目安は「800〜1000時間」——まず正体を知る
行政書士の合格に必要な勉強時間は、よく「800〜1000時間」と言われます。
数字だけ見ると、たしかに大きい。「そんなに…」と、最初の一歩をためらってしまう気持ちは、よく分かります。
ただ、この数字は、あくまで目安です。法律をまったく学んだことのない人が、ゼロから合格圏に入るまでの、おおよその総量。すでに法律に触れたことのある人なら、もっと短くなることもあります。逆に、ていねいに進めたい人なら、もう少しかかることもある。
つまり、「800時間」はゴールの距離を示す、ざっくりした地図のようなもの。正確な数字に縛られるより、「だいたいこれくらいの道のりなんだな」と、心の準備をするために使うのがちょうどいいんです。
正直なところ、編集部としても、この手の「必要時間」は、固く受け取りすぎないほうがいいと思っています。大事なのは、数字に怯えることではなく、その距離をどう歩くか、ですから。
なお、必要な時間は人によって本当に幅があります。自分の出発点しだいで前後する、というくらいの気持ちで受け止めておくと、気が楽になります。
大きな数字を、割り算でほぐす
では、その800時間を、実際の暮らしに落とし込んでみましょう。ここがいちばん大事なところです。
たとえば、1日に2時間。これを1年続けると、どうなるか。2時間 × 365日で、730時間。それだけで、もう800時間の大半に届いてしまいます。
「1日2時間なんて無理」と感じるかもしれません。でも、これも分けて考えれば、案外いけるものです。通勤の電車で30分、昼休みに30分、寝る前に1時間。こうして足し合わせると、まとまった机の時間を取らなくても、2時間は積み上がっていきます。
もし1年で730時間に届くなら、1年半かければ、もっと余裕を持って1000時間に近づけます。期間を少し長く取るだけで、1日あたりの負担はぐっと軽くなる。これも、割り算が教えてくれる事実です。
要するに、800時間という数字は「一気に登る崖」ではなく、「毎日少しずつ進む坂道」。分けてしまえば、ふつうの暮らしのなかに、ちゃんと収まるんです。
大切なのは「総量」より「続け方」
ここで、もう一つ大事な話をします。同じ800時間でも、「どう使うか」で、定着の度合いはまるで変わる、ということです。
学習について、よく言われることがあります。一度にまとめて詰め込むより、間隔をあけて何度も繰り返すほうが、記憶に残りやすい——心理学では「間隔反復」と呼ばれる考え方です。
たとえば、ある論点を1日でまとめて10時間やるより、1時間ずつ10日に分けて触れるほうが、忘れにくい。人の記憶は、いったん忘れかけたものを思い出す、その繰り返しで強くなっていくと言われています。
記憶は「詰め込む」より「思い出す」で強くなる。間隔をあけて何度も繰り返す——この積み方こそ、同じ時間を何倍にも活かす鍵なのである。
これは、行政書士の勉強と、とても相性がいい考え方です。たとえば、民法の物権変動のような、最初はとっつきにくい論点も、一度で完璧にしようとせず、何日かに分けて繰り返し戻ってくる。そのほうが、結局は早く身につきます。
シカクエが「1日に少しずつ」という設計になっているのも、この考え方を応用したもの。毎日ちょっとずつ思い出す習慣が、長い目で見ていちばん効く、というわけです。
だから、「まとまった時間が取れないから無理」と諦める必要はありません。むしろ、細切れに、毎日触れるほうが、記憶には優しい。時間が分散することは、弱点ではなく、味方になり得るんです。
時間を、どこに厚く配るか
800時間を、すべての科目に均等にばらまく必要はありません。むしろ、配り方にメリハリをつけるのが、賢い使い方です。
行政書士試験で点の多くを生むのは、行政法と民法。だから、勉強時間も、まずこの二つに厚く配るのが王道です。たとえば、役所が定めるルールを扱う行政立法のような行政法の定番論点には、しっかり時間をかける価値があります。
