【宅建の実務】自宅を売って利益が出たら税金は?──譲渡所得と特例を案内する
長く住んだ自宅を売るお客様から、相談が届く。
「長く住んだ自宅を売ろうと思っています。売って利益が出たら、税金がたくさんかかってしまうのでしょうか。住んでいた家を売るときに、税金が軽くなる仕組みがあると聞いたのですが、本当でしょうか。」
譲渡所得の考え方は、売却の資金計画に直結する。覚えた知識が力になるのは、こうしてお客様に、課税の組み立てと使える特例の見取り図を渡せたときである。この記事では、税率の分かれ目、特例の要件、そして案内の順番までを通しで整理する。
まず結論:課税されるのは「売った金額」ではなく「利益」
不動産を売って課税されるのは、売却代金そのものではない。譲渡所得、つまり利益の部分だ。おおまかな組み立ては次のようになる。
| 順番 | 計算 |
|---|---|
| 1 | 譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)= 譲渡所得 |
| 2 | 譲渡所得 − 特別控除 = 課税譲渡所得金額 |
| 3 | 課税譲渡所得金額 × 税率 = 税額 |
だから、高く売れたこと自体が税金を生むわけではない。買ったときより高く売れた差額が対象になる。バブル期に買って今売る人は利益が出ないことも多く、その場合この税金はかからない。まずここを渡すと、相談の緊張がほどける。
税率は「その年の1月1日で5年」で分かれる
租税特別措置法は、所有期間で税率を2つに分けている。判定の基準日は譲渡した年の1月1日だ。
| 区分 | 所有期間(譲渡した年の1月1日時点) | 所得税 | 住民税 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 5年を超える | 15% | 5% | 措置法31条1項/地方税法附則34条 |
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 9% | 措置法32条1項/地方税法附則35条 |
ここにもう1つ乗る。復興特別所得税だ。平成25年から令和19年までの各年分の所得税について、基準所得税額に2.1%を乗じた額が課される(東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法9条1項・13条)。所得税15%に対しては0.315%、30%に対しては0.63%が上乗せされる形になる。
「所有期間5年」の判定でつまずくのは基準日だ。取得日から譲渡日までを単純に数えるのではなく、譲渡した年の1月1日時点で5年を超えているかで判定する(措置法31条1項・2項)。所有期間は取得した日の翌日から起算する(同条2項)。
たとえば2021年6月に取得し2026年8月に売る場合、実際の保有は5年2か月だが、判定は2026年1月1日時点となり所有期間は4年余り。短期になる。売り急ぐ相談では、この差が税率で倍近く効く。年内か年明けかで見通しが変わるので、取得日は最初に確認する。
マイホームには2つの特例がある
1つめ:3,000万円の特別控除(措置法35条)
居住用財産を譲渡した場合、譲渡所得から3,000万円を控除できる(措置法35条1項)。所有期間の長短を問わず使えるのが、この特例の大きなところだ。長期にも短期にも適用される(同項1号・2号)。
対象になるのは、次のような譲渡だ(同条2項)。
- 現に居住の用に供している家屋の譲渡、またはその家屋とともにする敷地の譲渡(同項1号)
- 居住の用に供されなくなった家屋やその敷地の譲渡を、居住の用に供されなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までにした場合(同項2号)
2番目の「3年を経過する日の属する年の12月31日まで」は、実務でよく効く。先に引っ越してから売るという順番でも、この期限内であれば特例が使える。ただし期限は日ではなく年末で切れるので、年をまたぐ売却では逆算が要る。
2つめ:10年超所有の軽減税率(措置法31条の3)
譲渡した年の1月1日時点で所有期間が10年を超える居住用財産を譲渡した場合、長期譲渡所得の税率がさらに下がる(措置法31条の3第1項)。
| 課税長期譲渡所得金額 | 所得税 | 住民税 |
|---|---|---|
| 6,000万円以下の部分 | 10%(31条の3第1項1号) | 4%(地方税法附則34条の3) |
| 6,000万円を超える部分 | 600万円+超過額の15%(同項2号) | 96万円+超過額の2%(道府県民税分ほか) |
この2つは重ねて使える。3,000万円を控除したうえで、残った金額に軽減税率をかける。長く住んだ自宅の売却では、この組み合わせで税額が大きく変わる。
つまずきやすいのは「3年に1度」と「親族への売却」
