【基本情報の実務】バックアップ方針──取るのが軽い方式は、戻すのが重い
星詠みの天文台の管理者から、バックアップ方針の相談が届く。
「毎夜の観測記録を1台の記録装置に貯めているのですが、もし装置が壊れたらすべて失われてしまいます。バックアップを取りたいのですが、どれくらいの頻度で、どこに保管すればよいか方針を提案してもらえますか。復元のしやすさも気になります。」
基本情報の知識がここで力になるのは、3つの問いが、それぞれ別のところから決まると分かったときだ。頻度はデータの性質から、方式は復元の要望から、保管場所は失い方から決まる。まとめて「こうしましょう」とは決められない。この記事では、1つずつ整理する。
まず結論:3つは、別々の根拠から決まる
| 決めること | 何から決まるか |
|---|---|
| 頻度 | 失ったとき、取り直せるか |
| 方式 | どう戻したいか |
| 保管場所 | どんな失い方を想定するか |
この3つをまとめて考えると決まらない。根拠が違うためである。
「毎晩、別の場所に、全部取る」——いちばん安全だが、いちばん重い。そして、その重さが必要かどうかは、まだ分かっていない。
だから1つずつ、根拠から決める。結果として軽くなることが多い。
頻度は「取り直せるか」で決まる
頻度を決めるとき「どれくらい大事か」で考えると決まらない。大事に決まっているからである。
効くのは「失ったとき、取り直せるか」という問いである。
- 取り直せる——手間はかかるが、もう一度作れる。失ってよい時間で決める
- 取り直せない——二度と手に入らない。作られた時点で守る
観測記録は後者である。その夜の空は、二度と同じにならない。1夜ぶん失うと、埋めようがない。
だから毎夜、観測が終わった時点で取る。週に一度では、最大で7夜ぶんを失う形になる。
これは事務のデータとは違う扱いである。入力し直せるものなら、失ってよい時間から決めればよい。
同じ「大事」でも、取り直せるかどうかで、答えが変わる。
方式は、取得と復元でつり合っている
方式は大きく3つある。どれが良いというより、重さがどちらに寄るかの違いである。
| 方式 | 毎回の取得 | 戻すとき |
|---|---|---|
| 全部取る | 重い | 1つ戻せば終わり |
| 前回の「全部」からの変更分 | だんだん重くなる | 全部+最新の1つ |
| 前回のバックアップからの変更分 | いつも軽い | 全部+その後の全部 |
取るのが軽い方式ほど、戻すのが重い。ここが入れ替わっていることを、方針に書いておく。
いちばん下の方式は毎回の取得がいちばん軽い。ただし戻すときは順番に、全部を積み重ねることになる。途中の1つが読めないと、その先が戻らない。
この弱さは知らずに選ぶと困る。知って選ぶなら、対処ができる——ときどき「全部取る」を挟む、という形である。
そして観測記録には、有利な性質がある。過去の記録は書き換わらない。毎夜、新しい分が積まれるだけである。
この形だと変更分=その夜の分になる。毎回の取得が軽く、そのうえ中身も分かりやすい。
データの性質が、方式を決めている。
保管場所は「失い方」から決める
相談には「装置が壊れたら」とある。想定している失い方が、書かれている。
これに効くのは別の装置に置くことである。同じ装置の中に複製しても、装置ごと壊れたら両方失う。
複製と保管は、別のことである。同じ場所にある複製は、保管ではない。
そのうえで失い方をもう一段広げるかを確かめる。
- 装置の故障——別の装置に置けば足りる
- 建物ごとの被害——離れた場所が要る
- 誤って消した——古い版が残っていることが要る
3つ目は場所の話ではない。いつの分を、いくつ残しておくかの話である。
だから保管場所を決めるときに、世代の数も一緒に決める。片方だけでは、誤って消した場合に効かない。
「復元のしやすさ」の中身
相談の最後にある「復元のしやすさ」は、分けると3つになる。
①手順が書いてあるか
戻すのはたいてい、慌てているときである。そのときに手順を考えない。取る手順ではなく、戻す手順を書いておく。
②どれくらい時間がかかるか
戻すのに3日かかるなら、3日止まってよい場合にしか使えない。一度測っておくと、方式を選び直す材料になる。
