【基本情報の実務】再発防止の共有──「なぜ」を人で止めると、対策が「気をつける」になる
メンテナンス班のリーダーから、障害共有の依頼が届く。
「先日、記録があふれて処理が止まる障害が起きました。すでに復旧はしています。ただ、また同じことが起きないよう、原因と再発防止策を関係者に共有したいのです。『何が起きて』『なぜ起きて』『今後どうするか』が伝わる文章をお願いします。」
この3点で書く、という方針は正しい。基本情報の知識がここで力になるのは、真ん中の「なぜ」を、どこまで掘るかを決めたときだ。掘る深さで、3つ目の「今後どうするか」が決まってしまう。この記事では、そこから整理する。
まず結論:「なぜ」を止める場所で、対策が決まる
| どこで止めたか | 出てくる対策 |
|---|---|
| 記録があふれた | 記録を消す |
| 担当が残量を見ていなかった | 「今後は気をつける」 |
| 残量を見る手順が決まっていなかった | 手順を決める/知らせが来る形にする |
2番目で止めると対策が「気をつける」になる。そして、また起きる。
事実としては2番目も間違っていない。実際に見ていなかったのだから、書いてあることは正しい。
それでもそこで止めると、次に打てる手が無い。「気をつける」は、手ではない。
3番目まで掘ると決められるものが出てくる。手順、設定、知らせ——人の心がけではないものである。
だから「なぜ」は、人に当たったところで止めない。そこから、もう一段だけ進める。
人に当たったら、もう一段
掘っていくと必ず人に当たる。最後に操作するのは人だからである。
そこで止めるか、進めるかで、共有文の値打ちが変わる。
進めるときの問いは「なぜ、その人はそうしたのか」ではない。それだと、まだ人に向いている。
効く問いは「そうならない形に、できたか」である。
- 見ていなかった → 見る手順が決まっていたか
- 気づかなかった → 気づける形になっていたか
- 判断を誤った → 判断せずに済む形にできたか
右側はすべて、決められることである。左側は、決められない。
そして右側で書くと、共有文が責める文書にならない。気をつかって書いているのではなく、そのほうが対策として強い。
名前を出さないのは配慮ではなく、名前が対策に結びつかないからである。
対策は、二本立てにする
再発防止策を1つだけ書くとたいてい「起きなくする」ほうになる。もう1つ要る。
- 起きないようにする——記録を自動で消す、置き場所を増やす
- 起きても、気づけるようにする——残りが減ったら知らせる
2つ目が抜けやすい。そして実は、こちらのほうが確実である。
1つ目は想定した増え方の中でしか効かない。今回より速く増える事情——催しがあった、別の記録も入るようになった——が出れば、また同じところに来る。
2つ目は増え方が変わっても効く。減ったら知らせるのだから、理由を問わない。
だから共有文には両方を書く。そして、2つ目を先に置いてもよい。
「あふれないようにする」と「あふれる前に気づく」は、別の備えである。
他の場所でも起きうるかを、書く
共有文でいちばん見落とされるのがここである。
今回の障害はこの場所で起きた。ところが同じ作りの場所が、他にもあることが多い。
書かないと読んだ人は「うちの話ではない」と受け取る。そして、隣で同じことが起きる。
だから1行でよいので、範囲を書く。
- この場所だけの事情だったのか
- 同じ作りの場所にも、当てはまるのか
- まだ確かめていないのか
3つ目も書いてよい。確かめていないと書けば、確かめる人が出る。黙っていると、誰も確かめない。
そして復旧後の共有文は、急いで読まれない。第一報と違って、読み手は困っていない。
だから「自分に関係があるか」を、いちばん上に置く。そこが分からないと、最後まで読まれない。
共有文の例
【障害報告】記録があふれて処理が止まった件(復旧済み)
同じ作りの装置をお使いの部署は、対象です。末尾に確認のお願いがあります。
1. 何が起きたか
◯月◯日、記録の置き場所がいっぱいになり、処理が止まりました。◯時間後に復旧しています。
この間、◯◯の受付ができない状態でした。
2. なぜ起きたか
記録は毎日増え続けますが、古いものを消す仕組みがありませんでした。
また、残りの置き場所を確認する手順が、決まっていませんでした。誰かが見ていれば気づけましたが、見ることが誰かの仕事になっていませんでした。
3. 今後どうするか(2つあります)
①あふれる前に気づける形にします
残りが一定を下回ったときに、知らせが届く設定にします。
こちらを先に入れます。理由は、増え方が変わっても効くためです。次に紹介する②は、想定した増え方の中でしか効きません。
②古い記録を、自動で消します
◯か月より前の記録を、自動で消す設定にします。残す期間については、◯◯までご意見をお寄せください。調査で必要になる場合があるかと思いますので、期間はご相談して決めます。
4. 他の場所でも起きるか
同じ作りの装置では、同じことが起こりえます。記録が増え続け、消す仕組みが無い、という条件は共通です。
◯◯と◯◯についてはすでに確認し、同じ設定を入れました。
それ以外の装置は、まだ確認できていません。お心当たりのある部署は、◯◯までお知らせください。こちらで確認します。
5. お願い
記録の置き場所が増え続ける仕組みをお使いの場合、いま残りがどれくらいかを、一度だけご確認ください。
見方が分からない場合も、◯◯までお声がけください。こちらで見ます。
いちばん上に「対象です」と書いた。復旧済みの報告は、急いで読まれない。
「なぜ」を、手順が決まっていなかったところまで進めた。「担当が見ていなかった」で止めていない。
「見ることが誰かの仕事になっていなかった」——事実を、決められる形で書いている。
対策は気づける形を先にした。そして、なぜ先なのかを書いた。
残す期間を、こちらで決めなかった。調査で使う人がいるかもしれないためである。
4番で確認できていない範囲を書いた。黙っていると、誰も確かめない。
作り方の手順
- 「なぜ」をどこまで掘るかを先に決める。
- 人に当たったら、もう一段進める。
- 「そうならない形にできたか」と問う。
- 決められる言葉で書く。手順・設定・知らせ。
- 名前を出さない。対策に結びつかないから。
- 対策を二本立てにする。
- 気づける形を先に置く。増え方が変わっても効く。
- 他の場所でも起きるかを書く。
- 確認できていない範囲も書く。
- 「対象です」を、いちばん上に置く。
この場面で効いている基本情報の知識
- 原因の掘り下げ——人で止めると、対策が心がけになる
- 予防と検知——起きなくする対策と、気づける対策は別
- 横展開——同じ作りの場所にも当てはまるかを確かめる
- 記録の保存期間——消す期間は、使う人と決める
知識そのものより、原因を、決められる形の言葉に置き換えられることが、この場面で効いている。
共有で外したくないポイント
- 「なぜ」を止める場所で、対策が決まる。
- 人で止めると「気をつける」になる。
- 人に当たったら、もう一段進める。
- 「そうならない形にできたか」と問う。
- 名前を出さないのは、配慮ではない。対策にならないから。
- 対策は二本立て。起きなくする/気づけるようにする。
- 気づける形のほうが、増え方が変わっても効く。
- 他の場所でも起きうるかを書く。
- 確認できていない範囲も書く。
- 「自分に関係があるか」を先頭に置く。