【ITパスポートの実務】RPAの提案──「向く作業か」の前に「そもそも要る作業か」
業務改善を進めるチームから、提案文の相談が届く。
「毎朝、複数のシステムから数字を集めて表に転記し、決まった形の報告書を作る作業に、担当者が一時間ほどかけています。こうしたくり返しの単純作業を、自動化する仕組み(RPA)で楽にできないか検討中です。効果と進め方を添えた提案文を書きたいのですが、あおらず現実的にまとめるにはどうすればいいでしょうか?」
「向いている作業なので、小さく始めましょう」で、方向は合っている。ITパスポートの知識がここで力になるのは、その手前で「そもそもこの作業は要るのか」を1回通したうえで提案できるときだ。この記事では、提案書の組み立てを、判断が分かれる場所ごとに整理する。
まず結論:提案は「対象を1つに決める」まで書いて提案になる
RPAは、人が画面上でしている操作を、ソフトが代わりに再現する仕組みだ。特徴は、既存のシステムを作り変えずに済むところにある。システム同士をつなぐ改修に比べて、着手が軽い。
ただ、この「軽さ」は提案書のうえでは弱点になる。何にでも当てはめられてしまうので、「便利です」で終わった提案は、読み手が判断できない。判断できる形にするには、次の4つが要る。
| 提案書に入れるもの | 中身 |
|---|---|
| ①対象 | 最初に自動化する作業を1つに決める |
| ②効果 | その1つで、何がどれだけ変わるか |
| ③体制 | 誰が作り、誰が直すか |
| ④見直す条件 | どうなったら設定を直すか、どうなったらやめるか |
③と④が抜けた提案は、通った後で止まる。理由は後で見ていく。
RPAには段階がある
RPAは、できることの範囲で3つの段階に分けて説明されることが多い。ITパスポートでもこの区分で出てくる。
| 段階 | できること | 例 |
|---|---|---|
| クラス1 | 決まった手順の定型作業を、そのまま再現する | 画面から数字を取り、表に転記し、決まった形で出力する |
| クラス2 | 一部に判断が入る作業。AIと組み合わせ、文字の読み取りやデータの分析を含む | 紙の伝票を読み取って仕分ける |
| クラス3 | より広い範囲を自律的に処理し、意思決定まで踏み込む | 状況に応じて処理の仕方を変える |
相談にある朝の報告書づくりは、クラス1にきれいに収まる。提案書では、この段階を明示しておく。「うちでもAIで何でもできるのか」という期待と、実際に入れるものの差を、最初にそろえられるからだ。
向く作業を見分ける、4つの軸
| 軸 | 向いている | 向いていない |
|---|---|---|
| 入力の形 | 画面やファイルなど、電子データで完結する | 紙・手書き・電話の聞き取りが混ざる |
| ルール | 手順が言葉で書ける | 担当者の経験で決めている部分がある |
| 例外 | 分岐が少なく、あっても数えられる | 「そのときによる」が多い |
| 量 | 頻度 × 1回の時間が大きい | 年に数回で、1回が短い |
朝の報告書づくりは、毎日という頻度があり、手順を言葉で書ける。4つとも満たす。
この4つを提案書に表のまま載せると、読み手は「なぜこの作業から始めるのか」を自分で確かめられる。次の候補が出てきたときも、同じ表で判断できる。提案書に判断の物差しを置いておくと、1回きりの提案が、続く仕組みに変わる。
分かれ目その1:RPAの前に、「やめる・減らす・つなぐ」を1回通す
ここが、提案の質がいちばん変わるところだ。自動化を検討する前に、順番に確かめる。
- やめる:その報告書は、いま誰が何のために見ているか。使われていない項目や、誰も開いていない資料が混ざっていないか。
- 減らす:毎日でなければならないか。項目を減らせないか。
- つなぐ:元のシステムに、必要な形で出力する機能はないか。CSVでの受け渡しや、システム間の連携で済まないか。
- 再現する:ここまでで残ったものを、RPAで自動化する。
この順番を通さずにRPAへ進むと、要らない作業を、速く正確に、毎朝続ける仕組みができあがる。人の手が空くので効果は出るが、本来は消せた作業が残る。
提案書には「1〜3を確認したうえで、残った部分を4で扱う」と書いておく。検討の跡が見えると、提案は通りやすくなる。あわせて、RPAは元のシステムを変えずに済む反面、システムそのものを直したことにはならない点も添えておくと、将来のシステム更改の話とぶつからない。
分かれ目その2:止まりやすい作り方と、そうでない作り方
RPAは人の操作を再現する仕組みなので、画面が変わると動かなくなることがある。ここは提案の段階で触れておきたい。
| 作り方 | どう指定するか | 変化への強さ |
|---|---|---|
| 画面の位置で指定 | 「画面の左から○番目をクリック」 | ボタンの位置がずれると止まる |
| 画面の要素で指定 | 「『検索』という名前の項目」 | 配置が変わっても動きやすい |
| データで受け取る | ファイルやシステム間の連携で直接受け取る | 画面の変化を受けない |
止まる原因は、社内の都合だけではない。使っているソフトの更新でも画面は変わる。つまり「作って終わり」にならない。だから提案書の③体制と④見直す条件が要る。
