【社労士の実務】就業規則は作らなきゃダメ?──10人以上と届出のルールを説明する
従業員が増えてきた事業所の担当者から、相談が届く。
「正社員とパートを合わせて常時12人ほど働くようになりました。『10人を超えたら就業規則がいる』と聞いたのですが、本当でしょうか。作るとしたら、どこかへ提出したり、誰かの意見を聞いたりする必要はありますか。」
社労士の試験で「就業規則」は、作成義務と手続きの両方が問われる。覚えた要件が力になるのは、こうして担当者に「要るかどうか」と「何をどの順でするか」を渡せたときである。この記事では、人数の数え方、書く事項、手続き、そして周知が持つ意味までを通しで整理する。
まず結論:常時10人以上で、作成と届出の義務が生じる
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。(労働基準法89条柱書)
担当者の理解には、2つずれがある。
| よくある理解 | 条文 |
|---|---|
| 「10人を超えたら」 | 「十人以上」。ちょうど10人で義務が生じる |
| 作れば終わり | 作成に加えて届出まで義務。変更したときも同じ |
常時12人なら、当然に対象になる。
人数の数え方——「常時」と「事業場ごと」
数え方で押さえる点が2つある。
- 事業場ごとに数える。会社全体ではない。本店8人・支店5人の会社は、合計13人でもどちらの事業場も10人未満なので、義務は生じない。
- 雇用形態を問わない。条文は「労働者」としか書いていないので、パート・アルバイト・契約社員も含めて数える。担当者の事業所は正社員とパートを合わせて12人なので、対象になる。
「常時」とは、通常の状態として10人以上いることを指す。繁忙期だけ一時的に10人を超える場合と、通常10人以上いる場合とでは扱いが違う。迷ったら、直近数か月の在籍者数を並べて判断する。
10人未満の事業場に作成義務はないが、作ってはならないという条文はない。むしろ、労働条件をめぐる行き違いを防ぐ道具として役に立つ。「義務がないから作らない」ではなく「義務はないが作る価値がある」という渡し方をすると、相談が前に進む。
書く事項は2種類ある
89条の各号は、性格の違う2つに分かれている。
必ず書く事項(絶対的記載事項)
| 号 | 内容 |
|---|---|
| 1号 | 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、2組以上に分けて交替に就業させる場合の就業時転換に関する事項 |
| 2号 | 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定・計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期、昇給に関する事項 |
| 3号 | 退職に関する事項(解雇の事由を含む) |
定めをする場合に書く事項(相対的記載事項)
| 号 | 内容 |
|---|---|
| 3号の2 | 退職手当(適用される労働者の範囲、決定・計算・支払の方法、支払の時期) |
| 4号 | 臨時の賃金等(退職手当を除く)および最低賃金額 |
| 5号 | 労働者に食費・作業用品その他の負担をさせる定め |
| 6号 | 安全及び衛生 |
| 7号 | 職業訓練 |
| 8号 | 災害補償及び業務外の傷病扶助 |
| 9号 | 表彰及び制裁(その種類及び程度) |
| 10号 | そのほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定め |
実務で効くのは9号だ。就業規則に定めのない懲戒はできないと考えられているため、懲戒処分をする可能性があるなら、種類と程度を書いておく必要がある。「制裁の定めをする場合においては」と条件付きの号だが、書いていなければ使えない、という形で効いてくる。
2号の昇給に関する事項も落としやすい。金額を約束する必要はないが、昇給の有無・時期・査定の考え方は書く。労働条件通知書では書面明示の対象外だった昇給が、就業規則では絶対的記載事項になっているという違いも押さえておく。
意見を聴くが、同意は要らない
使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。(労働基準法90条)
条文は「意見を聴かなければならない」であって、同意を得よとは書いていない。反対意見であっても、聴いたうえで書面を添付すれば届出はできる。
ただし、これは「反対を無視してよい」という意味ではない。就業規則の変更で労働条件を不利益に変更する場合、労働組合等との交渉の状況が変更の合理性の判断要素に挙げられている(労働契約法10条)。手続として意見を聴くことと、内容の合理性を確保することは別だと分けて理解する。
意見を聴く相手は、36協定と同じく過半数代表者になる。管理監督者でないこと、投票・挙手等の手続により選出され、使用者の意向に基づき選出されたものでないことが要件だ(労働基準法施行規則6条の2第1項)。
