【社労士の実務】退職したら何を出す?──資格喪失と離職票の手続きを整理する
労務担当者から、退職手続きについて相談が届く。
「今月末で退職する社員がいます。保険証の返却と、離職票が必要だと言われました。いつまでに何を出せばよいのでしょうか。月末退職と月の途中の退職で、扱いが変わると聞いたのですが。」
退職手続きは、入社手続きと同じく複数の法律にまたがる。しかも日付が1日ずれるだけで保険料が1か月分変わるという、金額に直結する部分がある。この記事では、資格喪失日の考え方、それぞれの期限、離職票の段取り、そして退職者へ渡す情報までを通しで整理する。
まず結論:資格喪失日は「退職日の翌日」
被保険者は、次の各号のいずれかに該当するに至った日の翌日(その事実があった日に更に前条に該当するに至ったときは、その日)から、被保険者の資格を喪失する。
一 死亡したとき。
二 その事業所に使用されなくなったとき。……(健康保険法36条)
退職は2号にあたる。退職日の翌日が資格喪失日になる。厚生年金保険法14条にも同じ構造の規定が置かれている。
この1日のずれが、保険料に効いてくる。
月末退職と月の途中の退職
健康保険・厚生年金の保険料は、資格を喪失した日の属する月の前月分まで徴収するのが基本の考え方になる。資格喪失日が退職日の翌日である以上、次のようになる。
| 退職日 | 資格喪失日 | その月の保険料 |
|---|---|---|
| 3月31日(月末) | 4月1日 | 喪失日の属する月は4月なので、3月分まで徴収 |
| 3月30日 | 3月31日 | 喪失日の属する月は3月なので、2月分まで。3月分は徴収しない |
担当者が聞いている「扱いが変わる」はここだ。1日違うだけで、会社負担・本人負担ともに1か月分の保険料が変わる。
ただし注意が要る。3月30日退職を選べば得、という単純な話ではない。健康保険の資格を3月31日に失うので、3月31日は無保険の日になる。国民健康保険へ加入するなら、その分の保険料が発生する。会社側の負担が減るだけで、本人の負担が増えることがある。
だから相談を受けたときは、「どちらが得か」ではなく「どちらの場合に何が起きるか」を並べて渡す。退職日を会社の都合で動かす助言にしない。
期限は3種類
| 手続き | 提出先 | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 健康保険被保険者資格喪失届 | 年金事務所または健康保険組合 | 事実があった日から5日以内 | 健康保険法48条、同施行規則29条 |
| 厚生年金保険被保険者資格喪失届 | 年金事務所 | 事実があった日から5日以内 | 厚生年金保険法27条 |
| 雇用保険被保険者資格喪失届 | 公共職業安定所 | 事実のあった日の翌日から起算して10日以内 | 雇用保険法7条、同施行規則7条 |
入社のときと同じく、雇用保険だけ数え方が違う。ただし入社時とも違う。
| 入社(資格取得) | 退職(資格喪失) | |
|---|---|---|
| 健保・厚年 | 事実があった日から5日以内 | 事実があった日から5日以内 |
| 雇用保険 | 事実のあった日の属する月の翌月10日まで | 事実のあった日の翌日から起算して10日以内 |
雇用保険の取得と喪失は、期限の書き方がまったく違う。「雇用保険は10日」とだけ覚えていると、取得のほうで外す。条文の言葉ごと覚える。
離職証明書は「求められたら交付する」
事業主は、その雇用していた被保険者が離職したことにより被保険者でなくなつた場合において、その者が離職票の交付を請求するため離職証明書の交付を求めたときは、これをその者に交付しなければならない。ただし、第七条第一項の規定により離職証明書を提出した場合は、この限りでない。(雇用保険法施行規則16条)
条文の構造を押さえる。
- 離職証明書は、本人から求められたら交付する義務がある
- ただし、資格喪失届に添えて離職証明書を提出した場合は、この限りでない
省令には、添付を省ける場合も定められている。
事業主は、第一項の規定により当該資格喪失届を提出する際に当該被保険者が雇用保険被保険者離職票……の交付を希望しないときは、同項後段の規定にかかわらず、離職証明書を添えないことができる。ただし、離職の日において五十九歳以上である被保険者については、この限りでない。(雇用保険法施行規則7条3項)
ただし書が重要になる。離職の日において59歳以上の被保険者については、本人が離職票を希望しなくても離職証明書を添えなければならない。60歳以降の高年齢雇用継続給付の算定に、離職時の賃金の記録が必要になるためだ。
実務では、59歳未満で本人が希望しない場合でも、作成して提出しておくほうが安全になる。転職先が決まっていても、その後どうなるかは分からない。後から必要になったときは、あらためて手続きをすることになる。
離職証明書には離職理由を記載する。この区分が、本人の受給資格の要件と所定給付日数を左右する。事実どおりに記載することが、後の争いを防ぐ。
金品の返還は7日以内
使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。
