傷病(補償)等年金とは何か(本質)
条文の趣旨
療養が長引き、重い障害が続いたまま治らない場合がある。労災保険法は、その状態を捉えて、休業の日額補填から年金へと支えを切り替える給付を置いている。
療養の開始後1年6か月を経過した日又はその日後において、傷病が治っておらず、かつ障害の程度が傷病等級に該当するとき、傷病(補償)等年金が支給される(業務災害は労災保険法12条の8第1項6号・同条3項・18条、複数業務要因災害は20条の8、通勤災害は23条)(傷病(補償)等年金の要旨)。
核心は 「治らないまま重い障害が続く期間を、年金で安定して支える」 という設計。休業(補償)等給付が日額の所得補填であるのに対し、こちらは長期化した状態に対する年金。請求ではなく職権で決まる点も特徴である、と押さえる。
わかりやすく言い換えると
要するに「労災のケガ・病気が1年半たっても治らず障害が重いとき、休業給付に代えて支給される年金」。本人が申請しなくても国の側から支給が決まる、と押さえると整理しやすい。
試験での位置付け
傷病(補償)等年金は、労災保険給付で頻出の論点。支給要件(1年6か月・未治ゆ・傷病等級)、職権による支給決定、休業(補償)等給付や療養(補償)等給付との関係、障害(補償)等給付との区別が、横断的に問われる。
なぜ重要か
出題の傾向
傷病(補償)等年金をめぐる出題は、おおむね三つの形に整理できる。
- 要件型: 療養開始後1年6か月・治っていない・傷病等級該当の3点を問う
- 手続型: 労働者の請求ではなく労基署長の職権で支給決定される点を問う
- 関係型: 休業(補償)等給付は行われず療養(補償)等給付は併給される点を問う
押さえるとどう効くか
ここをつかんでおくと、療養が長引いたときの給付の流れがつながる。働けない間は 休業(補償)等給付 が支え、1年6か月で傷病等級に該当すると傷病(補償)等年金へ切り替わり、治療そのものは 療養(補償)等給付 が続く、という形で押さえると、給付の全体像が定着する。
関連論点との接続
傷病(補償)等年金は、複数の論点と接続している。
- 休業(補償)等給付(労災保険法14条)── 傷病年金が支給される間は行われない
- 療養(補償)等給付(労災保険法13条)── 治っていないため引き続き併給される
- 障害(補償)等給付(労災保険法15条)── 治ゆ後に障害が残った場合の給付
「長期化した重い状態を年金で支える」という枠の中で、傷病(補償)等年金は治ゆ前の継続的な支えを担っている。
詳細解説
傷病(補償)等年金は、三つの軸 で分解すると整理しやすい。第1軸「名称と支給要件」、第2軸「年金額と特別支給金」、第3軸「他の給付との関係」。順に押さえれば、要件問題も関係問題も落ち着いて解ける。
ポイント1: どんな要件で支給されるのか ── 1年6か月・未治ゆ・傷病等級
災害ごとの名称と要件、決定方法を押さえる。
災害の種類と支給要件
| 区分 | 内容と根拠 |
|---|---|
| 業務災害 | 傷病補償年金(労災保険法12条の8第1項6号・18条) |
| 複数業務要因災害 | 複数事業労働者傷病年金(20条の8) |
| 通勤災害 | 傷病年金(労災保険法23条) |
| 支給要件 | 療養開始後1年6か月経過後も治っておらず、傷病等級(第1〜第3級)に該当 |
| 支給決定 | 労働者の請求でなく所轄労基署長の職権による |
ポイントは、療養開始後1年6か月を経過した日又はその後において、傷病が治っておらず、かつ障害の程度が傷病等級に該当するとき、職権で支給される こと。要件は、療養開始後1年6か月の経過、その時点で傷病が治っていないこと、障害の程度が傷病等級(第1級〜第3級)に該当することの3点である(12条の8第3項)。本人の請求による給付ではなく、所轄労働基準監督署長が職権で支給決定し、1年6か月を経過しても治っていないときは原則としてその日後1か月以内に傷病の状態等に関する届書を提出する。
ポイント2: 年金額や特別支給金はいくらか ── 313・277・245日分
支給される額を押さえる。
年金額と特別支給金
ここは 「年金額は傷病等級に応じ給付基礎日額の313日分・277日分・245日分で、別に傷病特別支給金(一時金)と傷病特別年金がある」 という枠を押さえるのが要。傷病(補償)等年金の額は、傷病等級第1級が給付基礎日額の313日分、第2級が277日分、第3級が245日分である(18条1項が別表第一に委任し、別表第一で定める)。これに加え、社会復帰促進等事業として一時金の傷病特別支給金(第1級114万円・第2級107万円・第3級100万円)と、算定基礎日額を基礎とする傷病特別年金が支給される。
