【社労士の実務】最低賃金を下回っていないか?──時給の点検の仕方を説明する
製造業の総務担当者から、相談が届く。
「今年も最低賃金が上がると聞きました。うちのパートさんの時給が下回っていないか確認したいのですが、手当も入れて計算してよいのでしょうか。月給の社員はどう見ればよいですか。」
最低賃金の点検は、毎年必ず来る仕事だ。しかも入れてよい賃金と、入れてはいけない賃金があるため、単純な割り算では答えが出ない。この記事では、条文が定める効力、算入しない賃金、時間額への換算、競合したときの扱い、そして点検の手順までを通しで整理する。
まず結論:下回る契約は、その部分が無効になる
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
2 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。(最低賃金法4条1項・2項)
2項の後段が要点だ。契約が丸ごと無効になるのではなく、下回る部分だけが最低賃金額に引き上げられる。だから「合意して時給を決めたのだから有効」という理屈は通らない。労働者の同意があっても、下回る定めは効かない。
罰則もある。
第四条第一項の規定に違反した者(地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に係るものに限る。)は、五十万円以下の罰金に処する。(最低賃金法40条)
かっこ書に注意する。罰則の対象は地域別最低賃金(と船員に適用される特定最低賃金)に限られている。特定最低賃金の違反は、この条文の罰則ではなく労働基準法24条の賃金全額払いの問題として扱われるという構造になっている。
算入しない賃金は4つ
次に掲げる賃金は、前二項に規定する賃金に算入しない。
一 一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
二 通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
三 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金(最低賃金法4条3項)
省令が具体的に定めている(最低賃金法施行規則1条)。
| 算入しない賃金 | 根拠 | |
|---|---|---|
| 1 | 臨時に支払われる賃金/1月をこえる期間ごとに支払われる賃金(賞与など) | 規則1条1項 |
| 2 | 所定労働時間をこえる時間の労働に対して支払われる賃金(時間外手当) | 規則1条2項1号 |
| 3 | 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日手当) | 同2号 |
| 4 | 深夜労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額をこえる部分 | 同3号 |
4番目の書き方が細かい。深夜手当の全部ではなく、通常の労働時間の賃金の計算額をこえる部分だけが除かれる。深夜に働いた時間についても、基本の時間額に相当する部分は算入される。
そして、この4つに挙がっていない手当は算入する。役職手当、資格手当、皆勤手当、精皆勤手当は、この列にない。割増賃金の算定基礎から除ける7種類とは、リストが違う。
| 手当 | 割増賃金の基礎 | 最低賃金の算入 |
|---|---|---|
| 家族手当 | 除ける(労基法37条5項) | 算入する(省令の列にない) |
| 通勤手当 | 除ける(同) | 算入する(省令の列にない) |
| 住宅手当 | 除ける(労基則21条3号) | 算入する(省令の列にない) |
| 時間外手当 | そもそも対象外 | 算入しない |
この対比が実務で効く。2つのリストを混同すると、割増賃金でも最低賃金でも計算がずれる。
ただし3号がある。当該最低賃金において算入しないことを定める賃金は除かれる(4条3項3号)。特定最低賃金では、精皆勤手当・通勤手当・家族手当を算入しないと定めていることがある。適用される最低賃金の定めそのものを見る必要がある。
月給は時間額に換算する
賃金が時間以外の期間又は出来高払制その他の請負制によつて定められている場合は、……次の各号に定めるところにより、当該賃金を時間についての金額に換算して、法第四条の規定を適用するものとする。(最低賃金法施行規則2条1項柱書)
| 号 | 賃金の定め方 | 換算 |
|---|---|---|
| 1号 | 日によって定められた賃金 | ÷ 1日の所定労働時間数(日によって異なる場合は1週間における1日平均所定労働時間数) |
