副業の労働時間はどう管理する?理解する3つの軸
副業時の労働時間の話は、3つの軸で整理できます。
- 労働時間の通算(労基法38条1項): 事業場が異なっても労働時間は通算される
- 割増賃金の支払義務: 後発の使用者が法定労働時間超の割増賃金を負担
- 自己申告管理: 事業主が異なる場合、労働者が他社労働時間を自己申告
ここがポイント。労基法38条1項の通算は『労働時間規制の適用』のためということ。割増賃金・36協定・最大労働時間規制が事業場をまたいで適用されます。
それから、安全配慮義務も合算労働時間で判断という事実。本業+副業で月80時間超の長時間労働になれば、両事業主が安全配慮義務違反を問われ得ます。
なぜそう言えるのか、3つの軸を順番に見ていきます。
副業先の労働時間は通算される?——労基法38条1項
条文の規定
「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」(労基法38条1項)
短い条文ですが、副業時の労働時間管理の基幹規定です。
トリビア:副業・兼業ガイドラインは2020年9月改定で『推進』方針に転換
厚労省の 副業・兼業の促進に関するガイドラインは 2018年1月策定、2020年9月に大幅改定。それまでの「副業は原則禁止」モデル就業規則が 「副業を認める」方向に書き換え られ、政府として副業推進姿勢に転換しました。改定の背景には、働き方改革関連法(2019年4月施行)と人口減少時代の労働市場確保があります。
通算の対象範囲
労基法38条1項は 「労働時間に関する規定」の適用 を通算対象とします。
通算が適用される労働時間規制
休憩時間規制(34条)や年次有給休暇(39条)は 事業場ごとの管理 が原則で、通算の対象ではありません。
残業代は誰が払う?——割増賃金と後発使用者ルール
「先発」「後発」の判断
副業時に法定労働時間を超える場合、割増賃金を支払うのは『後発』の使用者が原則です。
先発/後発の判断ルール
具体例で理解
例: 本業A社で1日8時間勤務後、副業B社で1日3時間勤務する場合。
| 項目 | A社 | B社 |
|---|---|---|
| 1日労働時間 | 8時間 | 3時間 |
| 合計 | 11時間 | |
| 法定超過 | — | 3時間(B社負担) |
| 割増賃金支払い | なし(A社は8時間分のみ) | B社が3時間分の25%以上を上乗せ |
実務家の視点から言えば、B社(後発)が労働者から本業の労働時間を聞き取り、その日の合計が8時間超になる場合は、副業時間全部が割増対象です。
36協定との関係
時間外労働には各事業場で36協定が必要ですが、通算労働時間が月45時間・年360時間の上限を超えると違法。両事業主が36協定の枠組みで労働時間を管理する必要があります。
会社は労働時間をどう把握する?——自己申告管理と安全配慮義務
自己申告制の原則
事業主が異なる場合、他社での労働時間を直接把握できないため、労働者の 自己申告 に基づく管理が原則です。2020年改定の副業ガイドラインで明記されました。
- 副業開始時に他社労働時間の概要を申告
- 月次・週次で労働時間を更新申告
- 虚偽申告があれば後日的処分の対象になり得る
- 事業主は申告を踏まえて割増賃金・労働時間規制を運用
安全配慮義務との関係
労契法5条の安全配慮義務は労働時間通算後で判断されます。本業+副業で月80時間超の長時間労働になれば、両事業主が安全配慮義務違反を問われるリスクあり。過労死認定基準(月80時間×3ヶ月)も合算ベースです。
私たちが取材した労働法専門の弁護士の話では、「副業申告は労働者の権利確保の生命線。きちんと申告し、過労にならない範囲で働くのが鉄則」とのこと。
モデル就業規則の変化
2020年改定で厚労省 モデル就業規則 第14章 が「副業・兼業を認める」方針に書き換わりました。多くの企業が就業規則を改定し、副業届出制・許可制を導入。事業主側も労働時間管理の枠組み整備が進んでいます。
副業時の社会保険適用判定
労働時間の通算とは別に、社会保険(健康保険・厚生年金)の適用判定 は事業所ごと独立で行われます。
- 各事業所で 週20時間以上+月額賃金8.8万円以上 等の要件を独立判定
- 両事業で要件を満たすと「二以上事業所勤務届」を提出し、保険料を按分
- 介護保険料・雇用保険料も同様に事業所ごとの判定が原則
副業届出書・申告書の実務
副業届出制を採る企業では、副業先・労働時間・業務内容 の事前届出が一般的。労働時間通算の運用上も、書面で他社労働時間を記録しておくと、後の割増賃金計算や安全配慮義務違反の有無判断で証拠として機能します。
- 副業時の労働時間管理の核心は 38条1項通算・割増賃金後発負担・自己申告管理 の3軸
- 労基法38条1項 で事業場が異なっても労働時間は通算される
- 通算対象は 法定労働時間(32条)・時間外(36条)・割増賃金(37条)・休日労働(35条)
- 休憩(34条)・年次有給(39条)は 事業場ごとの管理で通算外
- 割増賃金は『後発』の使用者が支払い、判断は契約締結順または労働開始順
