【宅建の実務】中古マンションの内見、どう案内する?──暮らしを思い描いてもらう言葉
はじめて中古マンションを内見するお客様から、相談が届く。
「はじめて中古マンションを見に行きます。小さな子どもが2人いるのですが、実際に住んだときのイメージがつかめるか不安です。内見のときは、どこを見ておけばよいのでしょうか。」
内見の案内は、法律知識だけで足りる場面ではない。ただし言ってよいことと、言ってはならないことは条文で決まっている。この記事では、案内の禁止事項、見るべき7か所、管理組合の資料の読み方、そして当日の進め方までを通しで整理する。
まず結論:内見は「売る場」ではなく「材料を渡す場」
宅地建物取引業法は、案内の場面で2つのことを禁じている。この2つを裏返すと、内見で何をすべきかが出てくる。
| 禁止されていること | 条文 | 裏返すと |
|---|---|---|
| 断定的判断の提供 利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供する行為 | 47条の2第1項 | 「値上がりします」「必ず貸せます」と言わない |
| 重要事実の不告知・不実告知 相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為 | 47条1号 | 不利な事実を、聞かれなくても渡す |
47条1号ニは、対象になる事項を具体的に並べている。宅地・建物の所在、規模、形質、現在または将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金・借賃等の対価の額や支払方法その他の取引条件、そして取引の関係者の資力・信用に関する事項のうち、相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるものだ。
「環境」も「交通等の利便」も、この列に入っている。内見で話す内容の多くがここに触れる、ということになる。だから内見の案内は雑談ではなく、業務そのものだと押さえておく。
なぜ「良い点だけ並べる案内」が成り立たないのか
売り込みとして短期的には効いても、47条1号の構造がそれを許していない。不利な事実を告げないこと自体が、禁止行為として書かれているからだ。「聞かれなかったから言わなかった」は、この条文の前では通らない。
実務の順序としても、こちらのほうが早い。買主は内見の後、必ず自分で調べる。その段階で出てくる不利な事実を、案内した側が先に渡していなかったとなると、渡した情報のすべてが疑われる。逆に不利な点を先に出しておくと、良い点の説得力が上がる。
言い方の型がある。「この点は確認が必要です」と言い切ったうえで、確認の方法まで添える。たとえば「この部屋は北向きなので、昼間の明るさが気になるかもしれません。よろしければ、午前と午後の2回、見ていただくことができます」。不利な点を渡すことと、突き放すことは別だ。
室内で見る7か所
中古マンションは、内見で分かることと分からないことがはっきり分かれる。分かることを確実に見て、分からないことは資料へ回すのが案内の組み立てになる。
| 見る場所 | 何を見るか | 子育て世帯で効く点 |
|---|---|---|
| 給湯器 | 型番と製造年のシール。号数(16号・20号・24号) | 号数が小さいと、同時に湯を使う場面で足りなくなる |
| 水回り | キッチン・浴室・洗面の設備の年式、シンク下の湿り、排水の音 | 浴室に窓や乾燥機があるか。洗濯物の量が増える |
| コンセントの位置と数 | 各室の口数、テレビ端子、エアコンの専用回路 | 後から増やしにくい。家具の配置を左右する |
| 窓の向きと開口 | 方角、隣の建物との距離、風の抜け方 | 洗濯物の乾き方、夏の暑さ |
| 収納 | 各室の奥行きと高さ、玄関の土間収納 | ベビーカー、季節ごとの衣類、学用品 |
| 床と壁の音 | 歩いたときの床の響き、隣戸との壁を軽く叩いた音 | 足音が下階へどう伝わるか |
| 共用部分 | エントランス、廊下、駐輪場、ゴミ置場、掲示板 | 掲示板は住民間の課題がそのまま貼ってある |
最後の掲示板は、資料に出ない情報が集まる場所だ。工事の予定、注意喚起、総会の案内。管理の状態は、書類より先に共用部分に出る。
資料で確認すること——内見では分からない部分
区分所有建物の売買では、重要事項として説明する事項が省令で定められている(宅地建物取引業法35条1項6号、同法施行規則16条の2)。内見の段階で、そのうち買主の判断を大きく動かすものを先に取っておくと、検討が進む。
