宅建の実務クエスト

【宅建の実務】手付金は代金の3割?──業者売主のときの手付金の上限を説明する

宅建業者が売主の新築を買う予定のお客様から、相談が届く。

「宅建業者が売主の新築を買う予定です。契約のときに『手付金は代金の3割を入れてください』と言われました。手付金にそんなに払うものなのでしょうか。何か決まりはありますか。」

宅建の試験で「自ら売主制限」は頻出のテーマだ。覚えた上限が力になるのは、こうして買主の「払いすぎではないか」という問いに、条文で線を引けたときである。この記事では、手付金の額の制限、解約手付とみなされる仕組み、保全措置との違いまでを通しで整理する。

この記事は、学習アプリ「シカクエ」の実務クエストを読み物として再構成したもの。人物・案件はすべて架空です。実際の契約内容は、必ず契約書と重要事項説明書でご確認ください。

まず結論:代金の10分の2を超える手付は受領できない

宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地・建物の売買契約の締結に際して、代金の額の10分の2を超える額の手付を受領することができない(宅地建物取引業法39条1項)。

「代金の3割」は、この上限を超えている。だから答えははっきりしている。手付は代金の2割までにおさえてもらう。ここは交渉ではなく、法律の線だ。

条文が「受領することができない」と書いている点に注目する。禁じられているのは業者が受け取る行為であって、買主が申し出ることではない。だから「買主が納得しているから」という理屈は通らない。売主業者側の義務として組まれている。

なぜ手付に上限があるのか

手付を大きく積むと、買主は身動きが取れなくなる。手付を放棄して契約をやめる道はあるが、その放棄額が大きすぎると、実質的にやめられない。「やめる自由」が金額で封じられてしまう

宅地建物取引業者は不動産取引の専門家で、買主の多くは一生に数回の経験しかない。この情報と経験の差を前提に、宅建業法は業者が自ら売主になる場面だけ、特に強い制限をかけた。これが「自ら売主制限(8種制限)」と呼ばれるまとまりで、39条はその1つになる。

同じ発想の条文が並んでいる。損害賠償額の予定と違約金は、合算した額が代金の10分の2を超える定めをしてはならない(38条1項)。この規定に反する特約は、10分の2を超える部分について無効となる(同条2項)。特約が丸ごと無効になるのではなく、超えた部分だけが切り落とされるという書き方も、条文どおりに押さえておく。

手付は「いかなる性質のものであっても」解約手付になる

39条2項は、額の制限より実務で効く場面が多い。

宅地建物取引業者が、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して手付を受領したときは、その手付がいかなる性質のものであつても、買主はその手付を放棄して、当該宅地建物取引業者はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。(宅地建物取引業法39条2項)

ここから3つ読み取れる。

読み取れること中身
性質を問わない契約書に「証約手付」「違約手付」と書いてあっても、解約手付として扱われる
売主は倍額を現実に提供「返す」ではなく倍額。しかも口頭の意思表示では足りず現実の提供が要る
期限は「相手方の履行の着手」まで自分ではなく相手方が履行に着手した後は解除できない

そしてこの2項に反する特約で買主に不利なものは無効(39条3項)。「手付放棄による解除はできない」「解除できるのは契約日から1週間以内」といった条項が契約書にあっても、買主に不利であれば効かない。

つまずきやすいのは「相手方が」の部分だ。買主が解除したいときに見るのは、売主が履行に着手したかどうか。自分が中間金を払っていても、売主が着手していなければ手付放棄で解除できる。逆に自分が何もしていなくても、売主が引渡しの準備に入っていれば道が閉じる。主語を取り違えると案内が逆になる

「額の上限」と「保全措置」は別のこと

手付金まわりには、性格の違う2つの規制がある。混同しやすいので、目的から分けて押さえる。

手付の額の制限手付金等の保全措置
条文39条1項41条・41条の2
守るもの買主の「やめる自由」買主が払ったお金が返ってくること
やること代金の10分の2を超えて受領しない保証・保険などの措置を講じてから受領する
対象手付手付金等(引渡し前に支払われ代金に充当される金銭全般)

