【基本情報の実務】期間の見積もり──1つの数字で答えると、それが約束になる
発注担当から、新機能の期間見積もりについて相談が届く。
「注文管理の仕組みに、注文履歴を一覧で見る機能を足したいです。だいたいどれくらいの期間でできそうか、見積もりがほしいです。ざっくりでよいので、なぜその期間になるのかの内訳も添えてくれると助かります。」
内訳を添えてほしいという依頼が、この相談の良いところである。基本情報の知識がここで力になるのは、内訳が何のためにあるかを分かっているときだ。内訳は、こちらの説明のためではない。相手が減らすためにある。この記事では、そこから整理する。
まず結論:数字1つでは答えない
| 答え方 | 受け取られ方 |
|---|---|
| 「2週間くらいです」 | 2週間の約束として残る |
| 幅+内訳+前提 | 変わる条件も一緒に伝わる |
「ざっくりでよい」と言われても、ざっくり答えたことは、正確に記憶される。
言った側は目安のつもりでも、聞いた側はその数字で予定を立てる。あとで延びると、約束を破った形になる。
だから数字1つでは答えない。幅で答え、内訳を付け、前提を書く。
相談者が内訳も、と言ってくれているのは、そのほうが使いやすいと分かっているということである。
そして、その前にやることがある。
見積もる前に、範囲を確かめる
「注文履歴を一覧で見る機能」——これだけでは、作るものが決まらない。
いちばん大きいのは誰が見るかである。
- 注文した本人が、自分の分を見る——その人の分だけを出す。件数は少ない
- 店側が、全員分を見る——件数がまったく違う。絞り込みや並べ替えも要る
同じ一言でも作るものが変わる。期間も変わる。
ほかにも決まっていないことがある。
- いつからの分を見せるか——全部か、直近だけか
- 絞り込みは要るか——期間、状態、商品名
- 画面の見た目は、既存に合わせるか、新しく作るか
- 取り出して使うことはあるか——表として書き出す、など
ここを聞かずに見積もると、あとで「そういう意味ではなかった」になる。
ただし全部が決まるまで待たない。いまの理解で1つ置いて、前提として書く。違っていれば、相手が直してくれる。
抜けるのは、作る時間の周り
見積もりが短くなる原因は、ほとんど1つである。作る時間だけを数えていることである。
画面を作る時間は思い浮かべやすい。その周りが、思い浮かばない。
- どう作るかを決める——画面の項目、絞り込みの条件
- 確認してもらう——作る前に、認識が合っているか
- 試す——動作の確認と、その項目を作る時間
- 直す——見てもらって出た指摘に対応する
- まわりへの影響を見る——既存の画面や処理が、影響を受けないか
- 反映する——実際に使える状態にする
6つとも省けない。それでも「作る期間」を聞かれると、真ん中の作業だけを答えてしまう。
とくに直す時間は、忘れられやすい。一度で通ることは、ほとんど無い。
そしてまわりへの影響は、新しく足す機能ほど見落とされる。足すだけだから何も壊れない、と思いやすい。
だから内訳は、この6つの形で出す。並べると、抜けにくくなる。
内訳は、相手が減らすためにある
ここが内訳を出すいちばんの理由である。
全体の期間だけ伝えると相手にできるのは、値切ることだけになる。「もう少し早くならないか」という話になる。
内訳があると相手が選べる。
- 「絞り込みは、後の版でよい」——項目が減る
- 「見た目は既存に合わせてよい」——作る時間が減る
- 「先に見せてもらわなくてよい」——確認の往復が減る
3つとも相手にしか決められない。こちらが勝手に省くと、あとで問題になる。
そして減らせないものも分かる。まわりへの影響を見る時間は、減らすと、あとで返ってくる。
内訳を出すと「どこを削るか」の話になる。全体を値切る話にならない。
これは、こちらにとっても楽である。削った理由が、相手の判断として残る。
見積もりの例
注文履歴の一覧機能 期間の見積もり(暫定)
先に、前提を置きました
いくつか決まっていない点がありましたので、こちらで仮に置いています。違っていましたらお知らせください。期間も変わります。
- 見るのは、注文した本人(ご自分の注文だけ)
- 表示するのは直近1年分
- 絞り込みは無し(新しい順に並べるだけ)
- 画面の見た目は既存に合わせる
- 書き出しの機能は無し
期間:8日〜12日
幅があるのは、確認の往復が何回になるかと、既存への影響がどれだけ出るかが、いまは読めないためです。
内訳
作業 日数 備考 どう作るかを決める 1日 画面の項目、並び順 確認していただく 1日 作る前に、認識合わせ 画面を作る 3日 — 試す(項目づくりを含む) 2日 — 直す 1〜3日 ご指摘の数によります 既存への影響を見る 1日 注文の登録・変更に影響が出ないか 反映する 1日 — 画面を作る作業は、全体の一部です。「作る期間」としてお答えすると3日ですが、お使いいただける状態までは、上のとおりになります。
減らせるところ/減らさないほうがよいところ
減らせます
- 確認していただく工程——省けば1日短くなります。ただし、あとで作り直しになる可能性が上がります
- 直近1年分を、直近3か月分に——件数が減り、試す作業が軽くなります
減らさないほうがよいところ
- 既存への影響を見る工程——新しく足すだけなので何も壊れない、と思われがちですが、ここを省くと、あとで別の場所の不具合として返ってきます
前提が変わる場合
「店側が、全員分を見る」のであれば、この見積もりは使えません。件数がまったく違い、絞り込みも要るためです。あらためてお出しします。
まず、見るのがどなたかだけ、教えていただけますでしょうか。
前提を、いちばん上に置いた。期間より先である。数字を先に見せると、前提は読まれない。
幅の理由を書いた。「8日〜12日」だけだと、なぜ幅があるのかが分からない。
内訳の表で「画面を作る」を強調した。そこだけが作業ではないと示すためである。
減らせるところと、減らさないほうがよいところを分けた。減らせるほうにも、代償を書いている。
最後は質問1つにした。前提が5つあっても、いちばん効くのは1つである。
作り方の手順
- 数字1つで答えない。約束として残る。
- 見積もる前に、範囲を確かめる。
- 「誰が見るか」を、いちばんに聞く。
- 決まるまで待たない。仮に置いて、前提として書く。
- 前提を、期間より先に置く。
- 作る時間の周りを数える。6つの作業。
- 直す時間を入れる。一度で通ることはない。
- 幅の理由を書く。
- 減らせるところと、減らさないほうがよいところを分ける。
- 最後の質問は1つにする。
この場面で効いている基本情報の知識
- 工数見積もり——作る時間だけでは、実際の期間にならない
- 工程——設計・確認・作成・試験・修正・影響確認・反映
- 前提条件——見積もりを変える条件を、先に書いておく
- 影響範囲の確認——足すだけでも、既存に影響が出ることがある
知識そのものより、内訳を「相手が減らすためのもの」として出せることが、この場面で効いている。
見積もりで外したくないポイント
- ざっくり答えたことも、正確に記憶される。
- 幅・内訳・前提をそろえる。
- 見積もる前に、範囲を確かめる。
- 「誰が見るか」で、作るものが変わる。
- 決まるまで待たない。仮に置いて前提に書く。
- 前提を、期間より先に置く。
- 抜けるのは、作る時間の周り。
- 直す時間を入れる。一度で通ることはない。
- 内訳は、相手が減らすためにある。
- 減らさないほうがよいところも書く。