ポイント3: 他の給付とどう関係するのか ── 休業は不支給、療養は併給、障害は治ゆ後
他の給付との関係を押さえる。
他の給付との関係
| 論点 | 整理 |
|---|---|
| 休業(補償)等給付 | 傷病(補償)等年金が支給される間は行われない(18条2項) |
| 療養(補償)等給付 | 治っていないため引き続き併給される |
| 障害(補償)等給付 | 治ゆ後に障害が残った場合の給付。傷病年金は治ゆ前 |
| 切替えの位置 | 休業(補償)等給付からの移行先 |
| 治ゆの前後 | 治ゆ前は傷病(補償)等年金、治ゆ後は障害(補償)等給付 |
ポイントは、傷病(補償)等年金が支給される間は休業(補償)等給付は行われないが、傷病は治っていないため療養(補償)等給付は引き続き併給され、治ゆ後に障害が残れば障害(補償)等給付の問題となる こと。傷病(補償)等年金を受ける者には休業(補償)等給付は行われない(18条2項)。一方、傷病が治っていない以上、治療そのものを保障する療養(補償)等給付は続く。治ゆ前で重い障害が続く状態が傷病(補償)等年金、治ゆ後に障害が残った状態が障害(補償)等給付であり、治ゆの前後で給付が分かれる。
ポイント4: 哲学コラム ── 傷病年金が映す「長期化した状態を取りこぼさない設計」
傷病(補償)等年金という仕組みは、単なる長期療養者への上乗せではなく、「治らないまま重い状態が続く人を、支えの切れ目なく拾い上げる」という設計思想 を映している。法は休業の日額補填が長期に及ぶ前に年金へ切り替え、しかも本人の請求を待たず職権で支給を決め、治療の保障も同時に続けた。請求を待たずに支え、治療と所得を切らさなかったのも、長く苦しむ状態が手続の谷間に落ちないようにするためだ。支えの切れ目を作らない ── どれも「働く人が長く治らなくても、支えが確かに続く」ことを実現するための仕組みだ。シカクエが「仕組みで攻略する」と伝えているのは、こうした趣旨ごと理解すると、暗記が記憶として根づき、応用が利くようになるからだ。
傷病(補償)等年金の総整理
ここまでを整理する。第1に名称と要件(業務=傷病補償年金・複数業務要因=複数事業労働者傷病年金・通勤=傷病年金/1年6か月・未治ゆ・傷病等級・職権)、第2に年金額と特別支給金(313・277・245日分/傷病特別支給金一時金114・107・100万円/傷病特別年金)、第3に他の給付との関係(休業は不支給・療養は併給・障害は治ゆ後)。この軸を順に当てはめれば安定して解ける。
よくある間違い・注意点
間違いパターン1: 「傷病(補償)等年金は労働者の請求により支給される」
これは誤り。傷病(補償)等年金は労働者の請求による給付ではなく、所轄労働基準監督署長の職権で支給決定される。請求によると取り違えない。
間違いパターン2: 「傷病(補償)等年金が支給されると療養(補償)等給付も打ち切られる」
これも誤り。傷病(補償)等年金が支給される間は休業(補償)等給付は行われないが、傷病は治っていないため療養(補償)等給付は引き続き併給される。療養給付まで打ち切られると取り違えない。
業務災害は傷病補償年金、通勤災害は傷病年金。要件は1年6か月経過・未治ゆ・傷病等級該当。請求でなく職権で決定。休業(補償)等給付は不支給、療養(補償)等給付は併給。「請求により支給」「療養給付も打切り」「治ゆ後の給付」はいずれも誤り。
間違いパターン3: 「傷病(補償)等年金は傷病が治った後に支給される給付である」
これも誤り。傷病(補償)等年金は治ゆ前の給付で、傷病が治っていないことが要件である。治ゆ後に障害が残った場合は障害(補償)等給付の問題となる。治ゆの前後を取り違えない。
似た用語との違い
障害(補償)等給付 は傷病が治った後に残った障害に対する給付、傷病(補償)等年金は治ゆ前で重い障害が続く状態に対する給付 ── 治ゆの前か後かが違う、と並べて押さえると混ざらない。
試験での出題パターン
完全自作のオリジナル問題で確認する。過去問そのままではない。
オリジナル問題1(基本論点)
労災保険法の傷病(補償)等年金に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 傷病(補償)等年金は療養開始後6か月で治らないとき支給される給付である
- 傷病(補償)等年金は傷病が治った後に残った障害に対し支給する給付である
