【社労士の実務】仕事中のケガ、休業補償はいつから・いくら?──労災の休業給付を説明する
現場監督から、労災の休業補償について相談が届く。
「作業員が仕事中に足をケガして、しばらく働けなくなりました。労災保険から休業中の補償が出ると聞きましたが、休んだその日からすぐ全額もらえるのでしょうか。金額の目安や、待機のような期間があるのかを教えてください。」
社労士の試験で「休業(補償)給付」は数字を正確に問われる。覚えた仕組みが力になるのは、こうして「いつから・いくら」を、待期の扱いまで含めて渡せたときである。この記事では、どの制度を使うかの判別から、待期3日間の扱い、金額の組み立て、通勤災害との違いまでを通しで整理する。
まず判別する:業務上か、業務外か
休業中の所得補償には、制度が2つある。入口が違うので、最初に判別する。
| 労災保険 | 健康保険 | |
|---|---|---|
| 対象 | 業務上の負傷・疾病/複数業務要因災害/通勤による負傷・疾病 | 業務外の負傷・疾病 |
| 給付 | 休業補償給付・複数事業労働者休業給付・休業給付 | 傷病手当金 |
| 根拠 | 労働者災害補償保険法7条1項・14条 | 健康保険法99条 |
| 本人負担 | 療養の費用負担なし | 療養は原則3割負担 |
現場でいちばん多い事故は、業務上のケガを健康保険で受診してしまうことだ。健康保険は業務外の傷病を対象としているので、後から労災と分かれば、健康保険で処理した分をいったん精算し直すことになる。手間も時間もかかる。
だから相談を受けたときの最初の一言は「いつ、どこで、何をしていたときのケガですか」になる。制度の説明より先に、判別の材料をとる。
労災保険法7条1項は、保険給付を4つに分けている。業務災害(1号)、複数業務要因災害(2号)、通勤災害(3号)、そして二次健康診断等給付(4号)だ。今回は仕事中のケガなので、1号の業務災害にあたる。
結論:4日目から、給付基礎日額の60%
休業補償給付は、労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第四日目から支給するものとし、その額は、一日につき給付基礎日額の百分の六十に相当する額とする。(労働者災害補償保険法14条1項本文)
支給の要件は、条文から3つ読み取れる。
- 療養のためであること
- 労働することができないこと
- 賃金を受けないこと
そして開始は第4日目から。最初の3日間は支給されない。この3日間を待期期間という。
待期3日間は、使用者が補償する
「最初の3日間は何も出ない」という理解は、業務災害では誤りになる。労働基準法に、使用者の補償義務が置かれている。
労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。(労働基準法76条1項)
そして84条1項が、労災保険から給付が行われる場合の関係を定めている。
この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法……に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。(労働基準法84条1項)
読み合わせると、こうなる。
| 期間 | 誰が | いくら | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 1〜3日目(待期) | 使用者 | 平均賃金の60% | 労働基準法76条1項(84条1項の免責が及ばない) |
| 4日目以降 | 労災保険 | 給付基礎日額の60% | 労災保険法14条1項 |
待期の3日間は、会社が支払う。労災保険から給付が行われない期間なので、84条1項の免責が働かないためだ。
ここは事業主が知らないことが多い。「労災だから会社は何もしなくてよい」と考えていると、3日分の補償が抜ける。相談を受けた時点で、この3日分を先に伝えておく。
特別支給金を足すと、実質8割
労災保険には、保険給付とは別に特別支給金の仕組みがある。
休業特別支給金は、労働者……が業務上の事由……による負傷又は疾病……に係る療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第四日目から当該労働者に対し、その申請に基づいて支給するものとし、その額は、一日につき休業給付基礎日額の百分の二十に相当する額とする。(労働者災害補償保険特別支給金支給規則3条1項本文)
| 割合 | 性質 | |
|---|---|---|
| 休業補償給付 | 60% | 保険給付 |
| 休業特別支給金 | 20% | 社会復帰促進等事業による支給金 |
| 合計 80% | ||
ただし条文は「その申請に基づいて」と書いている。申請しなければ支給されない。実務では休業補償給付の請求書に特別支給金の申請欄が含まれているため、同じ様式で足りることが多いが、「自動で付いてくる」ものではないと押さえておく。
