社労士の実務クエスト

【社労士の実務】育児休業は断れる?──申出と期間の決まりを説明する

中小企業の人事担当者から、相談が届く。

「社員から育児休業を取りたいと言われました。人手が足りないので、時期をずらしてもらえないかと考えています。会社として断ることはできるのでしょうか。手続きや期間の決まりも教えてください。」

社労士の試験で「育児休業」は、申出の要件と期間が細かく問われる。覚えた内容が力になるのは、こうして事業主に「拒めない」を条文で示したうえで、できる調整を渡せたときである。この記事では、拒否の可否、除外できる範囲、期間の枠組み、給付金、そして受けたときの手順を通しで整理する。

この記事は、学習アプリ「シカクエ」の実務クエストを読み物として再構成したもの。人物・事業所はすべて架空です。改正の多い分野のため、実際の運用は最新の条文と通達でご確認ください。

まず結論:申出を拒むことはできない

事業主は、労働者からの育児休業申出があったときは、当該育児休業申出を拒むことができない。(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律6条1項本文)

条文は明確だ。「人手が足りない」は理由にならない。年次有給休暇には時季変更権があるが(労働基準法39条5項ただし書)、育児休業には同じ仕組みが置かれていない

ただし、事業主にできる調整が2つある。

できること根拠
1労使協定で一定の労働者を対象から外しておく6条1項ただし書
2申出が1か月前を切っている場合に、開始予定日を指定する6条3項

労使協定で外せる範囲

ただし、当該事業主と……労働者の過半数を代表する者との書面による協定で、次に掲げる労働者のうち育児休業をすることができないものとして定められた労働者に該当する労働者からの育児休業申出があった場合は、この限りでない。
一 当該事業主に引き続き雇用された期間が一年に満たない労働者
二 前号に掲げるもののほか、育児休業をすることができないこととすることについて合理的な理由があると認められる労働者として厚生労働省令で定めるもの(育児介護休業法6条1項ただし書)

2つの条件がそろって初めて外せる。労使協定を結んでいることと、その協定で対象外と定められていることだ。協定がなければ、勤続1年未満の労働者も育児休業を取得できる

「うちは1年未満だから対象外」と即答する相談を受けたら、まず労使協定の有無を確認する。結んでいなければ、その説明は誤りになる。

開始日の指定ができる場合

事業主は、労働者からの育児休業申出があった場合において、当該育児休業申出に係る育児休業開始予定日とされた日が当該育児休業申出があった日の翌日から起算して一月(……第三項の規定による申出……又は同条第四項の規定による申出……にあっては二週間)を経過する日……前の日であるときは、……当該育児休業開始予定日とされた日から当該一月等経過日……までの間のいずれかの日を当該育児休業開始予定日として指定することができる。(育児介護休業法6条3項)

申出の種類必要な期間切っていた場合
原則の育児休業(5条1項)1か月1か月経過日までのいずれかの日を開始日に指定できる
1歳から1歳6か月・1歳6か月から2歳の延長(5条3項・4項)2週間2週間経過日までのいずれかの日を指定できる

ここも「拒める」わけではない。できるのは開始日を後ろへずらすことだけで、しかも1か月経過日を超えて指定することはできない最大でも1か月の調整だと理解しておく。

期間の枠組み——3段階になっている

労働者は、その養育する一歳に満たない子について、その事業主に申し出ることにより、育児休業……をすることができる。(育児介護休業法5条1項本文)

原則は1歳まで。そこから延長の枠が2段ある。

段階対象の子条件条文
原則1歳に満たない子5条1項
延長11歳から1歳6か月に達するまでの子1歳到達日に本人または配偶者が育児休業をしていること/1歳到達日後の休業が雇用の継続のために特に必要と認められる場合に該当すること/この項による育児休業をしたことがないこと5条3項
延長21歳6か月から2歳に達するまでの子同様の条件5条4項

回数の制限も条文にある。

……労働者は、その養育する子が一歳に達する日……までの期間……内に二回の育児休業……をした場合には、当該子については、厚生労働省令で定める特別の事情がある場合を除き、前項の規定による申出をすることができない。(育児介護休業法5条2項)

1歳までの間は2回まで分割して取得できる。3回目からは、省令で定める特別の事情がある場合を除き申し出られない。

有期雇用の労働者については、5条1項ただし書に要件がある。その養育する子が1歳6か月に達する日までに労働契約が満了することが明らかでない者に限り申し出ることができる。「有期だから取れない」ではなく、契約の満了時期で判断する

