【社労士の実務】病気で休む社員、傷病手当金はいくら出る?──支給の要件を説明する
総務担当者から、休職中の社員について相談が届く。
「社員が病気で長く休むことになりました。健康保険から傷病手当金が出ると聞いたのですが、いつから、いくらぐらい出るのでしょうか。会社から給与を一部払っている場合はどうなりますか。」
社労士の試験で「傷病手当金」は要件と金額を正確に問われる。覚えた仕組みが力になるのは、こうして休職に入る社員の生活の見通しを、担当者と一緒に作れたときである。この記事では、制度の判別から、待期、金額の計算、支給期間、そして報酬や年金との調整までを通しで整理する。
まず判別する:業務外か、業務上か
休業中の所得補償は、原因によって制度が分かれる。ここを間違えると、手続きをやり直すことになる。
| 健康保険 | 労災保険 | |
|---|---|---|
| 対象 | 業務外の傷病 | 業務上の傷病/通勤による傷病 |
| 給付 | 傷病手当金 | 休業補償給付・休業給付 |
| 根拠 | 健康保険法99条 | 労働者災害補償保険法14条 |
| 待期 | 3日(連続したものとして扱う運用) | 3日(通算でよい) |
| 金額 | 標準報酬月額の平均の30分の1の3分の2 | 給付基礎日額の60%+特別支給金20% |
相談の「病気で長く休む」が業務外であれば、健康保険の傷病手当金になる。長時間労働が原因の精神疾患などは、業務上と認定される場合があるので、経緯の聞き取りは丁寧にする。
結論:4日目から、支給を始めた日から通算1年6月
被保険者(任意継続被保険者を除く。……)が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する。(健康保険法99条1項)
条文から要件を読み取ると、3つになる。
- 療養のためであること
- 労務に服することができないこと
- その状態が3日を経過した後であること
そして任意継続被保険者は対象から除かれている(99条1項かっこ書)。退職後に任意継続へ切り替えた人が新たに病気になっても、傷病手当金は受けられない。ここは相談で誤解が多い。
支給期間も条文にある。
傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から通算して一年六月間とする。(健康保険法99条4項)
「通算して」が要点だ。以前は支給を始めた日から起算して1年6月という定めで、途中で復帰した期間も期間の経過に含まれていた。現在は実際に支給を受けた日を通算して1年6月になっている。
実務上の意味は大きい。復帰して働いてみて、また悪化して休むという経過をたどる場合、働いていた期間は消費されない。「無理に働き続けるより、いったん休んで様子を見る」という選択がしやすくなったという制度になっている。
金額の計算——12箇月の平均が基礎になる
傷病手当金の額は、一日につき、傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した十二月間の各月の標準報酬月額(……)を平均した額の三十分の一に相当する額(……)の三分の二に相当する金額(……)とする。(健康保険法99条2項本文)
順に計算する。
- 支給開始日の属する月以前の直近12箇月の標準報酬月額を平均する
- その額を30で割る(1日あたりの額)
- その3分の2が1日分の傷病手当金
端数処理も条文が定めている。30分の1の段階で5円未満は切捨て、5円以上10円未満は10円に切上げ。3分の2の段階で50銭未満は切捨て、50銭以上1円未満は1円に切上げとなる。
12箇月に満たない場合
入社間もない人については、ただし書がある。
ただし、同日の属する月以前の直近の継続した期間において標準報酬月額が定められている月が十二月に満たない場合にあっては、次の各号に掲げる額のうちいずれか少ない額の三分の二に相当する金額とする。
一 支給を始める日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1
二 支給を始める日の属する年度の前年度の9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額を報酬月額とみなしたときの標準報酬月額の30分の1(健康保険法99条2項ただし書、1号・2号)
1号と2号のいずれか少ない額を使う。2号は全被保険者の平均から算出される額なので、本人の標準報酬月額が高くても、そちらで頭打ちになる。
実務では「入社してすぐ高い給与で登録された人が、そのまま高額の傷病手当金を受ける」という形にならないよう設計されている。入社1年未満の相談では、金額の見込みを高く伝えない。
