SNS名誉毀損への対処——まず押さえる3つの基本
SNS名誉毀損の話は、3つの軸で整理できます。
- 削除請求: SNS事業者などに、問題の投稿を消すよう求める(送信防止措置)
- 発信者情報開示: 匿名の投稿者が誰かを特定する(2022年から1つの手続きで請求できる)
- 損害賠償請求: 特定した相手に、慰謝料などの賠償を求める(民法の不法行為)
ここがポイント。ネット上の書き込みでも、現実の名誉毀損と同じく法的責任を問える。「ネットだから」「匿名だから」何をしてもいい、ということはありません。
それから、最初の一手は「証拠を残すこと」。投稿は削除されたり、相手にブロックされたりして消えることがあります。動く前に、証拠を確保しておくことがすべての出発点です。
なぜそう言えるのか、仕組みから順番に見ていきます。
名誉毀損とは?——侮辱罪との違い
名誉毀損は、公然と事実を示して、人の社会的評価を下げる行為です。刑事と民事の両面で責任を問われることがあります。
名誉毀損と侮辱罪の違い
名誉毀損と侮辱罪のちがい
| 項目 | 名誉毀損 | 侮辱罪 |
|---|---|---|
| 内容 | 具体的な事実を示して評価を下げる | 事実を示さず公然と侮辱する |
| 例 | 「Aは○○で不正をした」 | 「Aはバカ」「死ね」など |
| 根拠 | 刑法230条・民法709条 | 刑法231条・民法709条 |
「真実なら大丈夫」ではない
よくある誤解が、「書いたことが本当なら名誉毀損にならない」というもの。これは正確ではありません。名誉毀損は、たとえ内容が真実でも成立しうるのが原則です。
ただし、その内容が公共の利害に関わり、公益目的で、真実であることが証明された場合には、例外的に責任を問われないことがあります(刑法230条の2)。芸能ゴシップや個人攻撃は、この例外には基本的に当てはまりません。
ちなみに、侮辱罪は2022年7月に厳罰化されました。それまで「拘留・科料」と軽かった法定刑に、1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が加わり、悪質なネット中傷に対応できるよう見直されています。
まず何をする?——証拠保全と削除請求
被害に気づいたら、感情的に言い返す前に、証拠を確保します。これが何より大切です。
被害に気づいたらまずやること
証拠は「消える前」に
投稿は、相手が消したり、アカウントごと削除されたりして、証拠が失われることがあります。スクリーンショットだけでなく、URL・投稿日時・アカウント情報もあわせて残します。後で発信者を特定する際、これらの情報が手がかりになります。
スクリーンショットは、URLと投稿日時が画面に写る形で撮り、できれば投稿の前後(スレッド全体)も残しておくと、後の手続きで状況を説明しやすくなります。「あとで消されてから慌てる」のを防ぐ、地味だけれど効く備えです。
削除請求の方法
多くのSNSには、権利侵害の通報・削除依頼の窓口があります。まずはサービス内のフォームから申し出るのが基本です。応じてもらえない場合は、裁判所の手続き(仮処分)で削除を求める道もあります。
私たちが取材したインターネット問題に詳しい弁護士の方の話では、「最初にやってしまいがちな失敗が、感情的な反論。やり取りが燃え広がって、かえって被害が拡大することがある。まず証拠を固め、冷静に手続きへ進むのが結局いちばん早い」とのこと。
匿名の相手を特定する——発信者情報開示命令
「誰が書いたか分からない」——この壁を越えるための手続きが、発信者情報開示です。
2022年に手続きが変わった
以前は、相手を特定するのに2段階の裁判(SNS事業者→通信事業者)が必要で、時間も手間もかかりました。2022年10月から「発信者情報開示命令」という新しい手続きが始まり、一つの裁判手続きの中で発信者の特定まで進めやすくなりました。
- 投稿に使われたIPアドレス等の情報を、SNS事業者から開示してもらう
- そのIPアドレスから、通信事業者(プロバイダ)が誰かを割り出す
- 最終的に、投稿した人の氏名・住所の開示につなげる
時間との勝負
通信記録(アクセスログ)は、プロバイダに一定期間しか保存されません。一般に保存期間は3か月から半年程度とされることが多く、サービスによってはログをほとんど残さないものもあります。時間が経つと記録が消え、特定できなくなることがあります。「特定したい」と思ったら、早めに動くのが鉄則です。ここが、削除だけで済ませず賠償も考える場合の分かれ目になります。
損害賠償と相談先——2025年の新しい法律も
相手を特定できたら、損害賠償(慰謝料など)を請求できます。根拠は、民法の不法行為(709条)です。
請求できるものの例
- 慰謝料(精神的苦痛への賠償)
- 発信者を特定するためにかかった費用(調査費用・弁護士費用の一部など)
- 投稿による具体的な損害(営業上の損失など、立証できる範囲で)
金額は事案によって幅があります。「必ずいくら取れる」と断言はできませんが、悪質なケースほど認められやすい傾向があります。
刑事告訴という選択肢もある
