年金は何歳から受け取るのが得?理解する3つの軸
年金の繰上げ・繰下げの話は、3つの軸で整理できます。
- 基本ルール: 受給開始は原則65歳、繰上げで60〜64歳、繰下げで66〜75歳の選択
- 増減率: 繰上げは月0.4%減(最大24%減)、繰下げは月0.7%増(最大84%増)
- 損益分岐: 繰下げは約12年で逆転、繰上げは約16年で逆転(受給開始からの経過年数)
ここがポイント。受給開始時期の選択は『総受給額の最大化と生活設計の安定の両立』 ということ。長生きリスクへの備えとしての繰下げ、早期受給による生活安定化としての繰上げ、両方の選択肢が用意されています。
それから、2022年4月改正で繰下げ受給の上限が70歳から75歳に拡大——最大増額率も42%から 84%に倍増 されました。
なぜそう言えるのか、3つの軸を順番に見ていきます。
早くもらうとどうなる?——繰上げ受給(60〜64歳)
繰上げ受給の基本ルール
繰上げ受給は、受給開始を本来の65歳より前倒し する制度。60歳から64歳 の範囲で1か月単位で選択できます。
繰上げ受給の基本ルール
減額率の計算と総受給額の影響
例えば 本来年額78万円(月6.5万円)の老齢基礎年金 を 60歳0か月で繰上げ受給 すると:
- 減額率 = 0.4% × 60か月 = 24%
- 繰上げ受給額 = 78万円 × (1 − 0.24) = 年額59.28万円(月4.94万円)
繰上げ受給の損益分岐年齢
| 繰上げ年齢 | 減額率 | 損益分岐年齢 |
|---|---|---|
| 60歳 | 24% | 約76歳 |
| 61歳 | 19.2% | 約77歳 |
| 62歳 | 14.4% | 約78歳 |
| 63歳 | 9.6% | 約79歳 |
| 64歳 | 4.8% | 約80歳 |
75歳以前に死亡 が見込まれる場合や、早期に生活基盤の安定が必要 な場合に繰上げ受給が有利となるケースがあります。
繰上げ受給の注意点
- 取消不可: 一度繰上げ請求すると取消不可、生涯減額が続く
- 障害年金請求不可: 繰上げ受給後は障害年金の新規請求ができない
- 遺族年金との併給制限: 65歳までは併給選択が必要となる場面あり
- 任意加入不可: 国民年金の任意加入ができなくなる
- 寡婦年金消滅: 国民年金の寡婦年金受給権が消滅する
遅らせると増える?——繰下げ受給(66〜75歳)
繰下げ受給の基本ルール
繰下げ受給は、受給開始を本来の65歳より遅らせる 制度。66歳から75歳 の範囲で1か月単位で選択できます。
繰下げ受給の基本ルール
増額率の計算と総受給額の影響
例えば 本来年額78万円の老齢基礎年金 を 75歳0か月で繰下げ受給 すると:
- 増額率 = 0.7% × 120か月 = 84%
- 繰下げ受給額 = 78万円 × 1.84 = 年額143.52万円
繰下げ受給の損益分岐年齢
| 繰下げ年齢 | 増額率 | 損益分岐年齢 |
|---|---|---|
| 66歳 | 8.4% | 約78歳 |
| 68歳 | 25.2% | 約80歳 |
| 70歳 | 42% | 約82歳 |
| 72歳 | 58.8% | 約84歳 |
| 75歳 | 84% | 約87歳 |
平均余命を超えて長生きする見込み がある場合、繰下げ受給で総受給額が大きく増えます。
トリビア:2022年4月改正で繰下げ受給の上限が70歳から75歳に拡大、最大増額率は42%から84%に倍増
繰下げ受給の上限は、2022年4月改正 で 70歳から75歳に拡大 されました。改正前 は最大繰下げ60か月(70歳)で 42%増 が上限でした。改正後 は最大繰下げ120か月(75歳)で 84%増 ——大幅な増額が可能になりました。改正背景 は、長寿命化により高齢期の所得確保ニーズが多様化していることと、就労継続による年金受給の柔軟化を促す政策的要請。75歳まで繰下げ可能 になったことで、健康で就労継続できる人にとっては大きな選択肢の拡大に。ただし注意点 として、繰下げ中は年金が支給されないため、生活費を別途確保する必要があります。75歳到達後は自動的に通常受給 に切り替わる仕組みです。
繰下げ受給の注意点
| 注意項目 | 内容 |
|---|---|
| 増額分の課税 | 繰下げ後の年金は所得税・住民税の対象(増額分も含む) |
| 社会保険料への影響 | 増額により国民健康保険料・後期高齢者医療保険料も増える |
| 遺族年金との関係 | 受給前死亡時は繰下げ前の額で遺族年金が計算 |