つまずきやすいのは「給与を払っている場合」
担当者の質問はここに当たる。
疾病にかかり、又は負傷した場合において報酬の全部又は一部を受けることができる者に対しては、これを受けることができる期間は、傷病手当金を支給しない。ただし、その受けることができる報酬の額が、第九十九条第二項の規定により算定される額より少ないとき……は、その差額を支給する。(健康保険法108条1項)
| 会社が支払う額 | 傷病手当金 |
|---|---|
| 傷病手当金の額以上 | 支給されない |
| 傷病手当金の額より少ない | 差額が支給される |
| 支払わない | 全額が支給される |
だから「会社が一部払っているともらえない」とは限らない。金額の比較で決まる。休職中の給与の扱いを就業規則で決めるとき、この条文を前提に設計すると、本人の手取りが読める形になる。
実務の順序として、就業規則の休職中の賃金の定めと、傷病手当金の見込額を並べて計算する。「6割支給」と定めている会社では、傷病手当金の約3分の2(66.7%)を下回るため差額が出る計算になる。本人にはその合計額を伝えると、生活設計の話ができる。
障害厚生年金との調整
傷病手当金の支給を受けるべき者が、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病につき厚生年金保険法による障害厚生年金の支給を受けることができるときは、傷病手当金は、支給しない。ただし、その受けることができる障害年金の額……が、第九十九条第二項の規定により算定される額より少ないときは、その差額を支給する。(健康保険法108条3項)
ここでも構造は報酬との調整と同じで、少ないときは差額になる。障害基礎年金も受けられるときは、両者の合算額で比較する(同項かっこ書)。
長期の休職では、途中で障害年金の受給が始まることがある。そのとき傷病手当金の額が変わるので、事前に伝えておく。手続きの誤りだと受け取られないためだ。
退職後も受けられる場合がある
被保険者の資格を喪失した日(……)の前日まで引き続き一年以上被保険者(任意継続被保険者又は共済組合の組合員である被保険者を除く。)であった者であって、その資格を喪失した際に傷病手当金……の支給を受けているものは、被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して同一の保険者からその給付を受けることができる。(健康保険法104条)
要件は2つある。
- 資格喪失日の前日まで引き続き1年以上被保険者であったこと
- 資格を喪失した際に傷病手当金の支給を受けていること
2番目が実務で効く。退職日に出勤してしまうと、その日は「労務に服することができない」状態ではなくなる。資格喪失の際に支給を受けている状態にあたらないと判断され、継続給付を受けられなくなる可能性がある。
だから休職中の社員が退職する場合、最終出社日と退職日の扱いを確認する。挨拶のための出社であっても、扱いに影響し得る。本人に「出社しないほうがよい」とだけ伝えるのではなく、理由まで説明する。
1番目の「引き続き1年以上」も、途中に空白があると通算できない。転職して間もない人は要件を満たさないことがある。
手続きの手順——この順番で進める
- 傷病の原因を聞き取る。業務外か、業務上か。ここで制度が決まる。
- 被保険者の種別を確認する。任意継続被保険者は対象外(99条1項かっこ書)。
- 労務不能の開始日を特定する。ここから3日を数える。
- 被保険者期間を確認する。12箇月に満たないなら、99条2項ただし書の計算になる。
- 就業規則の休職中の賃金の定めを確認する。支給額と傷病手当金の見込額を並べる(108条1項)。
- 支給申請書を用意する。療養担当者の意見欄と事業主の証明欄が要る。
- 支給開始日を記録する。通算1年6月の起算点になる(99条4項)。
- 退職の予定があるなら、104条の要件を確認する。被保険者期間1年以上と、退職日の状態。
プロならこう説明する
順にご説明します。まず確認させてください。今回のご病気は、お仕事が原因ではないということでよろしいでしょうか。お仕事が原因の場合は労災保険のほうになり、手続きも金額も変わります。長時間の勤務が続いていた、といったご事情があれば、そこから確認いたします。
業務外ということでしたら、健康保険の傷病手当金になります。時期からご説明します。働けなくなった日から3日を経過した日、つまり4日目から支給が始まります。最初の3日間は支給されません。
金額は、直近12か月の標準報酬月額を平均した額を30で割り、その3分の2です。おおむね日給の3分の2とお考えください。ただし、入社されて1年に満たない方の場合は、別の計算になり、金額が抑えられることがあります。今回の方は在籍何年目でしょうか。
