【社労士の実務】資格の学費、雇用保険から出る?──教育訓練給付を説明する
社員から相談を受けた総務担当者から、質問が届く。
「社員が資格の講座に通いたいと言っています。雇用保険から学費が出る制度があると聞いたのですが、どんな条件で、どのくらい出るのでしょうか。会社として何か手続きは要りますか。」
社労士の試験で「教育訓練給付」は、区分と率が細かく問われる。覚えた内容が力になるのは、こうして「その人がどの区分に当たり、いくら出るか」を条文で示せたときである。この記事では、支給要件期間、訓練の区分、給付率と上限、そして支給されない場合までを通しで整理する。
まず結論:支給要件期間3年。初回は1年または2年
教育訓練給付金は、……厚生労働大臣が指定する教育訓練を受け、当該教育訓練を修了した場合……において、支給要件期間が三年以上であるときに、支給する。(雇用保険法60条の2第1項)
ここに暫定措置がある。
教育訓練給付金支給対象者であつて、……基準日前に教育訓練給付金の支給を受けたことがないものに対する同項の規定の適用については、当分の間、同項中「三年」とあるのは、「一年」とする。(雇用保険法附則11条)
ただし、この読み替えは法の側と省令の側の2段でできている。省令にもう1つ定めがある。
法附則第十一条の適用を受ける者……については、第百一条の二の七第一号から第三号までの規定中「三年」とあるのは「一年」とし、同条第四号から第六号までの規定中「三年」とあるのは「二年」とする。(雇用保険法施行規則24条)
101条の2の7は給付率を定める条で、各号が「支給要件期間が三年以上である者であつて……」で始まっている。その「三年」を、規則24条が号の範囲で分けて読み替える。
| 訓練の区分 | 初回の支給要件期間 | |
|---|---|---|
| 1号〜3号 | 一般教育訓練・特定一般教育訓練 | 1年以上 |
| 4号〜6号 | 専門実践教育訓練 | 2年以上 |
| — | すべて(2回目以降) | 3年以上(60条の2第1項) |
初回の期間は訓練の区分で分かれる。法の附則11条だけを読むと一律1年に見えるが、区分の差は省令の側にある。
この構造には理由がある。「専門実践教育訓練」という言葉は雇用保険法の本則・附則には現れず、省令(雇保則101条の2の7第4号)で定義されている。法に無い用語の要件を法だけで探すと、必ず「差は無い」という結論になってしまう。用語がどの法令で定義されているかを先に確かめるのが、この分野の読み方になる。
支給要件期間の数え方
前項の支給要件期間は、教育訓練給付金支給対象者が基準日までの間に同一の事業主の適用事業に引き続いて被保険者として雇用された期間(……当該雇用された期間と当該被保険者であつた期間を通算した期間)とする。
ただし、当該期間に次の各号に掲げる期間が含まれているときは、当該各号に掲げる期間に該当する全ての期間を除いて算定した期間とする。
一 ……被保険者でなくなつた日が当該被保険者となつた日前一年の期間内にないときは、当該直前の被保険者でなくなつた日前の被保険者であつた期間
二 当該基準日前に教育訓練給付金の支給を受けたことがあるときは、当該給付金に係る基準日前の被保険者であつた期間(雇用保険法60条の2第2項)
読み方を整理する。
- 原則として過去の被保険者期間を通算できる
- ただし、離職から次の被保険者資格取得までが1年を超えている場合、それより前の期間は切り捨てられる(1号)
- また、過去に教育訓練給付金を受けている場合、そのときの基準日より前の期間は使えない(2号)
2番目が実務で効く。転職の間の空白が1年を超えていると、それ以前の期間が丸ごと落ちる。「通算15年ある」と本人が思っていても、条文で数えると足りないことがある。離職と再就職の日付を並べて数える。
基準日に被保険者でなくても対象になる
一 当該教育訓練を開始した日(以下この条において「基準日」という。)に一般被保険者……又は高年齢被保険者である者
二 前号に掲げる者以外の者であつて、基準日が当該基準日の直前の一般被保険者又は高年齢被保険者でなくなつた日から厚生労働省令で定める期間内にあるもの(雇用保険法60条の2第1項1号・2号)
2号があるので、離職後に講座を始める場合でも、省令で定める期間内であれば対象になる。「辞めたらもう使えない」ではない。
給付率は区分と成果で6段階
条文は率の幅だけを定め、具体的な率は省令に委ねている。
教育訓練給付金の額は、……教育訓練の受講のために支払つた費用……の額……に百分の二十以上百分の八十以下の範囲内において厚生労働省令で定める率を乗じて得た額(その額が厚生労働省令で定める額を超えるときは、その定める額)とする。(雇用保険法60条の2第4項)
省令の率と上限額を並べる(雇用保険法施行規則101条の2の7、101条の2の8)。
| 号 | 区分 | 率 | 上限額 |
|---|---|---|---|
| 1号 | 一般教育訓練を受け、修了した者 | 20% | 10万円 |
| 2号 | 特定一般教育訓練を受け、修了した者 | 40% | 20万円 |
