内容変更ではなく保管制度 |
法改正は知っている者だけが恩恵を受ける——逆に知らないと、せっかくの制度を使えないままになるのだ。
おわりに
遺言書の話は、知っているか知らないかで残された家族への影響が大きく変わる典型例です。今日見た3方式——自筆証書・公正証書・秘密証書——を覚えておけば、自分に合う選び方が見えてきます。
自分の権利を知るというのは、誰かに任せきりにするのではなく、自分で判断できる材料を持つこと。法律はそのための道具です。
遺言書は専門性の高い分野。公証役場・法務局・弁護士・司法書士・税理士——相談先は多くあります。気になることがあれば、まず話を聞いてもらうところから始めるのがおすすめです。
法律の論点はパターン化しやすい分野。スキマ時間で1問ずつ感触を掴みたい方は、シカクエのアプリも選択肢のひとつです。
1日10分から、通勤の往復だけでも知識が積み上がります。シカクエアプリ
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