三菱樹脂事件とは(全体像)
「会社は、誰を採用するかをどこまで自由に決められるか」が争われた裁判。入社した人が、学生時代の活動を採用時に申告しなかったことなどを理由に本採用を拒否され、その効力を争った。
押さえるのは2点。
- 採用の自由(原則) … 最高裁は「会社には採用の自由があり、誰を雇うかは原則として会社が決められる。思想・信条を理由に断っても、それだけで当然に違法とはいえない」とした。
- 個別法による制限(例外) … 採用の自由は広いが無制限ではない。性別を理由とする募集・採用差別は男女雇用機会均等法で禁止されている。
注意点は、労働基準法の均等待遇(国籍・信条・社会的身分による差別の禁止)は「雇った後の労働条件」の話で、判旨では「採用するかどうか」そのものは直接縛らない、とされたこと。
詳しく:判旨と「労働条件 vs 採用」を表でつかむ
ここが心臓部。「何が判断され、採用と労働条件はどう切り分けられたか」は次の表に全部つまっている。
三菱樹脂事件の全体像
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 判決 | 昭和48年の最高裁判決(採用の自由の代表判例) |
| 争点 | 試用期間満了時の本採用拒否の効力 |
| 判旨 | 企業は経済活動の自由の一環として採用の自由を持つ |
| 思想・信条 | これを理由とする採用拒否も当然には違法とはいえない |
| 労基法の均等待遇 | 「労働条件」の規定で、雇入れ(採用)そのものは直接縛らない |
| 個別法の制限 | 性別の募集・採用差別は男女雇用機会均等法で禁止 |
押さえどころは、①企業は採用の自由を持ち、思想・信条を理由とする採用拒否も当然には違法とはいえない、②労基法の均等待遇は労働条件の話で採用を直接は縛らない、③ただし性別の募集・採用差別は均等法で禁止など個別法の制限はある、の3つ。
「当然には違法とはいえない」という言い回しがポイントで、あらゆる場合に無条件で適法と断じたわけではない。採用の自由が原則として広く認められる、という趣旨として正確に押さえる。
わかりやすく言い換えると
要するに「会社が誰を採用するかは、原則として会社の自由」と最高裁が示した判例。思想・信条を理由に断っても、それだけで当然に違法とはいえない、とした。
つまり、引っかけられやすいのは「労働基準法が採用差別そのものを禁止している」と思い込むこと。労基法の均等待遇は“雇った後の労働条件”の話で、判旨では“採用するかどうか”は直接縛らない。ただし、性別を理由とする募集・採用差別だけは均等法で別に禁止されている、という原則と例外の関係で覚える。
試験のツボ
🔴 一番出る:採用の自由の代表判例
①企業は経済活動の自由の一環として採用の自由を持つ
②思想・信条を理由とする採用拒否も「当然には違法とはいえない」
🔴 次に出る:労基法の均等待遇は採用を直接縛らない
①労基法の均等待遇は「労働条件」の規定(雇った後の話)
②判旨上は雇入れ(採用)そのものを直接は制約しない
🟡 押さえると安定:個別法の制限はある
①採用の自由は広いが無制限ではない
②性別を理由とする募集・採用差別は男女雇用機会均等法で禁止
よくある間違い
①「労働基準法が採用そのものの差別を直接禁止している」→ ✗ 労基法の均等待遇は「労働条件」の規定。判旨上は採用そのものを直接縛らない。
②「企業の採用の自由には一切の法律上の制限がない」→ ✗ 性別を理由とする募集・採用差別は均等法で禁止など、個別法の制限がある。
③「思想・信条による採用拒否を全面的に適法と判断した」→ ✗ 判旨は「当然には違法とはいえない」。無条件で適法と断じたわけではない。
試験での出題パターン
実際の問題でたしかめてみよう。
オリジナル問題1(判例の位置づけ)
三菱樹脂事件に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 三菱樹脂事件は、就業規則の不利益変更の効力を判断した代表的な判例であるものとされている
- 三菱樹脂事件は、割増賃金の計算方法のみを判断した判例として整理されるものとされている
- 三菱樹脂事件は、企業の採用の自由に関する代表的な判例であるものとして位置づけられている
- 三菱樹脂事件は、労働組合の不当労働行為の成否のみを判断した判例であるものとされている