- 管理費と修繕積立金の月額(規則16条の2第7号・6号)
- 修繕積立金の現在の残高(同第6号)
- 維持修繕の実施状況の記録(同第10号)。過去に何をどこまでやったか
- 専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約(同第3号)。ペット、リフォーム、楽器
- 専用使用権の定め(同第4号)。バルコニー、専用庭、駐車場
- 管理の委託先(同第8号)
さらに、災害と建物の安全に関わる事項も説明の対象になっている(宅地建物取引業法35条1項14号イ、同法施行規則16条の4の3)。建物の売買では次のものが並ぶ。
| 号 | 内容 |
|---|---|
| 1号 | 造成宅地防災区域内にあるときは、その旨 |
| 2号 | 土砂災害警戒区域内にあるときは、その旨 |
| 3号 | 津波災害警戒区域内にあるときは、その旨 |
| 3号の2 | 水防法施行規則11条1号の図面(いわゆる洪水等のハザードマップ)に位置が表示されているときは、その所在地 |
| 4号 | 石綿の使用の有無の調査結果が記録されているときは、その内容 |
| 5号 | 昭和56年6月1日より前に新築工事に着手した建物が耐震診断を受けたものであるときは、その内容 |
子育て世帯の内見では、3号の2が効く。ハザードマップ上の位置は重要事項説明の対象で、契約直前ではなく内見の段階で渡しておくほうが親切だ。避難場所までの経路を一緒に歩くところまでできると、判断材料としての質が変わる。
つまずきやすいのは「徒歩○分」と「学区」
広告の「駅徒歩8分」には根拠がある。不動産の表示に関する公正競争規約で、道路距離80mにつき1分間を要するものとして算出し、1分未満の端数は1分として計算すると定められている。これは業界の自主規制であって法令そのものではないが、広告表示はこの基準に従っている。
実際に歩くと違って感じるのは、この基準が信号待ち、坂道、踏切の待ち時間を含んでいないためだ。案内では「表示は80mで1分の計算です。実際にお子さま連れで歩かれると、ここの信号と坂で数分変わります」と伝えて、一緒に歩いてみるのが正確になる。
学区も同じ性質を持つ。通学区域は市町村の教育委員会が定めるもので、変更されることがある。「この物件なら○○小学校です」と言い切らず、現時点の区域と、確認先(教育委員会の窓口)を渡す形にする。将来の学区を断定することは、47条1号ニの「現在若しくは将来の利用の制限」「環境」に関わる情報を不正確に告げることになりかねない。
内見当日の進め方——この順番で回る
- 物件に着く前に、駅から一緒に歩く。実際の所要時間と、道の様子を体感してもらう。
- 共用部分から入る。エントランス、掲示板、駐輪場、ゴミ置場。管理の状態はここに出る。
- 室内は玄関から動線どおりに回る。買い物袋を持って帰ってきた想定で歩くと、収納や廊下幅の話が具体的になる。
- 設備は型番と年式を記録する。給湯器、エアコン、給湯リモコン。後で交換費用の目安を出せる。
- 窓を開けて外の音を聞く。閉め切った状態と開けた状態の両方。
- 気になった点をその場でメモにして渡す。良い点と確認が必要な点を、同じ紙に並べて書く。
- 帰りに周辺を回る。スーパー、小児科、公園、通学路。夜の様子は別の日に見てもらう。
この7ステップを踏むと、渡せるものが「良い物件でした」から「ここは条件に合っていて、ここは確認が要ります。確認の方法はこうです」に変わる。
プロならこう案内する
本日はよろしくお願いします。はじめに、この時間の使い方をご説明します。
私からは、良いところと、確認しておいたほうがよいところの両方をお伝えします。お決めになるのはお客さまですので、判断の材料をできるだけ揃えてお渡しするのが私の役目だと考えております。
まず駅からご一緒に歩いてまいりました。広告の表示は、道のりを80メートルごとに1分として計算する決まりになっておりまして、信号待ちや坂は含まれておりません。今、実際に歩いていただいたとおり、お子さま連れですと表示より少しお時間がかかります。
室内では、毎日お使いになる部分を中心にご覧いただきます。給湯器の年式と号数、水回りの状態、コンセントの位置。この3つは、お住まいになってから気づくことが多い部分です。給湯器は製造からの年数によって、数年以内の交換をお考えいただく場合があります。今のうちに型番を控えておきますね。
お伝えしておきたい点があります。このお部屋は北側の窓が隣の建物に近く、昼間でも明るさが限られます。日中お過ごしになる時間が長いご家庭ですと、ここは気になる部分かもしれません。よろしければ、午前と午後で2回ご覧いただくこともできます。
