宅建の実務クエスト

【宅建の実務】重要事項説明書、抜けを見抜けるか?──登記された権利の説明漏れ

先輩から、重要事項説明書の下書きを渡されて言われる。

「この下書き、宅建業法で説明が必要なのに抜けている項目が一つある。どこか分かる?」

下書きにはこう書かれている。

対象物件:王都中央マンション305号室
1. 登記記録に記録された事項 … 所有権:売主A名義
2. 法令上の制限 … 用途地域:第一種住居地域
3. 私道に関する負担 … なし
4. 飲用水・電気・ガスの供給施設 … 公営水道・都市ガス・電気いずれも整備済み
5. 代金以外に授受される金銭 … 手付金100万円

宅建の試験では「重要事項説明」は最頻出テーマの一つ。ただ、覚えた説明事項が本当に力になるのは、こうして目の前の書面から"抜け"を見抜けたときだ。この記事では、抜けを見つける視点と、その後の段取りまでを通しで整理する。

この記事は、学習アプリ「シカクエ」の実務クエスト「重要事項説明書の不備チェック」を読み物として再構成したもの。物件・人物はすべて架空です。

まず結論:抜けているのは「所有権以外の登記された権利」

「1. 登記記録に記録された事項」が所有権(売主A名義)だけで終わっている。ここに、抵当権など所有権以外の権利があるかどうかの記載が抜けている。

登記事項は「誰の持ち物か」だけでは終わらない。その物件にどんな担保や制限が付いているかまで含めて、はじめて「登記された権利」の説明になる。

登記記録は3階建て——どこを読むかで見えるものが変わる

不動産の登記記録は、大きく3つの部分でできている。実務では、この3つを別々に読む。

部分何が書いてあるか実務で見るポイント
表題部所在・地番・地目・地積/建物なら構造・床面積登記簿の面積と実測が食い違わないか
権利部 甲区所有権に関する事項現在の所有者は誰か。差押え・仮処分が入っていないか
権利部 乙区所有権以外の権利(抵当権・根抵当権・地上権・賃借権など)担保が付いていないか。付いていれば債権額と抹消の見込み

今回の下書きは、甲区だけを見て乙区を見ていない状態になっている。所有者名を書いて安心してしまう、というのがこの落とし穴の正体だ。

なぜ、それが買主にとって重大なのか

抵当権が設定されたまま引渡しを受けると、何が起きるか。順を追うとこうなる。

  1. 買主が代金を全額支払い、所有権の移転登記を受ける。
  2. しかし乙区の抵当権はそのまま残っている。担保は物件に付いたままだ。
  3. 売主が借入の返済を続けられなくなると、金融機関が担保権を実行する。
  4. 物件が競売にかけられ、買主は代金を払ったのに所有権を失うおそれがある。

売主に対して損害賠償を求める道は残るが、返済できない状態の相手から回収できるとは限らない。だから登記された権利の有無は「細かい話」ではなく、契約前に必ず伝える事項になっている。

買主に説明するときは、条文より順番で話すと伝わる。「お金を払う→登記も移る→でも担保は残っている→売主が返せなくなると競売になる」。この4段で、なぜ抹消の確認が要るのかが自分ごとになる。

実務ではどう処理するか——決済当日の同時抹消

抵当権が付いている物件が売れないわけではない。むしろ住宅ローンが残った家の売却はごく普通にある。実務では、決済と同時に抹消する段取りを組む。

  1. 売主が金融機関に残債と抹消の意思を伝え、残高証明を取る。
  2. 売買代金で残債を返せるか(=売却価格が残債を上回るか)を確認する。下回る場合は自己資金の補填か、任意売却の相談になる。
  3. 決済日を金融機関と調整する。抹消書類は当日に金融機関から交付されることが多い。
  4. 決済当日、司法書士が書類を確認したうえで、買主が代金を支払う。
  5. 司法書士が「抵当権抹消」と「所有権移転」をまとめて申請する。

この流れを知っていると、買主への説明が「抵当権が付いています」で止まらない。「付いていますが、決済と同時に消します。段取りはこうです」まで渡せる。不安を残さないのは、消える保証ではなく、消す手順が見えていることだ。

