【ITパスポートの実務】その画像、使って大丈夫?──「会社で使うだけ」が通らない理由から書く
広報の担当から、社内向けの注意案内について相談が届く。
「チラシや資料を作るとき、ネットで見つけた画像やフォントを確認せずに使ってしまう例がぽつぽつ出ています。作った人の権利や利用条件を守れていないと、あとで困ることになりそうで。相手を責めるのではなく、これから気をつけようと思ってもらえる案内文にしたいんです。どう書けばいいでしょうか?」
ITパスポートの知識がここで力になるのは、「なぜだめなのか」を1つずつ説明できたときだ。使ってしまう人は、悪気があるのではなく大丈夫だと思っている。その思い込みの中身が3つに分かれるので、それぞれに答える形にすると、案内文が短く済む。この記事では、その3つから整理する。
まず結論:思い込みは3つに分かれる
| よくある思い込み | 条文 |
|---|---|
| 「社内で使うだけだから大丈夫」 | 私的使用の範囲が違う(著作権法30条1項) |
| 「出典を書けば引用になる」 | 引用には条件がある(同法32条1項) |
| 「無料だから自由に使える」 | 許諾の条件の範囲内でのみ利用できる(同法63条2項) |
案内文を書く前に、何を勘違いしているのかを特定する。3つとも別の勘違いなので、「著作権に気をつけましょう」では、どれにも当たらない。
そして3つとも、条文にはっきり答えが書いてある。解釈が要る話ではないので、案内文でも短く言い切れる。
①「社内で使うだけ」は、私的使用ではない
著作権の目的となつている著作物……は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。(著作権法30条1項)
条文の範囲は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」である。
会社は、ここに入らない。「家庭内その他これに準ずる限られた範囲」という書き方なので、家庭に準ずる程度の狭い範囲を指している。
だから「社外に出さないから大丈夫」は成り立たない。社内の資料でも、社内の掲示でも、私的使用ではない。
そして「その使用する者が複製することができる」——使う本人が複製するという形も条件になっている。
案内文に書くなら「私的使用として認められているのは、個人や家庭の範囲です。お仕事で使うものは、社外に出さないものでも対象外になります」という1文でよい。
これがいちばん多い勘違いだと思われるので、案内文の最初に置く。
②「引用」には、条件がある
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。(著作権法32条1項)
引用という仕組みはある。ただし2つの条件が付いている。
「公正な慣行に合致するもの」と、「引用の目的上正当な範囲内」である。
だから「出典を書けば何でも引用になる」ではない。出典を書くことは、公正な慣行の一部ではあるが、それだけで条件を満たすわけではない。
そして「引用の目的上正当な範囲内」という言葉が効く。目的があって、その目的に必要な範囲ということである。
チラシを見栄えよくするために画像を載せるのは、引用の目的とは言いにくい。飾りとして使うのは、この条文が想定している場面ではない。
案内文では踏み込みすぎないほうがよい。「引用として使える場面もありますが、条件があります。飾りとして載せる用途は、これに当たらないとお考えください」——このくらいでよい。
個別の判断は、私たちがする話ではない。迷ったら使わない、を渡すほうが実務的である。
③「無料」と「自由に使える」は違う
著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる。
2 前項の許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物を利用することができる。(著作権法63条1項・2項)
2項が「その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において」としている。
つまり許諾があっても、条件を超えれば使えない。無料で配られている素材にも、条件が付いていることがほとんどである。
よくある条件を挙げる。
- 商用利用の可否——お店のチラシは商用に当たることが多い
- 表示の要否——作った人の名前を載せる必要があるか
- 加工の可否——色を変える、切り抜く、文字を重ねる
- 再配布の可否——素材そのものを渡す形になっていないか
- 点数や期間の制限
フォントも同じである。端末に入っているフォントでも、配布された資料に埋め込む場合は条件が違うことがある。
案内文では「無料でも、使ってよい範囲が決まっています。配布ページに書かれた条件を見てください」と、見る場所を渡す。条件の中身を全部書かない——素材ごとに違うからだ。
案内文は「代わりの手」まで書く
ここがこの依頼のいちばんの要点である。依頼者は「相手を責めるのではなく」とおっしゃっている。
だめだと言うだけでは、資料は作れない。作る必要は残っているので、代わりにどうするかがないと、また同じことが起きる。
だから使ってよい素材の場所を、案内文に書く。
- 社内で用意した素材がどこにあるか
- 会社として契約している素材サービスがあれば、その使い方
- 条件を確認した素材の置き場を作るなら、その場所
