【社労士の実務】算定基礎届──「9月分の保険料から」ではなく「9月からの標準報酬月額」
給与担当者から、算定基礎届について相談が届く。
「毎年夏に『算定基礎届』を出していますが、正直、仕組みをよく分かっていません。何をもとに計算して、いつまでに出して、その結果はいつの保険料から反映されるのでしょうか。定時決定という言葉との関係も教えてください。」
3つ聞かれている。何をもとに・いつまでに・いつからである。社労士の知識がここで力になるのは、3つ目を正確に答えられたときだ。「9月分の保険料から」と答えると、半分ずれる。条文が決めているのは保険料の話ではなく、標準報酬月額の話である。この記事では、そこまで整理する。
まず結論:条文が決めているのは3つ
| 質問 | 条文の答え | どこに |
|---|---|---|
| 何をもとに | 7月1日前の3か月に受けた報酬 | 健康保険法41条1項 |
| いつまでに | 7月10日まで | 健康保険法施行規則25条1項 |
| いつから | その年の9月から翌年8月までの標準報酬月額 | 健康保険法41条2項 |
3つ目に注目してほしい。条文が言っているのは「9月から翌年8月までの標準報酬月額とする」である。
保険料をいつ給与から引くかは、ここには書かれていない。
「9月分の保険料から」という言い方は実務ではよく使われるし、意味も通じる。ただし担当者が知りたいのは「何月の給与から手取りが変わるか」であることが多い。
そこはその会社が、保険料をどの月の給与から控除しているかで変わる。条文では決まらない。
だから答えるときは2段に分ける。「9月からの標準報酬月額になります」と「給与から引かれるのが何月かは、御社の控除の仕方によります」である。
「何をもとに」を、条文どおりに読む
健康保険法41条1項は、こう定めている。
(定時決定)
第四十一条 保険者等は、被保険者が毎年七月一日現に使用される事業所において同日前三月間(その事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となった日数が十七日(厚生労働省令で定める者にあっては、十一日。……)未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を決定する。
読みどころはかっこ書の中にある。
①「その事業所で継続して使用された期間に限る」
4月の途中で入った方ならその事業所にいた期間だけを見る。前の勤め先の分は入らない。
②「17日未満である月があるときは、その月を除く」
ここが実務でいちばん効く。その月を計算に入れないということである。
そして本文の最後を見る。「その期間の月数で除して」である。3で割るとは書いていない。
除いた結果、2か月しか残らなければ、2で割る。常に3で割ると覚えていると、ここで間違える。
③17日は、全員ではない
かっこ書の中に「厚生労働省令で定める者にあっては、十一日」とある。該当する方がいる場合、日数の線が違う。
誰が該当するかは省令で定められているので、短い時間で働く方がいる事業所では、そこを確かめる。
対象から外れる人がいる
ここは説明から抜けやすいところである。41条3項に書かれている。
3 第一項の規定は、六月一日から七月一日までの間に被保険者の資格を取得した者及び第四十三条、第四十三条の二又は第四十三条の三の規定により七月から九月までのいずれかの月から標準報酬月額を改定され、又は改定されるべき被保険者については、その年に限り適用しない。
2つある。どちらも、外れる理由がはっきりしている。
①6月1日から7月1日までに資格を取得した方
入ったばかりで、見るべき3か月が無い。資格を取得したときに標準報酬月額を決めているので、その年は、そのまま使う。
②7月から9月のいずれかの月から改定される方
随時改定と重なる場合である。両方やると、決めたそばから決め直すことになるので、随時改定のほうを生かす。
そして「改定されるべき被保険者」と書かれている点に気をつける。まだ届け出ていなくても、要件に当たっていれば外れるという読み方になる。
提出のほうの規定にも、同じ除外が書かれている。施行規則25条1項は「毎年七月一日現に使用する被保険者(法第四十一条第三項に該当する者を除く。)」の届出について定めている。
条文の側で、対象から外してあるということである。
提出の期日と、随時改定との違い
提出の期日は法律ではなく施行規則にある。
第二十五条 毎年七月一日現に使用する被保険者(法第四十一条第三項に該当する者を除く。)の報酬月額に関する法第四十八条の規定による届出は、同月十日までに、様式第四号による健康保険被保険者報酬月額算定基礎届を機構又は健康保険組合に提出することによって行うものとする。
7月10日までである。ここは、はっきり日が決まっている。
ここで随時改定と並べておくと、担当者の頭に残りやすい。
随時改定の届出について、施行規則26条1項は「速やかに」と定めている。日付が書かれていない。
| いつ出すか | |
|---|---|
| 算定基礎届 | 7月10日まで(日が決まっている) |
| 月額変更届 | 速やかに(日は決まっていない) |