つまずきやすいのは「周知」
作って届け出れば終わり、ではない。周知には2つの意味がある。
1つめ:労働基準法上の義務
使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、……を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。(労働基準法106条1項)
省令が定める方法は3つある(労働基準法施行規則52条の2)。
- 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること
- 書面を労働者に交付すること
- 電子計算機に備えられたファイル等に記録し、かつ各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
3番目に条件がついている。データを置くだけでは足りず、常時確認できる機器を各作業場に設置することまで求められている。「社内サーバーに置いてある」だけの運用は、この号に当てて確認する。
2つめ:効力の条件
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。(労働契約法7条本文)
ここが実務で最も重い。周知していなければ、その就業規則の内容が労働契約の内容にならない。金庫にしまってある就業規則は、義務違反であるだけでなく、いざというときに使えない。
変更の場面でも同じ構造になっている。就業規則の変更により労働条件を変更する場合、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、変更が合理的なものであるときに、変更後の内容によるものとされる(労働契約法10条本文)。周知は、合理性と並ぶ要件だ。
就業規則と他のものとの順位
条文が上下関係を定めている。
| 関係 | ルール | 条文 |
|---|---|---|
| 就業規則 対 法令・労働協約 | 就業規則は、法令または当該事業場について適用される労働協約に反してはならない | 労働基準法92条 |
| 就業規則 対 労働契約 | 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効。無効となった部分は就業規則で定める基準による | 労働契約法12条(労働基準法93条が委ねている) |
| 就業規則の不利益変更 | 労働者と合意することなく、就業規則の変更により不利益に労働条件を変更することはできない。ただし労働契約法10条の場合を除く | 労働契約法9条 |
労働契約法12条の効き方が実務で重要になる。個別の契約で就業規則より低い条件を定めても、その部分は無効になり、就業規則の基準に引き上げられる。就業規則は「下限」として働くという理解になる。
作成の手順——この順番で進める
- 事業場ごとの常時使用する労働者数を確認する。パート・アルバイトを含めて数える。
- 絶対的記載事項を先に埋める。1号・2号・3号。昇給と解雇の事由を落とさない。
- 実際に定めのある事項を洗う。退職手当、賞与、懲戒。運用しているのに書いていないものがないか確認する。
- 法令・労働協約に反していないか点検する(92条)。有給の日数、割増率、休憩時間など、法定を下回っていないか。
- 過半数代表者を選出する。投票・挙手等の手続で(労基則6条の2)。
- 意見を聴き、意見書を作成する。反対意見でも書面にする(90条1項・2項)。
- 所轄の労働基準監督署へ届け出る。意見書を添付する。
- 周知する。掲示・備付け・書面交付・端末設置のいずれかで(106条1項、労基則52条の2)。
- 周知したことの記録を残す。いつ、どの方法で、誰に。労働契約法7条の要件を後から立証できる形にしておく。
プロならこう説明する
お聞きになった話は、おおむね正しいです。ただ、少し正確にお伝えしておきたいところがあります。
条文は「10人を超えたら」ではなく「常時10人以上」です。ちょうど10人で義務が生じます。そして数えるときは、パートさんも含めますので、御社は12人で対象になります。
もう一つ、数え方で大事な点があります。この10人は事業場ごとに数えます。会社全体ではありません。もし将来、別の場所に事業所をお作りになった場合は、それぞれで数えることになります。
すべきことは、大きく3つです。作る、届け出る、知らせる。順にご説明します。
作る内容には、必ず書かなければならない事項があります。労働時間まわり――始業・終業の時刻、休憩、休日、休暇。賃金まわり――決め方、計算、支払方法、締切と支払日、そして昇給について。それから退職について――ここには解雇の事由まで含めることが条文に明記されています。