それから、この地域のハザードマップをお持ちしました。この建物の位置と、最寄りの避難場所です。お帰りの際、経路をご一緒に歩いてみましょうか。
お子さまの学校については、現時点の通学区域をお調べしております。ただ、通学区域は市の教育委員会が定めるもので、変わることがあります。確定的なことは申し上げられませんので、窓口の連絡先もあわせてお渡しします。
管理組合の資料は、こちらで取り寄せます。修繕積立金が今いくら貯まっているか、これまでどの工事をしてきたか、ペットや楽器の決まりはどうか。この4点は、お住まいになってからの暮らしに直結します。次回までにお出しします。
この案内には、宅地建物取引業法35条の重要事項説明につながる要素が入っている。内見で渡した情報と、後の重要事項説明の内容が食い違わないことが信頼の土台になる。試験で覚えた説明事項の一覧が、そのまま内見で集める資料のリストになる。
よくある質問と、その答え方
「この辺りは今後値上がりしますか」
答えられない質問だ。利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供する行為は禁じられている(47条の2第1項)。「上がります」も「下がりません」も、この条文に触れる。渡せるのは事実のほうだ。周辺の成約事例、再開発の公表資料、人口の推移。「私の見立てを申し上げることはできませんが、判断の材料はお出しできます」という形にする。
「上の階の音は気になりますか」
その場の体感だけで断定しない。建物の構造(RC造の壁式か、ラーメン構造か)、床のスラブ厚、上階の居住者の構成。確認できる事実と、確認できない事実を分ける。管理規約に床材の遮音等級に関する定めがあるかは、専有部分の利用の制限として重要事項説明の対象に入る(規則16条の2第3号)。「規約に定めがあるか確認します」と返せる質問だ。
「リフォームはどこまでできますか」
専有部分の範囲と、規約の制限の2つで決まる。窓のサッシや玄関ドアは共用部分にあたることが多く、専有部分ではない。床材の変更、水回りの移動、間取りの変更については、規約と使用細則に定めがあることが多い。「できます」と言い切る前に規約を読む。この制限も重要事項説明の対象になっている(規則16条の2第3号)。
案内で外したくないポイント
- 断定的判断を提供しない:値上がり、賃料、将来の環境(47条の2第1項)。
- 不利な事実を先に渡す:故意に告げないことが禁止行為にあたる(47条1号)。
- 「環境」「交通等の利便」も条文の対象:雑談ではなく業務として話す。
- 徒歩○分は80mで1分:信号・坂を含まない。一緒に歩く。
- 学区は断定せず確認先を渡す:教育委員会が定め、変わることがある。
- 資料は内見の段階で取り寄せる:積立残高、修繕履歴、規約、ハザードマップ。
- 内見で渡した情報と重要事項説明を食い違わせない。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 宅地建物取引業法35条1項 | 重要事項の説明等 | 契約成立までに宅地建物取引士が書面を交付して説明する |
| 宅地建物取引業法35条1項6号 | 同上 | 区分所有建物に関する事項を省令・府令に委任 |
| 宅地建物取引業法35条1項14号イ | 同上 | 相手方等の利益の保護に欠けるものとして省令・府令で定める事項 |
| 宅地建物取引業法47条1号 | 業務に関する禁止事項 | 重要な影響を及ぼす事項について故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為の禁止。ニに所在・規模・形質・利用の制限・環境・交通等の利便を列挙 |
| 宅地建物取引業法47条の2第1項 | 断定的判断の提供等の禁止 | 利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断の提供の禁止 |
| 宅地建物取引業法施行規則16条の2 | 法35条1項6号の定める事項 | 管理費の額、積立金の内容と既に積み立てられている額、専有部分の利用制限の規約、専用使用権、管理の委託先、維持修繕の実施状況の記録 |
| 宅地建物取引業法施行規則16条の4の3 | 法35条1項14号イの定める事項 | 造成宅地防災区域・土砂災害警戒区域・津波災害警戒区域・水害ハザードマップ上の所在地・石綿調査の結果・耐震診断の内容 |
| 不動産の表示に関する公正競争規約 | (業界の自主規制) | 道路距離80mにつき1分間。1分未満の端数は1分として計算 |