「手付金等」の定義は広い。代金の全部または一部として授受される金銭と、手付金その他の名義で授受され代金に充当される金銭で、契約の締結の日以後、引渡し前に支払われるものを指す(41条1項かっこ書)。だから中間金も入る。

保全措置が要らなくなる線は、物件の状態で違う

物件根拠この額以下なら措置は不要
工事完了前(未完成物件)41条1項ただし書代金の100分の5以下、かつ1,000万円以下
工事完了後(完成物件)41条の2第1項ただし書代金の10分の1以下、かつ1,000万円以下

「1,000万円」は宅地建物取引業法施行令3条の5が定める額だ。2つの条件は「かつ」でつながっているので、どちらか一方を超えれば措置が必要になる。代金2億円の物件で5%(1,000万円)を受け取る場合、割合では収まっても金額の側で線に触れる。

買主への所有権移転の登記がされたとき、または買主が所有権の登記をしたときも、措置は不要になる(両条ただし書)。登記が入れば、お金が返ってこないという心配の形が変わるという理屈だ。

買主側の武器も条文にある。業者が措置を講じないときは、買主は手付金等を支払わないことができる(41条4項)。「払わなければ違約」ではない。措置が先、支払いが後、という順番が法律で決まっている。

つまずきやすいのは「業者どうしの取引には効かない」

ここまでの制限は、すべての取引に及ぶわけではない。33条の2および37条の2から43条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については適用しない(78条2項)。

39条も41条も41条の2も、この範囲に入っている。だから買主が宅建業者であれば、手付の2割制限も保全措置も働かない。「自ら売主制限」が正確には「業者が売主で、買主が業者でないとき」の制限だと言われるのは、この条文があるためだ。

実務では、買主が宅建業者かどうかを取引の入口で確認する。免許証番号の確認は、この判断のためでもある。

調べ方の手順——契約書のここを見る

  1. 売主が宅建業者かを確認する。免許証番号と商号を重要事項説明書で見る。売主が個人なら39条は働かない。
  2. 買主が宅建業者でないことを確認する。業者間取引なら制限の外になる(78条2項)。
  3. 手付の額と代金を突き合わせる。代金の10分の2を超えていないか(39条1項)。
  4. 物件が工事完了前か完了後かを確認する。保全措置の線が5%か10%かで変わる。
  5. 手付金等の合計額を出す。手付だけでなく、引渡し前に払う中間金も足す。1,000万円の線にも当てる。
  6. 保全措置の内容を書面で確認する。保証委託契約に基づく銀行等の書面か、保証保険の保険証券か(41条1項1号・2号)。措置を受け取ってから支払うという順番を守る。
  7. 損害賠償額の予定・違約金の条項を見る。合算して代金の10分の2を超えていないか(38条1項)。

この7ステップを踏むと、買主に渡せるものが「上限があります」から「この契約書のこの数字は法律のここに当たり、この書面を受け取ってから払うことになります」に変わる。

プロならこう説明する

ご不安に思われたのは、もっともです。結論から申し上げます。その3割という額は、法律の上限を超えています。

宅地建物取引業者が自ら売主となる売買では、手付金は代金の10分の2を超えて受け取ってはならないと定められています。買主の方が「やめる」という選択をできなくなるほど大きな額を先に預けさせない、という趣旨の決まりです。ですので、2割までにおさえていただくよう、こちらから売主にお伝えします。

もう一つ、お知らせしておきたいことがあります。業者が売主の場合、お預けになった手付は、契約書にどう書かれていても解約手付として扱われます。つまり、手付を放棄することで契約をおやめになる道が残ります。売主の側からおやめになる場合は、手付の倍額を現実にお支払いすることが必要です。ただし、この道は相手方が契約の履行に着手するまでです。

それから、額の上限とは別に、お預けになったお金を守る仕組みがあります。一定額を超える手付金や中間金を売主が受け取る場合、銀行の保証や保険をあらかじめ付けることが義務づけられています。この物件は工事完了前ですので、代金の5%と1,000万円のどちらかを超える場合に、この措置が必要になります。