損害賠償(民事)とは別に、悪質なケースでは名誉毀損罪・侮辱罪で警察に刑事告訴する道もあります。受理されて捜査が進めば、相手が起訴される可能性があります。ただし、刑事手続きは「処罰」を目的とするもので、被害者がお金を受け取る手続きではありません。慰謝料を求めるなら民事、処罰を求めるなら刑事——目的に応じて使い分ける、あるいは両方を並行して進める、という整理になります。
2025年4月施行の新しい法律
2024年に、これまでの「プロバイダ責任制限法」が情報流通プラットフォーム対処法へと改められ、2025年4月1日に施行されました。利用者の多い大手SNSなどには、削除の申し出に迅速に対応すること・運用状況を公表することなどが義務づけられています。被害者が削除を求めやすくなる方向の改正です。
相談先
ひとりで抱え込まないことが大切です。
- SNS名誉毀損への対処は削除請求・発信者情報開示・損害賠償の3つ
- 名誉毀損は事実を示して評価を下げる行為、侮辱罪は事実なしの侮辱(2022年7月に厳罰化)
- 内容が真実でも名誉毀損は成立しうる(公共性・公益・真実証明の例外あり)
- 最初の一手は証拠保全(スクショ+URL+日時)、感情的な反論はしない
- 2022年10月の発信者情報開示命令で特定が一手続きに、アクセスログは早めに動く
- 損害賠償は民法709条(不法行為)、2025年4月に情報流通プラットフォーム対処法が施行
- 相談先=法務省「みんなの人権110番」・違法有害情報相談センター・弁護士など
理解度チェック
ここまでの内容、どれくらい身についたかチェックしてみよう。
匿名の投稿者を特定するための手続きとして、正しいのはどれか。
- 発信者情報開示命令を使う
- 投稿者に直接電話して聞く
- 警察に逮捕を必ず依頼する
- SNS社に電話一本で開示請求
解答は 1 である。
匿名投稿者の特定は、2022年10月に新設された発信者情報開示命令という裁判手続きで進める。SNS事業者から得たIPアドレス等をもとに、通信事業者を通じて発信者の氏名・住所の開示につなげる。電話一本や私的な追及では特定できない。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✓ 正解 | 2022年新設の正しい手続き |
| 2 | ✗ 誤り | 匿名なので連絡先が不明 |
| 3 | ✗ 誤り | 逮捕は特定の手段ではない |
| 4 | ✗ 誤り | 電話一本では開示されない |
発信者情報開示命令——一つの手続きで特定まで進めやすくなったのである。
SNSで誹謗中傷を受けたとき、まず取るべき行動として適切なのはどれか。
- 相手のアカウントを乗っ取る
- 投稿を証拠として保存する
- すぐ同じ言葉で言い返す
- 気にせず完全に放置し続ける
解答は 2 である。
最初の一手は、投稿を証拠として保存すること。スクリーンショットに加え、URL・投稿日時・アカウント名も残す。投稿は削除されて消えることがあり、後の特定・賠償の手がかりが失われてしまう。感情的な反論は争いを広げるため避ける。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ 誤り | それ自体が違法行為になる |
| 2 | ✓ 正解 | すべての出発点になる対応 |
| 3 | ✗ 誤り | 争いが拡大し不利になりうる |
| 4 | ✗ 誤り | 証拠が消え対処が難しくなる |
まず証拠保全——消える前に残すことが、その後の対処を支えるのである。
名誉毀損(民事)の成立について、正しいのはどれか。
- 投稿が真実でありさえすれば責任を負わない
- 鍵アカウントの投稿は常に対象外となる
- 公然と評価を下げる投稿は成立しうる
- 削除すれば過去の責任もすべて消える
解答は 3 である。
名誉毀損は、公然と事実を示して人の社会的評価を下げると成立しうる。内容が真実でも原則として成立し、公共性・公益目的・真実証明がそろった場合に例外的に免責される。投稿を後から削除しても、すでに生じた責任が消えるわけではない。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ 誤り | 真実でも成立しうる(例外は別要件) |
| 2 | ✗ 誤り | 公然性の有無は内容次第 |
| 3 | ✓ 正解 | 名誉毀損の基本的な成立要件 |
| 4 | ✗ 誤り | 削除で過去の責任は消えない |
真実でも成立しうる——ここを誤解しないことが、名誉毀損を理解する出発点なのである。
おわりに
SNS名誉毀損の話は、知っているか知らないかで、いざというときに動けるかどうかが大きく変わる典型例です。今日見た3つの基本——証拠保全・発信者情報開示・損害賠償——を押さえておけば、匿名の中傷にも落ち着いて向き合えます。
自分の権利を知るというのは、誰かに任せきりにするのではなく、自分で判断できる材料を持つこと。法律は、そのための道具です。
ネットのトラブルは、ひとりで抱えると苦しくなりがちです。法務省「みんなの人権110番」・違法有害情報相談センター・弁護士など、相談できる窓口は意外と多くあります。気になることがあれば、まず話を聞いてもらうところから始めるのがおすすめです。
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