【宅建の実務】登記があれば安心?──登記でわかること・わからないことを説明する
初めて家を買う買主から、こんな質問が届く。
「登記簿を取れば、その家の持ち主が誰かはっきり分かるのですよね。登記に書いてある人から買えば、それで安心ということでしょうか。」
登記への信頼が高すぎる相談者に、実務ではよく出会う。力になるのは、こうして「登記で分かること」と「登記では分からないこと」を、両方渡せたときである。この記事では、登記記録の構造、登記が果たしている役割、そして限界と実務での補い方までを通しで整理する。
まず結論:登記は「主張するための札」であって、真実の保証ではない
登記が果たしている役割は、民法の条文に書かれている。
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。(民法177条)
「登記した者が所有者になる」とは書かれていない。登記しなければ第三者に主張できないと書かれている。つまり登記は、権利を生み出すものではなく、既にある権利を第三者に対して主張できるようにするものだ。これを対抗要件という。
だから買主の質問への答えは、こうなる。登記名義人から買うことは必要だが、それだけで足りるわけではない。
登記記録は3つの部分でできている
登記記録は、表示に関する登記が記録される表題部と、権利に関する登記が記録される権利部に分かれる(不動産登記法2条7号・8号)。そして権利部はさらに2つに分かれる。
権利部は、甲区及び乙区に区分し、甲区には所有権に関する登記の登記事項を記録するものとし、乙区には所有権以外の権利に関する登記の登記事項を記録するものとする。(不動産登記規則4条4項)
| 部分 | 何が書かれているか | 根拠 |
|---|---|---|
| 表題部 | 不動産の物理的な状況。登記原因とその日付、登記の年月日、所在・地番・地目・地積(土地)、家屋番号・種類・構造・床面積(建物)など | 不登法2条7号、27条 |
| 権利部(甲区) | 所有権に関する登記。所有権保存、所有権移転、差押え、仮差押え、所有権に関する仮登記など | 規則4条4項 |
| 権利部(乙区) | 所有権以外の権利。抵当権、根抵当権、地上権、賃借権、地役権、配偶者居住権など | 規則4条4項 |
登記できる権利は条文に列挙されている。所有権、地上権、永小作権、地役権、先取特権、質権、抵当権、賃借権、配偶者居住権、採石権の10種類だ(不登法3条)。裏を返せば、ここにない権利は登記記録に現れない。使用貸借による権利がその一例になる。
権利部で見るべき事項
権利に関する登記の登記事項も、条文が定めている(不登法59条)。買主に説明するときは、次の3つを押さえる。
| 号 | 登記事項 | 実務での意味 |
|---|---|---|
| 1号 | 登記の目的 | 「所有権移転」「抵当権設定」など。何の登記かが分かる |
| 2号 | 申請の受付の年月日及び受付番号 | 権利の順位を決める。同じ区の中では順位番号、別の区の間では受付番号で先後が決まる |
| 3号 | 登記原因及びその日付 | 売買、相続、贈与、財産分与など。どういう経緯でその人のものになったかが読める |
3号の登記原因は、実務で最も情報量がある欄だ。「令和◯年◯月◯日相続」とあれば、他に相続人がいた可能性を考える。「財産分与」とあれば離婚が背景にある。「真正な登記名義の回復」とあれば、過去に登記をめぐる問題があった可能性がある。原因欄は、その不動産の来歴が1行で書かれている場所になる。
59条には、見落としやすい登記事項も並んでいる。登記の目的である権利の消滅に関する定めがあるときはその定め(5号)、共有物分割禁止の定めがあるときはその定め(6号)。買戻特約や分割禁止の定めは、買った後の自由を左右する。
つまずきやすいのは「登記に公信力がない」こと
ここが買主の質問の核心になる。
登記を信じて取引した人が、必ず保護されるとは限らない。登記名義人が真の所有者でなかった場合、その人から買っても所有権を取得できないのが原則だ。これを「登記に公信力がない」という。
例外がないわけではない。真の所有者が名義を貸すなど、権利がないように見える外観を作ることに関与していた場合には、相手方と通じてした虚偽の意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができないという規定が働く場面がある(民法94条2項)。ただしこれは真の所有者の側にも帰責性がある場合の話で、登記を信じたことだけで保護されるという条文ではない。
| 登記の効果 | |
|---|---|
| ある | 対抗力。自分の権利を第三者に主張できる(民法177条) |