解答は 3 だよ。
三菱樹脂事件は、採用の自由に関する代表的な判例なんだ。就業規則の不利益変更(それは秋北バス事件)でも、割増賃金でも、不当労働行為でもないよ。
選択肢1の「就業規則の変更」、選択肢2の「割増賃金」、選択肢4の「不当労働行為」は、いずれも誤りだよ。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ | 就業規則の不利益変更は秋北バス事件である |
| 2 | ✗ | 割増賃金の計算方法を判断した判例ではない |
| 3 | ✓ | 採用の自由に関する代表的な判例である |
| 4 | ✗ | 不当労働行為の成否を判断した判例ではない |
オリジナル問題2(判旨)
三菱樹脂事件の判旨に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 企業は採用の自由を持ち、思想・信条を理由とする採用拒否であっても当然には違法でないとされた
- 企業には採用の自由はいっさい認められず、誰を雇い入れるかは行政の許可によって決まるとされている
- 思想・信条を理由とする採用拒否は、いかなる場合も当然に適法であると判断されたとされている
- 企業は応募者の全員を必ず採用しなければならない義務を負うと判断されたものとされている
解答は 1 だっ。
判旨は、企業は採用の自由を持ち、思想・信条を理由とする採用拒否も「当然には違法とはいえない」というものなんだっ。
選択肢2の「採用の自由なし」、選択肢3の「無条件に適法」、選択肢4の「全員採用義務」は、いずれも誤りだっ。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✓ | 採用の自由を持ち当然には違法とはいえないとされた |
| 2 | ✗ | 採用の自由は認められ行政の許可で決まるのではない |
| 3 | ✗ | 「当然には違法とはいえない」で無条件に適法ではない |
| 4 | ✗ | 全員を採用する義務を負うと判断したものではない |
オリジナル問題3(労働条件と採用の切り分け)
三菱樹脂事件と労働基準法の均等待遇などの関係に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 労働基準法の均等待遇は、採用そのものの差別を直接禁止する明文の規定であると判断されたものとされる
- 性別を理由とする募集・採用差別は、いかなる法律によっても禁止されていないものとされている
- 採用の自由には、個別の法律による制限がおよそ及ぶことはないものとして整理されているものである
- 労基法の均等待遇は労働条件の規定で採用を直接縛らず、性別差別は男女雇用機会均等法で禁止される
解答は 4 である。
労働基準法の均等待遇は「労働条件」の規定で、判旨上は採用そのものを直接縛らない。一方、性別を理由とする募集・採用差別は男女雇用機会均等法で禁止されている。
選択肢1の「採用を直接禁止」、選択肢2の「性別差別は禁止されない」、選択肢3の「制限が及ばない」は、いずれも誤りである。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ | 均等待遇は労働条件の規定で採用を直接縛らない |
| 2 | ✗ | 性別の募集・採用差別は均等法で禁止される |
| 3 | ✗ | 採用の自由にも個別法による制限が及ぶ |
| 4 | ✓ | 均等待遇は労働条件・性別差別は均等法で禁止 |
まとめ
押さえどころ
- 🔴 判例の位置づけと判旨 = 昭和48年の最高裁判決。企業は採用の自由を持ち、思想・信条を理由とする採用拒否も当然には違法とはいえない。
- 🔴 労働条件と採用の切り分け = 労基法の均等待遇は「労働条件」の規定で、採用そのものは直接縛らない。
- 🟡 個別法の制限 = 採用の自由は無制限ではない。性別を理由とする募集・採用差別は男女雇用機会均等法で禁止。
次に学ぶ
- 秋北バス事件 ── 就業規則の不利益変更の代表判例。労働法の基礎判例として並べる。
- 労働契約 ── 採用は労働契約の成立。その入口の自由が争点になった。
- 男女雇用機会均等法 ── 性別を理由とする募集・採用差別を禁止し、採用の自由を制限する個別法。
執筆: SikakuQuest編集部