| 3号 | 特定一般教育訓練を修了し、資格の取得等をし、かつ雇用された(雇用されている)者 | 50% | 25万円 |
| 4号 | 専門実践教育訓練を受け、修了した者(受けている者を含む) | 50% | 120万円 |
| 5号 | 専門実践教育訓練を修了し、資格の取得等をし、かつ雇用された(雇用されている)者 | 70% | 168万円 |
| 6号 | 5号に加えて、賃金が105%以上になった者 | 80% | 192万円 |
いずれの区分も支給要件期間が3年以上である者を前提に書かれている。初回はこの「三年」が、1号〜3号では1年、4号〜6号では2年に読み替えられる(法附則11条、雇保則24条)。
3号・5号・6号は受講後の成果に応じて上乗せされる構造になっている。条文が求めているのは、資格の取得等をすることと、修了した日の翌日から起算して1年以内に雇用されること(または既に雇用されていて、1年以内に資格の取得等をすること)だ。
6号はさらに厳しく、資格取得後に雇用された日から1年を経過する日までの連続する6箇月間に支払われた賃金から算定した額が、受講前の賃金日額の105%以上であることを求めている。賃金が上がったことまで見るという設計になっている。
だから相談では「受講したら◯%出ます」と言い切らない。「修了だけならこの率、資格を取って就職すればこの率」と、段階で伝える。
支給されない2つの場合
第一項及び前項の規定にかかわらず、同項の規定により教育訓練給付金の額として算定された額が厚生労働省令で定める額を超えないとき、又は教育訓練給付金支給対象者が基準日前厚生労働省令で定める期間内に教育訓練給付金の支給を受けたことがあるときは、教育訓練給付金は、支給しない。(雇用保険法60条の2第5項)
| 内容 | |
|---|---|
| 1 | 算定した額が省令で定める額を超えないとき(少額すぎる場合) |
| 2 | 基準日前省令で定める期間内に教育訓練給付金の支給を受けたことがあるとき |
2番目は前回の受給からの間隔を見ている。続けて何度も受けられる制度ではない。前回いつ受けたかを本人に確認する。
専門実践教育訓練には、上限額に関する追加の枠もある。連続した2支給単位期間ごとの限度と、1の支給限度期間ごとの限度(192万円)だ(規則101条の2の8第1項4号〜6号)。支給限度期間は基準日から10年を経過する日までの一の期間とされている(同条2項)。
会社としてすることはあるか
教育訓練給付は本人がハローワークに申請する制度で、事業主に届出義務があるものではない。ただし実務では、会社が関わる場面がある。
- 支給要件期間の確認:在籍期間の証明が求められることがある
- 受講時間の確保:所定労働時間中に受講する場合の取扱いを決める
- 費用負担との関係:会社が学費を補助する場合、給付との重複をどう整理するか
- 専門実践教育訓練の場合の面談:受講前にキャリアコンサルティングを受け、ジョブ・カードを作成する必要がある
3番目は事前に決めておく。会社が全額補助したうえで本人が給付も受けるという形は、本人が支払った費用を対象とする制度の趣旨と合わない。60条の2第4項は「受講のために支払つた費用」を基礎にしており、しかも指定教育訓練実施者による証明を要件にしている。
補助制度を持つなら、給付を受けた後の差額を補助するといった設計にしておくと整理しやすい。就業規則や社内規程に書いておくところまでが助言になる。
案内の手順——この順番で確認する
- 受けたい講座が指定講座かを確認する。厚生労働大臣が指定する教育訓練でなければ対象にならない(60条の2第1項)。
- どの区分かを確認する。一般、特定一般、専門実践で率と上限が大きく変わる。
- 過去に教育訓練給付金を受けたことがあるかを聞く。初回なら支給要件期間は、一般・特定一般で1年、専門実践で2年(法附則11条、雇保則24条)。
- 被保険者期間を数える。離職から次の資格取得まで1年を超える空白があれば、それ以前は切り捨てる(60条の2第2項1号)。
- 前回の受給からの間隔を確認する(同条5項)。
- 専門実践なら、受講前の手続きを確認する。キャリアコンサルティングとジョブ・カード。
- 会社の補助制度との関係を整理する。
- ハローワークで支給要件照会をしてもらう。受講開始前に確認するのが確実になる。
プロならこう説明する
ご相談の制度は教育訓練給付金です。順にご説明します。
まず前提として、厚生労働大臣が指定した講座でなければ対象になりません。どんな講座でも出るわけではありませんので、ご本人が通いたいとおっしゃっている講座が指定を受けているかを、最初にご確認ください。
次に、雇用保険に入っていた期間です。原則は3年以上ですが、この制度を初めてお使いになる場合は1年以上で足ります。その社員の方は、これまでにこの給付をお受けになったことはありますか。
ここで1つ、ご注意いただきたい点があります。過去の期間を通算できますが、離職から次の就職までの間が1年を超えていますと、それより前の期間は数に入りません。転職のご経験がある方は、日付を並べて数える必要があります。