| ない | 公信力。登記を信じた人が当然に保護されるわけではない |
だから実務では、登記を確認したうえで登記の外側を確かめることになる。売主本人の意思確認、本人確認書類、登記識別情報の有無、権利証や登記済証の有無。「登記名義人=真の所有者」を確かめる作業が、登記の確認とは別に要る。
登記に載らないもの
登記記録は不動産の情報をすべて含んでいるわけではない。載らないもののほうが、買主にとって重要なことがある。
| 載らないもの | どこで確かめるか |
|---|---|
| 都市計画法・建築基準法などの法令上の制限 | 役所の都市計画課・建築指導課(重要事項説明の対象。宅建業法35条1項2号) |
| 境界の確定状況 | 確定測量図、筆界確認書、道路管理課 |
| 建物の実際の状態、雨漏りやシロアリ | 現地確認、建物状況調査 |
| 近隣との紛争、越境 | 売主への聞き取り、現地確認、越境の覚書 |
| 短期の賃借権など未登記の権利 | 現地確認、賃貸借契約書の確認 |
| 私道の通行・掘削に関する取り決め | 関係者への確認、覚書 |
登記簿上の地積と、実測の面積が違うことも珍しくない。とくに古い土地では、登記の地積が実際より小さいことがある。売買契約で公簿売買とするか実測売買とするかは、この差をどちらが負担するかを決める条項になる。登記の数字をそのまま実測値として扱わない。
相続登記は義務になった
従来、相続による所有権移転登記に期限はなかった。ここが変わっている。
所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。(不動産登記法76条の2第1項)
法定相続分に応じた登記がされた後に遺産の分割があったときは、その分割によって法定相続分を超えて所有権を取得した者が、遺産の分割の日から3年以内に登記を申請しなければならない(同条2項)。
この義務を正当な理由がないのに怠ったときは、10万円以下の過料に処するとされている(同法164条1項)。
実務への影響は2つある。1つは、相続した不動産の売却相談で、まず登記の状態を確認する必要があること。名義が被相続人のままなら、売却の前に相続登記が要る。もう1つは、買主側の調査で「名義人が亡くなっている」ケースが減っていく方向にあることだ。ただし過去に発生した相続にも適用があるため、当面は名義が古いままの物件に出会う。
読み方の手順——この順番で見る
- 表題部で物件を特定する。所在・地番・家屋番号が、契約しようとしている物件と一致しているか。住居表示と地番は別のものなので、ここを取り違えない。
- 表題部の地積・床面積を控える。広告や資料の数字と突き合わせる。
- 甲区の最後の所有権登記を見る。誰が現在の所有者か。共有ならそれぞれの持分。
- 甲区に差押え・仮差押え・仮処分がないか確認する。あれば、決済までに抹消できるかが取引の前提になる。
- 甲区の登記原因をたどる。相続、財産分与、真正な登記名義の回復といった原因が並んでいないか。
- 乙区の抵当権・根抵当権を確認する。債権額、極度額、抵当権者。決済で抹消するのか、引き継ぐのかを売主に確認する。
- 乙区に賃借権・地上権・配偶者居住権がないか確認する。あれば、引渡しの条件が変わる。
- 権利の消滅に関する定め・共有物分割禁止の定めを確認する(不登法59条5号・6号)。
- 受付番号で順位を確認する。抵当権が複数あるとき、どれが先順位か。
- 共同担保目録を取る。同じ抵当権が他の不動産にも設定されている場合、抹消の段取りに影響する。
この10ステップを踏むと、渡せるものが「登記を確認しました」から「所有者はこの方で、この抵当権を決済で抹消し、この差押えはありません」に変わる。
プロならこう説明する
よいご質問です。登記について、分かることと分からないことを分けてご説明します。
まず、登記の役割からお話しします。法律には「登記をしなければ第三者に対抗することができない」と書かれています。登記した人が持ち主になる、という書き方ではありません。すでに持っている権利を、他の人に対して「これは自分のものです」と主張できるようにする札、とお考えいただくと近いです。
ですので、お客さまがこの家をお買いになったら、速やかにお名前で登記をしていただくことが大切になります。決済の当日に司法書士が手続きいたします。
そのうえで、正直にお伝えしておきたいことがあります。日本の登記には「公信力」がありません。登記に載っている方が、法律上の本当の持ち主でなかった場合、その方からお買いになっても所有権が手に入らない、ということが起こり得ます。ごくまれではありますが、制度としてはそうなっています。
