宅建の実務クエスト

【宅建の実務】売買契約書(37条書面)、必須の記載が抜けていないか?

先輩から、売買契約書(37条書面)の下書きを渡されて言われる。

「宅建業法37条で必ず書かないといけない項目のうち、2つ抜けてる。何が足りない?」

下書きにはこう書かれている。

1. 当事者 … 売主D/買主E
2. 物件の表示 … 王都南の一戸建て(所在・地番等)
3. 代金 … 代金額、支払時期および支払方法
4. 契約解除に関する定め … 別紙のとおり

宅建の試験では「37条書面の記載事項」は頻出。ただ、覚えた記載事項が力になるのは、こうして書面から"抜け"を見抜けたときだ。この記事では、抜けを見つける視点と、切り分けの型を整理する。

この記事は、学習アプリ「シカクエ」の実務クエスト「売買契約書(37条書面)の記載もれチェック」を読み物として再構成したもの。当事者・物件はすべて架空です。

まず結論:抜けは「引渡しの時期」と「移転登記の申請時期」

当事者・物件・代金までは書けている。だが、37条書面で必ず記載しなければならない事項のうち、次の2つが抜けている。

「いつ自分のものになり、いつ引き渡されるか」は、買主が入居や利用の計画を立て、権利を確保するための土台になる。だからこの2つは、定めがあれば書くという性質のものではなく、必ず書く事項になっている。

37条書面は2階建て——「必ず書く」と「定めたら書く」

37条の記載事項は、性質の違う2つのグループでできている。ここを分けて覚えると、抜けに気づきやすくなる。

グループ中身(売買の場合)
必ず書く
(必要的記載事項)
①当事者の氏名・住所/②物件を特定するために必要な表示/③代金の額・支払時期・支払方法/④引渡しの時期/⑤移転登記の申請の時期/⑥既存建物のときは、建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者双方が確認した事項
定めたときに書く
(任意的記載事項)
代金以外の金銭の授受(額・目的・時期)/契約の解除/損害賠償額の予定・違約金/ローンが成立しないときの措置/天災など不可抗力による損害の負担/契約不適合責任の内容やその履行に関する措置/租税その他の公課の負担

下書きにあった「4. 契約解除に関する定め」は、下のグループだ。定めたから書いてあるのであって、これが書けているから安心、とはならない。上のグループが埋まっているかを先に見る、という順番で読むと抜けが浮かぶ。

覚え方は「いつ・いくら・誰が・どれを」が上、「もしものとき」が下。取引の骨組みは必ず書き、起きるかどうかわからない事態の取り決めは、決めたときに書く。

抜けたまま契約すると、何が起きるか

「書き忘れ」で済む話ではない。順に見るとこうなる。

  1. 買主の計画が立たない。引渡し時期が決まっていなければ、いつ引っ越すか、今の家の解約をいつ出すかが決められない。
  2. 権利の確保が遅れる。移転登記の申請時期が決まっていないと、代金を払ったのに登記が後回しになるおそれがある。その間に売主が二重に売却すれば、先に登記した側が権利を主張できる。
  3. 業者が監督処分を受けうる。37条書面の交付義務違反は、指示・業務停止・免許取消といった処分の対象になる。

2つめが実務では重い。不動産の権利は登記で決まるという民法の原則が、そのまま買主の損失につながるからだ。「いつ登記を申請するか」を書くのは、形式ではなく買主の防御になっている。

35条書面との違いを、表で押さえる

混同しやすいのが「35条書面(重要事項説明書)」との違い。役割が違うので、載る項目も違う。

35条書面37条書面
役割契約するか判断する材料を説明する成立した契約の内容を残す
時期契約が成立する契約が成立した後、遅滞なく
渡す相手買主(借主)になろうとする者契約の両当事者
説明の要否宅建士が説明する(士証を提示)交付でよい(説明義務はない)
引渡しの時期記載事項ではない必ず書く
法令上の制限説明事項記載事項ではない
登記された権利説明事項記載事項ではない

