宅建の実務クエスト

【宅建の実務】お湯が出ない!入居者への一次対応、どう返信する?

賃貸物件の入居者から、こんな連絡が届く。

「昨夜からお湯が出なくなりました。給湯器のスイッチを入れても反応がなく、水は出るのですがお湯だけ出ません。こちらで修理業者を呼んでしまってよいでしょうか。費用はどうなりますか。」

賃貸管理では、設備故障の一次対応は日常的に起きる。ここで問われるのは、その場で全部を解決することではない。最初の返信で、条文どおりの道筋を示せるかだ。この記事では、誰が直すのか、借主が自分で呼んでよいのはどんなときか、賃料はどうなるのかまでを通しで整理する。

この記事は、学習アプリ「シカクエ」の実務クエストを読み物として再構成したもの。人物・案件はすべて架空です。実際の対応は、必ず契約書の内容と個別の事情によります。

まず結論:直すのは貸主。ただし借主が呼べる場合が2つある

修繕義務の所在は条文にある。

賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。(民法606条1項)

だから原則は貸主の手配・貸主の費用だ。給湯器が寿命で動かなくなったのなら、借主が費用を負う場面ではない。

一方で、借主が自分で修繕できる場合も条文に置かれている。

賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。(民法607条の2)

つまり「呼んでよいか」への答えは、原則としてこちらで手配します、ただしこういう場合は先に動いていただいてかまいませんという形になる。

なぜ順番が決まっているのか

設備は貸主の所有物だ。何をどこまで直すか、どの業者に頼むか、交換にするか修理にするかは、所有者が決める領域になる。借主が自由に手配して後から請求できる形にすると、金額も方法も貸主の関与なく決まってしまう

その一方で、直らないまま放置されると困るのは借主だ。そこで民法は、①通知して待ったのに動かない場合と、②急迫の事情がある場合という2つの出口を用意した。原則は貸主、例外は借主。順番を先に伝えておくことが、後の費用の争いを防ぐ

借主の側にも義務がある。賃借物が修繕を要するときは、賃借人は遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない(民法615条本文)。ただし賃貸人が既に知っているときは要らない(同条ただし書)。今回の入居者は、この通知義務をきちんと果たしている。返信の冒頭で、そこに触れると受け止め方が変わる。

一次返信で押さえる5点

最初の返信は短くてよい。ただし次の5つは入れる。

入れること理由
1受け止め。連絡への礼と、不便が続いていることへの言及615条の通知義務を果たしてもらった側として
2手配はこちらで行うと明言する606条1項の原則。借主に費用の不安を残さない
3状況の聞き取り。いつから、症状、エラー表示、型番業者への一次情報になる。往訪回数が減る
4次の連絡の時期を具体的に示す「手配します」だけでは待つ側の時間が読めない
5急迫の場合の行動を先に伝える607条の2第2号。ガス漏れ・漏水などの想定

4番目が抜けやすい。「手配します」と「本日中にご連絡します」は、受け取る側にとって別のものだ。時期を示さない返信は、返信していないのと近い状態になる。

聞き取りは、この項目を一度に

やりとりの往復が増えるほど、復旧は遅れる。最初の1通で必要な項目をまとめて聞く

  1. いつから:症状が出た日時。前日まで正常だったか
  2. 症状の範囲:全ての蛇口か、浴室だけか。水は出るか
  3. エラー表示:リモコンに数字が出ていないか(型番と合わせて原因の当たりがつく)
  4. 給湯器の型番と製造年:本体側面のシール。写真を送ってもらう
  5. ガスか電気か:ガス給湯器なら、ガスコンロは使えるか。使えないならガスの供給側の可能性がある
  6. ガスメーターの状態:赤ランプが点滅していないか。地震などで遮断されていることがある
  7. 在宅可能な日時:業者の訪問枠を押さえるため

5番目と6番目は、訪問なしで解決することがある項目だ。ガスメーターの安全装置が働いているだけなら、復帰操作の案内で直る。聞き取りの順番を工夫するだけで、入居者の不便が数日縮まることがある。

つまずきやすいのは「賃料は当然に減額される」

設備が使えない期間の賃料について、条文はこう定めている。

賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。(民法611条1項)

ここは平成29年の改正で書き方が変わった部分だ。「減額を請求することができる」ではなく「減額される」。借主が請求しなくても、要件を満たせば当然に減額される仕組みになっている。

だから対応が長引くほど、貸主側の負担も増える。早く直すことは、借主のためであると同時に貸主のためでもある。この点は、修理費用の負担を渋る貸主への説明材料にもなる。

さらに、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は契約の解除をすることができる(同条2項)。給湯器1台の故障で直ちにこの条文が働く場面は多くないが、放置が続けばこの出口が視野に入ることは押さえておく。

借主が立て替えた場合の扱い

607条の2に当たる場面で借主が業者を呼び、費用を立て替えたときはどうなるか。

賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。(民法608条1項)

給湯器の修理は、使用収益に必要な修繕なので必要費にあたる。「直ちに」と書かれている点が要点で、契約終了時まで待つ必要はない。

これに対して有益費、つまり物の価値を増やす支出については、賃貸借の終了の時に償還する(同条2項)。必要費は直ちに、有益費は終了時にという違いを押さえておくと、入居者からの請求を仕分けられる。

ただし実務では、借主が先に呼んでしまうと金額の妥当性で揉めやすい。607条の2に当たる場面でも、可能なら「これから呼びます」の一報をもらう運用にしておくと、後の精算が滑らかになる。一次返信の段階で、緊急連絡先を渡しておくのがその備えになる。

