宅建の実務クエスト

【宅建の実務】水害ハザードマップの説明、どう伝える?──不安をあおらず備えにつなげる

重要事項説明の準備で、担当からこんな申し送りが来る。

「重要事項説明では、市区町村が作る水害のハザードマップ上で、対象物件がどの位置にあたるかを説明します。お客様は水害を気にされているので、分かりやすく、不安をあおらずに伝えたいです。」

水害ハザードマップの説明は、2020年8月から重要事項説明の項目に加わった。覚えた知識が力になるのは、こうして事実を正確に示しながら、そこから備えの話へつなげられたときである。この記事では、条文が何を説明せよと言っているのか、マップの数字をどう読むのか、そして伝え方の順番までを通しで整理する。

この記事は、学習アプリ「シカクエ」の実務クエストを読み物として再構成したもの。実在の地域・浸水想定は用いず、説明の仕方を扱います。実際の説明は、必ず対象物件が所在する市町村のハザードマップによります。

まず結論:説明するのは「図面における所在地」

条文をそのまま読むと、説明すべきことは1つに絞られている。

水防法施行規則第十一条第一号の規定により当該宅地又は建物が所在する市町村の長が提供する図面に当該宅地又は建物の位置が表示されているときは、当該図面における当該宅地又は建物の所在地(宅地建物取引業法施行規則16条の4の3第3号の2)

これは宅地建物取引業法35条1項14号イを受けた省令の定めで、宅地・建物の売買、交換、貸借のすべてが対象になる(同条柱書。売買・交換は1号から3号の2まで、宅地の貸借は1号から3号の2までと8号から13号まで、建物の貸借は1号から5号までと7号から12号まで)。賃貸でも説明することになる。

ここが実務で誤解されやすい。説明の対象は「浸水するかどうか」でも「安全かどうか」でもなく、「図面のどこに位置しているか」だ。だから「この物件は浸水しません」も「危険です」も、条文が求めている説明ではない。位置を示し、図面そのものを見てもらうのが正しい形になる。

あわせて、市町村がハザードマップを作成していない場合はその旨を説明する。「表示されているときは」と条件付きで書かれているためだ。存在しないことも情報なので、確認した事実として伝える。

そもそもこの図面は何なのか

説明の根拠になっている「市町村の長が提供する図面」は、水防法の仕組みから生まれている。順を追うと次のようになる。

  1. 浸水想定区域が指定される。国土交通大臣または都道府県知事が、想定最大規模降雨により河川が氾濫した場合に浸水が想定される区域を、洪水浸水想定区域として指定する(水防法14条1項・2項)。雨水出水と高潮についても同様の指定がある(14条の2、14条の3)。
  2. 市町村地域防災計画に定める。指定があったときは、市町村防災会議が、洪水予報等の伝達方法、避難施設その他の避難場所および避難路に関する事項などを定める(15条1項各号)。
  3. 住民等へ周知する。その内容を記載した図面を、印刷物の配布その他の適切な方法により各世帯に提供する(水防法施行規則11条1号)。あわせてインターネット等で提供を受けられる状態に置く(同条2号)。

つまりハザードマップは、不動産取引のために作られた地図ではなく、避難のために作られた地図だ。この出自を押さえておくと、説明の焦点が「危ないかどうか」ではなく「どう逃げるか」に自然と寄る。

「水害」は3種類ある

ひとくちに水害ハザードマップと言っても、区分は3つある。市町村によっては別々のマップになっている。

種類何による浸水か根拠(指定)
洪水河川の氾濫水防法14条
雨水出水(内水)排水施設の能力を超えた雨水があふれること水防法14条の2
高潮台風等による海面の上昇水防法14条の3

3つとも作成している市町村もあれば、地形の事情で洪水だけの市町村もある。「ハザードマップを確認しました」で済ませず、どの種類を確認したかを記録する。内陸の物件で高潮のマップが存在しないのは当然なので、無いことを確認した事実として説明する。

マップの数字をどう読むか

浸水想定区域の指定では、図面に示す事項が省令で定められている。洪水の場合は次のとおりだ(水防法施行規則2条)。

示される事項読み方
指定の区域(1号)浸水が想定される範囲
浸水した場合に想定される水深(2号)色分けで表される。建物のどの高さまで来るかの目安になる
浸水継続時間(3号)長時間にわたり浸水するおそれがある場合に限って示される。「戻れない期間」の目安
計画降雨による浸水想定(4号)基本高水の設定の前提となる降雨で氾濫した場合の区域と水深