「実質8割」という説明は正確だが、2つの制度を足した数字だ。事業主や本人に伝えるときは、保険給付60%と支給金20%の内訳まで渡す。給付の決定通知が別々に届いた際に混乱させずに済む。
つまずきやすいのは「賃金を受けない日」の数え方
14条1項は「賃金を受けない日」を対象にしている。全部休んだ日だけではない。
ただし、労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため所定労働時間のうちその一部分についてのみ労働する日若しくは賃金が支払われる休暇(……「部分算定日」という。)……に係る休業補償給付の額は、給付基礎日額……から部分算定日に対して支払われる賃金の額を控除して得た額……の百分の六十に相当する額とする。(労働者災害補償保険法14条1項ただし書)
これが部分算定日だ。半日だけ働いた日や、有給休暇を充てた日がこれにあたる。
| その日の働き方 | 計算 |
|---|---|
| まったく働かず、賃金も受けない | 給付基礎日額 × 60% |
| 一部だけ働いた/賃金が支払われる休暇を取った | (給付基礎日額 − その日に支払われる賃金)× 60% |
だから「有給を使ったから給付は出ない」わけではない。給付基礎日額より低い賃金しか支払われないのであれば、その差額に対して60%が計算される。本人がどちらを選ぶかの判断材料として、両方の手取りを出して渡すのが実務になる。
年金と併給する場合は減額がある
14条2項は、同一の事由について障害厚生年金または障害基礎年金を受けることができるときの調整を定めている。この場合、休業補償給付の額は1項の額に政令で定める率を乗じた額(その額が政令で定める額を下回るときは、その政令で定める額)になる。
年金を受けられる状態になったら、給付額が変わる可能性があると伝えておく。給付額が途中で変わったときに、事務手続きの誤りだと受け取られないためだ。
通勤災害だと、名称と待期の扱いが変わる
労災保険法7条2項は、通勤を次のように定義している。
労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除く。
一 住居と就業の場所との間の往復
二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(省令で定める要件に該当するものに限る。)(労働者災害補償保険法7条2項)
経路を逸脱し、または移動を中断した場合、その間およびその後の移動は通勤としない(同条3項本文)。ただし日常生活上必要な行為であって省令で定めるものを、やむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱・中断の間を除いて通勤として扱われる(同項ただし書)。
| 業務災害 | 通勤災害 | |
|---|---|---|
| 給付の名称 | 休業補償給付 | 休業給付 |
| 待期3日間の使用者補償 | ある(労働基準法76条1項) | ない |
| 4日目以降 | 給付基礎日額の60%+特別支給金20%(同じ) | |
名称に「補償」が入るかどうかは、使用者の災害補償責任を肩代わりしているかどうかの違いを表している。通勤災害は使用者の責任によるものではないので「補償」が付かず、待期3日間の使用者補償もない。
この差は本人の手取りに直接出る。通勤中のケガでは、最初の3日間は無給になり得ることを先に伝えておく。
対応の手順——この順番で進める
- いつ・どこで・何をしていたときかを聞き取る。業務上か、通勤か、業務外か。ここで制度が決まる。
- 受診時に労災であることを医療機関へ伝える。健康保険証を出さない。既に出してしまっているなら、その旨を医療機関へ連絡する。
- 療養の給付の請求をする。労災指定医療機関なら様式第5号、そうでなければ様式第7号で費用を請求する。
- 休業の見込みを確認する。4日以上になるかどうかで、休業給付の請求が要るかが決まる。
- 待期3日分を会社が補償する。平均賃金の60%(労働基準法76条1項)。業務災害の場合のみ。
- 給付基礎日額を算定する。原則として労働基準法12条の平均賃金に相当する額になる。
- 休業補償給付支給請求書を提出する。特別支給金の申請欄も記入する(特別支給金支給規則3条1項)。
- 部分算定日を整理する。一部就労した日、有給を充てた日を分けて記録する。
- 労働者死傷病報告を提出する。休業日数によって提出時期が変わる。
プロならこう説明する
お怪我をされた作業員の方の件、順にご説明します。
まず確認させてください。お仕事中のお怪我ということでよろしいでしょうか。労災保険と健康保険は入口が違いまして、お仕事中でしたら労災保険になります。もし既に健康保険証で受診されている場合は、医療機関へその旨をご連絡ください。後から切り替えると手続きが増えますので、早いほうが楽です。
