【宅建の実務】完成前の物件、手付金は戻る?──手付金等の保全措置を説明する
建設中の新築マンションを買う予定のお客様から、不安の相談が届く。
「まだ工事中の新築マンション(宅建業者が売主)を買う予定です。契約時に手付金として代金の8%を払うのですが、もし完成前に売主に何かあったら、払ったお金は戻ってこないのでしょうか? とても不安です。」
宅建の試験では「手付金等の保全措置」は業者が売主のときの重要ルール。覚えた基準が力になるのは、こうして不安な買主を、根拠をもって安心させられたときだ。この記事では、保全措置の仕組みと、確認のしかたまでを整理する。
まず結論:一定額を超えると、保全措置で守られる
宅建業者が自ら売主となり、引渡し前に手付金等を受け取る場合、一定額を超えると手付金等の保全措置が義務づけられている。基準はこう。
| 物件の状態 | 保全措置が必要になる基準 |
|---|---|
| 未完成物件 | 代金の5%超、または1,000万円超 |
| 完成物件 | 代金の10%超、または1,000万円超 |
今回は工事中(未完成)で手付金は代金の8%。5%を超えているので、保全措置の対象になる。だから「戻ってこないのでは」という心配には、根拠をもって答えられる。
なぜ未完成の方が基準が厳しいのか。完成前は「建物がまだ存在しない」ぶん、売主が倒れたときに買主が受け取れるものが何もないからだ。リスクが大きい場面ほど、早く保全がかかる建て付けになっている。
「手付金等」の「等」——中間金も入る
名前は手付金の保全だが、対象は手付金だけではない。契約締結の日から引渡しまでの間に支払われるお金で、代金に充当されるもの——つまり中間金や内金も含めて「手付金等」だ。
ここに実務の落とし穴がある。手付金5%で始まった契約でも、あとから中間金を払えば合計額で基準を判定する。手付金3%+中間金5%=8%なら、中間金を受け取る前に保全措置が要る。「最初が5%以下だったから大丈夫」とはならない。
保全の方法は3つ——未完成物件で使えるのは2つ
| 方法 | しくみ | 未完成 | 完成 |
|---|---|---|---|
| 保証委託契約 | 銀行などが返還を連帯保証する | ○ | ○ |
| 保証保険契約 | 保険会社の保険で返還をカバーする | ○ | ○ |
| 手付金等寄託契約 | 指定保管機関がお金を預かる | ×使えない | ○ |
未完成物件では保管(寄託)方式が使えない。銀行の保証か、保険のどちらかになる。今回のような工事中の物件なら、契約書や重要事項説明に「どの機関の、どの方式か」が書かれているはずなので、そこまで確認する。
売主が保全措置を講じない場合——買主は支払いを拒める
基準を超えるのに売主が保全措置を講じない場合、買主は手付金等の支払いを拒むことができる。支払いを拒んでも債務不履行にはならない。
これは実務で強い武器になる。「保全措置の書面を確認できるまで、お支払いは待ちます」と言ってよい、と法律が認めているからだ。逆に言えば、保全の説明を渋る売主とは、その時点で立ち止まるべきだと分かる。
例外もある。買主への所有権移転の登記がされたときは、登記自体が買主を守るので保全措置は不要になる。また基準額(未完成5%・完成10%・1,000万円)以下の受領なら、そもそも義務の対象外だ。「保全が無い=直ちに違法」ではなく、基準との照らし合わせで判断する。
数字でたしかめる——4,000万円のマンションなら
基準は率で覚えるより、実際の金額で見た方が腑に落ちる。代金4,000万円の未完成マンションで並べてみる。
| 支払うお金 | 代金に対する率 | 保全措置 |
|---|---|---|
| 手付金 100万円 | 2.5% | 不要(5%以下) |
| 手付金 200万円 | 5%ちょうど | 不要(「超」ではない) |
| 手付金 320万円(今回の8%) | 8% | 必要 |
| 手付金 100万円+中間金 150万円 | 合計6.25% | 中間金の受領前に必要 |
「5%超」なので、ちょうど5%は対象外——この「超」と「以上」の区別は試験でも実務でも効く。そして4行目のように、後から払うお金で基準を超える場合は、超えることになる支払いを受け取る前に保全措置が講じられていなければならない。
プロならこう説明する
ご不安な点、もっともです。工事中の新築のように引渡し前にお金を預ける場合には、買主を守る「手付金等の保全措置」という仕組みがあります。
宅建業者が自ら売主となるときは、未完成物件では代金の5%を超える手付金等を受け取る場合、保全措置を講じる義務があります。今回は代金の8%ですので、この保全措置の対象になります。
保全措置があると、銀行の保証や保険会社の保険が付き、万一売主が引渡しできなくなっても、お預けいただいたお金は返還されます。重要事項説明でも、どの機関のどの方式で保全されるかが説明されますので、その書面を一緒に確認しましょう。
もうひとつ、知っておいていただきたいことがあります。仮に売主が保全措置を講じないまま支払いを求めてきた場合、買主は支払いを拒むことができます。拒んでも契約違反にはなりません。ですので「保全の確認ができてから支払う」という順番で進めていただけます。
説明で外したくないポイント
- 「業者が売主」のとき:この保全措置は、宅建業者が自ら売主になる場合のルール。まず売主が誰かを確認する。
- 未完成と完成で基準が違う:未完成5%超、完成10%超(いずれも1,000万円超も対象)。
- 中間金も合算:あとから払うお金も含めた合計で判定する。
- 未完成では保管方式が使えない:保証か保険か、方式まで確認する。
- 保全が無ければ支払いを拒める:買主の側に立てる、いちばん強い知識。
この場面で効いている宅建の知識
- 根拠条文:宅地建物取引業法 第41条(未完成物件)・第41条の2(完成物件)
- 基準:未完成は代金の5%超または1,000万円超/完成は10%超または1,000万円超
- 方法:保証委託・保証保険(未完成はこの2つ)+完成物件は指定保管機関の寄託も可
- 効果:万一のとき手付金等が買主に返還される。保全が無ければ買主は支払いを拒める
「未完成5%・完成10%・1,000万円」という試験知識が、そのまま不安への回答の骨組みになっている。