前年または前々年に既にこれらの特例の適用を受けている場合、使えない。措置法35条2項は、その年の前年または前々年に35条1項、36条の2、36条の5、41条の5、41条の5の2の適用を受けている場合を除くと定めている。31条の3第1項にも同じ制限がある。
つまり実質的に3年に1度。住み替えを短い間隔で繰り返す相談では、前回の売却がいつだったかを必ず確認する。
もう1つが譲渡の相手方だ。配偶者その他政令で定める特別の関係がある者に対する譲渡は、35条2項1号かっこ書でも31条の3第1項かっこ書でも除外されている。「子どもに売る」「同族会社に売る」といった形は、この特例の外に出る。
この2点は、売主が自分から言い出さない情報だ。こちらから聞かないと出てこないので、最初のヒアリングに組み込んでおく。
取得費が分からないときの扱い
相続した家などでは、いくらで買ったかの資料が残っていないことがある。条文には、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地等・建物等について、取得費を収入金額の5%とする規定がある(措置法31条の4第1項)。ただし実際の取得に要した金額のほうが多いことが証明された場合は、そちらによる(同項ただし書)。
それ以降に取得した不動産で取得費が分からない場合の扱いは、条文そのものではなく課税実務上の取扱いによる。宅建業者が「5%で計算できます」と断定する場面ではないので、「取得費が不明な場合の扱いがありますので、税務署でご確認ください」という渡し方をする。
いずれにしても、実際の取得費が分かる資料が出てくれば、そちらのほうが有利になることが多い。売買契約書、当時の領収書、通帳の記録、住宅ローンの償還表。売主に心当たりを聞いておくと、税額が大きく変わることがある。「見つからないから」と決める前に、探す時間を取る価値がある。
案内の手順——この順番で聞く
- 取得日を確認する。登記事項証明書で取得の原因と日付を見る。譲渡年の1月1日時点で5年超か、10年超かがここで決まる。
- 取得費の資料があるかを聞く。無ければ探してもらう。ここで税額が大きく動く。
- 今も住んでいるか、いつ引っ越したかを聞く。空き家なら、居住の用に供されなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までかどうかを見る。
- 前年・前々年に不動産を売っていないかを聞く。特例が3年に1度である以上、ここは必須の確認になる。
- 買主が親族や同族会社でないかを確認する。特別の関係がある者への譲渡は特例の対象外になる。
- ここまでの情報を持って、税理士か税務署に確認する段取りを作る。宅建業者が税額を断定しない。
この6ステップを踏むと、渡せるものが「特例があります」から「この条件なら特例が使える見込みで、確認先はここです」に変わる。
プロならこう案内する
長くお住まいになった家のご売却ですね。税金の考え方から順にご説明します。
まず、課税されるのは売却代金そのものではなく、お買いになったときより高く売れた差額の部分です。ですので、売れた金額がそのまま課税されるわけではありません。
税率は、お持ちだった期間で分かれます。売却する年の1月1日の時点で5年を超えていれば、所得税15%と住民税5%。5年以下ですと所得税30%と住民税9%になります。ここに復興特別所得税が所得税額の2.1%分乗ります。判定は「売った年の1月1日時点」ですので、実際にお持ちだった年数とずれることがあります。まず登記の取得日を確認させてください。
そのうえで、ご自宅の売却には軽くする仕組みが2つあります。1つは、利益から3,000万円を差し引ける特別控除です。もう1つは、1月1日時点で10年を超えてお持ちの場合に使える軽減税率で、6,000万円までの部分が所得税10%・住民税4%になります。この2つは重ねて使えます。
いくつか確認させていただきたいことがあります。1つは、前の年か前々の年に不動産をお売りになっていないか。これらの特例はおおむね3年に1度という決まりがあります。もう1つは、買われる方がご親族でないかどうか。ご親族など特別の関係にある方への売却は、この特例の対象から外れます。
あわせて、お買いになったときの売買契約書や領収書が残っていないかお探しいただけますか。取得された金額が分かる資料が無い場合、利益が実際より大きく計算される扱いになることがあります。当時の資料が見つかると、税額が変わってまいります。取得費が不明な場合の具体的な扱いは、税務署でご確認いただく事項になります。
金額の確定は税理士または税務署のご担当がされる領域です。ここまでの情報を整理してお渡ししますので、確定申告の前にご相談いただく段取りをご案内します。
宅地建物取引業者は税務の代理をしない。できるのは、判断材料を漏れなく集めて渡すところまでだ。そこを線引きしたうえで材料の質を上げるのが、この場面での役割になる。
