【宅建の実務】抵当権付きの家、買っても大丈夫?──抹消の流れをやさしく説明する
中古住宅を検討するお客様から、不安の相談が届く。
「気に入った中古の家の登記簿を見たら、売主が借り入れをしている銀行の『抵当権』が付いていました。このまま買って大丈夫なのでしょうか? もし売主がお金を返せなくなったら、私は家を失ってしまうのでしょうか?」
宅建の試験では「抵当権」は権利関係の中心テーマ。覚えた知識が力になるのは、こうして不安な買主に、実際の取引の流れをもって安心を渡せたときだ。この記事では、抵当権の意味と抹消の段取り、そして確認すべき点までを整理する。
まず、抵当権とは何か
抵当権は、売主が借り入れの担保として設定した権利。登記簿では権利部の乙区に載っていて、債権額・抵当権者(銀行など)・設定日が読み取れる。
たしかに、抵当権が残ったまま所有権だけを引き継ぐと、売主の返済が滞った場合に物件が競売にかけられ、買主が所有権を失うおそれがある。だから「抵当権が付いている=そのまま買うと危険」というお客様の心配は、理屈としては正しい。
ただ、ここで知っておきたい事実がある。住宅ローンを組んで買った家には、ほぼ例外なく抵当権が付いている。つまり中古市場に出てくる家の多くは抵当権付きで、それらが日々、問題なく取引されている。「珍しい危険物件」ではなく「普通の状態」だ。危険なのは付いていることではなく、消さずに引き継ぐことだけだ。
結論:決済と同時に抹消する——段取りは5手
通常の取引では、決済(引渡し)と同時に、買主が支払う売却代金で売主の借入を完済し、抵当権を抹消する。当日の段取りはこうなる。
- 事前に:売主が銀行へ完済の申し出をし、残債の金額と抹消書類の準備を確認しておく。
- 決済当日:買主が代金を支払う。多くは銀行の一室で、売主の借入銀行への振込と同時に行う。
- 銀行が完済を確認し、抵当権抹消の書類を交付する。
- 同席する司法書士が書類一式を確認する。不備があれば、この時点で決済を止められる。
- 司法書士が「抵当権抹消」と「所有権移転」を同日にまとめて申請する。
買主のお金が動くのは、司法書士が「登記に必要な書類がすべて揃った」と確認した後。専門家が関所になる仕組みそのものが、買主の安全装置になっている。
確認しておきたい3点——ここで物件を見極める
「原則は大丈夫」で終わらせず、契約前に次の3点を確認すると、危ない案件を入口ではじける。
| 確認すること | なぜ見るのか |
|---|---|
| 残債が売却額に収まるか | 売却代金で完済できなければ抹消できない。オーバーローンなら売主の自己資金や金融機関との調整が要る |
| 抵当権の「数」と乙区の全体 | 複数の借入・差押えの登記があると、調整相手が増えて決済が複雑になる |
| 普通抵当か根抵当か | 根抵当権は完済しても自動では消えない。元本確定の手続きが要るため、段取りに時間を見込む |
重要事項説明では、登記された権利(抵当権を含む)は必ず説明される項目だ。さらに契約書には「売主は引渡しまでに抵当権等を抹消する」という抹消義務の条項を入れるのが通例。書面の上でも、買主は二重に守られている。
プロならこう説明する
ご不安な点、よく分かります。登記簿の「抵当権」は、売主さんが住宅ローンの担保として設定した権利です。実は、ローンで買った家にはほぼ必ず付いているもので、中古の取引では普通の状態です。
たしかに、抵当権が残ったまま引き継ぐと、競売で所有権を失うおそれがあります。ですので通常の取引では、決済と同時に、お支払いいただく代金で売主さんの借入を完済し、抵当権を抹消してからお引渡しします。当日は司法書士が同席し、抹消書類がすべて揃ったことを確認してからお金が動きますので、順序の面でも守られています。
そのうえで、この物件について私の方で3つ確認します。残債が売却額に収まるか、抵当権が複数付いていないか、根抵当権になっていないか。契約書にも「引渡しまでに抹消する」という売主さんの義務を明記します。確認の結果はすべてご報告しますので、それを見てからご判断ください。
よくある質問と、その答え方
「引渡しの後に、前の抵当権が残っていたと分かったら?」
契約書の抹消義務条項に基づいて、売主に抹消を求められる。実際には司法書士が決済時に確認するため起こりにくいが、万一のときも契約上の根拠がある——だから契約書に抹消義務を明記しておくことが効く。
「競売になった物件を買うのとは、何が違うのですか」
競売は抵当権の実行として裁判所が売る手続きで、通常の売買とは別物。今回のような仲介取引では、抵当権を消してから引き渡すので、競売のリスクを引き継ぐことはない。言葉が似ているだけで、場面がまったく違う。
「売主の残債がいくらか、買主が知る方法はありますか」
登記簿の債権額は「借りた当初の額」で、いまの残債ではない。残債そのものは売主の個人情報なので、業者が売主の同意を得て確認し、「売却代金で完済できる見込みか」という形で買主に伝えるのが実務の形だ。
「決済の日まで、売主が返済を止めたらどうなりますか」
決済前に競売が始まるのはよほどの場合だが、心配なら決済日を早める調整もできる。滞納の兆しがある案件では、業者が売主側の銀行と連絡を取り、完済見込みを確認しながら日程を組むのが実務の対応だ。
説明で気をつけたいこと
- 不安をあおらない:「危険です」で止めず、「普通の状態で、抹消して引き渡す流れがある」までセットで伝える。
- 断定的な保証もしない:「絶対に安全」ではなく、原則の流れと確認事項を正確に示す。
- 確認は業者の仕事にする:残債・件数・種類の3点は、買主に調べさせず業者が調べて報告する。
- 根抵当権は別扱い:完済=自動抹消ではない。見つけたら段取りを厚めに組む。
この場面で効いている宅建の知識
- 根拠条文:民法 第369条(抵当権)・第398条の20(根抵当権の元本確定)
- 登記簿の読み方:抵当権は権利部乙区。債権額・抵当権者・設定日を確認する
- 実務の原則:決済と同時に売却代金で完済し、司法書士が抹消と移転を同日申請する
- 重要事項説明:登記された権利は35条の説明事項。契約書には抹消義務条項を置くのが通例
「抵当権とは担保権」という試験知識が、そのまま取引の流れと安心の説明につながっている。