重要事項説明で"抜けやすい"項目

今回のような「登記された権利」以外にも、下書き段階で抜けやすい項目がある。チェックの目安として持っておくとよい。

項目抜けやすい理由
所有権以外の登記された権利甲区で満足してしまう(今回の抜け)
契約の解除に関する事項契約書に書くから、と重説で省いてしまう
損害賠償額の予定・違約金「決めていない」ときに、決めていない旨を書き忘れる
手付金等の保全措置の概要金額の大小で要否が変わるため判断が抜ける
代金以外の金銭の"目的"金額だけ書いて、何のお金かを書かない
水害ハザードマップ上の所在地2020年8月から説明事項。古い雛形のまま使うと落ちる
石綿使用調査・耐震診断の内容「調査結果の記録の有無」を書く欄だと気づかない

マンションのような区分所有建物では、これに規約の内容・管理費・修繕積立金の額と滞納の有無・管理の委託先などが加わる。滞納があると、買主がその負担を引き継ぐことがあるため、金額の確認は欠かせない。

「書いてあるか」だけでなく「買主が不利益を避けるのに足りているか」で読むと、抜けに気づきやすくなる。

プロならこう指摘する

「1. 登記記録に記録された事項」が所有権(売主A名義)のみで、抵当権など所有権以外の権利に関する記載が抜けています。登記記録でいえば、甲区だけを見て乙区を確認していない状態です。

抵当権が残ったまま引渡しになると、買主が代金を支払っても担保権は物件に残ります。売主の返済が滞れば競売にかけられ、最悪の場合は所有権を失うおそれがあります。買主の不利益に直結しますので、登記された権利の有無は必ず説明が要ります。

この物件の乙区を確認したうえで、抵当権があれば「決済と同時に抹消する」段取りまで書き加えましょう。あわせて、契約の解除に関する事項と損害賠償額の予定についても、記載が足りているか見ておきたいところです。

この場面で効いている宅建の知識

35条違反は、業者への指示・業務停止・免許取消といった監督処分の対象になりうる。説明事項の暗記が、そのまま書面の抜けを見抜く目になっているのがわかる。

35条書面と37条書面は、役割が違う

実務で混同しやすいのが、重要事項説明書(35条書面)と契約書(37条書面)だ。似た項目が並ぶが、目的も渡す相手も違う。

35条書面(重要事項説明書)37条書面(契約書)
目的契約するかどうかを判断する材料を渡す成立した契約の内容を残す
渡す時期契約が成立する前契約が成立した後、遅滞なく
渡す相手買主(借主)になろうとする者契約の両当事者
説明宅建士が説明する(士証の提示あり)交付でよい(説明義務はない)
宅建士の関与記名記名

この違いが分かっていると、下書きの抜けを見たときに「これは重説で言うべきか、契約書に書くべきか」で迷わなくなる。判断材料は前に、合意内容は後に。順番で覚えるとよい。

なお、買主が宅建業者である場合、35条の説明義務は書面の交付で足りる(説明そのものは省略できる)。相手がプロかどうかで手続きが変わる点も、実務では押さえておきたい。

チェックの手順にすると

  1. 登記事項証明書を自分で取る。売主から渡された写しだけで済ませない(日付が古いことがある)。
  2. 甲区で所有者と、差押え・仮処分の有無を見る。
  3. 乙区で担保権の有無、債権額、抵当権者を見る。
  4. 担保があれば、抹消の段取りを売主と金融機関に確認する。
  5. 重説の雛形が最新か確認する(水害ハザードマップ等、追加された項目に対応しているか)。
  6. 区分所有なら、管理組合に管理費・修繕積立金の額と滞納の有無を照会する。

案内で外したくないポイント

  1. 甲区で止まらない:登記された権利は乙区まで見て初めて説明できる。
  2. 「ある/ない」で終わらせない:あるなら、どう消すかの段取りまで渡す。
  3. 説明は契約前・宅建士が・士証を提示して:この3点は形式ではなく買主保護の中身。
  4. 雛形の鮮度を疑う:説明事項は追加されている。古い様式は抜けの温床になる。
条文・制度の記述は執筆時点のもの。実務では最新の法令と、物件所在地の運用を必ず確認してください。

勉強は、クエストになった。

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