ご質問の「休んだその日から全額」という点ですが、少し違います。労災保険からの給付は、休み始めて4日目からです。金額は給付基礎日額の6割になります。
これに加えて、特別支給金が2割付きます。合わせて8割とお考えください。ただしこの2割は申請に基づくものですので、請求書の該当欄を必ずご記入ください。同じ用紙で申請できます。
そして、いちばんお伝えしたい点があります。最初の3日間は、会社がご補償ください。労働基準法で、業務上のお怪我については使用者が平均賃金の6割を補償することとされています。労災保険から出る4日目以降は会社の責任が免除されますが、この3日間は免除されません。
あわせて、休み方によって金額が変わる点もご説明します。半日だけ働かれた日や、有給休暇を充てられた日は「部分算定日」という扱いになり、給付基礎日額からその日のお給料を差し引いた額の6割が支給されます。ですので、有給を使ったからまったく出ない、ということにはなりません。
ご本人には、有給を充てる場合と充てない場合の手取りを両方お出しして、選んでいただくのがよいと思います。計算してお持ちします。
手続きとしましては、療養の給付の請求と、休業の請求の2つがあります。用紙をご用意しますので、医療機関の証明と事業主の証明の欄を埋めていただく形になります。労働者死傷病報告の提出も必要ですので、あわせてご案内します。
よくある質問と、その答え方
「待期の3日間は連続していないといけませんか」
連続している必要はない。労災保険法14条1項は「労働することができないために賃金を受けない日の第四日目から」と定めているだけで、連続を要件にしていない。断続していても通算して3日で待期が完成する。健康保険の傷病手当金は「労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から」支給すると定められており(健康保険法99条1項)、この3日は連続したものとして扱う運用になっている。両制度を並べて覚えていると、ここで取り違えやすい。
「通勤中のケガでも、最初の3日は会社が払いますか」
払わない。労働基準法76条1項の休業補償は業務上の負傷・疾病を対象としている。通勤災害は使用者の災害補償責任によるものではないため、待期3日間の使用者補償はない。給付の名称も「休業給付」で、「補償」が付かない。この名称の違いが、そのまま待期の扱いの違いを表している。
「寄り道して帰る途中のケガは通勤災害になりますか」
原則として、逸脱・中断の間およびその後の移動は通勤としない(労災保険法7条3項本文)。ただし日常生活上必要な行為であって省令で定めるものを、やむを得ない事由により行うための最小限度のものであれば、逸脱・中断の間を除いて通勤として扱われる(同項ただし書)。「寄り道したら一律に対象外」ではないので、何のために、どのくらい寄ったかを聞いてから答える質問になる。
説明で外したくないポイント
- まず業務上か業務外かを判別する:健康保険で受診してしまう事故を防ぐ。
- 給付は4日目から、給付基礎日額の60%(労災保険法14条1項)。
- 待期3日間は使用者が平均賃金の60%を補償する:業務災害のみ(労働基準法76条1項・84条1項)。
- 特別支給金20%は申請に基づく(特別支給金支給規則3条1項)。
- 部分算定日は差額の60%:有給を充てても給付が出ることがある(14条1項ただし書)。
- 待期は連続でなくてよい:傷病手当金の連続3日と区別する。
- 通勤災害は「補償」が付かず、待期の使用者補償もない。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 労働者災害補償保険法7条1項 | — | 業務災害・複数業務要因災害・通勤災害・二次健康診断等給付の4区分 |
| 労働者災害補償保険法7条2項・3項 | — | 通勤の定義。逸脱・中断の扱いと、日常生活上必要な行為のただし書 |
| 労働者災害補償保険法14条1項本文 | — | 第4日目から、給付基礎日額の60% |
| 労働者災害補償保険法14条1項ただし書 | — | 部分算定日は、給付基礎日額から支払われる賃金を控除した額の60% |
| 労働者災害補償保険法14条2項 | — | 障害厚生年金・障害基礎年金を受けられるときの調整 |
| 労働基準法76条1項 | 休業補償 | 使用者は平均賃金の60%の休業補償を行う |
| 労働基準法84条1項 | 他の法律との関係 | 労災保険から相当する給付が行われる場合、使用者は補償の責を免れる |
| 労働者災害補償保険特別支給金支給規則3条1項 | 休業特別支給金 | 第4日目から、申請に基づき、休業給付基礎日額の20% |
| 健康保険法99条1項 | 傷病手当金 | 業務外の傷病についての給付。労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から支給(判別と待期の比較のため参照) |