一方で、憲法・商法・基礎法学は、配点でいえば脇役。深入りしすぎず、「出るところ」を押さえる程度でかまいません。すべてを完璧にしようとすると、時間がいくらあっても足りなくなります。
民法のなかにも、強弱はあります。よく出る基本論点には厚く、たとえば心裡留保のような「例外として押さえればいい」ところは、ほどほどに。こうした見極めが、限られた時間を生かすコツです。
つまり、800時間を「どこに使うか」を最初に決めておく。これだけで、同じ時間でも、得点への効き方がまるで変わってきます。
なお、配分はあくまで目安です。学習が進んで苦手が見えてきたら、そのつど厚みを移していくくらいの柔らかさで考えておくと、最後まで無理なく走り切れます。最初に完璧な配分を決めようとせず、走りながら微調整するほうが、現実的です。
社会人でも、主婦でも、ちゃんと届く
「800時間」と聞いて尻込みするのは、多くの場合、まとまった時間が取れない社会人や、家事・育児に追われる方です。でも、ここまで見てきたとおり、その不安には答えがあります。
まず、時間は割り算でほぐせる。一日2時間も、細切れに足せば届く。そして、その細切れこそが、間隔反復という意味で、むしろ記憶に効く。つまり、忙しい人のスキマ時間は、不利どころか、理にかなった学び方なんです。
実際、行政書士の合格者には、働きながら、あるいは家のことをしながら、コツコツ積み上げた人がたくさんいます。彼らに共通するのは、特別な才能ではなく、「やめなかったこと」。一日の量は小さくても、続けた人が、最後に線を越えています。
大事なのは、完璧な計画より、続く仕組み。「朝のコーヒーを淹れたら、問題を5問」のように、すでにある習慣に勉強をくっつけると、意志の力に頼らず続けやすくなります。
だから、「時間がないから無理」と最初から諦めるのは、もったいない。あなたの一日のなかにも、拾い集められるかけらは、きっとあります。
いつから始める?——逆算で、ゆるく計画する
必要な時間がだいたい見えたら、次に気になるのは「いつから始めればいいのか」でしょう。ここも、難しく考えなくて大丈夫です。
行政書士試験は、例年11月。仮に1年で800時間を目指すなら、前の年の秋から冬に始めれば、ちょうどよいペースになります。1日2時間を、無理のない範囲で。半年で詰めたいなら1日の量を増やし、ゆっくりいきたいなら1年半に伸ばす。期間と1日の量は、シーソーのように調整できます。
ここで大切なのは、計画をきっちり作り込みすぎないこと。最初に分刻みの完璧な予定を立てても、たいてい途中でずれていきます。予定どおりに進まないと、人は「自分には向いていない」と感じて、足を止めてしまいがち。それがいちばん、もったいないんです。
だから、計画はざっくりでいいんです。「今月はここまで」「今週はこのあたり」くらいの、ゆるい目印を置く。多少ずれても、また戻ればいい。完璧な計画より、ずれても立て直せる計画のほうが、結局は長く続きます。
そしてもう一つ。最初の数週間は、点数や進み具合を気にしすぎないこと。はじめは誰でも、思うように進みません。でも、続けているうちに、少しずつ景色が変わってきます。その変化を信じて、まずは「やめない」ことだけを目標にする。それで十分なんです。
「800時間」を怖がらないために
最後に、いちばん伝えたいことを。
800〜1000時間という数字は、たしかに小さくありません。でも、それは「越えられない壁」ではなく、「毎日の積み重ねが、いつのまにか届く距離」です。
数字を一かたまりで見ると、人は怯みます。でも、割り算でほぐし、続け方を工夫し、配りどころを見極めれば、その距離は、ふつうの暮らしのなかにちゃんと収まる。
それに、800時間という時間は、ただ消えていくわけではありません。そのあいだに身につく法律の知識は、合格した後も、暮らしや仕事のなかでずっと役に立ちます。試験のためだけに費やす時間ではなく、自分のなかに積み上がっていく財産。そう考えると、同じ800時間でも、ずいぶん前向きに向き合えるはずです。