ですので私どもは、登記を確認するだけでは終わりません。売主さまご本人にお会いして、ご本人であることと、売却のご意思を確認します。登記識別情報や権利証をお持ちかどうかも確かめます。司法書士も、決済の場で同じ確認を行います。この二重、三重の確認が、公信力がないことを補う実務の形になっております。
もう一点。登記に載っていない事柄のほうが、多いくらいです。建築の制限や、境界が確定しているかどうか、雨漏りの有無、お隣との越境。これらは登記簿には出てまいりません。役所での調査と現地の確認、そして売主さまへの聞き取りで、別途お調べします。
登記簿の見方も、簡単にご案内します。上のほうが表題部で、土地や建物の広さ、所在などが書かれています。その下の甲区が所有権の欄で、いま誰のものかが分かります。さらに下の乙区が、所有権以外の権利の欄です。この物件でしたら、乙区に住宅ローンの抵当権が付いています。これは決済のときに、売主さまがローンを完済して抹消する段取りになっております。
この説明には、宅地建物取引業法35条1項1号の説明事項が入っている。登記された権利の種類および内容、登記名義人または表題部に記録された所有者の氏名は重要事項説明の第1号だ。試験で覚えた条文の並び順が、そのまま登記簿を読む順番になっている。
よくある質問と、その答え方
「登記簿の面積と、広告の面積が違います」
2つの原因がある。土地なら、登記の地積と実測が食い違っていることがある。マンションなら、登記簿は内法、広告は壁芯で測っているため、登記簿のほうが小さく出る。どちらが誤りというわけではないので、どちらの数字がどの制度の判定に使われるかまで含めて説明する。住宅ローン控除の床面積要件は登記簿の面積で判定されるため、この差が制度の可否を分けることがある。
「乙区に古い抵当権が残っています」
抹消登記がされていないだけで、債務は既に完済されている場合がある。ただし登記記録の上では権利が残っているため、そのままでは買主が不利益を受ける。抵当権者が既に存在しない金融機関である、相続が絡んでいるといった事情で、抹消に時間がかかることもある。「古いから大丈夫」と判断せず、抹消の段取りと期限を契約前に固める。
「名義が亡くなった方のままです。すぐ買えますか」
そのままでは売買できない。相続人への登記を経る必要がある。なお現在は、相続により所有権を取得した者に3年以内の申請義務が課されており(不登法76条の2第1項)、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になる(同法164条1項)。売主側にとっても、登記を進めることが必要な状況になっていると伝えると、話が動きやすい。
説明で外したくないポイント
- 登記は対抗要件:登記しなければ第三者に対抗できない(民法177条)。
- 登記に公信力はない:本人確認と意思確認で補う。
- 甲区は所有権、乙区は所有権以外(不動産登記規則4条4項)。
- 登記原因の欄は来歴が読める(不登法59条3号)。
- 受付番号が権利の順位を決める(同条2号)。
- 登記に載らないことのほうが多い:法令上の制限、境界、建物の状態。
- 相続登記は3年以内の義務:怠ると10万円以下の過料(不登法76条の2、164条1項)。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 民法177条 | 不動産に関する物権の変動の対抗要件 | 登記をしなければ第三者に対抗することができない |
| 民法94条2項 | 虚偽表示 | 虚偽表示の無効は善意の第三者に対抗することができない |
| 不動産登記法2条7号・8号 | 定義 | 表題部は表示に関する登記、権利部は権利に関する登記が記録される部分 |
| 不動産登記法3条 | 登記することができる権利等 | 所有権・地上権・永小作権・地役権・先取特権・質権・抵当権・賃借権・配偶者居住権・採石権 |
| 不動産登記法27条 | 表示に関する登記の登記事項 | 登記原因とその日付、登記の年月日、所有権の登記がない不動産の所有者、識別に必要な事項 |
| 不動産登記法59条 | 権利に関する登記の登記事項 | 登記の目的、受付の年月日と受付番号、登記原因とその日付、権利の消滅に関する定め、共有物分割禁止の定め |
| 不動産登記法76条の2 | 相続等による所有権の移転の登記の申請 | 知った日から3年以内。遺産分割があったときは分割の日から3年以内 |
| 不動産登記法164条1項 | 過料 | 正当な理由なく申請を怠ったときは10万円以下の過料 |
| 不動産登記規則4条4項 | 登記記録の編成 | 権利部は甲区と乙区に区分。甲区は所有権、乙区は所有権以外 |
| 宅地建物取引業法35条1項1号 | 重要事項の説明等 | 登記された権利の種類および内容、登記名義人等の氏名 |