【ITパスポートの実務】外出先の公衆Wi-Fi、安全に使うには?──「見られる範囲」を分けて説明する
情報管理部の担当として、外出の多い社員向けの案内を頼まれた。
「出張や外回りで、宿泊先や飲食店の無料Wi-Fi(公衆Wi-Fi)を使う機会が増えています。便利ですが、通信を盗み見られるおそれもあります。上手に使うための案内文の本文を作成してください。」
ITパスポートの知識がここで力になるのは、「見られる」の中身を分けて説明できたときだ。全部が見られるわけでも、何も見られないわけでもない。曖昧なまま「気をつけて」と言うと、怖がって使わないか、気にせず使うかのどちらかになる。この記事では、その分け方から整理する。
まず結論:リスクは2種類ある
| どういうことか | 効く対策 | |
|---|---|---|
| ①のぞき見 | 同じ回線を使う人に通信の一部が見える | 暗号化された通信を使う |
| ②偽の接続先 | 本物に似せた接続先が用意されている | 接続先を確かめる/自動接続を切る |
「公衆Wi-Fiは危ない」とまとめると、この2つが混ざる。効く対策が違うので、分けて書く。
①は通り道で見られる話、②はそもそも相手が偽物という話である。
そして②のほうが深刻である。①は暗号化されていれば中身まで見えないが、②は接続先が相手のものなので、そこから先が全部相手を経由する。
案内文でも②を軽く扱わない。「のぞき見に注意」だけで終わらせると、②に触れないまま終わる。
①「見られる」の中身を分ける
全部が見られるわけではない。ここを正確に伝えると、過度に怖がらずに済む。
いまの多くのサイトやアプリは通信が暗号化されている。暗号化されていれば、やり取りの中身は同じ回線の人には読めない。
ただしどこに接続しているかは分かることがある。中身は読めなくても、どのサービスを使っているかは見えるという形である。
だから正確に言うと「暗号化されていない通信は中身まで見えうる」「暗号化されていても、接続先は見えることがある」となる。
案内文ではここまで細かく書かないほうがよい。「暗号化されていない通信は中身が見えることがあります」で足りる。
そのうえで「鍵のマークを確かめてください」というその場でできる動作に落とす。知識ではなく、動作を渡す。
②偽の接続先が、本当に怖い
誰でも好きな名前で接続先を用意できる。お店の名前によく似た名前を出しておけば、間違えて接続する人が出る。
接続してしまうとそこから先の通信が、相手を経由する。暗号化されていても、偽のページに誘導されるといったことが起きうる。
だから対策は接続先を確かめることになる。
- お店の掲示や、店員の方に確認した名前と一致しているか
- 無料であることしか書かれていない、どこのものか分からない名前に接続しない
- パスワードが要らない接続先は、誰でも同じ回線に入れる
そして自動接続を切る。一度つないだ名前と同じ名前があると、端末が勝手につなぐことがある。同じ名前を用意されると、意識しないまま接続する。
自動接続を切ることが、いちばん効く1つの設定である。案内文でここを強調する。
「使うな」にしない
外出が多い方にとって公衆Wi-Fiは実際に必要である。「使わないでください」は守られない。
だから「使ってよい。ただし、これはやらない」という形にする。
やらないことを絞るのがこつである。全部を列挙すると守られない。
絞るなら「社内のシステムに入らない」と「ログイン情報を新しく入力しない」の2つでよい。
調べものや地図、社内の連絡ならそのまま使ってよい——そう書いておくと、実際に守られる線になる。
そして代わりの手を書く。端末の回線を使う(テザリング)、会社が用意した接続の仕組みを使う。代わりがあると、線を守れる。
案内文の例
外出先のWi-Fiの使い方について
出張や外回りで無料Wi-Fiをお使いになる機会が増えています。お使いいただいて構いません。気をつける点をまとめました。
まず、設定を1つだけ変えてください
端末の「Wi-Fiに自動で接続する」設定を切ってください。
一度つないだ名前と同じ名前の接続先があると、端末が勝手につなぐことがあります。同じ名前を用意されると、気づかないまま接続してしまいます。
これがいちばん効く設定です。設定の方法が分からない場合は◯◯までお声がけください。
つなぐ前に、名前を確かめてください
接続先の名前は誰でも自由に付けられます。お店の名前に似た名前が並んでいることがあります。
お店の掲示や、店員の方に確認した名前と一致しているかをご確認ください。どこのお店のものか分からない名前には、つながないでください。
つないだ後、やらないこと(2つだけ)
- 社内のシステムには入らないでください。
- ログイン情報を新しく入力しないでください。(銀行、カード、各種サービス)
調べもの、地図、社内の連絡は、そのままお使いいただいて構いません。
ページの鍵のマークについて
ブラウザのアドレス欄に鍵のマークが出ているページは、やり取りの中身が暗号化されています。マークが出ていないページで、情報を入力しないでください。
社内システムを使いたいときは
ご自分の端末の回線をお使いいただくか、会社が用意している接続の仕組みをお使いください。使い方は◯◯までお尋ねください。
「つないでしまったかも」と思ったら
おかしな接続先につないだかもしれない、そのまま何か入力してしまった——そう思ったら、◯◯までご連絡ください。
すぐにWi-Fiを切っていただき、その後の対応をご一緒に決めます。ご連絡いただいた方を責めることはありません。
「お使いいただいて構いません」を先に書いた。禁止の文書にしない。
そして設定を1つだけ変えてくださいから始めている。いちばん効くものを、いちばん前に置いた。
やらないことを2つに絞り、「そのまま使ってよいもの」も書いた。線が具体的だと守られる。
鍵のマークは知識としてではなく、動作として書いた。「暗号化とは」を説明していない。
最後は報告の節で、責めないと明記している。
作り方の手順
- リスクを2つに分ける。のぞき見と、偽の接続先。
- 効く対策が違うことを押さえる。
- いちばん効く設定を1つ選ぶ。自動接続を切る。
- それを冒頭に置く。
- 「使ってよい」を先に書く。禁止の文書にしない。
- やらないことを2つに絞る。
- そのまま使ってよいものも書く。線が具体的になる。
- 知識ではなく動作で書く。鍵のマークを確かめる。
- 代わりの手を書く。テザリング、会社の仕組み。
- 報告先と、責めない旨を書く。
この場面で効いているITパスポートの知識
- 公衆Wi-Fiのリスク——のぞき見と、偽のアクセスポイント
- 通信の暗号化——中身は守られるが、接続先は分かることがある
- 自動接続——同じ名前の接続先に、意識せずつながる
- VPNなど——社内システムに安全につなぐ仕組み
知識そのものより、「見られる」の中身を分けて、その場でできる動作に落とせることが、この場面で効いている。
案内で外したくないポイント
- リスクは2種類。効く対策が違う。
- 偽の接続先のほうが深刻。「のぞき見に注意」で終わらせない。
- 全部が見られるわけではない。曖昧にすると、怖がるか無視するかになる。
- 自動接続を切るのが、いちばん効く1つ。冒頭に置く。
- 接続先の名前を確かめる。誰でも自由に名前を付けられる。
- 「使うな」にしない。実際に必要なので守られない。
- やらないことを2つに絞る。社内システムと、ログイン情報の入力。
- そのまま使ってよいものも書く。線が具体的になる。
- 代わりの手を書く。テザリング、会社の仕組み。
- 報告先と、責めない旨を最後に。