【ITパスポートの実務】「最新版」が増えるのは、ルール違反ではなく自衛──整理ルールの作り方
事務の担当者から、共有フォルダの整理についての相談が届く。
「共有フォルダに、みんなが好き勝手な名前でファイルを保存していて、目当ての資料が見つかりません。『最新版』『コピー』『新しいフォルダ』だらけで、どれが本物か分からない状態です。整理のルールを提案したいのですが、押しつけにならず、みんなが守れる形にしたいんです」
ITパスポートの知識がここで力になるのは、ルールが守られない理由を、正しく見立てられたときだ。「みんなが好き勝手に」と見えている状態は、多くの場合そうではない。この記事では、その見立てから整理する。
まず結論:「最新版」は、自衛の結果として増えている
| 見えている状態 | 実際に起きていること |
|---|---|
| 「最新版」「最新版2」が並ぶ | 上書きが怖いので、別名で残している |
| 「コピー」が増える | 元を壊さずに直したいので、複製している |
| 名前がばらばら | 保存する一秒で、決める基準が無い |
3つともルールを破った結果ではない。ルールが無い中で、それぞれが合理的にふるまった結果である。
特に「最新版」は自衛である。上書きして前の内容が消えたら困るから、別名で残している。
だから「最新版を作らないでください」だけでは止まらない。作る必要のほうが残っているためである。
止めるには「上書きしても、前のものが残っている」状態を先に作る。怖くなくなったとき、作らなくなる。
守られないのは、覚えられないからではない
整理ルールが続かない理由を「みんなが覚えてくれない」と見ると、手当てが研修や周知になる。それでは戻る。
本当の理由は保存する瞬間にある。
ファイルを保存するのは作業が終わった最後の一秒である。頭はもう次のことに向いている。
そこで「この資料はどの分類だろう」「日付は入れるべきか」と考えることがあると、ルールは飛ぶ。
だからルールの良し悪しは覚えやすさではなく、迷わなさで決まる。
日付を先頭に置くのがよいのは、そこである。今日の日付は、調べなくても分かる。考えることが1つも増えない。
そして年月日の順にすると、名前の順に並べただけで日付順に並ぶ。並べ替えの操作を覚えなくてよい。
フォルダは「探す人が知っていること」で分ける
フォルダ分けでよくある失敗が、作る人の都合で分けることである。
部署の内部の区分、担当者の名前、社内でしか通じない案件番号——作る人には分かりやすい。
ところが探す人は、それを知らない。知らない区分は、選べない。
だから軸は「探しに来る人が、確実に知っていること」にする。年、取引先の名前、資料の種類——このあたりは誰でも知っている。
階層は浅くする。深いほど途中で選択を間違える機会が増える。一度間違えると、その先はもう見つからない。
二〜三階層で足りなくなったら、階層を足す前に、ファイル名で見分けられないかを考える。名前で探せるなら、フォルダは浅くて足りる。
古いものの置き場を、先に作る
ここが提案の順番として大事なところである。
整理の提案はふつう「こう名前を付けてください」から始める。ところが、その前に片付けたいことがある。
いまある「最新版」たちを、どうするかである。
消してくださいとは言えない。どれが本物か分からない状態なので、消す判断もできない。
だから「_旧」のようなフォルダを1つ作って、そこへ移す。消さずに、目の前から外す。
これで2つ片づく。共有フォルダが見やすくなることと、上書きが怖くなくなることである。
古いものが安全に残る場所があると分かってはじめて、「最新版」を作らずに済む。
順番を逆にすると、ルールだけが増えて、ファイルは減らない。
提案文の例
共有フォルダの整理について(ご提案)
はじめに
「最新版」や「コピー」が増えているのは、それぞれが気をつけた結果だと思っています。上書きして前の内容が消えたら困るので、別名で残す——自然なことです。
ですので「作らないでください」というお願いはしません。作らなくて済む形を先に用意します。
1. 古いものの置き場を作ります(こちらで作業します)
共有フォルダの中に「_旧」フォルダを作り、いま並んでいる古い版をそこへ移します。消しません。
探しても見つからないときは、そちらをご覧ください。消えていない、というのが大事な点です。
2. ファイル名は、先頭に日付を付けてください
20260401_見積書_◯◯商事 のように、年月日を先頭にお願いします。
年月日の順にしていただくと、名前の順に並べるだけで、日付順に並びます。並べ替えの操作は要りません。
今日の日付は調べなくても分かるので、迷わずに付けていただけると思います。
3. 直すときは、上書きしてください
古い版は「_旧」に残ります。「最新版」を作らなくて大丈夫です。
大きく作り直す場合だけ、日付を新しくして別ファイルにしてください。日付が違えば、どちらが新しいか名前で分かります。
4. フォルダは、二〜三階層までにします
分け方は年 → 取引先、または年 → 資料の種類でお願いします。
担当者名や社内の案件番号では分けません。探しに来る方が、それを知らないことがあるためです。
足りないと感じたときは、階層を足す前にご相談ください。ファイル名のほうで見分けられることが多いです。
お願いはこの3つだけです
- 先頭に日付(年月日の順)
- 直すときは上書き
- フォルダは二〜三階層まで
迷ったときは、そのまま保存していただいて構いません。あとでこちらで直します。迷って保存が止まるほうが困りますので、そちらを優先してください。
「気をつけた結果だと思っています」から始めた。整理の提案は、責める文書になりやすい。ここを最初に外す。
1番目が「こちらで作業します」になっている。相手に何かを頼む前に、こちらが先に動く。
お願いを3つに絞り、最後にもう一度並べた。読み終えたときに、3つだけが残る。
そして最後が「迷ったらそのまま保存してよい」である。ルールを守れなかった人の逃げ道を、ルールの中に作っている。
逃げ道が無いルールは、破られたときに隠される。隠されると、整理する側は何が起きているか分からなくなる。
作り方の手順
- いまの状態を、合理的なふるまいとして見る。「好き勝手」ではない。
- 「最新版」は自衛と見立てる。上書きが怖いから作っている。
- 守られない理由を、覚えやすさではなく迷わなさで考える。
- 古いものの置き場を先に作る。順番を逆にしない。
- こちらが先に動く。相手への依頼は、そのあと。
- 日付を先頭・年月日順にする。考えることを増やさない。
- フォルダは探す人が知っていることで分ける。
- 階層は浅く。間違える機会を減らす。
- お願いは3つまで。最後にもう一度並べる。
- 逃げ道を作る。守れなかったときに隠されない。
この場面で効いているITパスポートの知識
- 命名規則——日付を先頭・年月日順にすると、名前順が日付順になる
- ディレクトリ構成——階層が深いほど、途中で選択を誤る機会が増える
- 版管理——古い版が安全に残ることが、上書きの前提になる
- 情報共有——探す人が知っている区分で分ける
知識そのものより、守られない理由を「保存する一秒」に見つけられることが、この場面で効いている。
提案で外したくないポイント
- 「最新版」は自衛。ルール違反として扱わない。
- 禁止だけでは止まらない。作る必要が残っている。
- 守られないのは、迷うから。覚えられないからではない。
- 保存は作業の最後の一秒。そこで考えさせない。
- 日付は調べなくても分かる。だから先頭に置ける。
- 年月日順なら、名前順が日付順になる。
- 古いものの置き場を先に作る。消さずに、外す。
- 探す人が知っている区分で分ける。作る人の都合ではない。
- お願いは3つまで。増えるほど、全部飛ぶ。
- 逃げ道を作る。無いと、破られたときに隠される。