【宅建の実務】インスペクションって何?──既存住宅状況調査を売主に案内する
築年数の経った一戸建てを売る売主から、相談が届く。
「中古の家を売ろうと考えています。知人から『インスペクションをすると買い手がつきやすい』と聞きました。これはどんな制度ですか。必ず受けないといけないものでしょうか。」
宅建の試験に出てくる「建物状況調査」は、中古取引の見え方を変えた制度だ。覚えた仕組みが力になるのは、こうして売主に、受ける意味と受けない選択の両方を渡せたときである。この記事では、調査の中身と、取引の3つの場面での扱い、そして売主への伝え方までを通しで整理する。
まず結論:受けるかどうかは任意。ただし業者側には義務がある
建物状況調査(インスペクション)を受けるかどうかは、売主の任意だ。受けなければ売れない、という制度にはなっていない。
一方で、宅地建物取引業者の側には義務がある。既存の建物を扱うとき、調査を実施する者のあっせんに関する事項を媒介契約書面に記載することが求められる(宅地建物取引業法34条の2第1項4号)。「あっせんできるかどうかを示す義務」であって、「調査を受けさせる義務」ではない。ここを分けて伝えるのが、この場面の第一歩になる。
| 誰の | 何が | |
|---|---|---|
| 売主 | 任意 | 調査を受けるかどうかを選べる |
| 宅建業者 | 義務 | あっせんに関する事項を媒介契約書面に記載する(34条の2第1項4号) |
| 宅建業者 | 義務 | 調査の実施の有無と結果の概要を重要事項として説明する(35条1項6号の2イ) |
なぜこの制度が置かれたのか
中古住宅は、外から見ただけでは状態が読めない。買主は不安を値段に織り込み、売主は「悪くないのに安く見られる」と感じる。売り手と買い手の間で、建物の情報量に差があることが取引をむずかしくしていた。
そこで、専門家が同じ基準で調べた結果を、取引の共通の土台として置く仕組みが作られた。調査を受けるかどうかは任意のままにしつつ、業者に対しては「あっせんの可否を示せ」「結果があるなら説明せよ」と義務を課している。売主の選択の自由は残しながら、情報が伝わる経路だけを確保した形だと理解しておくと、売主にも説明しやすい。
何を調べるのか——2つの部位に絞られている
調査の対象は、建物のすべてではない。条文は構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分の2つに絞っている(34条の2第1項4号、宅地建物取引業法施行規則15条の7)。
| 対象 | 具体的な部位 |
|---|---|
| 構造耐力上主要な部分 (規則15条の7第1項) | 基礎、基礎ぐい、壁、柱、小屋組、土台、斜材(筋かい・方づえ・火打材など)、床版、屋根版、横架材(はり・けたなど)のうち、自重・積載荷重・積雪・風圧・土圧・水圧・地震などの力を支えるもの |
| 雨水の浸入を防止する部分 (規則15条の7第2項) | 屋根・外壁、これらの開口部に設ける戸・わくその他の建具/雨水を排除するための排水管のうち、屋根や外壁の内部または屋内にある部分 |
裏を返すと、設備の動作や内装の傷、シロアリの被害そのものは、この調査の対象に入っていない。売主が「全部見てもらえる」と受け取ったまま進むと、結果が出た後で行き違いになる。範囲を先に渡しておく。
誰が調べるのか——建築士かつ講習修了者
調査は誰でもできるわけではない。省令は次の両方に該当する者と定めている(規則15条の8第1項)。
- 建築士法2条1項に規定する建築士であること
- 国土交通大臣が定める講習を修了した者であること
さらに、調査を行うときは国土交通大臣が定める基準に従って行うことになっている(同条2項)。だから調査結果は、調べる人によって物差しが変わるものではなく、同じ基準で測られた結果として扱える。売主にはここを伝えると、調査の意味が伝わりやすい。
取引の3つの場面で、扱いが違う
建物状況調査は、取引の流れの中で3回顔を出す。それぞれ役割が違うので、混ぜないように押さえる。
| 場面 | 何を扱うか | 根拠 |
|---|---|---|
