【ITパスポートの実務】社内Wi-Fiの案内文──パスワードは「区別」ではなく「中に入れる人」を決めている
情報システム室の担当として、新しく入った仲間へのWi-Fi案内を書くことになる。
「新しく入ったみなさんに、オフィスのWi-Fiを安全に使ってもらう案内文を書いてほしいんです。社内用のネットワーク名とパスワードで接続すること、パスワードは社外に教えないこと、似た名前の紛らわしいWi-Fiに気をつけること、来客用と業務用が分かれていること。はじめての人にも伝わるように、丁寧にまとめたいのですが」
頼まれた4項目は、そのまま並べると「守ってください」が4つ並んだ紙になる。ITパスポートの知識がここで力になるのは、4つが1つの理由でつながっていると示せたときだ。この記事では、そのつなぎ方から整理する。
まず結論:4つは全部「同じ回線に誰が入るか」の話
| 頼まれた項目 | 実は何を決めているか |
|---|---|
| 社内用の名前とパスワードで接続 | あなたを、業務用の中に入れる |
| パスワードを社外に教えない | 教えた相手も、中に入れてしまう |
| 来客用と業務用が分かれている | 来客を、中に入れないため |
| 紛らわしい名前に注意 | 別の誰かの中に、入ってしまわないため |
4項目がばらばらの注意事項ではない。全部「同じ回線に誰が入るか」という1つのことを、違う角度から言っている。
この1本の軸を先に示すと、案内文が「覚えることが4つ」から「分かることが1つ」に変わる。
そしてパスワードの役割の説明が、ここで変わる。
パスワードは「区別」ではなく「鍵」
はじめての方はWi-Fiのパスワードを「入り口の暗証番号」だと思っていることが多い。正しい人だけを通すためのもの、という理解である。
それも合っているが、もう1つの役割がある。そのパスワードで、電波のやり取りが暗号化されている。
無線はケーブルと違って、電波が届く範囲に飛んでいる。壁の外にも届く。だから暗号化していないと、その範囲にいる人に通信が見えうる。
パスワードはその暗号化の鍵でもある。つまり「知っている人=同じ暗号の中にいる人」になる。
ここが分かると「社外に教えない」の意味が変わる。入館証を貸すのに似ているが、それだけではない。教えた相手は同じ暗号の中の人になる。
だから「決まりだから教えない」ではなく「教えると、その人が中の人になるから教えない」と書ける。
来客用が分かれている理由
来客用と業務用が分かれているのは回線が混むからではない。入れる範囲が違うからである。
業務用の中に入ると社内のファイルや共有のしくみに手が届く。来客用はそこから切り離してあり、外につながるだけになっていることが多い。
だから来客の方に業務用を案内すると、親切のつもりで、社内の中まで通してしまう。
これは相手を疑う話ではない。来客の端末に何が入っているかを、こちらは知りようがない——それだけである。用意されている来客用を案内するほうが、お互いに気楽である。
案内文ではここを丁寧に書く。「来客の方には来客用を」とだけ書くと、来客を疑っているように読める。理由を添えると、そう読まれない。
紛らわしい名前——外の話が、社内にも来る
ネットワークの名前(SSID)は誰でも自由に付けられる。社内の名前によく似た名前が一覧に並ぶことがある。
間違えて接続するとそこから先の通信が、その相手を経由する。
そして自動接続が効いていると、同じ名前を用意されたときに、意識しないままつながる。
だから社内向けの案内でも「一覧から選ぶときは、正確な名前を確かめてください」を1行入れておく。正確な名前を、案内文に書いておくとそのまま確かめられる。
そして「見覚えのない名前につながっていたら教えてください」を添える。気づける人がいるほうが早い。
案内文の例
オフィスのWi-Fiについて
ご入社おめでとうございます。オフィスのWi-Fiの使い方をご案内します。
覚えていただくことは、実は1つです。