個人的には、行政書士の勉強時間は「才能を問う数字」ではなく、「続けた人を裏切らない数字」だと思っています。一日のかけらを、明日へ、また明日へとつないでいく。その先に、800時間という道のりの、ゴールが待っています。
理解度チェック
ここまでの内容、どれくらい身についたかチェックしてみよう。
行政書士の勉強時間の目安として、正しいものはどれか。
- 目安はおおむね八百〜千時間ほどとされる
- 一夜漬けの数時間あれば十分に間に合う
- 一万時間を超えなければ合格はできない
- 必要な時間は人により全く読めないものだ
解答は 1 である。
法律をゼロから学ぶ場合、合格までの目安はおおむね800〜1000時間。つまり、大きく見えても、割り算すれば届く範囲なのだ。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✓ 正解 | 800〜1000時間が一つの目安 |
| 2 | ✗ 誤り | 数時間では到底足りない |
| 3 | ✗ 誤り | 一万時間は過大である |
| 4 | ✗ 誤り | 目安として幅は示されている |
要するに、数字は「怯えるため」ではなく「道のりを測るため」に使うのである。
記憶を定着させる学び方として、正しいものはどれか。
- 短期間にまとめて詰め込むのがいちばん効く
- 試験の前日だけ集中すれば十分に残る
- 間隔をあけて繰り返すほど記憶に定着する
- 一度覚えたことは決して忘れないものだ
解答は 3 である。
記憶は「詰め込む」より「思い出す」で強くなる。わかりやすく言い換えると、間隔をあけて何度も繰り返すほど、定着しやすいのだ。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ 誤り | 詰め込みは忘れやすい |
| 2 | ✗ 誤り | 前日だけでは定着しにくい |
| 3 | ✓ 正解 | 間隔反復が記憶に効く |
| 4 | ✗ 誤り | 人は復習しないと忘れる |
つまり、細切れの時間は弱点ではなく、むしろ記憶の味方になるのである。
忙しい社会人が勉強時間を確保する考え方として、正しいものはどれか。
- 毎日まとまった休みがなければ不可能だ
- 毎日少しずつ積み上げれば社会人でも届く
- 専業で勉強に専念しなければとても届かない
- 才能のある人しか必要時間をこなせない
解答は 2 である。
通勤・昼休み・寝る前——細切れの時間を足せば、社会人でも一日2時間は積み上がる。つまり、続けられる人が、最後に線を越えるのだ。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ 誤り | 細切れの時間でも積み上がる |
| 2 | ✓ 正解 | 少しずつの積み上げで届く |
| 3 | ✗ 誤り | 専業でなくても合格できる |
| 4 | ✗ 誤り | 才能ではなく継続が効く |
要するに、忙しさは言い訳ではなく、工夫のしどころなのである。
「800時間、思っていたより怖くなくなった」と感じてもらえたなら、編集部としてはとても嬉しいです。
数字は割り算でほぐせて、細切れの時間はむしろ記憶の味方になる。大事なのは、完璧な計画より、明日も続く小さな習慣です。
その「毎日5問」の習慣づくりに、すきま時間で解けるシカクエのアプリも選択肢の一つです。通勤の途中でも寝る前でも、5分から触れられます。
もちろん、市販のテキストでじっくり独学するのも、まったく問題ありません。
次に読むなら、こんな記事もどうぞ。
→ 行政立法 — 時間を厚く配りたい、行政法の中心となる論点 → 物権変動 — 繰り返し戻って身につけたい、民法の重要テーマ → 心裡留保 — 例外として押さえればよい、民法の意思表示の論点