よくある質問と、その答え方
「亡くなった親の家を売る場合も、3,000万円の控除は使えますか」
別に用意された特例がある。相続または遺贈により被相続人居住用家屋とその敷地を取得した相続人が、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡した場合、居住用財産を譲渡した場合に該当するものとみなされる(措置法35条3項)。ただし譲渡の対価の額が1億円を超えるものは除かれる点と、耐震基準への適合または家屋の取壊しといった要件がある点は、必ず添えて伝える。
「損が出た場合はどうなりますか」
長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失は、原則として生じなかったものとみなされる(措置法31条1項後段)。他の所得と相殺できないという意味だ。ただし居住用財産については、譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例が別に置かれている(措置法41条の5・41条の5の2)。「損が出たから何もない」ではなく、別の枠組みを確認する場面だと伝えて、税理士へつなぐ。
「特例を使えば申告しなくていいですか」
逆になる。特例は適用を受けるための申告をして初めて効く仕組みで、控除の結果として税額がゼロになる場合でも申告が要る。地方税でも、居住用財産の軽減税率について、申告書に譲渡所得の明細に関する事項の記載があるときに限り適用すると定められている(地方税法附則34条の3第2項)。「税額ゼロだから何もしなくてよい」という案内にはならない。
案内で外したくないポイント
- 課税は利益に対して:譲渡価額 −(取得費+譲渡費用)で考える。
- 5年の判定は譲渡年の1月1日:実際の保有年数とずれる(措置法31条2項)。
- 3,000万円控除は所有期間を問わない:短期でも使える(措置法35条1項)。
- 10年超なら軽減税率も重ねられる:6,000万円以下の部分が所得税10%(措置法31条の3)。
- おおむね3年に1度:前年・前々年の適用があると使えない。
- 親族への譲渡は対象外:特別の関係がある者への譲渡は除外される。
- 税額は断定しない:材料を揃えて税理士・税務署へつなぐ。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 租税特別措置法31条1項・2項 | 長期譲渡所得の課税の特例 | 譲渡年の1月1日で所有期間5年超なら所得税15%。所有期間は取得の日の翌日から起算。損失は生じなかったものとみなす |
| 租税特別措置法31条の3 | 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例 | 1月1日で10年超の居住用財産は6,000万円以下の部分が10%、超過部分は600万円+15% |
| 租税特別措置法32条1項 | 短期譲渡所得の課税の特例 | 1月1日で所有期間5年以下なら所得税30% |
| 租税特別措置法35条1項・2項 | 居住用財産の譲渡所得の特別控除 | 3,000万円控除。居住の用に供されなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで。前年・前々年に適用を受けている場合と特別の関係がある者への譲渡は除く |
| 租税特別措置法35条3項 | 同上 | 被相続人居住用家屋等の譲渡。令和9年12月31日まで、対価1億円以下 |
| 租税特別措置法31条の4第1項 | 長期譲渡所得の概算取得費控除 | 昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地等・建物等の取得費は収入金額の5%。実額が多いと証明された場合はそちらによる |
| 租税特別措置法41条の5・41条の5の2 | 居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除 | 損失が出た場合の別枠 |
| 地方税法附則34条 | 長期譲渡所得に係る道府県民税及び市町村民税の課税の特例 | 道府県民税2%+市町村民税3%=5% |
| 地方税法附則34条の3 | 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得に係る住民税の特例 | 6,000万円以下の部分は道府県民税1.6%+市町村民税2.4%=4%。申告書への記載が適用の条件 |
| 地方税法附則35条 | 短期譲渡所得に係る道府県民税及び市町村民税の課税の特例 | 道府県民税3.6%+市町村民税5.4%=9% |
| 復興財源確保法9条1項・13条 | 課税の対象/個人に係る復興特別所得税の税率 | 平成25年から令和19年までの各年分。基準所得税額の2.1% |