Wi-Fiのパスワードは、入り口の暗証番号であると同時に、通信を暗号化する鍵でもあります。無線は電波なので、ケーブルと違って壁の外にも届きます。暗号化することで、その通信を読めないようにしています。
つまりパスワードを知っている人が、同じ暗号の中にいる人です。以下の4つは、全部この1つのことから来ています。
1. 接続するネットワーク
業務では「◯◯◯◯」に接続してください。パスワードは別途お渡しします。
一覧にはよく似た名前が並ぶことがあります。名前は誰でも自由に付けられるためです。上の名前と一字一句同じかをご確認ください。
2. パスワードは、社外の方にはお伝えしないでください
お伝えすると、その方も同じ暗号の中に入ります。社内の共有のしくみにも手が届く場所です。
「決まりだから」ではなく、そういうつくりだからです。
3. 来客の方には、来客用(「△△△△」)をご案内ください
来客用は外につながるだけで、社内の中とは切り離してあります。
これはお客様を疑っているのではありません。どんな端末かをこちらが知りようがないので、切り離されている側をお使いいただくほうが、お互いに気楽です。
4. こんなときは、ご連絡ください
- 見覚えのない名前のWi-Fiにつながっていた
- パスワードを社外の方に伝えてしまったかもしれない
- 接続できない、名前が一覧に出てこない
◯◯までお声がけください。ご連絡いただいた方を責めることはありません。早く分かるほど、こちらの手当ても軽く済みます。
外出先のWi-Fiについて
宿泊先や飲食店の無料Wi-Fiは、別の案内をお渡ししています。そちらもあわせてご確認ください。
「覚えていただくことは、実は1つです」から始めた。4項目の前に軸を置くと、以下が理由の説明になる。
パスワードの説明を先に置いたのは、2と3がそこから導かれるためである。順番を逆にすると、また4つの注意事項に戻る。
3で「疑っているのではありません」と明記した。書かないと、そう読まれるところである。
4はできないこと(接続できない)も一緒に並べた。連絡先を「事故の窓口」だけにしないと、声をかけやすくなる。
作り方の手順
- 頼まれた項目を並べる前に、共通の軸を探す。
- この案件の軸は「同じ回線に誰が入るか」。
- 軸を冒頭に置く。以下が理由の説明になる。
- パスワードの2つの役割を説明する。暗証番号であり、暗号の鍵。
- そこから「社外に教えない」を導く。禁止ではなく、つくりの説明にする。
- 来客用が分かれている理由を書く。混雑ではなく、届く範囲。
- 疑っているのではないと明記する。書かないとそう読まれる。
- 正確なネットワーク名を書いておく。その場で確かめられる。
- 連絡先に、事故だけでなくできないことも並べる。
- 責めない旨を書く。早く分かるほど手当てが軽い、まで書く。
この場面で効いているITパスポートの知識
- 無線LANの暗号化——パスワードは認証の鍵であり、暗号の鍵でもある
- SSID——ネットワークの名前。誰でも自由に付けられる
- ネットワークの分離——来客用と業務用で、届く範囲を変える
- 自動接続——同じ名前の接続先に、意識せずつながる
知識そのものより、4つの注意事項を1つの理由に束ねられることが、この場面で効いている。
案内で外したくないポイント
- 4項目は、1つの軸から出ている。同じ回線に誰が入るか。
- 軸を冒頭に置く。覚えることが4つから1つになる。
- パスワードは暗号の鍵でもある。無線は壁の外にも届く。
- 「教えると、その人が中の人になる」。決まりだから、にしない。
- 来客用は混雑対策ではない。届く範囲が違う。
- 疑っているのではないと明記する。
- 正確な名前を案内文に書く。その場で確かめられる。
- 紛らわしい名前は社内でも起きる。外だけの話にしない。
- 連絡先に「できない」も並べる。声をかけやすくなる。
- 責めない旨を書く。早いほど手当てが軽い。