買主・借主にとって意味が大きいのは、2号と3号だ。

水深は、垂直避難ができるかどうかを分ける。想定水深が3mを超える地域では、2階へ上がっても足りない可能性がある。「何m」という数字を、建物の階数と並べて渡すと、お客様は自分の行動に翻訳できる。

浸水継続時間は、見落とされやすいが生活に直結する。水が引くまで数日かかる区域では、電気・水道・エレベーターが止まった状態が続く。「浸かるかどうか」より「何日戻れないか」のほうが、備えの話につながりやすい

もう1つ、前提の説明を落とさない。指定の基礎になっているのは想定最大規模降雨、つまり想定し得る最大規模の降雨だ(水防法14条1項かっこ書)。これは毎年起きる雨ではなく、考えられる最大の雨を置いたときの図になる。この前提を伝えずに色だけ見せると、実態より強い印象を与えてしまう。

つまずきやすいのは「安全だと言ってしまうこと」

色のついていない区域について、「ここは大丈夫です」と言いたくなる場面がある。ここは踏みとどまる。

理由は2つある。1つはマップが対象としていない現象があること。指定は特定の河川の氾濫、特定の排水施設の能力を前提にしている。想定外の要因による浸水を否定するものではない。もう1つは宅地建物取引業法の禁止だ。宅地建物取引業者は、相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなる環境に関する事項について、不実のことを告げる行為をしてはならない(同法47条1号ニ)。根拠のない安全の断定は、この条文に触れかねない。

言い換えの型を持っておく。

避ける言い方置き換える言い方
「ここは浸水しません」「このマップでは、この物件の位置に浸水想定の色がついていません」
「危険な地域です」「このマップでは、この位置は想定水深◯mの区分に入っています」
「まず起きないと思います」「この図は、想定し得る最大規模の雨を前提に作られています」

主語を「マップ」にする。これだけで、断定を避けながら情報の質は落とさずに済む。

説明の手順——この順番で渡す

  1. 市町村のハザードマップを揃える。洪水・雨水出水・高潮の3種類について、作成の有無を確認する。無いものは「無いことを確認した」と記録する。
  2. 物件の位置に印をつける。説明の対象は図面における所在地なので、口頭ではなく図面上で指し示す。
  3. 凡例を先に読む。色と水深の対応、浸水継続時間の表示の有無。凡例を飛ばして色だけ見せない
  4. 前提を伝える。想定最大規模降雨に基づくものであること。
  5. 避難場所と避難経路を一緒に見る。市町村地域防災計画で定められた事項がマップに記載されている(水防法15条1項2号、規則11条1号)。
  6. 他の災害情報とあわせて渡す。土砂災害警戒区域(規則16条の4の3第2号)、津波災害警戒区域(同3号)、造成宅地防災区域(同1号)も同じ条の説明事項だ。
  7. 説明した内容を書面に残す。どのマップの、いつ時点の版を、どこで確認したか。

この7ステップを踏むと、渡せるものが「ハザードマップを確認しました」から「この3種類のうち2つが作成されていて、この物件はこの位置で、避難場所はここです」に変わる。

プロならこう説明する

重要事項説明の中で、水害のハザードマップについてご説明します。市が作成している図面をお持ちしました。

先に、この図がどういうものかをお伝えします。これは、想定し得る最大規模の雨が降ったときに、どこまで水が来るかを描いた図です。毎年の雨を表したものではなく、考えられる最大の場合を置いています。ですので、色がついているからといって、毎年浸かるという意味ではありません。

この市では、河川の氾濫による洪水のマップと、排水が追いつかない場合の雨水出水のマップが作成されています。高潮のマップは、この市では作成されておりません。その旨もあわせてお伝えします。

お住まいになる建物の位置は、こちらです。洪水のマップでは、想定される水深が0.5メートルから3メートルの区分に入っています。凡例をご覧ください。この色がその区分です。

この数字は、2階へ避難していただければ水面より上になる高さです。ただ、1階の駐車場やお部屋は浸かる想定になります。あわせてご覧いただきたいのが、こちらの浸水継続時間です。この地域は1日から3日と示されています。水が引くまでの間、電気や水道が使えない期間があり得る、ということになります。