「引渡しの時期は37条だけ」「法令上の制限と登記された権利は35条だけ」。この2組を押さえると、試験でも実務でも迷いが減る。今回の抜けも、まさにここだった。

賃貸のときは、どこが変わるか

売買と賃貸で、必ず書く事項は少し違う。実務では両方扱うので、差分だけ持っておくとよい。

売買賃貸
金額代金の額・支払時期・支払方法借賃の額・支払時期・支払方法
引渡しの時期必ず書く必ず書く
移転登記の申請時期必ず書く該当なし(所有権が移らないため)
既存建物の状況の確認必ず書く該当なし

重説と契約書の食い違いは、こうして生まれる

実務でひやりとするのは、抜けよりも食い違いだ。35条書面と37条書面は別々の時点で作るため、間に条件変更が入ると内容がずれる。

  1. 重説を作った時点では「引渡しは3月末」だった。
  2. その後の交渉で、売主の都合により4月中旬へ変更することで合意した。
  3. 契約書は新しい日付で作ったが、重説は差し替えていない
  4. 買主が後から重説を読み返し、「話が違う」となる。

防ぎ方は単純で、契約直前に、重説と契約書を並べて突き合わせること。金額・時期・特約の3か所だけでも照合すれば、大半のずれは見つかる。条件が変わったら、重説も作り直して再度説明する。

「重説は契約前、契約書は契約後」という順番は、間に交渉が挟まることを意味する。時間が空くほどずれる、と構えておくと確認が習慣になる。

プロならこう指摘する

この下書きには、37条書面で必ず記載しなければならない事項のうち、2点が抜けています。

1つ目は「物件の引渡しの時期」です。いつ引き渡すかは、買主が入居や利用の計画を立てるうえで欠かせません。今の家の解約時期にも直結します。

2つ目は「所有権移転登記の申請の時期」です。不動産の権利は登記で決まりますので、いつ買主名義の登記を申請するかは、権利の確保そのものに関わります。

なお「4. 契約解除に関する定め」は、定めたときに書く事項です。書けていること自体は問題ありませんが、必ず書く側が埋まっているかを先に確認しましょう。既存建物ですので、構造耐力上主要な部分等について当事者双方で確認した事項の記載も要ります。

誰に渡すか——立場で変わる

37条書面は「契約の両当事者に」交付するが、業者がどの立場で関わったかで渡す相手が変わる。ここも試験で問われ、実務でも取り違えやすい。

業者の立場交付する相手
自ら売主として契約した買主
売買を媒介した売主・買主の両方
売買を代理した売主・買主の両方(代理を依頼した本人にも渡す)

35条書面が「買主になろうとする者」だけに渡すのと対照的だ。判断材料は買う側に、契約の記録は双方に。役割の違いが、そのまま渡す相手の違いになっている。

交付の時期は「契約が成立したら遅滞なく」。実務では契約の席で署名・記名まで済ませ、その場で渡す形が多い。持ち帰って後日、という進め方は、遅れるほど「言った・言わない」の余地を作ることになる。

チェックの手順にすると

  1. まず必ず書く6項目を指で追って埋まっているか見る。
  2. 売買か賃貸かで、移転登記の項目の要否を切り替える。
  3. 既存建物なら、構造の確認事項が入っているか見る。
  4. 定めたときに書く事項は、重説で説明した内容と食い違っていないかを突き合わせる。
  5. 宅建士の記名があるか確認する(押印は2022年5月の改正で不要になった)。
  6. 交付先が両当事者になっているか確認する。

この場面で効いている宅建の知識

「37条の必要的記載事項を暗記する」ことが、そのまま「契約書の抜けを見抜く目」になっている。

条文・制度の記述は執筆時点のもの。実務では最新の法令をご確認ください。

勉強は、クエストになった。

資格の勉強を、冒険に変えるRPG学習アプリ

App Storeで見る
架空の実務場面をもとにした学習用の解説記事です。実在の会社・物件・取引ではありません。制度は改正されることがあるため、受験年度の最新情報もあわせてご確認ください。