禁止は、代わりとセットで初めて機能する。代わりがないと、隠れて同じことをすることになる。
そして相談先を書く。「これは使えますか」と聞ける先があれば、確認せずに使うことが減る。
責めない書き方
依頼者のご要望は「これから気をつけようと思ってもらえる案内文」である。過去を責める書き方にしない。
- 誰がやったかに触れない——「先日〜という例がありました」も書かない
- 「知らなかった」を前提にする——実際そうである。知っていて使う人は少ない
- 罰則を前面に出さない——相談が来なくなるほうが困る
- 「これまでの分」に触れない——不安にさせるだけで、いま何をするかが決まらない
代わりに「よくある勘違い」という形で書く。「多くの人が誤解している」という枠に入れると、自分が責められている感じがしない。
そして作る人の側に立つ。「良い資料を作っていただくために」という目的から入ると、取り締まりの文書にならない。
案内文の例
資料づくりで使う画像・フォントについて
チラシや資料を作るとき、素材の扱いでよくある勘違いが3つあります。知っておくと迷わずに済みますので、共有します。
1.「社内で使うだけなら大丈夫」——これは当てはまりません。
法律で自由に使えるとされているのは個人や家庭の範囲までです。お仕事で使うものは、社外に出さないものでも対象外になります。2.「出典を書けば引用になる」——条件があります。
引用という仕組みはありますが、目的に照らして必要な範囲であることが条件です。資料を見栄えよくするために載せる用途は、これに当たらないとお考えください。3.「無料だから自由に使える」——使ってよい範囲が決まっています。
無料の素材にも条件が付いています。商用で使えるか/作った人の名前を載せる必要があるか/加工してよいかなど、配布ページに書かれています。フォントも同じです。では、どうするか
- まずは社内の素材フォルダをご覧ください。確認済みのものが入っています。
- 足りないときは契約している素材サービスをお使いください。使い方は◯◯までお尋ねください。
- 迷ったときは、使う前にご相談ください。「これは使えますか」の一言で結構です。
確認せずに使ってしまうのは、多くの人がやってしまうことです。知っていれば防げますので、共有しました。良い資料をつくるための土台として、お使いください。
3つの勘違いに、それぞれ1つずつ答えている。「著作権に気をつけましょう」という一般論を使っていない。
そして「では、どうするか」に、いちばん実用的な情報を置いた。禁止で終わっていない。
誰がやったかにも、これまでの分にも触れていない。罰則も書いていない。「多くの人がやってしまうこと」という枠に入れて、「良い資料をつくるための土台」で終えている。
作り方の手順
- 何が起きているかを確かめる。画像か、フォントか、文章か。
- どの勘違いかを特定する。3つのどれか。
- 条文で確認する(著作権法30条・32条・63条)。
- 1つずつ短く答える。一般論を使わない。
- 代わりの手を書く。素材の置き場、契約しているサービス。
- 相談先を書く。「使う前に一言」。
- 誰がやったかに触れない。これまでの分にも触れない。
- 罰則を前面に出さない。相談が来なくなるほうが困る。
- 「よくある勘違い」の枠に入れる。
- 作る人の側の目的で締める。
この場面で効いているITパスポートの知識
- 私的使用の範囲——個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲(著作権法30条1項)
- 引用の条件——公正な慣行に合致し、目的上正当な範囲内(同法32条1項)
- 利用の許諾——許諾に係る利用方法及び条件の範囲内(同法63条2項)
- ライセンスの読み方——商用利用、表示、加工、再配布、点数や期間
知識そのものより、相手の思い込みを特定して、そこにだけ答えられることが、この場面で効いている。
案内で外したくないポイント
- 思い込みは3つに分かれる。一般論では当たらない。
- 私的使用は個人・家庭の範囲(著作権法30条1項)。社内利用は入らない。
- 引用には2つの条件(同法32条1項)。出典を書けばよい、ではない。
- 飾りとして使うのは引用の目的に当たりにくい。ただし踏み込みすぎない。
- 許諾は条件の範囲内でのみ(同法63条2項)。無料でも条件がある。
- 見る場所を渡す。条件は素材ごとに違うので全部は書かない。
- フォントも同じ。埋め込みで条件が変わることがある。
- 代わりの手をセットで書く。禁止だけでは同じことが起きる。
- 相談先を書く。「使う前に一言」。
- 責めない。誰が・これまでの分・罰則に触れない。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 著作権法30条1項 | 私的使用のための複製 | 個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内。その使用する者が複製する |
| 著作権法32条1項 | 引用 | 公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われるものであること |
| 著作権法63条1項・2項 | 著作物の利用の許諾 | 許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において利用することができる |