そのうえで、備えとして確認しておきたいことを3つ挙げます。1つめは、避難場所です。この図に記載されている一時避難場所は、こちらの小学校になります。歩いて行ける距離ですので、あとで経路をご一緒に確認しましょうか。

2つめは、火災保険です。水災の補償が付いているかどうかで、いざというときの負担が変わります。ご契約の際、保険の担当者にこのマップをお見せいただくとお話が早く進みます。

3つめは、市の避難情報の受け取り方です。多くの市が登録制のメール配信を行っています。ご入居後に登録なさっておくと、早い段階で情報が届きます。

最後に一点、正確にお伝えしておきます。この図は特定の河川と排水施設を前提に作られたもので、これ以外の原因による浸水がないことを示すものではありません。色がついていない場所についても、私から「安全です」と申し上げることはいたしかねます。図が示していることをそのままお伝えし、備えの材料をお渡しするところまでが、私の役目だと考えております。

よくある質問と、その答え方

「マップに色がついていたら、買わないほうがいいですか」
判断はお客様のものだ。渡せるのは材料になる。想定水深と建物の階数、浸水継続時間、避難場所までの距離、火災保険の水災補償。この4つを揃えると、判断できる形になる。「やめたほうがいい」も「問題ない」も、宅建業者が言う言葉ではない。47条の2第1項が禁じる断定的判断の提供に近づくという点でも、踏みとどまる場面になる。

「賃貸でも説明があるのですか」
ある。宅地建物取引業法施行規則16条の4の3の柱書は、宅地の貸借の契約では1号から3号の2まで、建物の貸借の契約では1号から5号までを対象としており、3号の2(水害ハザードマップ上の所在地)は貸借でも説明事項に入っている。売買だけの項目と取り違えないよう、条文の柱書で確認する。

「マップが古いようですが、それでいいのですか」
説明の対象は市町村の長が提供する図面であり、こちらで新しく作り直すものではない。ただし版が更新されていることがあるので、いつ時点の版を確認したかを記録して伝える。市町村のウェブサイトでも提供されている(水防法施行規則11条2号)ので、最新版の所在をあわせて渡しておくと、入居後にお客様自身で確認できる。

説明で外したくないポイント

  1. 説明するのは「図面における所在地」:安全性の評価ではない(規則16条の4の3第3号の2)。
  2. 作成されていない場合はその旨を伝える:無いことも情報。
  3. 洪水・雨水出水・高潮の3種類:どれを確認したかを記録する。
  4. 前提は想定最大規模降雨:毎年の雨ではない(水防法14条1項)。
  5. 水深と浸水継続時間を階数・日数に翻訳する:行動に結びつく形で渡す。
  6. 安全だと断定しない:主語をマップにする(宅建業法47条1号ニ)。
  7. 賃貸でも説明事項:規則16条の4の3の柱書で確認する。

根拠条文のまとめ

条文見出しこの記事で使った内容
宅地建物取引業法35条1項14号イ重要事項の説明等相手方等の利益の保護に欠けるものとして省令・府令で定める事項
宅地建物取引業法施行規則16条の4の3第3号の2法35条1項14号イの定める事項水防法施行規則11条1号の図面に位置が表示されているときは、当該図面における所在地
宅地建物取引業法施行規則16条の4の3柱書同上売買・交換は1号〜3号の2ほか。宅地の貸借は1号〜3号の2ほか。建物の貸借は1号〜5号ほか
宅地建物取引業法47条1号ニ業務に関する禁止事項環境等について不実のことを告げる行為の禁止
宅地建物取引業法47条の2第1項断定的判断の提供等の禁止断定的判断の提供の禁止
水防法14条洪水浸水想定区域想定最大規模降雨により氾濫した場合に浸水が想定される区域の指定
水防法14条の2・14条の3雨水出水浸水想定区域/高潮浸水想定区域雨水出水・高潮についての指定
水防法15条1項浸水想定区域における避難の確保等のための措置市町村地域防災計画に、伝達方法・避難場所・避難路等を定める
水防法施行規則2条洪水浸水想定区域の指定の際の明示事項指定の区域、想定される水深、浸水継続時間
水防法施行規則11条住民等に周知させるための必要な措置1号で図面の各世帯への提供、2号でインターネット等による提供
条文の記述は執筆時点のもの。ハザードマップの有無・区分・版は市町村ごとに異なるため、実務では必ず対象物件が所在する市町村の最新の図面でご確認ください。

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