大事な順番があります。保証や保険の書面を受け取ってから、お金をお支払いください。措置が講じられていない場合、買主の方は支払わなくてよいと法律に書かれています。書面が届いていない段階でのお振込みは、お待ちいただくようお願いします。

契約書の違約金の条項も一緒に確認させてください。損害賠償の予定額と違約金は、合わせて代金の2割を超える定めができないことになっています。超えている部分は無効になりますが、契約前に直しておくほうが後の争いを避けられます。

よくある質問と、その答え方

「契約書に『この手付は違約手付とする』と書いてあります」
売主が宅建業者であれば、その記載にかかわらず解約手付として扱われる(39条2項)。条文が「いかなる性質のものであつても」と書いているとおりだ。そして買主に不利な特約は無効になる(同条3項)。ただし買主に有利な特約は有効なので、契約書を読むときは「この条項は買主にとって有利か不利か」で仕分ける。

「売主から『手付の倍額を返すので解除したい』と電話がありました」
39条2項は倍額を現実に提供してと定めている。口頭で伝えるだけ、あるいは「用意はある」と言うだけでは足りない。現実の提供が必要になる。あわせて、買主側が既に契約の履行に着手しているのであれば、売主からの解除はできない(同項ただし書)。買主が何をしたかを時系列で書き出してから答える質問だ。

「まだ建っていない建物の売買契約を、業者が結んでもいいのですか」
自己の所有に属しない宅地・建物について、業者が自ら売主となる売買契約を締結することは原則として禁じられている(33条の2)。ただし例外があり、業者がその物件を取得する契約を締結しているときなど(同条1号)、または工事完了前の売買で41条1項1号・2号の保全措置が講じられているとき(同条2号)は締結できる。青田売りが成り立つのは、保全措置とセットになっているからだと理解しておくと、買主にも説明しやすい。

説明で外したくないポイント

  1. 手付は代金の10分の2まで:業者が受領できない、という書き方(39条1項)。
  2. いかなる性質でも解約手付:買主に不利な特約は無効(39条2項・3項)。
  3. 解除できるのは相手方の履行の着手まで:主語は「相手方」。
  4. 保全措置は額の上限とは別の話:未完成5%、完成10%、いずれも1,000万円との「かつ」。
  5. 措置が先、支払いが後:講じられなければ支払わないことができる(41条4項)。
  6. 業者間取引には適用されない:33条の2・37条の2〜43条は適用除外(78条2項)。

根拠条文のまとめ

条文見出しこの記事で使った内容
宅地建物取引業法33条の2自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限原則禁止。取得契約があるとき、保全措置が講じられているときは可
宅地建物取引業法38条損害賠償額の予定等の制限予定額と違約金の合算が代金の10分の2を超える定めは不可。超える部分が無効
宅地建物取引業法39条1項手付の額の制限等代金の10分の2を超える手付を受領できない
宅地建物取引業法39条2項同上いかなる性質でも解約手付。売主は倍額を現実に提供。相手方の履行の着手まで
宅地建物取引業法39条3項同上2項に反する特約で買主に不利なものは無効
宅地建物取引業法41条手付金等の保全工事完了前。代金の100分の5以下かつ政令で定める額以下なら不要。措置を講じないときは買主は支払わないことができる
宅地建物取引業法41条の2手付金等の保全(完成物件)代金の10分の1以下かつ政令で定める額以下なら不要
宅地建物取引業法施行令3条の5法41条1項ただし書等の政令で定める額1,000万円
宅地建物取引業法78条2項適用の除外33条の2および37条の2〜43条は業者相互間の取引に適用しない
条文の記述は執筆時点のもの。個別の契約でどの条項が働くかは契約書の内容によりますので、実務では必ず契約書と重要事項説明書で確認してください。

勉強は、クエストになった。

資格の勉強を、冒険に変えるRPG学習アプリ

App Storeで見る
架空の実務場面をもとにした学習用の解説記事です。実在の会社・物件・取引ではありません。制度は改正されることがあるため、受験年度の最新情報もあわせてご確認ください。