【基本情報の実務】障害の第一報──原因が分からない段階でも、書けることがある
オンライン決済システムの運用担当として、障害の第一報をどう書くかを考える場面が届く。
「決済システムの運用担当です。本日10時ごろから、利用者が決済画面で操作するとエラーになり、買い物を完了できない状態が続いています。原因はまだ調査中で、いつ直るかも分かりません。まずはギルド長や他部署の関係者に第一報を伝えたいのですが、原因が分からない段階で何をどう書けばよいでしょうか?」
基本情報の知識がここで力になるのは、第一報が何のための文書かを決めたときだ。説明するための文書だと思うと、原因が分かるまで書けない。関係者が動くための文書だと考えると、いま書ける。この記事では、そこから整理する。
まず結論:受け取る側は、これから動く人
| 受け取る側 | 読んですぐ必要になること |
|---|---|
| 問い合わせを受ける部署 | お客様に何と伝えるか |
| 他部署の担当 | 自分の業務が止まるか |
| ギルド長 | いつ次の情報が来るか |
3者とも原因を知りたいわけではない。原因が分かっても、やることは変わらない。
必要なのはいま何が起きていて、自分は何をすればよいかである。
だから第一報は原因の欄が空でも成立する。むしろ、原因を待って出さないほうが問題になる。
その間問い合わせを受ける部署は、何も言えないまま電話を取り続けることになる。
分からないことを、分からないと書く
第一報でいちばん避けたいのは、曖昧にすることである。
「現在確認中です」とだけ書くと、受け取った側が推測で動く。「すぐ直りそうだ」と読む人と「長引きそうだ」と読む人が同時に出る。
推測がばらつくと、対応もばらつく。
だから分かっていないことを、項目として書く。
- 原因——調査中
- 復旧の見込み——現時点では立っていない
2つ目をはっきり書く。書かないと、みな短めに見積もる。
そして「調査中」と「分からない」は、別のことである。調査中は、手が動いている状態を指す。誰が何を見ているかまで書くと、そこが伝わる。
見込みが立たないことは、悪い知らせではあるが、正確な情報である。正確な情報は、受け取った側の役に立つ。
「できていること」も書く
影響範囲を書くときできないことだけを並べがちである。できていることも書くと、受け取り方が変わる。
今回でいえば決済ができないのであって、商品を見る、かごに入れる、といった操作は動いているかもしれない。
書かないと「全部止まっている」と受け取られる。すると必要のない対応が始まる。全面的な告知を出す、別の部署まで止める——そういう動きが起きる。
そしてお客様への案内も変わる。かごの中身が残るなら、「復旧後にそのままお進みいただけます」と言える。
できていることの一覧は、対応を軽くする情報である。
あわせてデータがどうなっているかも書く。「決済は完了していないが、二重に請求されることはない」——ここは、いちばん聞かれるところである。
まだ確認できていないなら「確認中」と書く。大丈夫だと思う、で書かない。
外向けに使える一文を、添える
これを入れると第一報の値打ちが変わる。
問い合わせを受ける部署はすぐにお客様へ説明することになる。第一報にその言葉が無いと、各自が考えて話す。
すると部署ごとに説明が違うという状態が生まれる。あとから、その食い違いのほうが問題になる。
だから「お客様にはこうお伝えください」という一文を、第一報に入れておく。
この一文は短くする。原因に触れない。約束をしない。
そして言わないことも書いておく。復旧時刻を聞かれても、まだお答えできない——それを伝えてよい、と書いておく。
答えを持っていない人が、その場で何か言ってしまうのを防ぐのが、この一文の役目である。
第一報の例
【障害第一報】決済が完了できない事象について
発生時刻:本日10時ごろ
状態:継続中
次の連絡:本日12時(状況が変わらない場合も、その旨をお知らせします)1. 起きていること
決済画面で操作するとエラーが表示され、買い物を完了できません。
2. できていること
- 商品の閲覧、かごへの追加はできています
- ログイン、会員情報の閲覧はできています
- かごの中身は残ります
3. お金について
決済は完了していません。二重に請求されることがないかについては現在確認中で、確認でき次第お知らせします。
4. 分かっていないこと
- 原因——調査中です(決済の連携部分の記録を確認しています)
- 復旧の見込み——現時点では立っていません
5. お客様への案内について(各部署でお使いください)
お問い合わせには、下記でご案内ください。
「ただいま決済のお手続きに不具合が生じており、ご購入を完了できない状態です。ご不便をおかけしております。かごの中身は残りますので、復旧後にそのままお進みいただけます。復旧の見込みは、分かり次第あらためてご案内いたします。」
復旧時刻をお尋ねいただいた場合は、「まだお答えできない」とお伝えいただいて構いません。推測でのご案内はお控えください。
6. お願い
お客様から上記と異なる症状のお申し出があった場合は、運用担当までお知らせください。範囲の把握に使わせていただきます。
ご不便をおかけしております。引き続き対応いたします。
次の連絡時刻を、いちばん上に置いた。読み手が最初に必要とする情報である。
「できていること」を2番目に置いた。対応の範囲が、ここで決まる。
お金の項を独立させた。いちばん聞かれるところだからである。確認中を、確認中と書いている。
分かっていないことを、項目にした。原因の横に「記録を確認しています」と添えて、手が動いていることを示している。
お客様への案内を、そのまま使える形で入れた。各自が考えなくて済む。
お詫びは短く、最後に置いた。冒頭に長い謝罪を置くと、事実が下に押される。
作り方の手順
- 誰が読むかを決める。これから動く人たちである。
- その人たちが、すぐ必要とすることを並べる。
- 次の連絡時刻を、いちばん上に置く。
- 起きていることを、症状で書く。
- できていることも書く。対応が軽くなる。
- データやお金の状態を独立させる。
- 確認できていないことは、確認中と書く。
- 分かっていないことを、項目にする。
- 外向けの一文を添える。言わないことも書く。
- お詫びは短く、最後に置く。
この場面で効いている基本情報の知識
- インシデント対応——第一報は、原因が分からなくても出す
- 影響範囲——できないことと、できていることの両方を示す
- エスカレーション——次の連絡時刻を約束することで、待てる状態を作る
- 情報の統制——外向けの文言をそろえ、推測での案内を防ぐ
知識そのものより、第一報を「説明する文書」ではなく「動くための文書」として書けることが、この場面で効いている。
第一報で外したくないポイント
- 原因を待って出さない。その間、現場は何も言えない。
- 受け取る側は、これから動く人。原因より、やることを知りたい。
- 次の連絡時刻を、いちばん上に置く。
- 分からないことを、項目として書く。曖昧にしない。
- 「見込みが立っていない」をはっきり書く。書かないと短く見積もられる。
- 「調査中」と「分からない」は違う。何を見ているかを添える。
- できていることも書く。過剰な対応を防ぐ。
- お金やデータの状態を独立させる。いちばん聞かれる。
- 外向けの一文を添える。説明の食い違いを防ぐ。
- お詫びは短く、最後。事実を先に。