| 2号 | 週によって定められた賃金 | ÷ 週における所定労働時間数(週によって異なる場合は4週間における1週平均所定労働時間数) |
| 3号 | 月によって定められた賃金 | ÷ 月における所定労働時間数(月によって異なる場合は1年間における1月平均所定労働時間数) |
| 5号 | 出来高払制その他の請負制 | 賃金算定期間の賃金の総額 ÷ その期間において請負制によって労働した総労働時間数 |
3号の分母は所定労働時間数だ。実際に働いた時間ではない。残業が多い月に実労働時間で割ると、時間額が小さく出て誤った判定になる。
2項にも定めがある。休日手当その他1項各号の賃金以外の賃金(時間によって定められた賃金を除く)は、月によって定められた賃金とみなす。手当は月給と同じ扱いで換算するということになる。
2つの最低賃金が重なったら
労働者が二以上の最低賃金の適用を受ける場合は、これらにおいて定める最低賃金額のうち最高のものにより第四条の規定を適用する。(最低賃金法6条1項)
地域別最低賃金と、産業別に定められる特定最低賃金の両方が適用される場合、高いほうが適用される。
2項も押さえる。
前項の場合においても、第九条第一項に規定する地域別最低賃金において定める最低賃金額については、第四条第一項及び第四十条の規定の適用があるものとする。(最低賃金法6条2項)
読み方はこうなる。適用されるのは高いほうだが、40条の罰則については地域別最低賃金の額を下回った場合に働く。特定最低賃金だけ下回っている状態と、地域別も下回っている状態では、責任の重さが違うという構造になっている。
減額の特例には許可が要る
使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、次に掲げる労働者については、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により第四条の規定を適用する。
一 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
二 試の使用期間中の者
三 職業能力開発促進法……第二十四条第一項の認定を受けて行われる職業訓練のうち……を受ける者であつて厚生労働省令で定めるもの
四 軽易な業務に従事する者その他の厚生労働省令で定める者(最低賃金法7条)
要点は「都道府県労働局長の許可を受けたとき」だ。これらに当たれば当然に減額できるのではない。許可がなければ、通常どおり最低賃金額以上を支払う。
とくに2号の試の使用期間中の者が誤解されやすい。「試用期間中だから最低賃金を下回ってよい」ではない。許可を受けた場合に、省令で定める率を乗じた額を減額できるという制度になっている。
周知の義務もある
最低賃金の適用を受ける使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該最低賃金の概要を、常時作業場の見やすい場所に掲示し、又はその他の方法で、労働者に周知させるための措置をとらなければならない。(最低賃金法8条)
点検して終わりではない。その年度の最低賃金額を、労働者に周知する義務がある。毎年10月頃に改定されるので、点検と周知をセットで年間の予定に入れておく。
点検の手順——この順番で回す
- 適用される最低賃金を確認する。事業場の所在地の地域別最低賃金と、産業に応じた特定最低賃金の有無。競合するなら高いほうが適用される(6条1項)。
- 各人の賃金の定め方を確認する。時給、日給、月給、出来高払。換算方法が変わる(規則2条1項)。
- 算入する賃金を選ぶ。臨時に支払われる賃金、1月をこえる期間ごとの賃金、時間外手当、休日手当、深夜の割増部分を除く(4条3項、規則1条)。
- 適用される最低賃金に「算入しない」定めがないか確認する(4条3項3号)。
- 所定労働時間数で割る。月給は1年間における1月平均所定労働時間数(規則2条1項3号)。
- 最低賃金額と比較する。
- 下回る人がいたら、賃金の改定を行う。下回る定めは無効で最低賃金額が適用される(4条2項)ため、過去分の精算も必要になる。
- 周知する(8条)。
プロならこう説明する
ご質問の「手当も入れてよいか」から、順にお答えします。
結論としては、入れてよい手当と、入れてはいけない賃金があります。入れてはいけないのは4つです。賞与など1か月を超える期間ごとにお支払いになるもの、臨時にお支払いになるもの、残業代、休日出勤の手当。それから深夜手当のうち、通常の時間額を超える部分です。
逆に言いますと、これ以外の手当は入れて計算します。役職手当も、皆勤手当も、通勤手当も入ります。