| 媒介契約 | 調査を実施する者のあっせんに関する事項を書面に記載する | 34条の2第1項4号 |
| 重要事項説明 | 調査を実施しているかどうか、実施している場合はその結果の概要/あわせて書類の保存の状況 | 35条1項6号の2イ・ロ |
| 37条書面 | 構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項 | 37条1項2号の2 |
見落としやすいのは、35条1項6号の2のロのほうだ。ここは調査そのものではなく、設計図書、点検記録その他の建物の建築および維持保全の状況に関する書類の保存の状況を説明する。調査を受けていない物件でも、この説明は必要になる。「調査を受けていないから重説には何も書かない」という進め方にはならない。
省令が定める書類は、確認申請書・確認済証、検査済証、建物状況調査の結果についての報告書、建設住宅性能評価書などだ(規則16条の2の3)。昭和56年5月31日以前に新築工事に着手した住宅については、耐震診断の結果についての報告書など、地震に対する安全性を確認できる書類も対象に加わる(同条6号)。古い家を扱うときは、この一項目が効いてくる。
つまずきやすいのは「結果がいつまで使えるか」
重要事項説明で扱えるのは、実施後、省令で定める期間を経過していない調査に限られる(35条1項6号の2イ)。その期間は一律ではない。
| 建物 | 期間 |
|---|---|
| 鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造の共同住宅等 | 2年 |
| それ以外(木造の一戸建てなど) | 1年 |
根拠は宅地建物取引業法施行規則16条の2の2。一戸建ての売却で「1年」だけを覚えていると、マンションの案件で数字を外す。逆にマンションの感覚で1年を過ぎた一戸建ての調査を持ち込むと、重説では使えない。売却活動が長引きそうな物件では、調査の時期を売り出しに合わせるという組み立ても選べる。
調べ方の手順——売主にこの順で確認する
- 建物の構造と用途を確認する。木造の一戸建てか、RC造の共同住宅か。ここで結果の有効期間が1年か2年かが決まる。
- すでに調査を受けているかを聞く。受けているなら実施日を確認し、期間内かどうかを見る。
- 手元の書類を出してもらう。確認済証、検査済証、設計図書、点検記録。保存の状況は重説で説明する事項になる(35条1項6号の2ロ)。
- 新築工事の着手時期を確認する。昭和56年5月31日以前なら、耐震関係の書類の有無も見る(規則16条の2の3第6号)。
- あっせんの可否を媒介契約書面に記載する(34条の2第1項4号)。あっせんできる事業者がいるなら、費用と日程の目安も一緒に渡す。
- 受ける・受けないを売主に選んでもらう。判断材料をすべて出したうえで、決めるのは売主だと明確にする。
この6ステップを踏むと、売主に渡せるものが「調査という制度があります」から「この家なら結果は1年使えて、費用と日程はこの程度で、受けなくても書類の状況はこう説明されます」に変わる。
プロならこう案内する
良いお話を耳にされましたね。建物状況調査、いわゆるインスペクションについてご説明します。
これは、講習を修了した建築士が、決められた基準に従って建物を調べる調査です。見るところは2つに絞られていて、建物を支える部分――基礎、柱、はりなどと、雨水の入り込みを防ぐ部分――屋根や外壁、その開口部の建具などです。設備が動くかどうかや、内装の傷は対象に含まれません。ここは先にお伝えしておきます。
お受けになるかどうかは、ノアさまがお選びになることです。義務ではありません。私どもの側には、調査を行う事業者をご紹介できるかどうかを媒介契約の書面に記載する義務がありますので、そちらは必ずお示しします。
お受けになる場合の利点は、建物の状態が第三者の目で言葉になることです。買主の方は、見えない部分を値段の側で差し引いて考えがちですので、状態がはっきりしているほうが、話が進みやすくなります。ご結果に手を入れる必要が出てきた場合も、売り出しの前に分かっていれば、直してから出すか、その分を価格に織り込むかをお選びいただけます。
