【ITパスポートの実務】生成AIを仕事で使うときの注意は?──「入れる側」と「出た側」で分ける
情報管理部の担当として、社内案内の作成を頼まれた。
「文章の下書きや要約に生成AIを使う人が増えてきました。便利な一方、気をつけたい点もあります。上手に活用するための注意を案内する文章の本文を作成してください。機密情報を入力しない、回答を確かめる、最終判断と責任は人・会社側、といった点をふまえて。禁止ではなく上手に付き合う前向きな案内にしてください。」
ITパスポートの知識がここで力になるのは、注意点を「入れる側」と「出た側」に分けられたときだ。この2つは気をつける理由がまったく違うので、混ぜると案内文が長くなり、どちらも守られない。この記事では、その分け方から整理する。
まず結論:気をつける場所は2つしかない
| 何を気にするか | 理由 | |
|---|---|---|
| 入れる側 | 何を入力するか | 手元から出ていくから |
| 出た側 | 出てきたものをどう扱うか | 正しいとは限らないから |
注意点を並べると多く見えるが、実は2か所しかない。入れるときと、出てきたときである。
そして理由がまったく違う。入れる側は情報が手元から出ていくことが問題で、出た側は内容が正しいとは限らないことが問題である。
混ぜて書くと「気をつけましょう」の羅列になる。分けると、それぞれ2〜3行で済む。
依頼者が挙げていらっしゃる3点も、この2つに収まる。機密情報を入力しない=入れる側、回答を確かめる=出た側、最終判断と責任は人・会社側=出た側である。
入れる側——手元から出ていく、という一点
入力した内容は自社の外に出ていく。これが唯一にして最大の理由である。
サービスによっては入力した内容が学習に使われることがある。使われない設定や契約もあるが、設定と契約の内容を確かめないと分からない。
だから案内文では「出ていく前提で考えてください」とする。「学習に使われるかどうか」を各人に判断させない。
入れてはいけないものを具体的に挙げる。
- お客様の個人情報——名前、連絡先、申込内容
- 社内の機密——未公表の計画、価格、取引先との条件
- 他社から預かった情報——秘密保持の約束があるもの
- 社内のログイン情報
「機密情報」とだけ書かない。何が機密かの判断を各人に任せることになるので、具体的な種類で挙げる。
個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱つてはならない。(個人情報の保護に関する法律18条1項)
個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。(同法23条)
お客様の情報を入力する場面は、この2つに関わる。
18条1項は特定された利用目的の達成に必要な範囲を超える取扱いを禁じている。いただいた目的の中に「生成AIに入力する」が含まれているかという話になる。
23条は安全管理措置である。外部のサービスに入力することが、この措置に沿っているか。
案内文では条文を引かないほうがよいが、「個人情報の取り扱いのルールと同じです」と一言つなげると、すでにある社内ルールに乗る。新しいルールを増やさずに済む。
出た側——正しいとは限らない、という一点
出てきた文章はそれらしく整っている。だから確かめにくい。ここが難しさの正体である。
間違いが下手な文章の形では出てこない。自信のありそうな文章として出てくるので、読んだだけでは気づけない。
だから案内文では「確かめてください」だけでは足りない。何を確かめるかを書く。
- 数字——金額、日付、件数
- 固有の名前——会社名、商品名、人名
- 制度や規定の内容——条文や社内規定を引いているように見える部分
- 出典として挙げられているもの——実在するか
意見や言い回しは、確かめようがない。確かめるのは事実の部分である。ここを分けると、確認が現実的な量になる。
そして確かめ方も書く。元の資料に当たる、社内の担当に聞く。生成AIにもう一度聞いて確かめない——同じところから出てくる。
「責任は人の側」を、条文の形で言うと
著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
二 情報解析……の用に供する場合(著作権法30条の4)
この条文は学習の場面についてのものである。出てきたものを使う場面とは別だ。
案内文で伝えるべきは「出てきたものが、他人の権利に触れないとは限らない」ということである。そのまま公開する前に、人が見る。
とくに社外に出すもの——チラシ、ウェブの文章、お客様に送る文書——は必ず人が目を通す形にする。
依頼者がおっしゃる「最終判断と責任は人・会社側」は、ここに当たる。道具を使ったかどうかで、責任の所在は変わらない。
やさしく伝えるなら「出してよいかを決めるのは、使った人です」という形になる。これは制限ではなく、当たり前の確認である。
禁止にしない書き方
依頼者は「禁止ではなく上手に付き合う前向きな案内」を求めていらっしゃる。これは書き方の好みではなく、実務的に正しい。
理由は禁止すると、見えないところで使われるからである。便利なものは使われるので、禁止は「隠れて使う」を生む。そうなると、何が入力されたか分からなくなる。
だから使ってよい前提で、線を引く。
- 使ってよい場面を先に書く——下書き、要約、言い換え、たたき台
- 入れないものを具体的に挙げる——「機密情報」ではなく種類で
- 出たものは人が見る——とくに社外に出すもの