ここで1つ、お伝えしておきたいことがあります。残業代の計算から除ける手当のリストとは、内容が違います。残業代の計算では通勤手当や家族手当を除けますが、最低賃金の点検では入れます。2つを混ぜると、どちらも計算が狂います。それぞれ別の表を作っておかれるとよいと思います。
次に、月給の社員の方についてです。月給を時間額に直して比べます。割る数は1年間の1か月平均の所定労働時間数です。実際に働かれた時間ではありません。ここを実労働時間で割ってしまうと、残業の多い月に時間額が低く出て、判定を誤ります。
お使いになる最低賃金額もご確認ください。事業場の所在地の地域別最低賃金が基本ですが、業種によっては特定最低賃金が定められていることがあります。両方が適用される場合は高いほうを使います。御社の業種について、該当があるか調べてお持ちします。
もし下回っている方がいらっしゃった場合ですが、その契約は下回る部分について無効になり、最低賃金額で定めたものとみなされます。ですので、差額をさかのぼってお支払いいただくことになります。「合意していたから」という理屈は通りません。早めに確認しておきましょう。
最後に、点検が終わりましたら周知をお願いします。その年度の最低賃金額を、作業場の見やすい場所に掲示するなどの方法で、働く方にお知らせする義務があります。改定はおおむね毎年10月頃ですので、点検と掲示の入替えを、年間の予定に入れてしまうのが確実です。
よくある質問と、その答え方
「試用期間中は最低賃金を下回ってもよいですか」
よくない。最低賃金法7条2号に試の使用期間中の者は挙がっているが、これは都道府県労働局長の許可を受けたときに、省令で定める率を乗じた額を減額できるという制度だ。許可がなければ通常どおり最低賃金額以上を支払う。「試用期間だから」という理由だけで下回る設定はできない。
「本人が『この時給でいい』と言っています」
効かない。最低賃金法4条2項は、最低賃金額に達しない賃金を定める労働契約はその部分について無効とし、無効となった部分は最低賃金と同様の定めをしたものとみなすとしている。合意の有無を問わない。しかも地域別最低賃金に違反した場合は50万円以下の罰金の対象になる(40条)。「本人が納得している」は、この条文の前では意味を持たないと正確に伝える。
「歩合給の人はどう計算しますか」
最低賃金法施行規則2条1項5号による。賃金算定期間において請負制によって計算された賃金の総額を、その期間において請負制によって労働した総労働時間数で除した金額になる。分母が所定労働時間数ではなく総労働時間数である点が、月給の場合と違う。号によって分母が変わるので、賃金の定め方から確認する。
点検で外したくないポイント
- 下回る定めは無効で最低賃金額に置き換わる:合意は関係ない(4条2項)。
- 算入しないのは4つ:臨時/1月超の期間ごと/時間外/休日/深夜の超過部分(4条3項、規則1条)。
- 割増賃金の除外リストとは別物:通勤手当・家族手当・住宅手当は最低賃金には算入する。
- 月給の分母は1年間の1月平均所定労働時間数:実労働時間ではない(規則2条1項3号)。
- 競合したら高いほう。ただし罰則は地域別に係る(6条、40条)。
- 減額の特例は都道府県労働局長の許可が要る(7条)。
- 周知義務がある:点検と掲示をセットで年間予定に入れる(8条)。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 最低賃金法4条1項・2項 | 最低賃金の効力 | 最低賃金額以上の支払義務。下回る定めはその部分が無効となり、最低賃金と同様の定めとみなす |
| 最低賃金法4条3項 | 同上 | 算入しない賃金の3つの号 |
| 最低賃金法4条4項 | 同上 | 労働しなかった時間・日に対応する限度で賃金を支払わないことを妨げない |
| 最低賃金法6条 | 最低賃金の競合 | 最高のものによる。ただし4条1項・40条は地域別最低賃金の額について適用 |
| 最低賃金法7条 | 最低賃金の減額の特例 | 都道府県労働局長の許可。障害・試の使用期間中・認定職業訓練・軽易な業務 |
| 最低賃金法8条 | 周知義務 | 概要を作業場の見やすい場所に掲示等により周知させる |
| 最低賃金法9条 | 地域別最低賃金の原則 | あまねく全国各地域について決定。生計費・賃金・支払能力を考慮 |
| 最低賃金法40条 | 罰則 | 4条1項違反(地域別最低賃金等に係るもの)は50万円以下の罰金 |
| 最低賃金法施行規則1条 | 算入しない賃金 | 臨時/1月をこえる期間ごと/所定超の労働/所定労働日以外の労働/深夜の超過部分 |
| 最低賃金法施行規則2条 | 法4条の規定の適用についての換算 | 日給・週給・月給・出来高払の時間額への換算方法。休日手当等は月給とみなす |