一点、期限のお話をさせてください。調査の結果を重要事項説明でお使いいただけるのは、この建物ですと実施から1年の間です。鉄筋コンクリート造の共同住宅ですと2年になります。売り出しから成約までのお時間を考えて、調査を受ける時期を決めましょう。
なお、この調査は建物の品質を保証するものではなく、その時点の状況を確認するものです。「これで将来も大丈夫」というご説明にはならない点も、あわせてお伝えしておきます。
よくある質問と、その答え方
「調査で悪いところが見つかったら、売れなくなりますか」
制度は、結果が悪いときに売却を止める仕組みにはなっていない。重要事項説明で扱うのは結果の概要であり(35条1項6号の2イ)、37条書面で扱うのは当事者の双方が確認した事項だ(37条1項2号の2)。つまり状態を共有したうえで、条件を決めて進むという設計になっている。見つかった箇所を直してから売り出すか、価格に織り込むかを、売主が選べる形に持っていく。
「あっせんを断ったら、重説で不利になりますか」
媒介契約書面に記載するのはあっせんに関する事項で、売主があっせんを希望しなかったことが不利な評価につながる制度ではない。重要事項説明では、調査を実施しているかどうかを事実として説明する。実施していないという説明が、そのまま建物の評価を下げるわけではない。ただし買主の側からは情報が少なく見えるため、書類の保存状況(35条1項6号の2ロ)で補える部分があるかを一緒に確認しておく。
「1年前に受けた調査の書類があります」
実施日を確認する。木造の一戸建てであれば、実施後1年を経過していると重要事項説明で扱える調査には当たらない(規則16条の2の2)。ただしその報告書自体は、建物の維持保全の状況に関する書類として保存状況の説明の対象に入る(規則16条の2の3第3号)。使えないから捨てる書類ではないと伝えて、保管をお願いする。
案内で外したくないポイント
- 売主は任意、業者は義務:あっせんに関する事項の記載は業者側の義務(34条の2第1項4号)。
- 対象は2つの部位:構造耐力上主要な部分と、雨水の浸入を防止する部分(規則15条の7)。
- 調べるのは建築士かつ講習修了者:国土交通大臣が定める基準に従って行う(規則15条の8)。
- 結果の有効期間は1年、RC造等の共同住宅は2年(規則16条の2の2)。
- 調査を受けなくても重説の項目はある:書類の保存の状況(35条1項6号の2ロ)。
- 品質の保証ではない:その時点の状況の確認であると、必ず添える。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 宅地建物取引業法34条の2第1項4号 | 媒介契約 | 既存建物のとき、建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を書面に記載する |
| 宅地建物取引業法35条1項6号の2イ | 重要事項の説明等 | 調査の実施の有無と結果の概要。省令で定める期間を経過していないものに限る |
| 宅地建物取引業法35条1項6号の2ロ | 同上 | 設計図書・点検記録その他の書類の保存の状況 |
| 宅地建物取引業法37条1項2号の2 | 書面の交付 | 構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項 |
| 宅地建物取引業法施行規則15条の7 | 建物の構造耐力上主要な部分等 | 調査対象となる部位の内訳 |
| 宅地建物取引業法施行規則15条の8 | 法34条の2第1項4号の定める者等 | 建築士かつ国土交通大臣が定める講習の修了者。定められた基準に従って実施 |
| 宅地建物取引業法施行規則16条の2の2 | 法35条1項6号の2イの期間 | 1年(RC造・SRC造の共同住宅等は2年) |
| 宅地建物取引業法施行規則16条の2の3 | 法35条1項6号の2ロの書類 | 確認済証・検査済証・調査報告書・建設住宅性能評価書ほか。昭和56年5月31日以前着手の住宅は耐震関係書類も対象 |