【宅建の実務】「駅から徒歩8分」はどう測る?──広告表示のルールを説明する
物件を探している買主から、こんな質問が届く。
「広告に『駅から徒歩8分』とありましたが、実際に歩いたら12分かかりました。これは嘘をつかれたということでしょうか。」
広告表示の質問は、宅建の実務で避けて通れない。力になるのは、こうして「何を基準に書かれた数字か」をその場で渡せたときである。この記事では、徒歩分数の計算根拠、広告に関する3つの法律の役割分担、そして買主への説明の仕方までを通しで整理する。
まず結論:80mで1分。ただし含まれないものがある
徒歩分数の計算は、不動産の表示に関する公正競争規約に基づいている。道路距離80mにつき1分間を要するものとして算出し、1分未満の端数は1分として計算するという定めだ。
これは法令そのものではなく、景品表示法に基づいて事業者団体が定め、内閣総理大臣および公正取引委員会の認定を受けた業界の自主規制にあたる。ただし業界全体が従っているため、広告の数字はこの基準で書かれていると考えてよい。
ここで大事なのは、この計算に何が含まれていないかだ。
| 含まれるもの | 含まれないもの |
|---|---|
| 道路に沿って測った距離(道路距離) | 信号の待ち時間 |
| 坂道・階段による速度の低下 | |
| 踏切の待ち時間 | |
| 駅構内の移動時間(改札からホームまで) | |
| 歩く人の年齢・荷物・同行者 |
質問への答えはここから出る。8分と12分の差は、嘘ではなく「測っているものが違う」ことから生まれている。80mを1分で歩くのは分速80m、時速にすると約4.8km。信号2つで1分待ち、緩やかな上り坂があれば、実感として4分の差は自然に生まれる。
この説明は、買主を納得させるためのものではない。次に別の物件を見るとき、買主が自分で読み替えられるようになるための説明だ。「表示は道のりの計算なので、実際は数分足してお考えください」と渡しておくと、以降の物件比較の精度が上がる。
広告には3つの法律が重なっている
不動産広告は、性格の違う3つの規制を同時に受ける。役割分担を押さえると、どこで何が問題になるかが読める。
| 規制 | 誰を守るか | 禁じていること |
|---|---|---|
| 宅地建物取引業法32条 | 取引の関係者 | 著しく事実に相違する表示、実際より著しく優良・有利と誤認させる表示 |
| 景品表示法5条 | 一般消費者 | 優良誤認表示(1号)、有利誤認表示(2号)、指定表示(3号) |
| 不動産の表示に関する公正競争規約 | —(業界の自主規制) | 表示の具体的な基準。徒歩分数、面積、写真の使い方など |
宅建業法32条が並べている項目
条文は、対象となる事項を具体的に列挙している。
宅地建物取引業者は、その業務に関して広告をするときは、当該広告に係る宅地又は建物の所在、規模、形質若しくは現在若しくは将来の利用の制限、環境若しくは交通その他の利便又は代金、借賃等の対価の額若しくはその支払方法若しくは代金若しくは交換差金に関する金銭の貸借のあつせんについて、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。(宅地建物取引業法32条)
「交通その他の利便」が入っている。徒歩分数はここに関わる。ただし条文の要件は「著しく」だ。公正競争規約どおりに計算した8分は、著しく事実に相違する表示にはあたらない。規約違反と32条違反は、当たる線が違うと押さえておく。
32条に違反した場合、6月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはこれを併科とされている(宅地建物取引業法81条1号)。さらに監督処分として、指示処分(65条1項)や1年以内の業務停止(同条2項)の対象にもなる。
景品表示法5条との違い
景品表示法5条は一般消費者を保護の対象にしている。1号が優良誤認表示、2号が有利誤認表示だ。いずれも「不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」という要件がついている。
宅建業法32条との差は、誰を守るかと、どこが動くかにある。景品表示法は消費者庁が所管し、措置命令や課徴金の仕組みを持つ。宅建業法は免許行政庁が動く。1つの広告が両方に触れることがあるので、どちらか一方をクリアすれば足りるという理解にはならない。
広告でもう2つ守ること
取引態様の明示(34条)