- 36協定の上限(月45時間・年360時間)も 通算ベースで違反判定
- 自己申告制が原則、副業ガイドライン(2020年9月改定)で実務運用が整理
- 安全配慮義務(労契法5条)も 通算労働時間で判断、過労死認定基準は合算ベース
- 2020年改定でモデル就業規則が「副業推進」へ転換、政府の働き方改革と連動
- 社会保険(健康保険・厚生年金)の適用判定は 事業所ごと独立、両方で要件を満たせば「二以上事業所勤務届」で按分
- 副業届出書での記録保管は、後の 割増賃金計算・安全配慮義務違反判断の証拠として機能
理解度チェック
ここまでの内容、どれくらい身についたかチェックしてみよう。
副業時の労働時間管理に関する労基法38条1項について、正しい説明はどれか。
- 事業場が異なっても労働時間は通算されるという原則
- 事業場ごとに完全独立で労働時間を管理する仕組み形
- 副業時のみ通算対象となるという特殊規定の枠組み
- 通算は労働者の事前同意があった場合のみ行われる
解答は 1 である。
労基法38条1項は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定する。事業場が異なっても労働者は1人という前提で、複数事業の労働時間を合算して労働時間規制を適用する原則。これが副業時の割増賃金・36協定・最大労働時間規制の基幹原則である。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✓ 正解 | 38条1項の正しい原則 |
| 2 | ✗ 誤り | 事業場間で通算する |
| 3 | ✗ 誤り | 副業に限らない一般原則 |
| 4 | ✗ 誤り | 法律上当然に通算される |
事業場をまたいでも労働時間は通算——これが労基法38条1項の核心なのである。
副業時の割増賃金の支払義務について、正しい説明はどれか。
- 本業の使用者がすべての割増賃金を負担する仕組み形
- 副業時の割増賃金は労働者本人の負担となる規定
- 後発の使用者が法定労働時間超の割増賃金を支払う原則
- 割増賃金の支払義務は副業時には発生しない決まり扱い
解答は 3 である。
副業時に通算労働時間が法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える場合、割増賃金を支払うのは『後発』の使用者が原則。判断は当該日に先に労働契約が締結された方を先発、同日の場合は先に労働を提供した方を先発とする。例: 本業A社で8時間後、副業B社で3時間勤務 → B社が3時間分の25%以上の割増を支払う。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ 誤り | 後発が負担、本業全額ではない |
| 2 | ✗ 誤り | 労働者負担の規定はない |
| 3 | ✓ 正解 | 後発使用者ルールの正しい説明 |
| 4 | ✗ 誤り | 副業時も割増賃金義務あり |
後発使用者が割増賃金負担——これが副業時の割増賃金ルールの核心なのである。
副業時の労働時間管理と安全配慮義務について、正しい説明はどれか。
- 安全配慮義務は本業の使用者のみが負う限定的な義務
- 自己申告制で事業主が異なる場合の労働時間を管理する仕組み
- 副業時は安全配慮義務が適用されない仕組みである形
- 労働時間管理は労働者の完全自己責任とされる仕組み制度
解答は 2 である。
事業主が異なる場合、他社労働時間を直接把握できないため、労働者の自己申告に基づく管理が原則(2020年9月改定の副業ガイドラインで明記)。安全配慮義務(労契法5条)は 通算労働時間で判断され、本業+副業で月80時間超の長時間労働になれば両事業主が違反を問われ得る。過労死認定基準も合算ベースで運用される。
| 選択肢 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | ✗ 誤り | 副業の使用者も負う |
| 2 | ✓ 正解 | 自己申告制の正しい運用 |
| 3 | ✗ 誤り | 副業時も安全配慮義務適用 |
| 4 | ✗ 誤り | 事業主側にも管理義務 |
自己申告制+通算労働時間での安全配慮義務——これが副業時の管理の核心なのである。
おわりに
副業時の労働時間管理は、知っているか知らないかで動き方が大きく変わる典型例です。今日見た3つの基本——38条1項通算・後発使用者・自己申告管理——を覚えておけば、副業を考えた時の地図が手に入ります。
自分の権利を知るというのは、誰かに任せきりにするのではなく、自分で判断できる材料を持つこと。法律はそのための道具です。
副業時の労働時間管理は、労基法・労契法・就業規則が交錯する複雑な分野。労働基準監督署・社会保険労務士・労働弁護士・厚労省ホットライン——相談先は意外と多くあります。気になることがあれば、まず話を聞いてもらうところから始めるのがおすすめです。
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