年に一度、決まった日までに出すものと事由が起きたら、その都度すぐ出すもの——この対比で説明すると、2つの手続きの性格が伝わる。
そして「速やかに」のほうが、実は忘れやすい。期日が無いので、予定に入らないためである。
説明の例
算定基礎届について
ご質問の3点に、順にお答えします。
1. 何をもとに計算するか
7月1日の時点でお勤めの事業所で、その日より前の3か月間(4月・5月・6月)に受けた報酬です。
ただし、条文には2つの条件が付いています。
①その事業所で継続して使用された期間に限ります。4月の途中で入られた方なら、その期間だけを見ます。
②報酬支払の基礎となった日数が17日未満の月は、除きます。
この②が実務では効きます。除いた結果、2か月しか残らなければ、2で割ります。条文は「その期間の月数で除して」と書いており、常に3で割るわけではありません。
なお17日は全員に当てはまるわけではありません。省令で定められた方については11日です。短い時間でお勤めの方がいらっしゃる場合は、そちらもご確認ください。
2. いつまでに出すか
7月10日までです。(健康保険法施行規則25条1項)
これは法律ではなく施行規則で決まっています。日がはっきり決まっているのが、この手続きの特徴です。
3. いつから反映されるか
ここは2つに分けてお答えします。
条文が決めているのは、標準報酬月額のほうです。健康保険法41条2項は「その年の九月から翌年の八月までの各月の標準報酬月額とする」と定めています。
給与から引かれる保険料が何月分から変わるかは、御社が保険料をどの月の給与から控除しているかによります。条文では決まりません。
「9月分の保険料から」という言い方をよく聞かれると思いますが、職員の方が知りたいのは「何月の給与から手取りが変わるか」だと思います。そちらは控除の仕方をご確認ください。
4. 定時決定という言葉との関係
定時決定が手続きの名前で、算定基礎届がそのために出す書類の名前です。条文の見出しも「定時決定」となっています。
5. 全員が対象ではありません(ご注意ください)
健康保険法41条3項で、次の方はその年に限り、定時決定の対象から外れます。
- 6月1日から7月1日までに資格を取得された方——見るべき3か月がないためです
- 7月から9月のいずれかの月から、随時改定で標準報酬月額が改定される(改定されるべき)方
2つ目については「改定されるべき」と書かれています。まだ届け出ていなくても、要件に当たっていれば対象外という読み方になります。
昇給などで随時改定に当たりそうな方がいらっしゃる場合は、算定基礎届の作成前にご相談ください。
参考:もう一つの手続きとの違い
- 算定基礎届——毎年。7月10日までと日が決まっています
- 月額変更届——事由が起きたとき。施行規則26条1項は「速やかに」としており、日付はありません
日付が無いほうが、かえって忘れやすいと思います。昇給などがありましたら、その都度お知らせください。
3つの質問に、番号で順に答えた。3つ聞かれたら、3つとも答える。
3つ目を2段に分けた。条文が決めていることと、会社ごとに決まることを混ぜていない。
「常に3で割るわけではありません」と書いた。いちばん間違えやすいところである。
対象外の方を、独立した項にした。聞かれていないが、抜けると届出そのものが違ってくる。
最後に月額変更届との対比を置いた。「定時決定という言葉との関係」を聞いた方は、ほかの手続きとの関係も知りたいはずである。
そして「日付が無いほうが忘れやすい」で締めた。次に連絡してほしい場面を渡している。
説明の手順
- 聞かれた数だけ、答える。ここでは4つ。
- 条文が決めていることと会社ごとに決まることを分ける。
- 「いつから」を2段に分ける。標準報酬月額と、控除の時期。
- かっこ書を読む。継続して使用された期間、17日未満の除外。
- 「その期間の月数で除して」を落とさない。
- 17日が全員ではないことに触れる。
- 対象から外れる方を、独立させて書く。
- 「改定されるべき」の読み方を添える。
- 期日のある手続きと、無い手続きを並べる。
- 次に連絡してほしい場面で締める。
この場面で効いている社労士の知識
- 定時決定——健康保険法41条1項・2項。7月1日前3か月と、9月からの適用
- 支払基礎日数——17日未満の月は除く。省令で定める者は11日
- 適用除外——健康保険法41条3項。その年に限り適用しない
- 届出の期日——健康保険法施行規則25条1項(7月10日)と26条1項(速やかに)
知識そのものより、条文が決めていることと、会社ごとに決まることを分けて答えられることが、この場面で効いている。
説明で外したくないポイント
- 条文が決めているのは、標準報酬月額。保険料の控除時期ではない。
- 9月から翌年8月までの各月の標準報酬月額になる。
- 何月の給与から変わるかは、控除の仕方による。
- その事業所で継続して使用された期間に限る。
- 17日未満の月は除く。
- 常に3で割るわけではない。残った月数で割る。
- 17日は全員ではない。省令で定める者は11日。
- 6月1日〜7月1日に資格取得した方は、その年は対象外。
- 7〜9月に随時改定される(されるべき)方も対象外。
- 算定基礎届は7月10日まで、月額変更届は速やかに。