ここで効くのは、作った人が異動したらどうするかまで書いておくことだ。作った本人しか直せない状態は、手作業に戻ったときに誰も気づけない状態と同じになる。手順書の置き場所と、直す担当を提案書に書く。1行で足りる。
止まったときの決め方も、先に書く
自動化は「うまくいく道」だけを設計すると、例外に当たった日に止まったまま気づかれない。次の3つを決めておく。
- 気づける:異常終了したときに、誰に通知が届くか。
- 戻せる:その日は人が手で処理する、という戻し方を決めておく。
- もう一度動かせる:途中まで進んだ状態から、二重に処理せずやり直せるか。
3つめは見落とされやすい。転記が途中まで終わった状態で再実行すると、同じ数字が二重に入ることがある。「もう一度動かしても結果が変わらない作り」にできるかを、対象を選ぶ段階で見ておく。
管理の話:ロボットは増える
1つうまくいくと、現場で似た自動化が作られていく。これ自体は良い流れだが、管理の外で増えたものは野良ロボットと呼ばれ、次の困りごとにつながる。
| 起きること | 先に決めておくこと |
|---|---|
| 誰が作ったか分からない処理が動いている | 作ったら台帳に登録する |
| 担当者のIDでロボットが動いている | 自動処理用のIDを分け、必要な範囲だけ権限を与える |
| 何をしたか後から追えない | 実行の記録(ログ)を残す |
2つめは、ITパスポートで学ぶアクセス権の管理がそのまま出てくる場面だ。人のIDでロボットを動かすと、その人が異動・退職したときに止まり、記録のうえでも「その人がやったこと」になる。3つめのログは、内部統制の観点で後から確認するための材料になる。
提案書には、この3つを「最初の1つを作るときに、あわせて決めること」として1行ずつ入れておく。1つ目のうちは手間に見えるが、5つ目のときには効いている。
効果は、枠で書く
効果の書き方には、少し注意が要る。導入前に出せるのは見込みなので、数字そのものより、数え方を見せるほうが読み手は判断しやすい。
| 項目 | 数え方 |
|---|---|
| 削減できる時間 | 1回にかかる時間 × 頻度(1か月・1年) |
| かかるもの | 製品の費用+作る手間+直し続ける手間 |
| 効果の出方 | 削減時間が、かかるものを上回るまでにどれくらいか |
| 数字にしにくい効果 | 転記の間違いが減る、担当者が判断の要る仕事に時間を使える、担当者以外でも回せる |
「直し続ける手間」を最初から入れておくと、効果を大きく見せすぎずに済む。提案が通った後に効果を検証されるのは、通す側ではなく提案した側だ。控えめに置いた見込みは、後で自分を助ける。
プロならこう提案する
毎朝の数字集めと報告書づくりについて、自動化のご提案です。まず対象を1つに絞り、朝の報告書づくりから始める形をご提案します。
ご提案の前に、3つ確認しました。この報告書が今どなたに使われているか、毎日の頻度が必要か、元のシステムから直接出力できないか、です。そのうえで残った転記の部分を、RPAで再現します。RPAは、人が画面でしている操作をソフトが代わりに行う仕組みで、今のシステムを作り変えずに始められます。今回の作業は、電子データで完結していて、手順を言葉で書けて、例外が少なく、毎日という頻度があります。自動化が向く条件を4つとも満たしています。
効果は、1回にかかる時間と頻度でお出しします。かかるものとしては、製品の費用と、作る手間に加えて、直し続ける手間を見込んでいます。RPAは画面の操作を再現するため、使っているソフトの更新で画面が変わると動かなくなることがあります。ここは避けられないので、あらかじめ体制に入れておきます。
ご相談したいのは3点です。作る担当と直す担当をどなたにするか、動かすためのIDを自動処理用に分けてよいか、異常が起きたときの連絡先をどこにするか。この3つが決まれば、1つ目を作れます。
1つ目で効果を確かめてから、次の作業へ広げます。そのときは、今回と同じ4つの条件で候補を見ていきます。
この場面で効いているITパスポートの知識
- RPA:人の画面操作を再現する仕組み。既存システムを変えずに始められる
- クラス1〜3:定型の再現/判断を含む処理/自律的な処理
- 業務プロセスの見直し:やめる・減らす・つなぐを通してから自動化する
- アクセス権の管理:自動処理用のIDを分け、必要な範囲だけ権限を与える
- 内部統制:実行の記録を残し、後から確認できるようにする
- スモールスタート:1つで確かめ、同じ物差しで次を選ぶ
提案で外したくないポイント
- 対象を1つに決めるまで書く。「便利です」では読み手が判断できない。
- 段階を明示する。今回入れるのはクラス1、と先にそろえる。
- 4つの軸を表で載せる。次の候補も同じ物差しで選べる。
- RPAの前に、やめる・減らす・つなぐ。要らない作業を速く続ける仕組みにしない。
- 画面の位置に依存すると止まりやすい。要素で指定する、データで受け取る。
- ソフトの更新でも画面は変わる。作って終わりにならない。
- 作った人が異動したらどうするかを1行入れる。
- 止まったときの3つ:気づける・戻せる・もう一度動かせる。
- 二重処理を防げるかを、対象選びの段階で見る。
- ロボットは増える。台帳・専用ID・ログを最初の1つで決める。
- 効果は数え方で見せ、直し続ける手間を最初から入れる。