宅建業者は、売買・交換・貸借に関する広告をするとき、自己が契約の当事者となるのか、代理人として成立させるのか、媒介して成立させるのかの別を明示しなければならない(宅地建物取引業法34条1項)。
さらに、注文を受けたときは遅滞なく、その注文をした者に対し取引態様の別を明らかにする義務がある(同条2項)。広告のときと、注文を受けたときの2回ある点を落とさない。
買主にとっての意味は明確だ。売主(自ら売主)なのか、仲介なのかで、仲介手数料の有無が変わる。広告の隅に小さく書かれている「取引態様:媒介」の一行は、買主の支払総額を左右する情報になる。
広告開始時期の制限(33条)
造成・建築の工事完了前は、都市計画法29条1項・2項の許可、建築基準法6条1項の確認その他法令に基づく許可等の処分があった後でなければ、広告をしてはならない(宅地建物取引業法33条)。
条文は「売買その他の業務に関する広告」と広く書いており、貸借の広告も含まれる。契約締結時期の制限(36条)が売買・交換に限られているのと範囲が違うので、混ぜない。
つまずきやすい表示——面積と写真
| 項目 | 実務での注意点 |
|---|---|
| マンションの専有面積 | 広告は壁の内側(内法)ではなく壁の中心線(壁芯)で測った面積を表示するのが通例。登記簿の面積は内法なので、広告より小さく出る。「登記簿と違う」という質問はここから来る |
| バルコニー | 専有面積に含まれない。共用部分に専用使用権が設定されている形が通例 |
| 「新築」の表示 | 公正競争規約で、建築工事完了後1年未満で、かつ居住の用に供されたことがないものと定義されている |
| 写真・CG | 取引する建物そのものの写真が原則。他物件の写真や完成予想図を使う場合は、その旨の明示が要る |
| 「駅前」「一等地」等 | 公正競争規約で使用が制限されている特定用語がある。客観的な裏づけなく使わない |
マンションの面積は、質問が最も多い項目だ。広告70㎡・登記簿67㎡という差は珍しくない。どちらかが間違っているのではなく、測り方が2種類あると伝える。住宅ローン控除など、登記簿面積で判定される制度もあるので、この差が制度の可否を分けることがある点も添えておく。
おとり広告について
存在しない物件、既に成約した物件、取引する意思のない物件を広告に載せる行為はおとり広告と呼ばれ、公正競争規約で禁止されている。景品表示法5条3号を受けた指定表示としても位置づけられている。
宅建業者の側からすると、成約済みの物件を落とす作業が遅れるだけで、おとり広告になり得る。指定流通機構への成約の通知は、成約したときに遅滞なく行う義務がある(宅地建物取引業法34条の2第7項)。成約処理は事務作業ではなく、広告規制の一部だと位置づけると、優先順位が変わる。
調べ方の手順——広告を出す前に確認する
- 許可等の処分が済んでいるかを確認する。工事完了前なら、開発許可・建築確認が下りているか(33条)。
- 取引態様を確認して明記する。売主、代理、媒介のどれか(34条1項)。
- 徒歩分数を道路距離から計算する。地図上の直線距離ではなく、実際に歩く経路の道路距離で測る。
- 面積の出所を確認する。壁芯か内法か。登記簿の面積と並べて把握しておく。
- 写真がその物件のものかを確認する。完成予想図なら、その旨を記載する。
- 特定用語の使用に裏づけがあるかを確認する。
- 成約済みの物件が残っていないかを確認する。掲載中の物件リストを定期的に洗う。
この7ステップは、広告を作る側のチェックリストであると同時に、買主から質問を受けたときに確認する順番でもある。
プロならこう説明する
お確かめいただき、ありがとうございます。数字の出どころをご説明します。
不動産広告の徒歩分数は、道のりを80メートルごとに1分として計算するという業界共通の決まりに従って書かれています。1分に満たない端数は切り上げます。ですので「徒歩8分」は、駅からこの物件までの道のりが560メートルを超えて640メートル以内、という意味になります。
この計算には、信号の待ち時間、坂道、踏切、駅の中を歩く時間は含まれていません。この道でしたら、途中に信号が2つと緩やかな上り坂がございます。ですので、実際に歩かれて12分というのは、決しておかしな数字ではありません。
誤解を招く書き方ではなかったか、という点についてもお答えします。この表示は業界の基準どおりに計算されたもので、法律に触れるような偽りではありません。ただ、お客さまが実際にお感じになった時間との差は、そのとおりに受け止めております。