- 迷ったら聞く先を書く
そして「使ってよい」と明記する。書かないと、使ってよいのか分からず、聞かずに使うか、使わないかのどちらかになる。
案内文の例
生成AIの使い方について
文章の下書きや要約に生成AIを使う方が増えています。業務でお使いいただいて構いません。上手に付き合うために、気をつける場所を2つだけお伝えします。
1.入れるとき——手元から出ていくとお考えください
入力した内容は、自社の外に出ていきます。サービスによっては学習に使われることもあります。次のものは入力しないでください。
- お客様の情報(お名前・ご連絡先・お申込みの内容)
- 社内の未公表の情報(計画、価格、取引先との条件)
- 他社からお預かりしている情報
- ログイン情報
これは個人情報の取り扱いルールと同じ考え方です。判断に迷うものは、入れる前にご相談ください。
2.出てきたとき——事実の部分を確かめてください
出てくる文章はそれらしく整っています。間違いも、自信のありそうな文章として出てきますので、読んだだけでは気づけません。
確かめるのは、次の4つです。
- 数字(金額・日付・件数)
- 固有の名前(会社名・商品名・人名)
- 制度や規定の内容
- 出典として挙げられているもの(実在するか)
言い回しや構成は、そのままお使いいただいて構いません。確かめるのは事実の部分だけです。
確かめるときは元の資料に当たるか、社内の担当にお尋ねください。生成AIにもう一度聞いて確かめる形は、同じところから出てくるので確認になりません。
社外に出すもの——チラシ、ウェブの文章、お客様への文書——は、公開の前に必ずどなたかが目を通してください。
使ってよい場面
下書き、要約、言い換え、たたき台づくり。考えを整理する道具として、どんどんお使いください。迷ったときは
「これは入れてよいか」「これはこのまま出してよいか」——迷ったら、その場で決めずにご相談ください。◯◯までお願いします。
「使ってよい」を先に書いている。禁止の文書に見えない形にした。
そして気をつける場所は2つだけと宣言してから入っている。読む人が構えずに済む。
入れないものは種類で挙げ、確かめるものは4つに絞った。「機密情報」「よく確認する」で終わらせていない。
そして「言い回しや構成はそのまま使ってよい」と書いた。確認の範囲を狭めると、実際に確認される。全部確かめてくださいと言うと、誰も確かめない。
作り方の手順
- 実際にどう使われているかを聞く。下書きか、要約か、調べものか。
- 2つに分ける。入れる側と、出た側。
- 入れないものを種類で挙げる。「機密情報」で終わらせない。
- 既存のルールにつなぐ(個情法18条・23条)。新しいルールを増やさない。
- 確かめるものを絞る。事実の部分だけ。
- 確かめ方を書く。生成AIに聞き返さない。
- 社外に出すものは人が見ると明記する。
- 使ってよい場面を先に書く。禁止の文書にしない。
- 迷ったときの相談先を書く。
- 使い方が変われば直す。1度で完成させない。
1が抜けると、実際には起きていないことに注意を書くことになる。使っている人に聞くのが早い。
4も大事である。生成AI専用のルールを一から作らない。「個人情報の扱いと同じ」とつなげば、すでに知っていることの応用になる。新しく覚えることが減る。
10は、この分野ではとくに効く。使われ方が変わるのが速いので、作り込まずに、直せる形にしておく。
この場面で効いているITパスポートの知識
- 入力データの取り扱い——外部サービスに渡ること、学習に使われうること
- 個人情報の利用目的による制限(個情法18条1項)と安全管理措置(同法23条)
- 情報解析のための利用(著作権法30条の4第2号)——学習の場面の規定であること
- 出力の確認——事実と表現を分けて、事実だけ確かめる
- 責任の所在——道具を使っても、出すかどうかを決めるのは人
知識そのものより、注意点を2か所に整理して、既存のルールにつなげられることが、この場面で効いている。
案内で外したくないポイント
- 気をつける場所は2つ。入れる側と出た側で、理由が違う。
- 入れる側は「手元から出ていく」の一点。学習の可否を各人に判断させない。
- 入れないものは種類で挙げる。「機密情報」では判断が各人任せになる。
- 既存の個人情報のルールにつなぐ(個情法18条・23条)。
- 出た側は「正しいとは限らない」の一点。それらしく整っているから気づけない。
- 確かめるのは事実の部分だけ。数字・固有名・制度・出典。
- 生成AIに聞き返して確かめない。同じところから出てくる。
- 社外に出すものは人が見る。責任の所在は道具で変わらない。
- 禁止にしない。禁止は「隠れて使う」を生み、何が入力されたか分からなくなる。
- 「使ってよい」と明記する。書かないと、聞かずに使うか使わないかになる。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 個人情報の保護に関する法律18条1項 | 利用目的による制限 | 特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱わない |
| 同法23条 | 安全管理措置 | 漏えい、滅失又は毀損の防止その他必要かつ適切な措置 |
| 著作権法30条の4 | 思想又は感情の享受を目的としない利用 | 2号 情報解析の用に供する場合。ただし書で著作権者の利益を不当に害する場合を除く |