対応の手順——受信から復旧まで

  1. 受信から1時間以内に一次返信を出す。5点を入れる。
  2. 聞き取り項目の回答と写真を受け取る。型番とエラー表示を確認する。
  3. ガスメーターの復帰操作を案内する。該当すればここで解決する。
  4. 貸主へ連絡する。症状、想定される原因、修理か交換か、概算費用、訪問候補日。選択肢と金額を添えて出すと判断が早い。
  5. 業者を手配し、入居者と日程を合わせる。訪問枠は在宅可能日時から押さえる。
  6. 復旧後に、原因と今後の見込みを両者へ伝える。同型の設備が他室にもあるなら、貸主に予防的な情報として渡す。
  7. 使えなかった期間を記録する。611条1項の減額の検討材料になる。

この7ステップを踏むと、渡せるものが「対応しました」から「原因はこれで、こう直し、この期間使えませんでした」に変わる。記録が残っていれば、賃料の精算も後から揉めない。

プロならこう返信する

ご連絡いただき、ありがとうございます。昨夜からお湯が使えないとのこと、ご不便をおかけしております。

はじめにお伝えします。修理業者の手配は、当社で行います。設備の修繕は貸主の負担で行うことが原則ですので、〇〇さまがご自身で業者をお呼びになる必要はありません。費用のご負担もございません。

手配を早く進めるために、いくつか教えていただけますでしょうか。

1. お湯が出なくなったのはいつごろからでしょうか
2. 浴室・キッチン・洗面のすべてでお湯が出ませんか。それとも一部でしょうか
3. 給湯器のリモコンに、数字などのエラー表示は出ていませんか
4. 給湯器本体の側面にあるシールを、お写真でお送りいただけますでしょうか(型番と製造年が分かります)
5. ガスコンロはお使いになれますか
6. ガスメーターの表示ランプが赤く点滅していないかご確認いただけますか
7. 業者が伺える日時のご希望をお聞かせください

5番と6番をお尋ねしているのは、ガスの安全装置が働いているだけの場合があり、その際はご自宅で復帰操作をしていただくだけで直ることがあるためです。もし赤い点滅がございましたら、その旨をお知らせください。手順をご案内します。

ご回答をいただき次第、本日中に手配の状況をご連絡いたします。

なお、ガスのにおいがする、水漏れが起きているなど、そのままにしておけない状況になりました場合は、お待ちにならずに下記へご連絡ください。急を要する場合は、先に業者をお呼びいただいてかまいません。その際は、可能であれば当社にも一報をいただけますと、その後の費用のお手続きがすみやかに進みます。

緊急連絡先:〇〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇(24時間)

返信の型が決まっていると、担当者が誰でも同じ質の一次対応ができる。管理会社としての信頼は、この再現性から生まれる。

よくある質問と、その答え方

「入居者の使い方が悪かった場合はどうなりますか」
606条1項ただし書に戻る。賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要となったときは、貸主の修繕義務の外に出る。ただしこれは調査の結果として分かることであって、一次対応の段階で判断する事項ではない。「使い方によってはご負担になる場合があります」と先に言うと、入居者は連絡をためらう。連絡が遅れるほど被害は広がるので、一次返信では触れず、原因が判明した段階で改めて説明する。

「直るまでの家賃はどうなりますか」
使用収益ができなくなった部分の割合に応じて、賃料は当然に減額される(611条1項)。借主に帰責事由がないことが条件になる。ただし「給湯器が使えない」ことが賃料の何割にあたるかは、条文が数字を定めていない。実務では使えなかった期間と設備の位置づけを記録し、貸主と協議して決める。「制度としては減額されます。割合は記録をもとにご相談させてください」という返し方になる。

「代わりの入浴費用は出ますか」
条文に直接の定めはない。611条1項の減額とは別の話になるため、契約書に定めがあるかを先に確認する。定めがなければ、貸主との協議事項になる。「出ます」とも「出ません」とも即答しないのが正確な対応で、「確認してご連絡します」と返したうえで、その日のうちに貸主へつなぐ。復旧までの日数が読めた段階で、この話は必ず出てくるので、こちらから先に切り出しておくのも1つの形になる。

対応で外したくないポイント

  1. 修繕は貸主の義務:まず手配主体を明言する(606条1項)。
  2. 借主が呼べるのは2つの場合:通知後に相当期間動かないとき、急迫の事情があるとき(607条の2)。
  3. 次の連絡の時期を必ず書く:「手配します」だけで終えない。
  4. 聞き取りは1通にまとめる:往復が増えるほど復旧が遅れる。
  5. 賃料は請求を待たず減額される:早期復旧は貸主の利益でもある(611条1項)。
  6. 必要費は直ちに償還:有益費の終了時償還と分けて押さえる(608条)。
  7. 一次対応で責任論に触れない:連絡をためらわせない。

根拠条文のまとめ

条文見出しこの記事で使った内容
民法606条1項賃貸人による修繕等賃貸人は使用収益に必要な修繕をする義務を負う。借主に帰責事由があるときを除く
民法607条の2賃借人による修繕通知後に相当の期間内に修繕しないとき、または急迫の事情があるときは借主が修繕できる
民法608条1項賃借人による費用の償還請求賃貸人の負担に属する必要費は、直ちに償還を請求できる
民法608条2項同上有益費は賃貸借の終了の時に償還する
民法611条1項賃借物の一部滅失等による賃料の減額等借主に帰責事由がないときは、使用収益できなくなった部分の割合に応じて賃料が減額される
民法611条2項同上残存部分のみでは目的を達することができないときは契約を解除できる
民法615条賃借人の通知義務修繕を要するときは遅滞なく賃貸人に通知する。賃貸人が既に知っているときを除く
条文の記述は執筆時点のもの。費用の負担や賃料の取扱いは契約書の定めと個別の事情によって変わるため、実務では契約書を確認したうえで貸主と協議してください。

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