ご質問の「会社から給与を一部払っている場合」ですが、払っている額によります。お支払いになる額が傷病手当金の額以上でしたら支給されません。少ない場合は差額が支給されます。まったく支払われない場合は全額です。
ですので、御社の就業規則で休職中の賃金をどう定めているかを一度拝見させてください。定めが「6割」でしたら、傷病手当金のおよそ3分の2を下回りますので、差額が出る計算になります。ご本人には、合計でいくらになるかをお伝えしたほうが、生活のご計画が立てやすいと思います。
期間もお伝えします。支給を始めた日から通算して1年6か月です。ここは以前と変わった点でして、途中でお仕事に戻られた期間は、この1年6か月に含まれません。実際に支給を受けた日を通算します。ですので、無理をして働き続けるより、いったん休んで様子をご覧になるという選択がしやすくなっています。
最後に、先のことになりますが1点お伝えしておきます。もしご本人が退職をお考えになる場合、条件を満たせば退職後も引き続き受けられる仕組みがあります。ただし、退職日の時点で支給を受けている状態であることが要件です。退職日にご挨拶で出社されると、この要件に影響することがあります。そのときが来ましたら、あらためて段取りをご相談させてください。
よくある質問と、その答え方
「有給休暇を使っている間は出ませんか」
有給休暇中は報酬を受けることができる期間にあたるため、108条1項が働く。報酬の額が傷病手当金の額以上なら支給されず、少なければ差額が支給される。通常、有給休暇中の賃金は傷病手当金より多いので支給されないことが多い。ただし待期の3日間に有給を充てることはできる。待期は「労務に服することができない」状態が3日続くことを見るもので、賃金の有無を問わないためだ。
「退職後に任意継続にすれば、続けて受けられますか」
新たに病気になった場合は受けられない。99条1項が任意継続被保険者を除くと明記している。一方、在職中から受けていた傷病手当金は、104条の継続給付として受けられることがある。この2つは別の話なので、混同しない。「任意継続にすれば安心」という理解のまま退職されないよう、継続給付の要件(1年以上の被保険者期間と、退職時に支給を受けていること)を先に伝える。
「同じ病気で1年6月を使い切った後、また悪くなったら」
99条4項は同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病について通算1年6月と定めている。同じ傷病であれば、使い切った後の支給はない。別の傷病であれば、新たに支給を受けられる。ただし「別の傷病か」は保険者が判断する事項で、こちらで断定しない。1年6月が近づいたら、障害年金の請求を検討する時期にもなるので、そちらの案内につなげる。
説明で外したくないポイント
- まず業務外か業務上かを判別する:労災なら制度が違う。
- 任意継続被保険者は対象外(99条1項かっこ書)。
- 3日を経過した日から(99条1項)。
- 直近12箇月の標準報酬月額の平均÷30×2/3。12箇月未満は別計算(99条2項)。
- 支給期間は「通算して」1年6月:復帰期間は消費されない(99条4項)。
- 報酬・障害厚生年金とは差額調整(108条1項・3項)。
- 退職後の継続給付は1年以上の被保険者期間と退職時の受給が要件(104条)。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 健康保険法99条1項 | 傷病手当金 | 療養のため労務に服することができないとき、3日を経過した日から支給。任意継続被保険者を除く |
| 健康保険法99条2項本文 | 同上 | 直近12月の標準報酬月額の平均の30分の1の3分の2。端数処理 |
| 健康保険法99条2項ただし書 | 同上 | 12月に満たない場合は、本人の平均と前年度9月30日の全被保険者平均のいずれか少ない額を基礎とする |
| 健康保険法99条4項 | 同上 | 同一の疾病等について、支給を始めた日から通算して1年6月 |
| 健康保険法104条 | 傷病手当金又は出産手当金の継続給付 | 資格喪失日の前日まで引き続き1年以上被保険者であり、資格喪失の際に支給を受けていること |
| 健康保険法108条1項 | 傷病手当金又は出産手当金と報酬等との調整 | 報酬を受けられる期間は支給しない。報酬が少ないときは差額を支給 |
| 健康保険法108条3項 | 同上 | 同一の傷病について障害厚生年金を受けられるときは支給しない。少ないときは差額 |
| 労働者災害補償保険法14条 | — | 業務上の傷病の場合の休業補償給付(判別のため参照) |