裁量権の逸脱・濫用とは(全体像)
裁量権の逸脱・濫用とは、行政の裁量の行使が違法と評価される場合の基準のこと。行政事件訴訟法は、裁量権の逸脱・濫用があったとき、その処分を取り消せるとしている。
つまり、裁量があっても自由ではなく、行きすぎた判断は裁判所のチェックを受ける。逸脱・濫用は2つに分けて押さえる。
- 逸脱(踰越) … 裁量の範囲そのものを超えた行為。
- 濫用 … 裁量の範囲内ではあるが、目的違反・不当な考慮など、判断のしかたが不当な行為。
ざっくり言うと、逸脱は「枠からはみ出した」、濫用は「枠の中だが、ねじ曲げて使った」というイメージ。
詳しく:逸脱と濫用、そして濫用の類型
ここが心臓部。逸脱と濫用の違いと、濫用にあたる典型を押さえる。
逸脱と濫用の違い
| 区別 | 内容(やさしく言うと) |
|---|---|
| 逸脱(踰越) | 裁量の範囲そのものを超えた |
| 濫用 | 範囲内だが、判断のしかたが不当 |
逸脱は「与えられた裁量の枠を超えた」こと、濫用は「枠の中だが使い方が不当」なこと。どちらも違法として取り消しの対象になる。
濫用にあたる典型を、具体例で押さえる。
裁量権の濫用にあたる主な類型
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| 目的違反・動機の不正 | 本来の目的と違う目的で権限を使う |
| 他事考慮 | 考慮してはいけない事情を考慮する |
| 考慮すべき事項の不考慮 | 当然考えるべき事情を考えない |
| 平等原則・比例原則違反 | 不合理な差別や、行きすぎた手段 |
| 社会通念上著しく妥当性を欠く | 常識的に見て明らかにおかしい |
たとえば、道路拡幅のために貴重な名木を伐採しようとした事件では、考慮すべき文化財の価値を軽視し、考えなくてよい事情を重く見たとして、裁量権の濫用で違法とされた(他事考慮・考慮すべき事項の軽視)。
わかりやすく言い換えると
つまり、裁量権の逸脱・濫用は「裁量のチェックポイント」。逸脱は「枠を超えた」、濫用は「枠の中だが使い方がおかしい」。
濫用の典型は「考えるべきことを考えず、考えなくていいことを考えた(他事考慮)」など。要するに、裁量があっても、判断のしかたが不当なら取り消せる、と覚えるとよい。
試験のツボ
🔴 一番出る:逸脱・濫用があれば取り消せる
行政事件訴訟法により、裁量権の逸脱・濫用があれば、処分を違法として取り消せる。
🔴 次に出る:逸脱と濫用の区別
①逸脱 = 裁量の範囲を超えた
②濫用 = 範囲内だが判断のしかたが不当
🟡 押さえると安定:濫用の典型
目的違反・他事考慮・考慮すべき事項の不考慮・比例原則違反などが濫用にあたる。
よくある間違い
①「裁量権の行使は、どんな場合も司法審査の対象にならない」→ ✗ 逸脱・濫用があれば、違法として取り消せる。
②「逸脱と濫用はまったく同じ意味」→ ✗ 逸脱は範囲を超えること、濫用は範囲内での不当な判断。別の概念。
③「考慮すべき事項を考えなくても、裁量だから違法にならない」→ ✗ 考慮すべき事項の不考慮は、濫用にあたり違法になりうる。
試験での出題パターン
実際の問題でたしかめてみよう。
オリジナル問題1(逸脱・濫用の効果)
裁量権の逸脱・濫用に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 裁量権の逸脱・濫用があれば、その処分は違法なものとして取り消すことができる
- 裁量権の逸脱・濫用があっても、処分が取り消されることはないものとされている
- 裁量権の逸脱・濫用は、行政機関が自由に判断してよいことを意味するものとされる
- 裁量権の逸脱・濫用は、裁判所が処分を自由に作り直せることを意味するものとされる
解答は 1 である。
裁量権の逸脱・濫用があれば、その処分は違法として取り消せるのである。行政事件訴訟法がそう定めているのだ。
選択肢2の「取り消されない」、選択肢3の「自由に判断してよい」、選択肢4の「裁判所が自由に作り直せる」は、いずれも誤りである。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✓ | 逸脱・濫用があれば取り消せるで正しい |
| 2 | ✗ | 取り消しの対象になる |
| 3 | ✗ | 自由な判断を許す意味ではない |
| 4 | ✗ | 裁判所が作り直すのではない |
オリジナル問題2(逸脱と濫用の区別)
裁量権の逸脱と濫用の区別に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 逸脱も濫用も、裁量の範囲を超えることだけを意味する点で同じであるものとされる
- 逸脱は範囲内での不当な判断、濫用は範囲を超える行為を意味するものとされている
- 逸脱も濫用も、裁量の範囲内での適法な判断を意味するものとされている
- 逸脱は裁量の範囲を超える行為であり、濫用は範囲内での不当な判断を意味する
解答は 4 である。
逸脱は裁量の範囲を超える行為、濫用は範囲内での不当な判断を意味するのである。枠を超えたのが逸脱、枠の中で使い方がおかしいのが濫用、と区別せよ。
選択肢1の「同じ」、選択肢2の逸脱と濫用が逆、選択肢3の「適法な判断」は、いずれも誤りである。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ | 逸脱と濫用は別の概念 |
| 2 | ✗ | 逸脱と濫用の説明が逆 |
| 3 | ✗ | どちらも違法を指す |
| 4 | ✓ | 逸脱は範囲超過・濫用は不当な判断で正しい |
オリジナル問題3(濫用の類型)
裁量権の濫用にあたる場合に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 考慮すべき事項を考えなくても、広い裁量があれば違法にならないものとされている
- 考慮すべき事項を考えず、考慮すべきでない事情を考えると、濫用として違法になる
- 本来の目的と違う目的で権限を使っても、濫用にはあたらないものとされている
- 行きすぎた手段で目的を達しても、比例原則の問題は生じないものとされている
解答は 2 である。
考慮すべき事項を考えず、考慮すべきでない事情を考えると(他事考慮・考慮事項の不考慮)、裁量権の濫用として違法になりうるのである。名木の伐採が争われた事件が好例だ。
選択肢1の「違法にならない」、選択肢3の「目的違反は濫用にあたらない」、選択肢4の「比例原則の問題は生じない」は、いずれも誤りである。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ | 考慮すべき事項の不考慮は濫用 |
| 2 | ✓ | 他事考慮・考慮事項の不考慮は濫用で正しい |
| 3 | ✗ | 目的違反は濫用にあたる |
| 4 | ✗ | 行きすぎた手段は比例原則違反になりうる |
まとめ
押さえどころ
- 🔴 逸脱・濫用があれば取り消せる = 行政事件訴訟法により、裁量権の逸脱・濫用があれば違法として取り消せる。
- 🔴 逸脱と濫用の区別 = 逸脱は裁量の範囲を超えた行為、濫用は範囲内での不当な判断。
- 🟡 濫用の典型 = 目的違反・他事考慮・考慮すべき事項の不考慮・比例原則違反など。
次に学ぶ
- 行政裁量 ── 逸脱・濫用が問題になる「裁量」そのもの。セットで押さえる。
- 法律による行政の原理 ── 行政が法律にしたがう枠組み。裁量の限界の背景になる。
- 違憲審査権 ── 裁判所が権力をチェックするしくみ。裁量の司法審査につながる。
執筆: SikakuQuest編集部