出生時育児休業(産後パパ育休)

労働者は、その養育する子について、その事業主に申し出ることにより、出生時育児休業(育児休業のうち、……子の出生の日から起算して八週間を経過する日の翌日まで……の期間内に四週間以内の期間を定めてする休業をいう。……)をすることができる。(育児介護休業法9条の2第1項本文)

項目内容条文
取得できる期間子の出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日まで9条の2第1項
休業の長さその期間内に4週間以内
回数2回まで(2回した場合は申し出られない)9条の2第2項1号
日数の上限出生時育児休業をする日数が28日に達している場合は申し出られない同項2号

出生時育児休業は通常の育児休業とは別枠だ。5条の「1歳までに2回」とは別に、この枠で2回取得できる。合わせて最大4回に分けられるという設計になっている。

育児休業給付金は67%と50%

休業中の所得は、雇用保険から補われる。

育児休業給付金の額は、一支給単位期間について、……休業開始時賃金日額……に……支給日数……を乗じて得た額の百分の五十(当該育児休業……を開始した日から起算し当該育児休業給付金の支給に係る休業日数が通算して百八十日に達するまでの間に限り、百分の六十七)に相当する額……とする。(雇用保険法61条の7第6項)

期間給付率
休業開始から通算180日に達するまで67%
181日目以降50%

受給資格も条文にある。育児休業を開始した日前2年間にみなし被保険者期間が通算して12箇月以上であったときに支給される(61条の7第1項)。疾病・負傷等により引き続き30日以上賃金の支払を受けられなかった場合は、その日数を2年に加算する(最長4年)。

休業中に会社から賃金が支払われる場合の調整も定められている。支払われた賃金の額に給付金の額を加えた額が、休業開始時賃金日額に支給日数を乗じて得た額の80%以上であるときは、その80%相当額から賃金の額を差し引いた額が給付金になる(61条の7第7項前段)。

そして賃金の額だけで80%以上になるときは、その支給単位期間について給付金は支給されない(同項後段)。「会社からも出して、給付金も満額」という形にはならないので、休業中の賃金を定めるときはこの調整を前提に設計する。

回数についての制限もある。同一の子について3回以上の育児休業をした場合、省令で定める場合に該当するものを除き、3回目以後の育児休業については給付金は支給されない(61条の7第2項)。休業を取れる回数と、給付金が出る回数は別だと押さえておく。

受けたときの手順——この順番で進める

  1. 労使協定の有無を確認する。除外の定めがなければ、勤続1年未満でも取得できる(6条1項ただし書)。
  2. 有期雇用なら契約の満了時期を確認する。子が1歳6か月に達する日までに満了することが明らかかどうか(5条1項ただし書)。
  3. 申出日と開始予定日の間隔を確認する。1か月を切っているなら、開始日の指定ができる(6条3項)。ただし1か月経過日を超えては指定できない。
  4. 回数と分割の予定を聞き取る。1歳までに2回まで。出生時育児休業は別枠で2回まで。
  5. 給付金の受給資格を確認する。開始日前2年間にみなし被保険者期間が通算12箇月以上か(雇用保険法61条の7第1項)。
  6. 休業中の賃金の扱いを決める。80%の調整があることを前提にする(同条7項)。
  7. 社会保険料の免除を申し出る。育児休業等取得者申出書を年金事務所へ提出する。
  8. 復帰後の働き方を先に話しておく。短時間勤務、所定外労働の免除など。

プロならこう説明する

お気持ちは分かりますが、まず結論からお伝えします。育児休業のお申出を、会社としてお断りすることはできません。法律に「拒むことができない」と明記されています。有給休暇のように時季を変更していただく仕組みも、育児休業にはありません。

そのうえで、会社としてできることが2つあります。

1つは、お申出が1か月を切っている場合です。この場合、会社から開始日を指定することができます。ただし指定できるのは、お申出の翌日から1か月経過する日までです。それ以上先へずらすことはできません。今回のお申出はいつ付けでしょうか。

もう1つは労使協定です。協定で定めておけば、勤続1年未満の方などを対象外とすることができます。ただしこれはあらかじめ協定を結んでいる場合に限られます。御社では締結されていますか。もし結んでいらっしゃらないのであれば、勤続の長さにかかわらずお取りいただくことになります。

