損失補償とは(全体像)
損失補償とは、適法な公権力の行使によって、特定の個人に特別の犠牲を課した場合に、公平負担の観点から、その損失を金銭で補償する制度のこと。憲法は「私有財産は、正当な補償の下に、公共のために用いることができる」と定めており、これがよりどころになる。
ここで最も重要なのが、国家賠償との違いだ。
国家賠償 … 違法な行為による損害を賠償する。
損失補償 … 適法な行為による損失を補償する。
たとえば、公共事業のために土地を収用するのは適法だが、土地を手放す人には特別の犠牲が生じる。これを埋め合わせるのが損失補償だ。違法だから賠償する国家賠償とは、出発点がまったく違う。
詳しく:特別の犠牲と、補償の程度
ここが心臓部。補償が要る場面(特別の犠牲)と、正当な補償の意義を押さえる。
国家賠償と損失補償の違い
| 区分 | 国家賠償 | 損失補償 |
|---|---|---|
| 対象 | 違法な行為による損害 | 適法な行為による損失 |
| 趣旨 | 違法行為のてん補 | 公平な負担の調整 |
まず特別の犠牲。補償が必要になるのは、特定の人に特別の犠牲(通常受けるべき範囲を超えた、特別の負担)を課したときだ。公益のための一般的な規制(みんなが受ける程度の制約)にとどまるなら、受忍限度内として補償は不要。「財産権が制約されたら必ず補償」ではない、という点が重要だ。
次に、正当な補償の意義をめぐる考え方の対立だ。
正当な補償をめぐる2つの考え方
| 説 | 内容 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 相当補償説 | 客観的に合理的な額(市場価格に基づく相当な額)で足りる | 判例 |
| 完全補償説 | 完全な市場価格・生じた損失の全部を補償すべき | 通説 |
「正当な補償」がどこまでを指すかについては、相当補償説(合理的な額で足りる)と完全補償説(完全に補償すべき)が対立している。判例は相当補償説、通説は完全補償説、という整理を押さえる。
わかりやすく言い換えると
つまり損失補償は「適法だけれど特別の犠牲を負わせたから、公平のために金銭で埋め合わせる」制度。違法への国家賠償とは別物。補償が要るのは特別の犠牲があるときだけで、正当な補償の意味には説の対立がある。
要するに押さえどころは2つ。①損失補償は適法行為への補償で、違法行為への国家賠償とは決定的に異なる、②補償が必要なのは特別の犠牲があるときに限られる(あらゆる財産権制約に必要ではない)。
試験のツボ
🔴 一番出る:国家賠償との違い
①国家賠償は違法行為への賠償、損失補償は適法行為への補償
②出発点がまったく異なる
🔴 次に出る:特別の犠牲
補償が必要なのは特別の犠牲があるときだけ。一般的な規制(受忍限度内)は補償不要。
🟡 押さえると安定:正当な補償の意義
相当補償説(判例)と完全補償説(通説)が対立している。
よくある間違い
①「損失補償と国家賠償は、同じ制度である」→ ✗ 損失補償は適法行為への補償、国家賠償は違法行為への賠償で、本質的に異なる。
②「あらゆる財産権の制約に、損失補償が必要である」→ ✗ 補償が必要なのは、特別の犠牲を課したときに限られる。
③「損失補償は、違法な行為による損害をてん補する制度である」→ ✗ 損失補償は適法行為への補償。違法行為への対応は国家賠償。
試験での出題パターン
実際の問題でたしかめてみよう。
オリジナル問題1(損失補償の意味)
損失補償に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 損失補償とは、違法な公権力の行使による損害をてん補する制度をいう
- 損失補償は、適法な公権力の行使で特別の犠牲を課したときの金銭補償
- 損失補償とは、私人どうしの契約違反を補償する制度をいうものとされる
- 損失補償とは、刑罰として財産を取り上げる制度をいうものとされる
解答は 2 だ。
損失補償は、適法な公権力の行使で特別の犠牲を課したときに、公平の観点から金銭で補償する制度だ。
選択肢1の「違法な行使」、選択肢3の「私人間の契約違反」、選択肢4の「刑罰」は、いずれも誤りだ。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ | 違法行為は国家賠償の対象 |
| 2 | ✓ | 適法行為で特別の犠牲への補償で正しい |
| 3 | ✗ | 私人間の契約とは別 |
| 4 | ✗ | 刑罰とは別 |
オリジナル問題2(国家賠償との違い)
損失補償と国家賠償の違いに関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 損失補償と国家賠償は、まったく同じ制度であるとされている
- 損失補償は違法行為への対応で、国家賠償と同じものとされる
- 損失補償も国家賠償も、どちらも違法行為だけを対象とするとされる
- 損失補償は適法行為への補償で、違法行為への国家賠償とは異なる
解答は 4 だ。
損失補償は適法行為への補償で、違法行為への国家賠償とは決定的に異なる。出発点が違うぞ。
選択肢1の「同じ制度」、選択肢2の「違法行為への対応」、選択肢3の「どちらも違法行為」は、いずれも誤りだ。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ | 適法か違法かで本質的に異なる |
| 2 | ✗ | 損失補償は適法行為への補償 |
| 3 | ✗ | 損失補償は適法行為が対象 |
| 4 | ✓ | 適法行為への補償で国賠と異なり正しい |
オリジナル問題3(特別の犠牲)
損失補償が必要となる場合に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 損失補償が必要となるのは、特別の犠牲を課したときに限られる
- あらゆる財産権の制約に、当然に損失補償が必要であるとされている
- 損失補償は、財産権の制約がまったくなくても必要とされる
- 特別の犠牲がなくても、損失補償は必ず必要になるものとされる
解答は 1 だ。
損失補償が必要になるのは、特別の犠牲を課したときに限られる。一般的な規制(受忍限度内)なら補償は要らないぞ。
選択肢2の「あらゆる制約に当然」、選択肢3の「制約がなくても」、選択肢4の「特別の犠牲がなくても」は、いずれも誤りだ。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✓ | 特別の犠牲のときに限り正しい |
| 2 | ✗ | あらゆる制約に必要ではない |
| 3 | ✗ | 制約による特別の犠牲が前提 |
| 4 | ✗ | 特別の犠牲が要件 |
まとめ
押さえどころ
- 🔴 意味 = 適法な公権力の行使で特別の犠牲を課したとき、公平の観点から金銭で補償する制度。
- 🔴 国家賠償との違い = 国家賠償は違法行為、損失補償は適法行為への対応。本質的に異なる。
- 🟡 特別の犠牲と補償説 = 補償が要るのは特別の犠牲のときだけ。正当な補償は相当補償説(判例)と完全補償説(通説)が対立。
次に学ぶ
- 国家賠償法1条 ── 違法行為への賠償。適法行為への損失補償と対比する。
- 事情判決 ── 違法宣言と損害賠償。救済のしくみを横断で押さえる。
- 国家賠償法2条 ── 営造物の瑕疵による無過失責任。救済の全体像を押さえる。
執筆: SikakuQuest編集部