③一部だけ戻せるか
これがいちばん見落とされる。実際に多い要望は「あの夜の分だけ戻したい」である。
全体を丸ごと戻す形しか用意していないと、これができない。直したい1晩のために、全部を書き戻すことになる。
観測記録のように夜ごとに分かれているデータなら、夜ごとに取り出せる形にしておける。方式を決めるときに、ここまで見ておく。
方針の例
観測記録のバックアップ方針(案)
1. 頻度:毎夜、観測終了時
観測記録は取り直せないデータです。その夜の空は二度と同じになりませんので、失った分を埋める方法がありません。
ですので作られた時点で守る形にします。週に一度では、最大で7夜ぶんを失うことになります。
2. 方式:その夜の分だけを取る(月に一度、全部を取る)
観測記録は過去の分が書き換わりません。毎夜、新しい分が積まれるだけです。
この性質から、毎夜はその夜の分だけを取ります。取得は軽く済みます。
ただしこの方式は、戻すときに順番に積み重ねることになります。途中の1つが読めないと、その先が戻りません。
そこで月に一度、全部を取る回を挟みます。積み重ねる数を、ひと月ぶんまでに抑えるためです。
3. 保管場所:別の装置に置き、さらに離れた場所へ
ご心配の「装置が壊れたら」に対しては、別の装置に置くことで足ります。同じ装置の中に複製しても、装置ごと壊れると両方失います。
そのうえで、建物ごとの被害まで想定されるかをお聞かせください。想定される場合は、離れた場所にもう1つ置きます。
4. 世代:3か月ぶんを残す
誤って消した場合は、場所を分けても戻りません。古い版が残っていることが必要です。
気づくまでの時間を考えて、3か月ぶんを残すことをご提案します。どれくらいで気づけそうかによって、増減します。
5. 復元について
- 戻す手順を、紙でも残します。戻すのは慌てているときなので、その場で考えずに済むようにします。
- 戻すのにかかる時間を、一度測ります。3日かかるなら、3日止まってよい場合にしか使えません。
- 夜ごとに取り出せる形にします。「あの夜の分だけ戻したい」が実際にはいちばん多いご要望です。全体を丸ごと戻す形しか無いと、1晩のために全部を書き戻すことになります。
6. 確認
年に一度、実際に戻してみます。取れていることと、戻せることは別で、戻せないと分かるのはたいてい失ったあとです。
1〜4を、それぞれ根拠から書いた。「安全のため」でまとめていない。
方式のところで弱さを自分から書いた。そして対処もセットにした。弱さだけ書くと、選べなくなる。
保管場所は質問を残した。建物ごとの被害を想定するかは、こちらでは決められない。
復元の3つ目に「実際にはいちばん多いご要望」と添えた。なぜそこまで見るのかが伝わる。
作り方の手順
- 頻度・方式・保管を、分けて考える。根拠が違う。
- 頻度は「取り直せるか」で決める。
- 取り直せないなら、作られた時点で守る。
- 方式は、取得と復元でつり合っていると示す。
- データの性質を見る。書き換わるか、積まれるだけか。
- 弱さと対処をセットで書く。
- 保管場所は、失い方から決める。
- 複製と保管は別だと書く。
- 世代の数も、一緒に決める。
- 復元を3つに分ける。手順・時間・一部だけ。
この場面で効いている基本情報の知識
- バックアップの頻度——失ってよい範囲から決まる
- 全部取る/変更分だけ取る——取得の軽さと復元の重さが入れ替わる
- 世代管理——場所を分けても、誤削除には効かない
- 復旧テスト——取れていることと、戻せることは別
知識そのものより、3つの問いを、別々の根拠から決められることが、この場面で効いている。
方針で外したくないポイント
- 頻度・方式・保管は、根拠が違う。まとめて決めない。
- 頻度は「取り直せるか」。「大事か」では決まらない。
- 取り直せないデータは、作られた時点で守る。
- 取るのが軽い方式ほど、戻すのが重い。
- 積み重ねる方式は、途中が読めないと先が戻らない。
- ときどき「全部取る」を挟むと、積み重ねが抑えられる。
- 書き換わらないデータには、変更分だけの方式が合う。
- 同じ場所にある複製は、保管ではない。
- 誤って消した場合は、世代でしか戻らない。
- 「一部だけ戻せるか」を、方式を決めるときに見る。