【ITパスポートの実務】定例会議のオンライン化──減るのは移動時間だけではない
総務の担当者から、定例会議のオンライン化を相談される。
「うちは離れた拠点がいくつかあって、月一回の定例会議のたびに遠方から本店へ集まってもらっています。移動の時間も交通費も負担で、Web会議にできないか検討したいんです。前向きに一歩を踏み出せるような提案文にしたいのですが、どうまとめたらよいでしょうか」
ITパスポートの知識がここで力になるのは、減るものだけでなく、減ってしまうものにも触れられたときだ。移動時間と交通費が減るのはすでに全員が分かっている。それでも決まらないのは、別のところに引っかかりがあるからである。この記事では、そこから整理する。
まず結論:引っかかっているのは、費用対効果ではない
| 言葉になりにくい心配 | 提案で答えること |
|---|---|
| 置いていかれる人が出る | 接続を助ける役を、先に決めておく |
| 集まらないと決まらない気がする | 全部は切り替えない。残す回を作る |
| うまくいかなくて会議が流れる | 最初の一回は、議題のない会にする |
この3つは会議の場で口に出しにくい。「私は機械が苦手なので」とは言いにくいし、「集まらないと決まらない気がする」は根拠を示しにくい。
だから反対意見としては出てこない。代わりに「もう少し検討しよう」という形で出る。
提案文の役目は利点を積むことではない。言葉になっていない心配のほうに、先に答えを置いておくことである。
3つとも、書けば答えられる。
減るのは、移動時間だけではない
ここが提案の誠実さが出るところである。
遠方から集まる会議には会議そのもの以外の時間が付いている。始まる前の立ち話、終わったあとの「ちょっといいですか」である。
そこで実際に片づいていたことがある。議題にするほどでもない相談、顔を見て確かめたかったこと——月に一度、まとめて処理されていた。
オンラインにすると会議は終わった瞬間に終わる。この分が、行き場を失う。
これを書かずに提案すると、始めてから「なんとなくやりにくい」が出る。理由が言葉にならないので、オンライン全体への不満になる。
だから先に書いて、置き場を用意する。会議のあとに15分残す、拠点ごとの短い時間を別に取る——形はいろいろある。
失うものを認めた提案のほうが、通りやすい。良いことしか書いていない提案は、警戒される。
全部を切り替えない
提案が「月一回の定例を、全部オンラインにします」だと、賛成か反対かの二択になる。
年に数回は集まる形を残すと書くと、二択でなくなる。
これは妥協ではない。集まる回のほうも、意味が変わる。
毎月集まっていたときは報告の場だった。年に数回になると、その回でしかできないこと——顔合わせ、じっくり話す議題——に使える。
回数を減らすことで、集まる回の中身が濃くなる。ここまで書くと、前向きな提案になる。
そしてどの回を残すかは、決めきらずに出す。相談の余地を残しておくと、受け取る側が参加できる。
最初の一回は、議題を置かない
導入でいちばん失敗しやすいのが本番の会議で、はじめて使うことである。
音が出ない、画面が映らない、入れない——初回はたいてい何か起きる。そこで会議の時間が削られると、その印象が残る。
「やっぱり集まったほうが早い」という結論は、たいてい初回に作られる。
だから議題のない回を1つ作る。15分でよい。つないで、声が届くかを確かめて、終わる。
失敗しても、失うものが無い場を先に用意する。
そしてその場に、接続を助ける役の人がいるようにする。誰が助けるかを決めておかないと、その人は自分で解決するしかなくなる。
「機械が苦手」と言わずに済む形を、こちらが作っておく。
提案文の例
定例会議のオンライン化について(ご提案)
ご提案の中身
月一回の定例会議について、年に数回は本店に集まる形を残したうえで、それ以外をオンラインにしてはどうかと考えています。
全部を切り替えるご提案ではありません。どの回を残すかは、みなさんとご相談して決めたいと思っています。
移動と交通費のほかに、変わること
移動時間と交通費が減るのは、みなさんもうお分かりだと思いますので、それ以外を書きます。
会議の前後の時間が、無くなります。
集まる日は、始まる前の立ち話や、終わったあとの「ちょっといいですか」がありました。あそこで片づいていたことがあったと思います。
オンラインだと、会議は終わった瞬間に終わります。この分の行き場が無くなります。
ですので、会議のあとに15分ほど、そのまま残れる時間を置くことを合わせてご提案します。抜けていただいて構わない時間です。
集まる回は、中身が変わります
毎月お集まりいただいていたときは、報告が中心でした。年に数回になると、その回でしかできないことに使えます。じっくり話したい議題や、顔合わせです。
回数が減るぶん、集まる回は濃くなると思っています。
まず、議題のない回を1つ作らせてください
本番の会議で初めて使うと、音が出ない・入れないといったことが起きたときに、会議の時間が削られます。
ですので15分だけ、議題のない回を先に置かせてください。つないで、声が届くかを確かめて、終わりです。うまくいかなくても、失うものがありません。
接続でお困りのときは
各拠点にお手伝いする役を決めておきます。うまく入れないときは、その方にお声がけください。
お一人で解決していただく必要はありません。この役を先に決めておくのが、こちらの仕事だと思っています。
やってみて合わなければ
戻して構いません。3回ほど試したところで、一度ご意見をうかがう場を持ちます。
「全部を切り替えるご提案ではありません」を冒頭に置いた。二択にしない。
移動と交通費は「もうお分かりだと思いますので」で飛ばした。知っていることを説明されると、読む気が落ちる。
失うものを、自分から書いた。そして置き場もセットにした。問題提起だけして終わらない。
「抜けていただいて構わない時間」と書いた。15分を義務にすると、削減した意味が薄れる。
助ける役を決めるのは「こちらの仕事」と書いた。苦手を申告させない。
最後はやめ方である。戻れると分かると、試せる。
作り方の手順
- すでに分かっている利点を特定する。ここでは移動と交通費。
- そこを短く済ませる。知っていることを説明しない。
- 言葉になりにくい心配を3つ挙げる。
- 反対意見として出てこないことを前提に、先回りする。
- 失うものを自分から書く。会議の前後の時間。
- 置き場をセットにする。問題提起で終わらせない。
- 全部を切り替えない。二択にしない。
- 残す回の意味を書く。減らすことで濃くなる。
- 議題のない初回を置く。失敗しても失うものが無い場。
- 助ける役を、こちらが決める。苦手を申告させない。
この場面で効いているITパスポートの知識
- Web会議——移動を伴わずに、離れた拠点をつなぐ
- 働き方の見直し——減るものと、減ってしまうものの両方を見る
- 段階的な導入——全部を切り替えず、試す場を先に置く
- 利用者の支援——助ける役を決めておくと、苦手を申告せずに済む
知識そのものより、言葉になっていない心配に、先に答えを置けることが、この場面で効いている。
提案で外したくないポイント
- 引っかかりは費用対効果ではない。利点を積んでも進まない。
- 心配は反対意見として出てこない。「検討しよう」の形で出る。
- 知っている利点は短く。説明されると読む気が落ちる。
- 失うものを自分から書く。会議の前後で片づいていたことがある。
- 置き場をセットにする。問題提起で終わらせない。
- 全部を切り替えない。二択にしない。
- 残す回は、中身が変わる。減らすことで濃くなる。
- 最初の一回は議題を置かない。初回に印象が決まる。
- 助ける役を先に決める。苦手を申告させない。
- やめ方を書く。戻れると分かると試せる。