【宅建の実務】伝えるべき?──告知事項の扱いを売主に助言する
中古の一戸建てを売る売主から、こんな相談が届く。
「家を売りに出したいのですが、実はこの家では過去に住人が亡くなる出来事がありました。買う人には言いたくない気持ちもあります。黙って売ってしまってもいいのでしょうか? それとも伝える必要がありますか?」
宅建の試験でも問われる「告知事項」は、実務で売主の気持ちと正確さの両方を扱う難しいテーマ。覚えた知識が力になるのは、こうして売主の気持ちに寄り添いつつ、正確に助言できたときだ。この記事では、伝えるべき事実の考え方と、ガイドラインの中身までを整理する。
まず結論:判断に重要な影響を及ぼす事実は伝える
基準はシンプルだ。買主が「そのことを知っていたら契約しなかった、あるいは条件を考え直した」と思うような、判断に重要な影響を及ぼす事実は、告知事項として伝える必要がある。
今回のような過去の出来事(いわゆる心理的瑕疵)も、これに当たる場合がある。故意に告げなかったり、事実と違う説明をしたりすることは、宅建業法47条が禁じている。「言いたくない」という気持ちは自然だが、伝えるかどうかは"気持ち"ではなく"判断に重要か"で決まる。
ガイドラインは「告げなくてよい場合」も示している
2021年に国土交通省が公表した「人の死の告知に関するガイドライン」は、実務の目安をはっきりさせた。重要なのは、すべての死を告げるべきとはしていないことだ。
| 場面 | ガイドラインの整理 |
|---|---|
| 老衰・病死などの自然死 | 原則、告げなくてよい(日常生活の中で当然起こりうるもの) |
| 日常生活の中の不慮の事故死(転倒・誤嚥など) | 原則、告げなくてよい |
| それ以外の死(自死・事件など)・特殊清掃が行われた場合 | 告げる。ただし賃貸では概ね3年経過後は原則告げなくてよい |
| 売買 | 経過期間による線引きは示されておらず、期間で免れる扱いにはなっていない |
今回は売買の相談なので、「3年ルール」は使えない。そして大事な例外がもうひとつある。買主から質問された場合や、社会的な影響が大きい事案では、期間や類型にかかわらず正直に告げる必要がある。「聞かれたら、答える」——ここは動かない。
なぜ、伝えた方が結果的に安心なのか
事実を伝えずに売ってしまうと、あとで買主が知ったとき、契約不適合責任を問われたり、損害賠償や契約解除を求められたりすることがある。裁判に至った場合の時間や費用の負担は、告げる場合の比ではない。
逆に、正しく告げたうえで買ってもらえば、その取引は後から崩れない。価格に影響が出ることはあるが、「揉める種を抱えたまま高く売る」より「種を消して確実に売り切る」方が、売主の利益になる。この向きで考えるのがポイントだ。
業者側にも義務がある——聞く側・聞かれる側の整理
この場面は、売主だけの問題ではない。媒介する宅建業者にも、ガイドライン上の役割がある。
- 業者は売主に告知書(物件状況報告書)への記載を求める。過去の出来事の有無を売主自身に書いてもらう形で、調査の基本とされている。
- 業者が自ら近隣に聞き込みまでする義務は、原則として課されていない。ただし売主から聞いた事実や、自ら知った事実を買主に隠せば、業者自身が宅建業法47条違反に問われる。
- 告知書に虚偽を書けば、責任は売主に返ってくる。「書かなかった」「違うことを書いた」は、後の紛争で最も不利な事実になる。
つまり売主への助言は「告知書に正直に書きましょう。書き方は手伝います」に集約される。告知書は売主を縛る紙ではなく、正しく書けば売主を守る紙になる。
プロならこう助言する
お気持ちはよく分かります。そのうえで、正直にお伝えします。
買主の方が「そのことを知っていたら契約しなかった、あるいは条件を考え直した」と思うような事実は、告知事項として伝える必要があります。国のガイドラインでも、売買では今回のような出来事は告げる扱いになっています。黙って売ることは、法律の面でお勧めできません。
事実を伝えずに売ってしまうと、あとで買主の方が知ったとき、損害賠償や契約解除を求められる可能性があります。そうなると、時間も費用も、いま感じておられるご負担よりずっと大きくなってしまいます。
お伝えのしかたは、一緒に整えられます。事実を淡々と、必要な範囲で記載する形が基本で、当社でも書面の書き方をお手伝いします。事情を承知のうえで検討くださる買主の方は、実際にいらっしゃいます。価格の相談も含めて、確実に売り切る形を一緒に作っていきましょう。
よくある質問と、その答え方
「隣の部屋やベランダで起きたことも告げるのですか」
ガイドラインは、売買・交換の対象になる部屋そのものと、日常で使う共用部分を軸に整理している。隣接住戸の出来事は原則として告知の対象外とされるが、社会的影響が大きい事案や、買主から質問された場合は別だ。迷う事案は「聞かれたら答える」に寄せる。
「リフォームすれば告げなくてよくなりますか」
ならない。内装を替えても出来事の事実は消えず、告知の要否はガイドラインの類型で決まる。むしろ「リフォームで隠した」と受け取られると、紛争での立場が悪くなる。
助言で気をつけたいこと
- 売主を責めない:「言いたくない」という気持ちを否定せず、受け止めたうえで正確に助言する。
- 不安をあおらない:「隠すと大変」と脅すのではなく、「正しく伝える方が結局は守りになる」と前向きに示す。
- 賃貸と売買を混ぜない:3年の目安は賃貸の話。売買では期間で免れない。
- 聞かれたら答える:質問された場合は、類型や期間にかかわらず正直に告げる。
- 告げ方まで支援する:範囲と書き方はガイドラインを参考に、業者が一緒に整える。
この場面で効いている宅建の知識
- 根拠:宅地建物取引業法 第47条(重要な事実の不告知等の禁止)と、国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(2021年)
- 告知の基準:買主の判断に重要な影響を及ぼす事実(心理的瑕疵を含む)は伝える
- ガイドラインの整理:自然死は原則告知不要/賃貸は概ね3年の目安/売買に期間の線引きなし/質問されたら告げる
- 隠した場合:契約不適合責任・損害賠償・契約解除などにつながりうる
「重要な事実は告げる」という宅建業法の考え方が、そのまま売主への誠実な助言になっている。