【ITパスポートの実務】二要素認証、どう設定する?──「手順」より「詰まる場所」を書く
情報管理部の担当として、社内案内の作成を頼まれた。
「業務で使うクラウドサービスに、二要素認証(多要素認証)を設定してもらうことになりました。まだ設定していない方に向けて、案内文の本文を作成してください。二要素認証とは何か、おおまかな手順、回復用コードの保管まで含めてください。」
ITパスポートの知識がここで力になるのは、手順そのものより「詰まる場所」を書けたときだ。設定の手順は画面に出ているので、案内文が無くても進める人は進める。案内文が要るのは、進めなくなったときである。この記事では、その組み立てを整理する。
まず結論:「二要素」の中身を1行で
| 要素 | 中身 | 例 |
|---|---|---|
| 知っているもの | 覚えている情報 | パスワード |
| 持っているもの | 手元にある物 | スマートフォン、専用の機器 |
| 自分自身のもの | 体の特徴 | 指紋、顔 |
この3種類から2つ使うのが二要素認証である。「2回入力する」ことではない。
だからパスワードを2つ入れても二要素にならない。どちらも「知っているもの」だからだ。種類が違うことに意味がある。
そして効きめは1つに絞って説明できる。パスワードが破られても、手元の物がなければ入れない——これだけである。
案内文ではこの1文で足りる。3種類の分類は、書かなくてよいことも多い。「なぜ効くのか」が伝わればよいので、「パスワードが漏れても、お手元の端末がないと入れない仕組みです」で十分である。
手順に「画面の文言」を書かない
案内文でやりがちなのが画面に出ている言葉をそのまま書くことである。
「設定」→「セキュリティ」→「二段階認証を有効にする」を押す——このように書くと、画面が変わった瞬間に案内文が使えなくなる。
クラウドサービスの画面は予告なく変わる。案内文を出した数か月後には、その言葉が無いことがある。
だからやることの意味で書く。
- 設定の中から、安全に関する項目を探します
- 二要素認証(多要素認証、2段階認証などと書かれています)を選びます
- 手元の端末で受け取る方法を選びます
呼び名が複数あることを、先に書いておくのがこつである。「二要素認証」で探して見つからず、そこで止まる人が出る。
そして「画面はサービスや時期によって違います」と一文入れる。案内文と画面が違っても、間違えたと思わずに済む。
いちばん大事なのは、回復用の情報
依頼者も「回復用コードの保管まで含めて」とおっしゃっている。ここが案内文の中心である。
理由は詰まる場所がここだからである。設定そのものは画面に従えば終わる。困るのは、後で端末が使えなくなったときだ。
- 端末を機種変更した
- 端末をなくした、壊れた
- アプリを消してしまった
このとき回復用の情報がないと、自分では入れなくなる。解除の手続きに時間がかかり、その間その業務が止まる。
だから案内文では「設定と同時に保管してください」と書く。「あとで保管しましょう」にしない——あとでは、その画面に戻れないことがある。
保管の場所も具体的に書く。その端末の中だけに保存しない。端末が使えなくなったときに取り出せないからである。
「1点に集めたものの、開けなくなったときの道を用意する」——パスワード管理の案内と同じ考え方である。
機種変更の前に、という一文
これを書いておくと、後の問い合わせがかなり減る。
端末を変える予定があるときは、変える前に手続きが要ることが多い。変えた後では、古い端末が手元にないと進めないことがある。
案内文に「端末を変えるご予定ができたら、変える前にご相談ください」と1行入れておく。
設定の案内文に、将来の話を書いておく——これが効く。そのときに読み返してもらえる文書になる。
案内文の例
二要素認証の設定のお願い
業務で使うサービスに、二要素認証の設定をお願いします。まだの方は、この案内に沿って設定してください。
二要素認証とは
パスワードに加えて、お手元の端末でもう1つ確認する仕組みです。
万一パスワードが漏れても、お手元の端末がなければログインできません。効きめはこの1点です。
設定の流れ
- サービスにログインし、設定の中から、安全に関する項目を探します。
- 二要素認証の設定を選びます。サービスによって「多要素認証」「2段階認証」などと書かれています。
- お手元の端末で受け取る方法を選び、画面の案内に従って進めます。
- 設定が終わると、回復用のコードが表示されます。
画面の見た目や項目名は、サービスや時期によって異なります。この案内と違っていても、上の意味の項目を探してください。
回復用のコードについて(いちばん大切です)
設定の最後に表示される回復用のコードを、その場で保管してください。あとで、ではありません。その画面には戻れないことがあります。
保管の場所は、設定した端末の中だけにしないでください。その端末が使えなくなったときに、取り出せなくなります。
保管先が決まらない場合は、◯◯までご相談ください。
端末を変えるとき
スマートフォンを機種変更されるご予定ができたら、変える前に◯◯までご相談ください。変えた後では手続きが増えることがあります。
入れなくなったら
端末をなくした、壊れた、アプリを消してしまった——このようなときは、すぐに◯◯までご連絡ください。解除の手続きをご案内します。
ご自分で何とかしようとせず、まずご連絡いただくほうが早く戻れます。
設定で困ったら
画面が案内と違う、途中で分からなくなった——その場で止めて、◯◯までお声がけください。ご一緒に進めます。
「なぜ効くのか」を1文で済ませている。3要素の分類は書いていない——設定する人に必要な情報ではないからだ。
手順は意味で書き、呼び名が複数あることと画面が違いうることを明記した。
そして回復用コードの節に「いちばん大切です」と書いた。手順の一部として流さない。
最後の3つの節がすべて「困ったとき」である。案内文が本当に読まれるのは、困ったときだからだ。
作り方の手順
- 効きめを1文にする。パスワードが漏れても端末がなければ入れない。
- 分類は書かない。設定する人に必要な情報だけ残す。
- 手順は意味で書く。画面の文言を写さない。
- 呼び名が複数あることを先に書く。
- 画面が違いうることを書く。間違えたと思わせない。
- 回復用の情報を、独立した節にする。手順に埋めない。
- 「その場で保管」と書く。あとで、にしない。
- 端末の中だけに保存しないと書く。
- 機種変更の前に相談を1行入れる。将来の問い合わせが減る。
- 入れなくなったときの連絡先を書く。自分で何とかさせない。
この場面で効いているITパスポートの知識
- 認証の3要素——知っているもの/持っているもの/自分自身のもの
- 多要素認証——異なる種類を組み合わせることに意味がある
- 回復手段——認証を強くすると、入れなくなる場面も増える
- 案内文の設計——読まれるのは困ったときである
知識そのものより、設定する人にとって必要な情報だけを残せることが、この場面で効いている。
案内で外したくないポイント
- 二要素は「2回入力」ではない。種類の違う2つを使う。
- 効きめは1点。パスワードが漏れても端末がなければ入れない。
- 分類を書かないという判断もある。設定する人には要らない。
- 画面の文言を書かない。変わると使えなくなる。
- 呼び名が複数あることを先に書く。探して止まる人が出る。
- 画面が違いうると書く。間違えたと思わせない。
- 回復用の情報がいちばん大事。独立した節にする。
- その場で保管。あとでは画面に戻れない。
- 端末の中だけに保存しない。取り出せなくなる。
- 機種変更の前に相談の1行を入れておく。