今後、別の物件をご覧になるときのために、読み替え方をお伝えしておきます。表示された分数に、信号1つあたり1分程度を足してお考えいただくと、実感に近くなります。坂道がある場合はもう少し見ておいてください。ご案内の際は、私も一緒に歩いて実際の時間を測ります。
あわせて、広告をご覧になるときに見ていただきたい箇所をお伝えします。広告の隅に「取引態様」という欄があります。ここに「売主」と書かれていれば仲介手数料はかかりませんが、「媒介」であればかかります。お支払いの総額が変わりますので、物件を比べるときはここも見ておかれるとよいかと思います。
マンションの面積についても、先にお伝えしておきます。広告の専有面積と、登記簿の面積は数字が違います。広告は壁の中心から測り、登記簿は壁の内側から測るためです。どちらかが誤りというわけではありません。ただ、住宅ローン控除など登記簿の面積で判定される制度がありますので、その点は物件ごとに確認いたします。
よくある質問と、その答え方
「他社の広告でこの物件を見ましたが、価格が違いました」
確認すべきことが複数ある。掲載が古いまま更新されていないのか、取引態様が違うのか、価格改定があったのか。成約済みや価格改定後の物件が残っている場合、おとり広告の問題になり得る。「そちらが間違いです」と決めつけず、現在の正しい条件を提示し、根拠となる資料を渡すのが正確な対応になる。
「まだ完成していない物件の広告を見ましたが、大丈夫なのですか」
工事完了前でも、必要な許可等の処分があった後であれば広告できる(宅地建物取引業法33条)。開発許可や建築確認が下りていれば適法だ。逆に、それらが下りる前の広告は条文に正面から触れる。「建築確認番号が記載されているか」を見ると、確認済みかどうかの手がかりになる。
「広告に載っていない情報は、聞かないと教えてもらえませんか」
そうではない。宅建業者は、相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなる事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為を禁じられている(宅地建物取引業法47条1号)。聞かれなかったから言わなかった、という理屈は通らない。広告の紙面は限られているので、載っていない事項は問い合わせの段階でこちらから渡す、という運用になる。
説明で外したくないポイント
- 徒歩1分は道路距離80m:端数は切り上げ。公正競争規約による。
- 信号・坂・踏切・駅構内は含まれない:読み替え方まで渡す。
- 宅建業法32条は「著しく」が要件:規約違反と32条違反は線が違う。
- 景品表示法5条は一般消費者を守る:両方に触れることがある。
- 取引態様は広告時と注文時の2回(34条1項・2項)。
- 許可等の前は広告できない:貸借の広告も含む(33条)。
- 広告の面積は壁芯、登記簿は内法:制度の判定に影響することがある。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 宅地建物取引業法32条 | 誇大広告等の禁止 | 所在・規模・形質・利用の制限・環境・交通その他の利便・対価の額等について、著しく事実に相違する表示等の禁止 |
| 宅地建物取引業法33条 | 広告の開始時期の制限 | 許可等の処分があった後でなければ広告をしてはならない |
| 宅地建物取引業法34条 | 取引態様の明示 | 広告をするときと、注文を受けたときに取引態様の別を明示・明示する |
| 宅地建物取引業法34条の2第7項 | 媒介契約 | 成約したときは遅滞なく指定流通機構に通知する |
| 宅地建物取引業法47条1号 | 業務に関する禁止事項 | 重要な影響を及ぼす事項の不告知・不実告知の禁止 |
| 宅地建物取引業法65条1項・2項 | 指示及び業務の停止 | 指示処分と1年以内の業務停止 |
| 宅地建物取引業法81条1号 | 罰則 | 32条違反は6月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、または併科 |
| 不当景品類及び不当表示防止法5条 | 不当な表示の禁止 | 1号 優良誤認表示、2号 有利誤認表示、3号 内閣総理大臣が指定する表示 |
| 不動産の表示に関する公正競争規約 | (業界の自主規制) | 徒歩1分80m・端数切上げ、新築の定義、写真・特定用語の基準、おとり広告の禁止 |