【ITパスポートの実務】更新の呼びかけ文──「あとで」の理由を、3つとも潰す
情報システム室の担当者から、社内向けの呼びかけ文の相談が届く。
「更新の通知が出ているけれど、あとで、と後回しにしている、という声を社内でよく聞きます。ソフトの更新(アップデート)を先延ばしにすると安全上の弱点が残ってしまうので、更新をお願いする呼びかけ文を作りたいのですが、相手を責めずに前向きに読んでもらうには、どう書けばいいでしょうか?」
ITパスポートの知識がここで力になるのは、「あとで」と押されている理由のほうを見たときだ。更新の大切さを知らないから後回しにしている、のではない。知っていても押せない事情がある。この記事では、そこから整理する。
まず結論:「あとで」には3つの理由がある
| 押せない理由 | 呼びかけ文で答えること |
|---|---|
| いま作業中 | いつ始めればよいかを、こちらから指定する |
| どれくらいかかるか分からない | おおよその時間を書く |
| 使い方が変わったら困る | 変わったときの聞き先を書く |
更新の通知は都合を見て出てくれない。必ず、何かをしている最中に出る。
そこで「あとで」を押すのは、正しいふるまいである。目の前の仕事を止めないほうを選んでいる。
問題はその「あとで」がいつなのかが、決まっていないことである。
だから呼びかけ文の仕事は「更新してください」と頼むことではない。「いつやるか」を、こちらから渡すことである。
お願いの回数を増やしても、この3つは残る。3つとも潰しにいく。
なぜ更新が要るのかを、恐怖なしで書く
更新をお願いする文は「危険です」「被害に遭います」に寄りやすい。
この書き方には2つの困りがある。読み慣れると効かなくなることと、実際に何か起きたときに、言い出しにくくなることである。
恐怖を使わずに書ける。仕組みを説明すればよい。
更新は新しい機能を足す作業だと思われていることがあるが、多くは見つかった弱点を塞ぐ作業である。
そして塞ぐ側が修正を公開すると、どこに弱点があったのかも、分かる形になる。
つまり更新が出る前より、出たあとのほうが、その弱点は知られている。
ここを書くと「早めに」の理由が、脅しなしで立つ。急ぐ理由が、相手の落ち度ではなく、外側の事情になる。
これは読み手にとっても楽である。責められている文章は、最後まで読まれにくい。
時間を書くと、押せるようになる
どれくらいかかるか分からない——これが、思っているより大きい。
5分なら、いま押せる。30分かかるかもしれないなら、押せない。分からないと、30分のほうで身構える。
だからおおよその時間を書く。正確でなくてよい。幅で書いても、分からないよりずっと押しやすい。
そして「終わるまで待たなくてよい」形を渡す。帰る前に始める、昼休みに入る前に始める——待ち時間が、待ち時間でなくなる。
ここまで書くと「あとで」の1つ目と2つ目が、同時に片づく。いつやるかも、どれくらいかかるかも、決まっている。
「変わったら困る」に、答えを用意する
3つ目は見落とされやすいが、実際にはよくある。
更新で画面の見た目やボタンの位置が変わることがある。毎日の手順が決まっている人ほど、これが困る。
「安全のために更新を」と言われても、明日の朝、いつもの場所にボタンが無いかもしれない——そう思えば、後回しになる。
だから変わる可能性があることを、先に書く。隠して更新させると、次から警戒される。
そのうえで聞き先を書く。「見た目が変わって分からなくなったら、聞いてください」と先に言っておく。
あとから聞くのは、聞きにくい。「言われたとおりにしたら分からなくなった」という形になるためである。先に招いておくと、その形にならない。
呼びかけ文の例
ソフトの更新のお願い
「あとで」を押しておられる方へ。それで正しいです。
更新の通知は、こちらの都合を見て出てくれません。必ず何かの作業中に出ます。目の前の仕事を止めないほうを選ぶのは、当然のことだと思います。
ですので、「いつやるか」のほうをご提案します。
おすすめは、退社前です
帰り支度を始める前に更新を始めていただくと、待ち時間がそのまま帰り支度の時間になります。
昼休みに入る前でも同じです。終わるまで画面の前でお待ちいただく必要はありません。
だいたい5分から15分です
ものによって幅がありますが、多くは10分ほどで終わります。途中で止まらないよう、電源につないだ状態で始めてください。
なぜ早めがよいのか
更新は、新しい機能を足すためだけのものではありません。多くは見つかった弱点を塞ぐ作業です。
そして、修正が公開されると、どこに弱点があったのかも分かる形になります。
つまり更新が出る前より、出たあとのほうが、その弱点は知られている状態です。早めをおすすめしているのは、この理由です。
見た目が変わることがあります
更新でボタンの位置や画面の見た目が変わることがあります。毎日の手順が決まっている方ほど、戸惑われると思います。
分からなくなったら、◯◯までお声がけください。一緒に探します。
先にお伝えしておきます。あとからだと聞きにくいと思いますので。
まとめ
- 退社前か、昼休み前に始める
- 電源につないでおく
- 待たずに、そのまま席を立ってよい
- 見た目が変わったら、◯◯へ
すでに済ませていただいている方は、そのままで大丈夫です。ありがとうございます。
「それで正しいです」から始めた。相手のふるまいを、まず肯定している。
これは言い方の工夫ではない。実際に正しい。作業中に更新を始めるほうが困る。
時間を幅で書いた。正確さより、分かることのほうが効く。
「待たずに席を立ってよい」を明記した。ここが、いちばん押しやすくなる一文である。
理由は仕組みで書いた。危険です、を使っていない。
最後に済ませた人への一言を置いた。全員宛の文書は、やった人にも届く。
作り方の手順
- やらない理由を先に並べる。怠慢として扱わない。
- この案件では3つ。作業中・所要時間・変わる不安。
- 相手のふるまいを肯定してから始める。
- 「いつやるか」を、こちらから渡す。
- 時間を書く。幅でよい。
- 待たなくてよい形を作る。退社前・昼休み前。
- 理由を仕組みで書く。恐怖を使わない。
- 変わる可能性を先に書く。隠して更新させない。
- 聞き先を先に招く。あとからは聞きにくい。
- 済ませた人にも一言。全員宛の文書だから。
この場面で効いているITパスポートの知識
- ソフトウェア更新——多くは、見つかった弱点を塞ぐ作業
- 脆弱性——修正が公開されると、弱点の場所も分かる形になる
- 運用の定着——お願いの回数より、やる時刻が決まっているか
- 変更の周知——見た目が変わることを、先に伝える
知識そのものより、「あとで」の理由を3つに分けて、全部に答えを置けることが、この場面で効いている。
呼びかけで外したくないポイント
- 「あとで」は正しいふるまい。作業中に始めるほうが困る。
- 頼むのではなく、いつやるかを渡す。
- 所要時間を書く。分からないと、長いほうで身構える。
- 待たなくてよい形にする。退社前・昼休み前。
- 電源につないでおくなど、失敗しない条件も書く。
- 理由は仕組みで。危険です、を使わない。
- 修正が出ると弱点の場所も分かる。だから早めがよい。
- 見た目が変わることを先に書く。隠さない。
- 聞き先を先に招く。あとからは聞きにくい。
- 済ませた人にも一言を添える。