前項の賃金又は金品に関して争がある場合においては、使用者は、異議のない部分を、同項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。(労働基準法23条)
条件は権利者の請求があった場合だ。請求がなければ、通常の賃金支払日に支払えばよい。ただし請求があれば7日以内になる。
2項も重要になる。金額に争いがあるときでも、異議のない部分は7日以内に支払う義務がある。「争いがあるから全額保留」という扱いはできない。
退職者に渡すもの・伝えること
| 渡すもの | 時期 | 備考 |
|---|---|---|
| 離職票(-1、-2) | ハローワークから交付され次第 | 基本手当の手続きに要る |
| 雇用保険被保険者証 | 退職時 | 会社で預かっている場合 |
| 年金手帳・基礎年金番号通知書 | 退職時 | 会社で預かっている場合 |
| 源泉徴収票 | 退職後 | 次の勤務先での年末調整に要る |
| 健康保険資格喪失証明書 | 求めに応じて | 国民健康保険への加入に使う |
受け取るもの
- 健康保険被保険者証(本人分と被扶養者分)。資格喪失届に添える
- 貸与物(社員証、鍵、制服、パソコンなど)
保険証の回収が遅れると、資格喪失届の提出も遅れる。最終出社日に回収する段取りにしておく。回収できない場合は、その旨を届け出る様式があるので、回収できないことを理由に提出を止めない。
退職後の健康保険には3つの道がある
担当者が本人に伝えておくと親切な部分になる。
| 選択肢 | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 任意継続被保険者 | 資格を喪失した日から20日以内に申出 | 健康保険法37条1項 |
| 国民健康保険 | 市区町村の定めによる | 国民健康保険法 |
| 家族の被扶養者になる | その家族の勤務先を通じて | 健康保険法3条7項 |
第三条第四項の申出は、被保険者の資格を喪失した日から二十日以内にしなければならない。ただし、保険者は、正当な理由があると認めるときは、この期間を経過した後の申出であっても、受理することができる。(健康保険法37条1項)
20日という期間は短い。退職日ではなく資格喪失日から数える点にも注意する。ただし書に「正当な理由があると認めるとき」の例外はあるが、あてにする性質のものではない。
また、傷病手当金を受けている人については、任意継続被保険者は傷病手当金の対象から除かれている(健康保険法99条1項かっこ書)。一方で、在職中から受けていた分は継続給付として受けられる場合がある(同法104条)。「任意継続にすれば安心」という理解のまま退職されないよう、先に伝える。
退職時の証明
労働基準法22条は、退職者から請求があったときの証明書の交付を定めている。
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。(労働基準法22条1項)
3項が労働者の請求しない事項を記入してはならないと定めている点も押さえる。請求された項目だけを書く。
手続きの手順——この順番で進める
- 退職日を確定する。資格喪失日はその翌日になる(健康保険法36条)。
- 保険料の扱いを本人に説明する。月末退職かどうかで1か月分変わることと、無保険の日が生じ得ることの両方を渡す。
- 最終出社日に保険証と貸与物を回収する。
- 退職日の翌日から5日以内に、健保・厚年の資格喪失届を出す(健保則29条)。
- 退職日の翌日から起算して10日以内に、雇用保険の資格喪失届を出す(雇保則7条1項)。離職証明書を添える。本人が離職票を希望しない場合は添付を省けるが、離職の日に59歳以上なら省けない(同条3項)。
- 離職理由を事実どおり記載する。本人の受給内容に直結する。
- 離職票が届いたら本人へ送る。
- 源泉徴収票を作成して渡す。
- 請求があれば7日以内に金品を返還する(労働基準法23条)。争いがあっても異議のない部分は支払う。
- 退職後の健康保険の選択肢と、任意継続の20日を伝える(健康保険法37条1項)。
プロならこう説明する
順にご説明します。まず、ご質問の「月末退職と月の途中」からお答えします。
保険の資格を失う日は、退職された日の翌日です。そして保険料は、資格を失った日が属する月の前の月までお納めいただく形になります。
ですので、3月31日にご退職ですと資格喪失は4月1日になり、3月分の保険料までかかります。3月30日にご退職ですと資格喪失は3月31日になり、2月分までで、3月分はかかりません。
ここで1つ、ご本人にお伝えいただきたいことがあります。3月30日でお辞めになると、3月31日は健康保険に入っていない日になります。その日のために国民健康保険へお入りいただくと、そちらの保険料が発生します。会社のご負担は減りますが、ご本人のご負担は増えることがあります。
ですので、退職日は会社の都合で動かすものではなく、ご本人のご希望で決めていただくのがよいと思います。両方の場合に何が起きるかを整理してお渡ししますので、それをご覧のうえでお決めください。