出る額についてご説明します。区分によって大きく違います。
一般教育訓練でしたら、お支払いになった費用の20%、上限10万円。特定一般教育訓練ですと40%、上限20万円。専門実践教育訓練ですと50%、上限120万円です。
さらに、資格をお取りになって、その後お勤めになった場合には上乗せがあります。特定一般で50%、専門実践で70%まで上がります。専門実践については、お給料が受講前より上がった場合にさらに80%まで上がる仕組みもあります。
ですので、ご本人には「修了だけならこの率、資格を取って働き続ければこの率」という形でお伝えいただくのが正確です。最初から最大の率をお伝えすると、後で行き違いになります。
会社としての手続きですが、この給付はご本人がハローワークに申請されるもので、会社に届出の義務はありません。ただ、在籍期間の証明を求められることがありますので、そのときはご協力ください。
あわせて、御社に学費の補助制度がある場合は、先に整理しておきましょう。この給付はご本人がお支払いになった費用が基礎になりますので、会社が全額お出しになったうえでご本人も給付を受ける、という形は制度の趣旨と合いません。給付を受けた後の差額を補助するといった形にしておくと整理がつきます。
最後に、いちばん確実な進め方をお伝えします。受講を始める前に、ハローワークで支給要件照会をしていただくことです。ご本人の期間で対象になるかどうかを、事前に確認できます。受講後に「対象外でした」となるのがいちばん困りますので、これは必ずお願いします。
よくある質問と、その答え方
「退職した後でも使えますか」
使える場合がある。60条の2第1項2号が、基準日に被保険者でない者であっても、直前に被保険者でなくなった日から省令で定める期間内に基準日があるものを対象に含めている。「辞めたらもう使えない」ではない。ただし期間の制限があるので、離職日と受講開始予定日を持ってハローワークで確認する。
「去年も受けました。今年も使えますか」
2つの条文が働く。まず60条の2第5項により、基準日前の省令で定める期間内に支給を受けたことがあるときは支給されない。次に同条2項2号により、前回の基準日より前の被保険者期間は支給要件期間に算入できない。つまり間隔と期間の両方で制限される。「前回いつ受けたか」を確認しないと答えられない質問になる。
「専門実践は毎年もらえるのですか」
専門実践教育訓練には支給単位期間ごとの限度と、1の支給限度期間ごとの限度(192万円)が定められている(規則101条の2の8第1項4号〜6号)。支給限度期間は基準日から10年を経過する日までの一の期間だ(同条2項)。10年という枠の中での総額の上限があると理解しておく。金額は区分と成果によって変わるので、ハローワークで具体的に確認する形で渡す。
説明で外したくないポイント
- 指定講座でなければ対象外(60条の2第1項)。
- 支給要件期間は3年。初回は一般・特定一般が1年、専門実践が2年:区分の差は省令側にある(法附則11条、雇保則24条)。
- 1年を超える空白があるとそれ以前は算入しない(60条の2第2項1号)。
- 離職後でも省令で定める期間内なら対象(同条1項2号)。
- 率は20%から80%まで6段階:修了だけか、資格取得と就職まで至るかで変わる(規則101条の2の7)。
- 上限額も区分ごとに違う(規則101条の2の8)。
- 前回の受給からの間隔で不支給になる(60条の2第5項)。
- 受講開始前に支給要件照会をする。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 雇用保険法60条の2第1項 | 教育訓練給付金 | 厚生労働大臣が指定する教育訓練。支給要件期間3年以上。1号・2号の対象者 |
| 雇用保険法60条の2第2項 | 同上 | 支給要件期間の通算と、1年を超える空白・前回受給による切捨て |
| 雇用保険法60条の2第4項 | 同上 | 支払った費用に20%以上80%以下の範囲で省令が定める率を乗じる。省令の額が上限 |
| 雇用保険法60条の2第5項 | 同上 | 算定額が省令で定める額を超えないとき、前回受給から省令で定める期間内のときは支給しない |
| 雇用保険法附則11条 | 教育訓練給付金に関する暫定措置 | 初めて受ける者は当分の間、60条の2第1項の「三年」を「一年」と読み替える |
| 雇用保険法施行規則24条 | 教育訓練給付金に関する暫定措置 | 法附則11条の適用を受ける者は、101条の2の7の1号〜3号の「三年」を「一年」、4号〜6号の「三年」を「二年」と読み替える |
| 雇用保険法施行規則101条の2の7 | 法60条の2第4項の省令で定める率 | 一般20%/特定一般40%(成果ありで50%)/専門実践50%(成果ありで70%、賃金105%以上で80%) |
| 雇用保険法施行規則101条の2の8 | 法60条の2第4項の省令で定める額 | 10万円/20万円/25万円/120万円/168万円/192万円。支給限度期間は基準日から10年 |