| 加給年金 | 繰下げ中は加給年金(配偶者・子の加算)が支給されない |
| iDeCoとの組合せ | 繰下げ中の生活費はiDeCo・退職金・貯蓄で対応する戦略あり |
税や保険料はどう変わる?——税・社会保険への影響
年金受給時の税金
公的年金は 雑所得(公的年金等) として 所得税・住民税 の課税対象です。
- 公的年金等控除: 65歳未満は60万円、65歳以上は110万円が最低控除
- 計算式: 年金収入 − 公的年金等控除 = 雑所得
- 所得税・住民税: 他の所得と合算して累進課税
- 源泉徴収: 年金支給時に所得税が源泉徴収される
- 確定申告不要制度: 年金収入400万円以下かつ他の所得20万円以下なら確定申告不要
社会保険料への影響
年金収入は 国民健康保険料・後期高齢者医療保険料・介護保険料 の算定基礎に含まれます。
| 保険料 | 影響 |
|---|---|
| 国民健康保険料(74歳まで) | 年金収入を含む所得で計算 |
| 後期高齢者医療保険料(75歳〜) | 年金収入を含む所得で計算 |
| 介護保険料 | 年金収入を含む所得で計算(年金天引き) |
| 増額の影響 | 繰下げで年金が増えると社会保険料も増える |
損益分岐の総合判断
私たちが取材したファイナンシャルプランナーの話では、「損益分岐年齢の単純比較だけでは不十分——税・社会保険料の増加分、就労収入との調整、健康状態、家族構成、他の資産状況を総合して判断すべき。65歳前後で年金事務所に相談するのが有効」とのこと。
- 年金の繰上げ・繰下げの核心は 基本ルール・損益分岐・税社会保険 の3軸
- 受給開始は 原則65歳、繰上げで60〜64歳、繰下げで66〜75歳の選択
- 繰上げ: 1か月あたり0.4%減、最大24%減(60歳受給開始)
- 繰下げ: 1か月あたり0.7%増、最大84%増(75歳受給開始)
- 2022年4月改正 で繰下げ上限が70歳→75歳、最大増額42%→84%
- 減額・増額 ともに 生涯にわたり継続——取消不可
- 繰上げの 損益分岐年齢 は約76〜80歳(受給開始から約16年)
- 繰下げの 損益分岐年齢 は約78〜87歳(受給開始から約12年)
- 繰上げの注意点: 障害年金請求不可・任意加入不可・寡婦年金消滅
- 繰下げの注意点: 加給年金不支給・社会保険料増・課税対象
- 公的年金は 雑所得(公的年金等) として課税
- 公的年金等控除: 65歳未満60万円、65歳以上110万円
- 確定申告不要制度: 年金400万円以下かつ他所得20万円以下
- 社会保険料も年金収入で計算——増額の影響あり
- iDeCo・退職金・貯蓄との 組合せ戦略 が重要
- 65歳前後で年金事務所に相談 が実務上の推奨
- 老齢基礎年金(国民年金)と老齢厚生年金(厚生年金)の両方が対象
- 加入歴・収入・健康状態・家族構成等の 総合判断 が必要
理解度チェック
ここまでの内容、どれくらい身についたかチェックしてみよう。
繰上げ受給について、正しい説明はどれか。
- 60〜64歳で月0.4%減・最大24%減となる生涯減額の仕組み
- 繰上げ受給は何度でも取消可能で再度通常受給に戻せる原則扱い
- 繰上げ受給後でも障害年金は新規に請求できる仕組みとなる原則
- 繰上げ受給は厚生年金のみで国民年金には適用されない仕組み扱い
解答は 1 である。
繰上げ受給は 60〜64歳の範囲で1か月単位で選択 できる制度。減額率は1か月あたり0.4%(2022年4月以降の請求分)、最大24%減(60歳0か月受給開始)。老齢基礎年金(国民年金)と老齢厚生年金(厚生年金)の両方 に適用される——両方を同時に繰上げる必要がある(片方のみは不可)。減額は生涯継続——一度減額された年金は 生涯にわたり減額 が続き、取消不可。障害年金の新規請求不可——繰上げ受給後は障害年金の請求ができない。任意加入不可——国民年金の任意加入ができなくなる。寡婦年金消滅——国民年金の寡婦年金受給権が消滅。遺族年金との併給制限 あり——65歳までは併給選択が必要となる場面あり。損益分岐年齢 は約76〜80歳——75歳以前に死亡が見込まれる場合や早期生活基盤確保が必要な場合に有利。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✓ 正解 | 繰上げの正しい仕組み |
| 2 | ✗ 誤り | 取消不可 |
| 3 | ✗ 誤り | 請求不可 |
| 4 | ✗ 誤り | 両年金対象 |
60〜64歳+月0.4%減+生涯減額——これが繰上げ受給の核心なのである。
