【ITパスポートの実務】SLAは「止まらない約束」ではない──社内説明の組み立て方
情報システム室の担当から、社内説明の相談が届く。
「新しく契約したクラウドサービスの資料に『SLA』という言葉が出てくるのですが、意味が分かりにくいという声が各部門から上がっています。SLAが何を約束してくれるものなのか、はじめての人にも伝わるように説明文を作りたいんです。専門用語はできるだけ言い換えたくて。どうまとめればいいでしょうか?」
ITパスポートの知識がここで力になるのは、言葉を言い換える前に、誤解を1つ外せたときだ。SLAは「止まらないことの約束」だと受け取られやすい。実際には、ほぼ逆のことを決めている。この記事では、そこから整理する。
まず結論:決めているのは「止まってよい範囲」
| 受け取られやすい読み | 実際に書いてあること |
|---|---|
| 止まりません | ここまでは止まってよい、と決めている |
| 止まったら補償されます | 返ってくるのは、たいてい利用料の一部 |
| ずっと動いている前提 | 数えない停止がある(計画停止など) |
3つとも期待していたほうが良い内容である。だから先に外しておく。
あとで止まったときに知るのがいちばん困る。「約束が違う」という話になり、そこから説明を始めることになる。
説明文の役目は不安を鎮めることではない。止まったときに、想定どおりだと分かる状態にしておくことである。
割合を、時間に直す
稼働率99.9%と書かれていても、高いのか低いのかが分からない。9が並んでいるので、ほぼ止まらないように読める。
そこで時間に直す。1年は365日で8,760時間、そのうち0.1%が止まってよい分になる。
| 稼働率 | 年間で止まってよい時間 | 1か月あたり |
|---|---|---|
| 99.9% | 約8.8時間 | 約43分 |
| 99.5% | 約43.8時間 | 約3.6時間 |
| 99.0% | 約87.6時間 | 約7.3時間 |
99.9%と99.0%は、並べると似て見える。時間に直すと10倍違う。
説明文ではこの表を出す。割合のままだと、比べられない。
そして一日まるごと止まる形とは限らない。短い停止が何回か、という形もある——ここも一言添えておく。
数えない停止がある
SLAを読むときにいちばん見落とされるのが、ここである。
すべての停止が、稼働率に数えられるわけではない。多くのサービスであらかじめ知らせたうえでの計画的な停止は、数えない扱いになっている。
ほかにもこちら側の回線や機器が原因の場合、自然災害など事業者の手の届かない事情が、数えない側に置かれていることがある。
だから「99.9%だから、年に8.8時間しか止まらない」とは言えない。正しくは「数える停止が、年に8.8時間まで」である。
この「何を数えないか」は、サービスによって違う。数字より先に、そこを読む。
説明文でも数字だけを載せない。数字と、数えない範囲は、対で意味を持つ。
返ってくるものと、困る額は別
もう1つ、先に伝えておきたいことがある。
約束を下回ったときに返ってくるのは、多くの場合その期間の利用料の一部である。止まったことでこちらに生じた損失とは、別の話になっている。
ここを先に言っておかないと、止まったときに二重に落胆する。止まったことと、思ったほど返ってこないことの両方が来る。
そのうえでSLAの値打ちは、返金額ではないと説明する。
値打ちは基準があることのほうにある。「これは約束の範囲内か、外か」が、話し合わずに決まる。止まったときに、そこから議論しなくてよい。
だから「SLAがあるから安心」ではなく「SLAがあるから、止まったときの話が早い」と書く。
各部門に、先に決めてもらうこと
ここが説明文をただの用語解説で終わらせないところである。
99.9%が十分かどうかは、サービスの側では決まらない。その部門の仕事が、何時間止まると困るかで決まる。
- 月末の数日だけ使う——その数日に当たらなければ、年に8.8時間でも困らない
- 一日中これで受注している——40分でも、その間の注文が止まる
同じ数字が部門によって、十分にも不足にもなる。
だから説明文の最後はお願いで締める。「何時間止まると、どう困るかを教えてください」である。
これが集まると次の契約のときに、必要な水準を根拠つきで選べる。今回の説明が、次の交渉の材料になる。
説明文の例