- 療養開始後1年6か月を経過しても治らず傷病等級該当のとき支給する給付である
- 傷病(補償)等年金は障害等級第1級から第7級に該当するとき支給する給付である
解答は 3 だよ。
支給要件を問う基本論点なんだ。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ | 1年6か月だよ |
| 2 | ✗ | それは障害給付 |
| 3 | ✓ | 1年6か月・未治ゆ |
| 4 | ✗ | 傷病等級第1〜3級 |
1年6か月・未治ゆ・傷病等級——ここを固めるのが第一歩だよ。
オリジナル問題2(応用論点)
傷病(補償)等年金の支給決定・関係に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 傷病(補償)等年金は被災した労働者本人の請求に基づいて支給される給付である
- 傷病(補償)等年金は所轄労基署長の職権により支給決定される給付である
- 傷病(補償)等年金が支給されると療養(補償)等給付も打ち切られる
- 傷病(補償)等年金が支給されても休業(補償)等給付は併給される
解答は 2 だっ。
決定方法と関係を問う応用論点だっ。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ | 請求ではないっ |
| 2 | ✓ | 職権で決定だっ |
| 3 | ✗ | 療養は併給だっ |
| 4 | ✗ | 休業は不支給だっ |
請求でなく職権で支給決定——決まり方で見るのが要だっ!
オリジナル問題3(特殊論点:年金額と区別)
傷病(補償)等年金の額・区別に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 傷病等級第1級の年金額は給付基礎日額の313日分に相当する額である
- 傷病等級にかかわらず年金額は給付基礎日額の200日分で一律である
- 傷病(補償)等年金は傷病が治ゆした後に支給される性質の給付である
- 傷病(補償)等年金には特別支給金や特別年金は一切支給されないものである
解答は 1 である。
年金額と区別を問うものである。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✓ | 第1級は313日分 |
| 2 | ✗ | 等級で異なる |
| 3 | ✗ | 治ゆ前の給付 |
| 4 | ✗ | 特別支給金あり |
第1級は給付基礎日額の313日分と押さえるのが肝要である。
まとめ
傷病(補償)等年金は、療養が長引き治らないまま重い障害が続く労働者を、休業給付に代えて年金で支える、労災保険給付の長期面を担う給付。名称と要件・年金額と特別支給金・他の給付との関係 ── この三軸を押さえれば、要件問題も関係問題も安定して解ける。
押さえどころ3つ
- 名称と要件: 業務=傷病補償年金(12条の8第1項6号・18条)/複数業務要因=複数事業労働者傷病年金(20条の8)/通勤=傷病年金(23条)/1年6か月・未治ゆ・傷病等級・職権決定
- 年金額と特別支給金: 給付基礎日額の313日分(1級)・277日分(2級)・245日分(3級)/傷病特別支給金(一時金114・107・100万円)/傷病特別年金
- 他の給付との関係: 休業(補償)等給付は不支給/療養(補償)等給付は併給/治ゆ後の障害は障害(補償)等給付
次に学ぶべき関連用語
傷病(補償)等年金をつかんだら、移行元である 休業(補償)等給付 と読み比べると、日額補填から年金への切替えがつながる。あわせて治ゆ後の 障害(補償)等給付 と、併給される 療養(補償)等給付 を確かめると、給付の全体像が立体的になる。
論点を一つずつ積み上げれば、見える景色は確かに変わっていく。傷病(補償)等年金は長期化した状態を支える給付。ここを越えれば、障害給付や遺族給付の各論点が順につながって見えてくる。
学習の進め方の目安
傷病(補償)等年金を自分のものにできたかは、次の三つの問いで確かめられる。「業務災害=傷病補償年金という名称と、根拠が12条の8第3項・18条であることを述べられるか」「療養開始後1年6か月・未治ゆ・傷病等級該当という要件と、請求でなく職権で支給決定されることを説明できるか」「休業(補償)等給付は行われず療養(補償)等給付は併給される関係、治ゆ後は障害(補償)等給付であることを区別できるか」。即答できなければ、該当のセクションに戻ればいい。戻ることは後退ではなく、定着への近道になる。
執筆: SikakuQuest編集部