次に期限です。健康保険と厚生年金は、退職日の翌日から5日以内に年金事務所へ。雇用保険は、退職日の翌日から起算して10日以内にハローワークへ。
1点だけ注意していただきたいのですが、雇用保険は入社のときと退職のときで期限の数え方が違います。入社のときは「翌月10日まで」でしたが、退職のときは「翌日から10日以内」です。混ざりやすいところですので、カレンダーに書き込んでおくことをお勧めします。
離職票については、資格喪失届と一緒に離職証明書を提出する形で進めます。この書類には離職の理由を書きます。この区分によって、ご本人が受け取れる日数や、待つ期間が変わります。事実のとおりにご記入ください。
保険証は最終出社日に回収してください。ご家族の分もお預かりします。回収が遅れると届出も遅れますので、ここは先に段取りしておきましょう。
最後に、ご本人にお伝えいただきたいことがもう1つあります。退職後の健康保険は3つの選択肢があります。会社の健康保険を続ける任意継続、国民健康保険、ご家族の扶養に入る、の3つです。
任意継続をお選びになる場合、資格を失った日から20日以内にお申し出が必要です。かなり短い期間ですので、退職前にお伝えしておいてください。それぞれの保険料の見込みも、ご希望があれば試算いたします。
よくある質問と、その答え方
「保険証を返してもらえません。届出はどうしますか」
届出を止めない。回収できない旨を記載して提出する様式が用意されている。提出期限は保険証の回収状況にかかわらず進むので、まず届け出る。そのうえで本人へ返却を求め続ける。返却されるまで届出を保留すると、遅延の責任がこちらに移る。
「退職金の額でもめています。給与も止めてよいですか」
できない。労働基準法23条2項は、賃金または金品に関して争いがある場合でも、異議のない部分を7日以内に支払い、または返還しなければならないと定めている。争いのある部分と、ない部分を分けるのが条文の求めだ。給与のように争いのない部分を止めることは、この条文に反する。
「転職先が決まっているので離職票は不要と言われました」
まず年齢を確認する。離職の日において59歳以上であれば、本人が希望しなくても離職証明書を添えなければならない(雇保則7条3項ただし書)。59歳未満であれば添付を省けるが、作成して提出しておくほうが安全になる。転職先での勤務が続かなかった場合や、入社日が先送りになった場合に必要になるためだ。雇用保険法施行規則16条は、本人から求められたときの交付義務を定めているので、後から求められれば応じる必要がある。そのときにあらためて作成するより、退職時にまとめて処理するほうが手間が少ない。
説明で外したくないポイント
- 資格喪失日は退職日の翌日(健康保険法36条)。
- 保険料は喪失日の属する月の前月分まで:月末退職かどうかで1か月分変わる。
- ただし月末前の退職は無保険の日を生む:会社の都合で退職日を動かさない。
- 健保・厚年は5日以内、雇用保険は翌日から起算して10日以内(健保則29条、雇保則7条)。
- 雇用保険は取得と喪失で期限の数え方が違う。
- 離職理由は事実どおりに:本人の受給内容に直結する。
- 離職の日に59歳以上なら離職証明書の添付を省けない(雇保則7条3項ただし書)。
- 金品の返還は請求から7日以内。争いがあっても異議のない部分は支払う(労働基準法23条)。
- 任意継続は資格喪失日から20日以内(健康保険法37条1項)。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 労働基準法22条 | 退職時等の証明 | 請求があれば遅滞なく交付。請求しない事項は記入しない |
| 労働基準法23条 | 金品の返還 | 権利者の請求から7日以内。争いがあっても異議のない部分は支払う |
| 健康保険法36条 | 資格喪失の時期 | 該当するに至った日の翌日から資格を喪失する |
| 健康保険法37条1項 | 任意継続被保険者 | 資格を喪失した日から20日以内に申出。正当な理由があるときの例外 |
| 健康保険法48条 | 届出 | 資格の取得及び喪失等の届出義務 |
| 健康保険法99条1項・104条 | 傷病手当金/継続給付 | 任意継続被保険者は傷病手当金の対象外。在職中からの分は継続給付 |
| 健康保険法施行規則29条 | 被保険者の資格喪失の届出 | 当該事実があった日から5日以内 |
| 厚生年金保険法27条 | 届出 | 資格の取得及び喪失等の届出義務 |
| 雇用保険法7条 | 被保険者に関する届出 | 被保険者でなくなったことの届出義務 |
| 雇用保険法施行規則7条1項 | 被保険者でなくなつたことの届出 | 当該事実のあつた日の翌日から起算して10日以内。離職の場合は離職証明書等を添える |
| 雇用保険法施行規則7条3項 | 同上 | 本人が離職票の交付を希望しないときは離職証明書を添えないことができる。ただし離職の日に59歳以上の被保険者は除く |
| 雇用保険法施行規則16条 | 離職証明書の交付 | 本人が求めたときの交付義務。資格喪失届に添えて提出した場合を除く |