「SLA」について(社内向けのご説明)
新しいサービスの資料に出てくるSLAについて、分かりにくいというお声をいただきました。ご説明します。
ひとことで言うと
SLAは、サービスの品質について、事業者と交わしている約束です。
「止まりません」という約束ではありません。「ここまでは止まってよい」という範囲を決めたものです。ここが、いちばん誤解されやすいところです。
「稼働率99.9%」を、時間に直すと
9が並んでいるので、ほとんど止まらないように読めます。時間にするとこうなります。
稼働率 1年で止まってよい時間 1か月あたり 99.9% 約8.8時間 約43分 99.5% 約43.8時間 約3.6時間 99.0% 約87.6時間 約7.3時間 99.9%と99.0%は、並べると似て見えますが、時間では10倍違います。
なおまとめて止まるとは限りません。短い停止が何回か、という形もあります。
数えない停止があります
すべての停止が、この時間に数えられるわけではありません。あらかじめお知らせしたうえでの計画的な停止は、多くの場合、数えない扱いです。
ですので正確には「数える停止が、年に約8.8時間まで」となります。何を数えないかはサービスによって違いますので、数字と合わせてご確認ください。
約束を下回ったとき
返ってくるのは、多くの場合その期間の利用料の一部です。止まったことで生じた業務上の損失とは、別のものとお考えください。
先にお伝えしておきます。止まったときに、そこも一緒に知ると、二重に落胆することになりますので。
では、SLAの値打ちはどこにあるか
基準があることです。
止まったときに「これは約束の範囲内か、外か」が話し合わずに決まります。そこから議論せずに済むので、復旧と、次の手の相談に進めます。
安心のための約束というより、話を早くするための約束とお考えいただくと、近いと思います。
各部門へのお願い
99.9%で足りるかどうかは、サービスの側では決まりません。みなさんの仕事が、何時間止まると困るかで決まります。
月末の数日だけお使いの部門と、一日中これで受注している部門とでは、同じ数字が十分にも不足にもなります。
「何時間止まると、どう困るか」を、◯◯まで一行でお寄せください。
集まったものは、次の契約で必要な水準を決めるときの根拠になります。
誤解を外すことを、言い換えより先に置いた。言葉が分かっても、中身を取り違えていると意味がない。
割合を時間に直した。3つ並べたのは、比べる相手がないと高いか低いか分からないためである。
「二重に落胆する」と正直に書いた。あとで知るより、いま知るほうが軽い。
そのうえで値打ちを言い直した。期待を下げただけで終えない。
最後はお願いである。読んで終わる文書にせず、返ってくるものを作った。
作り方の手順
- 誤解を先に特定する。言い換えは、そのあと。
- 「止まらない約束ではない」を最初に置く。
- 割合を時間に直す。数字のままでは比べられない。
- 複数並べる。1つだけでは高低が分からない。
- まとめて止まるとは限らないと添える。
- 数えない停止を書く。数字と対で意味を持つ。
- 返ってくるものと、困る額は別だと先に言う。
- 値打ちを言い直す。基準があること。話が早くなること。
- 十分かどうかは部門で決まると示す。
- お願いで締める。次の契約の根拠になる。
この場面で効いているITパスポートの知識
- SLA——サービスの品質についての約束。範囲を決めている
- 稼働率——割合を時間に直すと、比べられる
- 対象外の範囲——計画停止など、数えない停止がある
- 返金の考え方——利用料の一部であり、損失の補償とは別
知識そのものより、誤解を外してから言い換えに進めることが、この場面で効いている。
説明で外したくないポイント
- SLAは「止まらない約束」ではない。範囲を決めている。
- 誤解を外すのが先。用語の言い換えはそのあと。
- 割合を時間に直す。99.9%と99.0%は10倍違う。
- 複数並べる。比べる相手がないと判断できない。
- 数えない停止がある。計画停止など。
- 「数える停止が、年に約8.8時間まで」が正確な言い方。
- 返ってくるのは利用料の一部。損失の補償とは別。
- 先に言っておく。あとで知ると二重に落胆する。
- 値打ちは、話が早くなること。安心ではない。
- 十分かどうかは部門が決める。お願いで締める。