【基本情報の実務】不具合の一次対応──直すことと、困っている人を助けることは別の作業
サポート担当のもとに、会員ページにログインできないという利用者からの報告が届く。
「昨日まで使えていた会員ページに、今日からログインできなくなりました。ボタンを押しても画面がそのままで、先に進めません。とても困っています。どうすればいいでしょうか」
基本情報の知識がここで力になるのは、2つの作業を分けられたときだ。不具合を直すことと、いま困っているこの方を先に進ませることは、別の作業である。直るまで待ってもらう、が唯一の答えとは限らない。この記事では、そこから整理する。
まず結論:原因より先に、範囲を決める
| 先に知りたいこと | 分かると、何が変わるか |
|---|---|
| この方だけか、全員か | 対応の重さが決まる |
| いつからか | 直前の変更に、当たりが付く |
| 画面に何か出ているか | 調べる場所が絞れる |
報告を受けてすぐ原因を探し始めたくなる。順番としては、その手前がある。
この方だけなら、その方の状況を一緒に見ていく形になる。全員なら、個別の対応より、まず止血と周知になる。
同じ症状でも、やることが変わる。だから範囲が最初である。
そして範囲はこちらでも調べられる。ほかに同じ報告が来ていないか、記録に同じ失敗が並んでいないか——相手に聞く前に、分かることがある。
報告の中の、事実と推測を分ける
利用者からの報告はそのまま事実として扱わない。疑うという意味ではない。見えていることと、そこから考えたことが、混ざっているのが自然だからである。
この報告を分けると、こうなる。
- 「ボタンを押しても画面がそのまま」——見えていること
- 「昨日まで使えていた」——見えていること(ただし昨日と今日の間は分からない)
- 「ログインできない」——そう見えるもの。実際にはログインは通っていて、次の画面が出ていないこともある
3つ目が大事である。「ログインできない」という言葉に引かれると、ログインの仕組みだけを調べることになる。
だから症状を、動作の形で言い直す。「ボタンを押すと、画面が変わらない」——ここまで戻すと、調べる先が広がる。
これは相手に言い直させるのではない。こちらが受け取り方を変えるだけである。
聞き返しは、詰問にしない
範囲と手がかりを得るには聞き返すことになる。ここで相手の負担が増える。
困っていると書いている人に、質問を返す形になるので、書き方で印象が変わる。
効くのは3つである。
- 先に受け止める——「ご不便をおかけしています」を、質問より前に置く
- なぜ聞くのかを添える——「同じことが他の方にも起きているかを確かめたい」
- 数を絞る——3つまで。多いと返信が来なくなる
そして分からなければ「分からない」で構わないと書いておく。全部埋めないと送れないと思わせない。
聞き返しの目的は、情報を集めることではなく、返信が来ることである。返ってこなければ、何も進まない。
原因が分からなくても、約束できることがある
一次対応の返信でいちばん避けたいのが「調査中です」で終わることである。
受け取った側はいつ次の連絡が来るか分からないまま待つ。待つ時間より、見通しが無いことのほうがつらい。
原因は約束できないが、次の連絡は約束できる。
「本日◯時までに、分かったことをお知らせします」——分かっていなくても、その時点で「まだ分かっていません」と連絡する。
これで相手は待てる。そして、こちらも守れる。直すことは約束していないので、破りようがない。
あわせて先に進む道を探す。ほかの経路で入れないか、やりたかったことを、こちらで代わりにできないか。
この方の用事は、ログインすることではない。ログインした先で、何かをしたかったはずである。そこを聞くと、直る前に片づくことがある。
返信文の例
会員ページにログインできない件について
ご連絡ありがとうございます。ご不便をおかけしております。
いただいた内容を確認しております。本日15時までに、分かったことをお知らせします。その時点でまだ調査中の場合も、その旨をご連絡します。
お手数ですが、3点だけ教えていただけますでしょうか
同じことが他の方にも起きているかを確かめたく、うかがいます。分かる範囲で構いません。
- ボタンを押したとき、画面に何か文字が出ていますか。(何も出ない、でも構いません)
- お使いの端末を、最近変えられましたか。(買い替え、更新など)
- ほかの端末をお持ちでしたら、そちらでも同じでしょうか。
3つとも分からない場合は、そのままご返信いただければ大丈夫です。
お急ぎのご用件がありましたら
会員ページでなさりたかったことを教えていただけましたら、こちらで代わりにお手続きできる場合があります。
ログインが直るのを待たずに済むかもしれませんので、よろしければお知らせください。
現在の状況
同じご報告が他の方から届いていないかを、あわせて確認しております。もし多くの方に起きている場合は、会員ページにお知らせを掲示します。
引き続き確認いたします。
受け止めを、質問より前に置いた。質問から始まる返信は、たらい回しに見える。
次の連絡の時刻を、2行目で約束した。いちばん早い位置である。
そして「まだ調査中の場合も、その旨を連絡します」と書いた。約束が守れる形になっている。
質問は3つ、「分かる範囲で」「分からない場合はそのまま返信で大丈夫」を添えた。返信が来ることを優先している。
「なさりたかったこと」を聞いたのが、この返信の中心である。直す前に、用事が片づくことがある。
最後にこちらでも調べていることを書いた。相手の返信を待っているだけではないと伝わる。
作り方の手順
- 直すことと、この方を助けることを分ける。
- 範囲を先に決める。この方だけか、全員か。
- こちらで調べられることを先に見る。他の報告、記録。
- 報告の中の事実と推測を分ける。
- 症状を、動作の形で言い直す。調べる先が広がる。
- 受け止めを、質問より前に置く。
- 質問は3つまで。返信が来ることを優先する。
- 次の連絡時刻を約束する。原因は約束しない。
- 用事を聞く。直る前に片づくことがある。
- こちらでも調べていると書く。
この場面で効いている基本情報の知識
- 障害の切り分け——範囲(一人か全体か)を先に決める
- 症状と原因——「ログインできない」は症状であり、原因ではない
- 再現条件——端末・時刻・直前の変更が手がかりになる
- 暫定対応と恒久対応——直す前に、用事を片づける道がある
知識そのものより、直すことと、困っている人を助けることを分けて動けることが、この場面で効いている。
一次対応で外したくないポイント
- 原因より先に、範囲。同じ症状でもやることが変わる。
- 相手に聞く前に、こちらで分かることがある。
- 報告には事実と推測が混ざる。疑うのとは違う。
- 「ログインできない」に引かれない。動作の形に戻す。
- 受け止めを質問より前に置く。
- 質問は3つまで。多いと返信が来ない。
- 「分からないままで構わない」と書く。
- 次の連絡時刻を約束する。原因は約束しない。
- 「まだ分かっていません」も連絡すると書いておく。
- 用事を聞く。直る前に片づくことがある。