期間についてもご説明します。原則はお子さまが1歳になるまでです。保育所に入れないなどの事情があれば1歳6か月まで、さらに2歳まで延長できる仕組みがあります。

それから、1歳までの間は2回に分けてお取りいただけます。加えて、お父さまの場合はお子さまの出生から8週間の間に、4週間以内で2回という別枠の休業もあります。

この分割ができるという点は、人手のご心配に対して使えるかもしれません。まとめて取るか、分けて取るかをご本人とご相談されてはいかがでしょうか。会社から指定することはできませんが、話し合って決めることはできます。

収入面もお伝えしておきます。ご本人には雇用保険から育児休業給付金が出ます。休業開始から180日までは賃金日額のおよそ67%、それ以降は50%です。

ここで1点、会社としてご注意いただきたいことがあります。休業中に会社からお給料をお支払いになると、給付金が減額されます。合わせて80%を超える部分が調整され、お給料だけで80%以上になると給付金は出ません。善意でお支払いになると、かえってご本人の手取りが増えないことがあります。制度の設計をご一緒に確認しましょう。

あわせて、社会保険料の免除の手続きもございます。会社のご負担分も免除になりますので、こちらは必ずお出しください。

よくある質問と、その答え方

「勤続半年の社員は対象外ですよね」
確認が要る。育児介護休業法6条1項ただし書は、労使協定で定められた労働者について拒めるとしている。労使協定がなければ、勤続1年未満でも取得できる。「1年未満は対象外」という理解は、協定があることを前提にしたものだ。まず協定の有無と、その協定に除外の定めがあるかを確認する

「有期契約の社員から申出がありました」
5条1項ただし書が要件を定めている。その養育する子が1歳6か月に達する日までに労働契約が満了することが明らかでない者に限り申し出ることができる。「明らかでない」という書き方なので、更新の可能性がある場合は取得できる方向に働く。「有期だから取れない」と即答しない。契約書と更新の実績を見てから答える。

「3回に分けたいと言われました」
2つに分けて答える。休業そのものは、5条2項により1歳までの間に2回した場合、省令で定める特別の事情がある場合を除き申し出られない。給付金は、61条の7第2項により同一の子について3回以上の育児休業をした場合、省令で定める場合を除き3回目以後は支給されない。ただし出生時育児休業は別枠で、9条の2により8週間の期間内に2回まで取得できる。どの枠の話かを確認してから答える質問になる。

説明で外したくないポイント

  1. 申出は拒めない:時季変更権のような仕組みはない(6条1項)。
  2. 除外できるのは労使協定がある場合だけ(6条1項ただし書)。
  3. 開始日の指定は1か月経過日まで:それ以上ずらせない(6条3項)。
  4. 原則1歳、1歳6か月、2歳の3段階(5条1項・3項・4項)。
  5. 1歳までに2回、出生時育児休業は別枠で2回(5条2項、9条の2)。
  6. 給付は180日まで67%、以降50%(雇用保険法61条の7第6項)。
  7. 休業中に賃金を払うと80%の調整が働く(同条7項)。

根拠条文のまとめ

条文見出しこの記事で使った内容
育児介護休業法5条1項育児休業の申出1歳に満たない子について申出。有期は1歳6か月までに契約満了が明らかでない者に限る
育児介護休業法5条2項同上1歳到達日までに2回した場合は、特別の事情がある場合を除き申し出られない
育児介護休業法5条3項・4項同上1歳6か月まで、2歳までの延長の要件
育児介護休業法6条1項育児休業申出があった場合における事業主の義務等拒むことができない。労使協定で勤続1年未満等を除外できる
育児介護休業法6条3項同上1か月(延長の申出は2週間)を切る申出は、その経過日までの日を開始予定日として指定できる
育児介護休業法9条の2出生時育児休業の申出出生の日から8週間を経過する日の翌日までに4週間以内。2回まで、通算28日まで
雇用保険法61条の7第1項育児休業給付金開始日前2年間にみなし被保険者期間が通算12箇月以上
雇用保険法61条の7第2項同上同一の子について3回以上の育児休業は、3回目以後支給しない(省令で定める場合を除く)
雇用保険法61条の7第6項同上通算180日まで67%、以降50%
雇用保険法61条の7第7項同上賃金が支払われた場合の80%調整。賃金だけで80%以上なら支給しない
労働基準法39条5項ただし書年次有給休暇時季変更権(育児休業には同様の仕組みがないことの対比)
条文の記述は執筆時点のもの。育児介護休業法は改正が続いている分野のため、実際の運用では最新の条文と厚生労働省の通達をご確認ください。

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