あわせて、御社で実際に運用されている事柄も書いておく必要があります。退職金、賞与、そして懲戒です。とくに懲戒は、就業規則に定めがないと処分ができないと考えられていますので、種類と程度を書いておきましょう。
届け出る前に、従業員の過半数を代表する方のご意見を聴く手続きがあります。ここは誤解の多いところですので正確に申し上げます。必要なのは意見を聴くことで、同意までは求められていません。反対のご意見であっても、それを書面にして添付すれば届出はできます。
ただ、内容が従業員の方に不利になる変更をされる場合は、話が別です。その際は、交渉の状況が変更の妥当性を判断する材料の一つになりますので、丁寧に進めたほうが結果的に安全です。
最後が周知です。ここがいちばん大事だと申し上げます。法律上の義務であることに加えて、周知していない就業規則は、労働契約の内容にならないという決まりがあるためです。作ってしまっておくと、義務違反であるうえに、いざというときに使えません。
周知の方法は3つあります。見やすい場所への掲示、書面のお渡し、そして社内の端末で見られるようにすること。ただし3つめは、各作業場に常時確認できる機器を置くことまで条文で求められています。サーバーに置くだけでは足りません。
作成のたたき台をお持ちします。まず今の運用を書き出すところから始めましょう。
よくある質問と、その答え方
「パート用に別の規則を作ってもいいですか」
できる。パートタイム労働者について別の就業規則を作成することは認められている。ただしその別規則も就業規則の一部なので、作成・変更には意見聴取と届出が必要になる。加えて、本則で「パートには適用しない」と明記しておくことが要る。ここが抜けると、本則がパートにも適用されるという解釈の余地が残る。
「一部の条文だけ変えるときも届出は必要ですか」
必要になる。89条柱書は「次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする」と書いている。変更のたびに、意見聴取と届出が要る。あわせて周知もやり直す。変更が労働者に不利益な内容であれば、労働契約法9条・10条の問題も出てくるので、「軽微な変更」と自己判断せず、内容を確認してから進める。
「就業規則より良い条件を、個別に約束してもいいですか」
できる。労働契約法12条が無効とするのは、就業規則で定める基準に達しない労働条件だ。上回る条件を個別に定めることは妨げられない。ただし労働契約法7条ただし書は、労働契約で就業規則と異なる労働条件を合意していた部分について、12条に該当する場合を除いてその合意によるとしている。口頭の約束は後で立証できないので、書面に残す運用にする。
説明で外したくないポイント
- 「常時10人以上」でちょうど10人から:超えたら、ではない(89条)。
- 事業場ごとに数え、パート等も含める。
- 作成だけでなく届出まで。変更のときも同じ(89条柱書)。
- 絶対的記載事項は1号・2号・3号:昇給と解雇の事由を落とさない。
- 懲戒は9号。定めがないと使えない。
- 意見聴取は同意ではない:反対意見でも書面を添付して届出できる(90条)。
- 周知は義務であり、効力の条件でもある(106条1項、労働契約法7条・10条)。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 労働基準法89条 | 作成及び届出の義務 | 常時10人以上で作成と届出。変更時も同様。1号〜3号が絶対的記載事項、3号の2〜10号が定めをする場合の事項 |
| 労働基準法90条 | 作成の手続 | 過半数組合または過半数代表者の意見を聴く。意見を記した書面を添付して届け出る |
| 労働基準法92条 | 法令及び労働協約との関係 | 就業規則は法令または適用される労働協約に反してはならない |
| 労働基準法93条 | 労働契約との関係 | 労働契約との関係は労働契約法12条による |
| 労働基準法106条1項 | 法令等の周知義務 | 掲示・備付け・書面交付その他省令で定める方法により周知させる |
| 労働基準法施行規則6条の2第1項 | (過半数代表者) | 管理監督者でないこと、投票・挙手等により選出され使用者の意向に基づかないこと |
| 労働基準法施行規則52条の2 | (周知の方法) | 掲示・備付け/書面交付/記録し各作業場に常時確認できる機器を設置 |
| 労働契約法7条 | — | 合理的な労働条件が定められた就業規則を周知させていた場合、労働契約の内容はその就業規則による |
| 労働契約法9条 | 就業規則による労働契約の内容の変更 | 合意なく不利益に変更することはできない。10条の場合を除く |
| 労働契約法10条 | — | 変更後の就業規則を周知させ、かつ変更が合理的であるとき。合理性の判断要素に労働組合等との交渉の状況 |
| 労働契約法12条 | 就業規則違反の労働契約 | 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分について無効 |