繰下げ受給について、正しい説明はどれか。
- 繰下げ受給は2022年改正前から75歳までの繰下げが可能な原則
- 繰下げの最大増額率は42%固定で2022年改正でも据え置きの扱い
- 66〜75歳で月0.7%増・最大84%増となる生涯増額の仕組み
- 繰下げ中は加給年金が支給されるため待機しても損失はない原則扱い
解答は 3 である。
繰下げ受給は 66〜75歳の範囲で1か月単位で選択 できる制度。増額率は1か月あたり0.7%、最大84%増(75歳0か月受給開始)。2022年4月改正 で繰下げ上限が 70歳から75歳に拡大、最大増額率も 42%から84%に倍増 ——改正前は42%固定ではない。増額は生涯継続——一度増額された年金は生涯にわたり増額が続く。繰下げ中の注意点: ①加給年金が支給されない(配偶者・子の加算)、②社会保険料の増加(国民健康保険料・後期高齢者医療保険料・介護保険料)、③所得税・住民税の課税対象(増額分も含む)、④遺族年金との関係(受給前死亡時は繰下げ前の額で計算)。損益分岐年齢 は約78〜87歳——平均余命を超えて長生きする見込みがある場合に有利。iDeCo・退職金・貯蓄との組合せ戦略 で繰下げ中の生活費を確保する設計が実務上推奨される。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ 誤り | 2022年改正で拡大 |
| 2 | ✗ 誤り | 42%→84% |
| 3 | ✓ 正解 | 繰下げの正しい仕組み |
| 4 | ✗ 誤り | 加給年金不支給 |
66〜75歳+月0.7%増+最大84%増——これが繰下げ受給の核心なのである。
年金受給時の税・社会保険への影響について、正しい説明はどれか。
- 公的年金は非課税で所得税や住民税の対象とならない原則ルール扱い
- 公的年金は雑所得として課税され社会保険料も年金所得で算定
- 確定申告は必ず必要で年金額にかかわらず免除制度はない仕組み
- 繰下げで増額しても社会保険料には影響しないとされる原則の扱い
解答は 2 である。
公的年金は 雑所得(公的年金等) として 所得税・住民税の課税対象。公的年金等控除 があり、65歳未満は60万円、65歳以上は110万円が最低控除——年金収入から控除を差し引いた額が雑所得となる。他の所得と合算して累進課税——年金支給時に所得税が源泉徴収される。確定申告不要制度: 年金収入400万円以下 かつ 他の所得20万円以下なら確定申告不要——必ず申告が必要なわけではない。社会保険料への影響: 国民健康保険料・後期高齢者医療保険料・介護保険料はすべて 年金収入を含む所得で計算 ——繰下げで年金が増えると社会保険料も増える。75歳以降は後期高齢者医療保険料——介護保険料は年金から天引き(特別徴収)される。損益分岐の総合判断 には、税・社会保険料の増加分・就労収入との調整・健康状態・家族構成・他の資産状況の総合考慮が必要——年金事務所への相談が実務上推奨される。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ 誤り | 課税対象 |
| 2 | ✓ 正解 | 税社会保険の正しい仕組み |
| 3 | ✗ 誤り | 不要制度あり |
| 4 | ✗ 誤り | 影響あり |
雑所得課税+社会保険料への影響——これが税社会保険の核心なのである。
おわりに
年金の繰上げ・繰下げは、知っているか知らないかで老後の総受給額が大きく変わる典型例です。今日見た3つの基本——基本ルール・損益分岐・税社会保険——を覚えておけば、受給開始の判断から実際の生活設計まで、年金受給者としての判断軸が手に入ります。
自分の権利を知るというのは、誰かに任せきりにするのではなく、自分で判断できる材料を持つこと。法律はそのための道具です。
年金の繰上げ・繰下げは、国民年金法・厚生年金保険法・所得税法・社会保険諸法が交錯する分野。年金事務所・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー・税理士・法テラス——相談先や活用のサポートは意外と多くあります。気になることがあれば、まず話を聞いてもらうところから始めるのがおすすめです。
法律の論点はパターン化しやすい分野。スキマ時間で1問ずつ感触を掴みたい方は、シカクエのアプリも選択肢のひとつです。
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